A strange experience ‐奇妙な経験‐
気をつけて! そのドアの向こうは……
家の鍵を開けて中に入ると、まったく違う部屋だった。間違えてしまったのか? そんなはずはない、だって鍵を開けて入ったんだし。
間取りは同じだった。でも今まで住んでいた部屋では見慣れない家具とか、その配置とか、壁紙まで全然違う。おまけにタバコなんか吸わないのにヤニ臭い。
テーブルの上に置き手紙があった。差出人はわからない。ちょっと癖のある筆圧の強い字で、こう書いてあった。
【あなたと私の家の中身が、入れ替わってしまいました。ごめんなさい、しばらくこのままです。】
これを書いたあんた、今すぐ出て来いや! どこの誰か知らないけど、冗談じゃないよ、仕事で必要な資料やら何やらあるだろが、どうしてくれるんだゴラァ!?
やり場のない怒りを持てあましながら、置き手紙をビリビリに破いてやった。犯人がわかったら、一発ぶん殴ってやろう。
で、だ。問題はあの資料なしで仕事をどう切り抜けるか。幸いにも今日は金曜日で、期限にはまだ時間がある。でも自分の部屋が今どこかわからんし、しかし間取りは同じなのだから、この団地のどれかと入れ替わったのだろう。
「とりあえず、まずは冷蔵庫の中を拝借するとしますか」
冷蔵庫を開けると、中身は自分の家の冷蔵庫そのものだった。また貼り紙がしてあった。
【ところどころそのまんまの部分もあるみたいです。】
「まぎらわしいわ! コンチクショォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
仕方なく、缶ビールを一杯グビリと呷っておいた。
こうして正体不明の相手との奇妙な半共同生活――とも言い難い、これは一体何と表現すれば良いのだろうか――が幕を開けたのである。
To be continued.
※同人誌『三猿霊媒師』『うさぎの短編集』にも収録されています。
詳細は活動報告を読んでください。