狂乱×覚醒④
「レナードさん!聞こえますか!」
『モンスターごときと話をするいわれは無い!』
(参ったな・・・言葉を話してくれるようにはなったけど、聞く耳取ってくれないか・・・)
レナードと対峙していた骸骨剣士・・・アレスは狂乱・・・いや、魔人化したレナードをどうすれば元に戻せるか思考を巡らせていた。
どうして煉獄龍・成竜に喰い殺されたアレスが生きていてレナードと戦っているのか。それを説明するには時間を数十分前に遡る。
アレスがMPを回復しようとスキル【瞑想】を使用しMP回復後放った対象のステータス確認スキル【エネミーサーチ】。さらにこの後に攻撃スキルである【飛翔雷閃】を放ったのだが、実は間にもう一つスキルを使用していた。
それは召喚スキルである。召喚する為に必要な大前提は主に3つ。召喚したいNPCのカードを所有している。NPCによって決められている召喚に必要なだけのMPを保持している。召喚したいNPCがその召喚申請に答える。というものである。
実は召喚するのに最初にジャンヌを召喚しようとしたアレスのようにNPC名を叫んだりする必要は無い。召喚に必要な条件を満たしていれば、頭の中でだろうが叫ぼうが召喚は可能だった。
AR表記されているステータス画面等を動かす際に感覚的に手を使いタップやドラッグといった操作が主流だが、眼で動かしたり念じたりといった事でも操作は可能なのである。
その理由はBMIで脳波を読み取っているため、今自分がしたい動作などを波形パターンから演算し動かすといったものだった。
そういった理由の下、アレスはある一匹のNPCを召喚していたのだ。
その召喚したNPCの名は【ドッペルゲンガー】。もやもやと浮かぶ霧状のモンスターで、このモンスターの最大の特徴は変身能力にある。変身した相手の見た目はもちろん、身体能力や使えるスキルまでコピー出来るのである。
しかもアレスの召喚したドッペルゲンガー。実は鏑木に眠らされる前に行っていた20連ガチャ中に手に入ったレアモンスターだったのだが、その時点では重要視されず一括進化合成されていただけだった。
しかし進化合成により進化したドッペルゲンガーは特別なスキル。”ユニークスキル”を習得していたのである。
ユニークスキルとはすなわち、その人物やモンスターしか使用するの事の出来ない唯一絶対のスキルである。それらのスキルは千差万別で元々覚えていたスキルの能力強化や全く新しいスキルを覚えることもある。今回ドッペルゲンガーが獲得したユニークスキルは前者の能力強化スキルだった。
強化されたスキルによりコピー元の人格、記憶、生体情報等諸々の情報をコピーしたドッペルゲンガーは寸分違わずその人物になりかわる。敵として出会えばこれ異常に凶悪な能力は無いだろう。本人になりすまし、本人しか知り得ない情報を完全に記憶しているドッペルゲンガーは、言葉巧みに相手を誘導し破滅へと導く。それは冒険者だけで無く、ある程度の知能を持つモンスターも例外ではなく、上位種のドッペルゲンガーは恐れる存在である。
しかし今回は例外中の例外である。召喚士に召喚された存在は例に漏れず召喚者である召喚士に付き従い、与えられた命令をこなす存在となる。当然、当人の意志も尊重されるが、一部の冷酷非道な召喚士はスキルの一つである【強制命令】というスキルを使用し有無を言わさず命令を執行させる者もいた。
話がそれてしまったが、その能力に眼をつけたアレスがもしもの保険にと召喚していたのだった。
召喚されたドッペルゲンガーはアレスの記憶を保持している為、作戦は言わずとも伝わっていたため、瞑想中のアレスと重なるように召喚されたドッペルゲンガーはその場に居座り、アレスはというと冒険者たちが成竜へと飛び移るのに使用していたビルに隠れひたすらにMPの回復に努めていた。というわけである。
そしてドッペルゲンガーはスキル【飛翔雷閃】を放ちその後、完全コピーした血の臭いを嗅いだ成竜に殺されたという流れだった。
いくら最終進化されたNPCとはいえレベル1の状態ではレベルがカンストしている成竜の攻撃の前では為す術も無かった。
そして殺されたドッペルゲンガーは死体としてしばらく残った後、元のワールドへと帰って行ったため死体は消えていたのだが、理性を失ったレナードとその対応に追われたガゼル一行はそれに気付くはずもなく、アレスは一人出ていくタイミングを完全に失っていた。というわけである。
MPが完全に回復したアレスは出ていくタイミングを図っていた所、ガゼルがゆっくりとレナードへと近づいて行くのを見守っていたアレスだったが、ガゼルとレナードが戦闘を開始してすぐその場から駆けだしていた。
そしてレナードの鉤爪による刺突がガゼルの心臓に突き刺さる寸前に間に合い介入したのだ。
その時の会話が「お前死んだんじゃ!?」「説明は後です!俺が何とかしますから撤退を」といった内容だった。
そしてひたすらレナードに呼びかけながら攻撃を全て凌いでいたのだった。
(レベル差28!しかも呪いのせいでステータスは上がっているはず!一撃でも食らえば死ねる!)
そんな事を思いながら冷や汗を掻きながら全ての攻撃をパリィするアレス。
アレスが驚異的なパリィ技術を持つ理由はAWOの前作である魔天楼というゲームで培ったものだった。
VRMMOARPG(Virtual Reality Massively Multiplayer Online Action role playing game)魔天楼。サイバーテクノロジー社の処女作となった作品である。そのストーリーは近未来。首都東京に突如出現した大小様々な城が密集して出来た要塞城。それはいつしか天高くそびえたつ城に見える事から魔天楼と名付けられ人々から恐れられていた。出現してから5年が経過しても中の様子は窺い知れない。何故なら”ソコに”入った者は皆二度と出てこなかったからだ。
魔天楼の近くでは全ての電子機器が狂い正常に働かなくなる現象が起き、ヘリ等で近づくことすら出来ない。
だがそんな中、魔天楼調査チーム第57班として潜入することになった貴方は今、魔天楼の入り口である巨大な金剛力士像が二対並ぶ門の前に立っている。ここより先は中に入った者にしか分からない未開の地。どんな困難、恐怖が、それともこの世のものとは思えない極楽が待っているのか。それを確かめるためにも貴方はこの扉を開く。というものである。
ここからプレイヤーには苦難が待ち受けているのだが、今は簡単に説明するとこのゲーム。所謂死にゲーと呼ばれる類のゲームに属する。
当時、悪意に満ちた製作者側によって作られたAI搭載の敵キャラに日本問わず世界中の様々なプレイヤーが発狂させられた。
このゲームはレベル制を採用しており、レベルを上げる方法は敵を倒した時に入手出来る武士の御魂。通称、武魂と呼ばれるものを集め集落に設置された儀式の間にて自分が上げたいステータスを1つ上昇させる毎にレベルが1上がる。といったものであった。
しかしこの武魂。実はレベルを上げるためだけでなく、集落で売買されているアイテムを購入するのにも使われている。しかも一度死ぬとペナルティとして自分のパラメーターがランダムに1下がり、レベルも1下がる上、所持していた武魂を全て失う鬼畜仕様。そしてボスモンスターの攻撃を受けると一撃死。なんてことがざらにあったため、このゲームを生き抜くために必要な能力。それがモンスターの攻撃を弾き反撃するパリィだった。
攻撃を受け流す。パリィする。そうして活路を見出しダンジョンをクリアして次の階層へと進んでいくのがこの魔天楼というゲームだった。
そんなゲームを散々やったお陰で今のパリィ技術が身に着いた訳である。
そしてアレスが現在使用している刀と小太刀についてだが。お気付きの方もいると思うがこれは雷剣ペルクナスである。
刀のスキルレベルが上昇したことにより、ペルクナスの固有スキルである双剣化がアンロックされた訳である。
ペルクナスの構造は長さの違う切刃造の刀同士を段違いに合わせて造られたような刀だった。と依然記したと思うが文字通り強力な磁力によって二つの刀が合わさっていた刀剣だったのだ。
双剣化によって分かれた二つの刀をアレスは巧みに操りレナードの攻撃をパリィしていたのだった。
「あの鎧の急所っぽい眼を壊せば正気に戻るのか」
幾度目かの攻防を終え、距離を取ったアレスが呟く。先程ガゼルが去り際に言っていた事を思い出す。
そして次の攻撃が来た時、強カウンターでも狙ってみるかと考えると即行動に移した。
最接近しレナードの鉤爪に小太刀を絡め外へと弾く。そして隙の出来た頭へと刀を振り下ろす。
(良し!クリーンヒット!)
攻防中、初めて出来たまともな一撃にアレスは一瞬気を取られた。
そして刀がレナードの頭に届くまで後一歩というところでレナードの身に変化が起こった。
『ウオォオオオオオオオオ!』
「!?」
鉤爪を小太刀を絡め弾き飛ばされ刀が頭に迫る寸前、レナードが雄たけびを上げると背中の剣で出来た翼が動き、レナードの体を後方へと導く。
数メートル後方へと水平移動したレナード。そこにアレスの放った刀による一撃が空を切る。
(背中の剣動くのか!厄介だな)
と戦略を一から考え直しているアレスだったが、レナードにさらなる変化が訪れる。
『ハァアアアアアアアアア!!』
再び咆哮を上げるレナード。すると背中にあった一対の禍々しい長剣が分離、カッターナイフのように複数に分断された刃はそれぞれはワイヤーのようなもので連結されており、ソレはまるで地を這う蛇の如く空中を這いアレスの方へと向かってきた。
「んな無茶苦茶な!」
思わず声を上げながらも目前へと迫りくる蛇剣を小太刀で迎撃し前方を見る。
「ちょっ!」
すると既に前方に迫っていたレナードの姿が視界いっぱいに広がり、右こぶしを握りしめ殺意の籠った右ストレートを放とうとしていた。
(間に、合え!!)
アレスは咄嗟に腰を捻り右半身を全面に押し出し、右手にあった刀の柄頭(柄の先端の位置にある金属製の部品)を滑り込ませ、レナードの一撃をなんとか自分に当たるのを防いだ。
しかし威力を消し去ることは出来ず大きく吹き飛ばされる。
(やばいやばいやばい!死んじゃうって!!)
吹き飛ばされたアレスは冷や汗を全身にかきながら空中でなんとか態勢を捻ると地面に刀を突き刺し岩で出来たタイルを削りながら後退する。
(うお!止まれ!!)
数メートル後退した所でようやくその動き止まり、アレスは頭を振ると前方を見据える。
見上げた先には、蛇剣と化した剣がレナードの背中へと完全に戻り同じくアレスを見つめていた。
(近接武器による攻撃は武器に当たった時はダメージにならない!サバイバルサイドと同じで助かった)
片膝を地面につき肩で息をしながら安堵の表情を浮かべるアレス。近接武器に限らず武器攻撃は武器や盾に当たった際はダメージが軽減される。
しかしある一定以上の技量スキルを持つとそのダメージは完全になくなる。
当然、攻撃スキルや魔法スキルの効果によっては例外があるが、レナードの放つ攻撃はただの格闘士による打撃扱いな為そういった例外的効果は発揮されない。
よって刀で攻撃を受けたアレスにそのダメージは負っていなかった。
「振り出しか・・・だが、次で決める」
片膝をついた体勢から起きあがりつつアレスはそう呟くと左半身を前に刀を右肩に乗せ、小太刀を前に突きだしカウンターの構えを取る。
これはアレスの考え出した二刀流の際に使用するカウンター専用の構え、敢えて名をつけるならば、流しの型と呼べるだろう。ひたすらに相手の攻撃を流し、確実に相手にダメージを与えられる時にしか反撃しない。しかしその与える際のダメージ量は群を抜いて高威力をたたき出す必殺の構えである。
構えてから数秒。レナードが剣の翼を再び展開させると地を蹴りアレスへと肉迫する。
そして剣を分断させ再度連結刃として展開させ両腕を含め、計4方向からの攻撃を与える。
アレスは前へと突きだした小太刀で連結刃の2連撃を人間業とは思えない速度で迎撃し、残る両腕による鉤爪による攻撃を素早く刀を逆手に持ち鍔に近い刀の背を滑らせ難なく受け流す。
受け流し後、踊るように回転したアレスは態勢を低くしレナードに足払いをかける。
(これで!)
数あるゲームをこなしてきたアレスは経験からあの手の攻撃・・・連結刃を出している時は翼による移動は出来ないだろうと判断し足払いをかけた。判断は間違っていなかったようで、レナードは足払いにより態勢を崩す。
(ここだ!!)
目を見開き、弱点であろう鎧にある開眼された瞳が無防備になっているのを確認すると、そこに向かって雷を纏った刀による突きが加える。
十分に溜めた突きによる攻撃と、ガゼルによる度重なる攻撃によってようやく鎧の瞳にヒビが入った。
「レナードさん!聞こえるか!」
鎧に突きが入ったダメージによりその場にうずくまるレナードに対し意を決して声をかける。
しかし俯いていたレナードから掛かった言葉は。
『モンスターごときと話をするいわれは無い!』
という残酷なものだった。
しかしそれで諦めるアレスでは無い。こちらの声がまともに届くようになっただけでも朗報だろうと自身に言い聞かせ、次の策に考えを巡らす。
そしてすぐさま動き出し攻撃を与えようとするレナードを宥め、説得を開始する。
「レナードさんがそうなった理由は______」
数十分後、未だにアレスの説得は続いていた。
頑なに目の前の人物をアレスと認めないレナード。いくら鎧の影響があるといってもアレスに降りかかる罵詈雑言に穏和なアレスもさすがに苛立ちを隠せくなり、ついに・・・。
「ああそうかい。だったら力ずくで黙らしてやらあ!」
と啖呵を切り再び武器を構える。対峙するレナードも。
「ごちゃごちゃと訳の分からない事を言いおって!その減らず口を黙らしてやる!」
と両腕を顔の前に構え、ボクシングのファイティングポーズを取る。
「「行くぞ!!」」
両者の戦いが・・・いや、喧嘩が始まった。
お互いの距離は既に数メートル。地を蹴りすぐさま刀と拳が交差する。
火花を散らしながらつばぜり合いをする両者。しかしパワーは圧倒的にレナードの方が上な為、徐々にアレスが押され始める。
『はっ!粋がっておいてこんなものか!』
レナードが拳を振り抜きながら言い放つ。圧倒的なパワーを受け流せなかったアレスはそのまま後退する。
「ぬかせ!」
後退した位置から再度接近し小太刀を振るうアレス。その切っ先はレナードの顔面を捉えていた。
しかし迫る小太刀をレナードは左手でつかみ取ると「フン!」と力を込め握力だけで粉砕してしまった。
「馬鹿力め!」
『やかましい!』
粉砕された小太刀をすぐさま捨て、足でレナードの鎧を蹴り上げるとアレスはバク宙しながら後方へと飛び距離を取る。
そして両手で刀を握りなおし三度突撃する。
(捕まれたら刀も俺も終わる。意表を突かなきゃ勝機は無い!)
上段から刀を振りかぶりレナードを断ち切ろうとする。だが、レナードは両腕をクロスしそれを防ぐと腕を捻り、刀を絡め取るとそのまま刀を叩きお折る。
「なっ!」
『これで獲物は無くなったな』
レナードの冷たい声にアレスの背中にゾクッとした悪寒が走る。
『終わりだ・・・』
そう言うと握りしめていた刃の向きを片手で変えるとアレスに向けて突き立てる。
「まだだ!」
アレスは叩き折られ、地面へと落下しかけていた柄の部分をつま先で蹴り上げ、手で掴むと残った僅かな刃の部分でレナードの攻撃を防ぐ。
『小癪な!』
アレスは折れた刀を鞘へと戻すと両手を前へと構えた。と同時に再度迫った右ストレートを右手でその腕を掴み引っ張る。そしてレナードの体重が浮いた頃合いを見計らって右足でレナードの右膝に蹴りを炸裂させる。
クリーンヒットした一撃により堅牢な防具越しといえどレナードの膝にダメージが入りバランスを崩し転倒する。
思わず両膝を折るレナードにアレスの声が届く。
「俺の、勝ちだ」
見るとアレスの左手が鞘に触れられており、鞘がバチバチと帯電しているのが分かった。
一体何をする気だとレナードが思ったのと同時。再度アレスの声が聞こえた。
「電磁抜刀《レ-ルガン》!」
その言葉を最後にレナードの意識は失われた。




