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追憶する彼女と映画

例外的にやや長いです。お題で書いてみました。クオリティは低いです(笑)

お話の中で、古い外国の映画の内容に触れます。ネタバレほどではないと私は思うのですが、一応ご注意下さい。映画のタイトルはいじっていますが、「あぁ、あれねー」という感じでわかるかと思います。

『本日十時以降、点検の為停止致しますのでご注意下さい』


 エレベーターに入る直前に見た張り紙には、たしかにそう書いてあったのに……なぜ今止まる? この早朝の急いでいるときに限って、なぜ止まっている? もはや、自分の不運さにうなだれるしかなかった。

 エレベーターはちょっとした地震なんかでも、すごく揺れるという話をしてくれたのは、そういえばあいつだったか……俺は唯一の頼みの綱である携帯に、今まさに思い浮かべている相手の電話番号が表示されている画面を見つめながら、一つため息に似た深呼吸をした。


「あぁ、そりゃあ災難だね。じゃあ……」

「ちょっと待ったああぁぁぁぁ!?」

「……」

「普通さ、助けようとかしてくれないわけ!?」

「現在隔離中のやつに頼まないでください。ゲホッ……」

「いや、無理に咳しても駄目だから! とっくに治ってるんだろ?」

「インフルは発熱から五日経たないと、たとえ解熱しても二日は出席停止だから」

「そんなの関係ねぇ!」

「…………」

 プツッ……ツーツーツー……

「Somebody help me!」


 密室の中、その声は残酷なほどに虚しく響いた。絶望的だ。と言うのも、そのときの俺の携帯は真新しくて、あいつの電話番号とアドレスが登録されているきりだったのだ。半共同生活をして結構経つというのに、友情もへったくれもない――俺たちの関係はその程度ってことですかね? 峯崎さん。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



「という山も落ちもない夢を見たよ」

「ふーん……」

 さっきから俺の話を興味なさそうに聞き流しながら、ポテチをつまみつつ、何だかよくわからない文字がびっしり書かれている本から視線を離さない、その人こそ、俺の夢の中のあいつ――峯崎さん。彼女はいつもと変わらず、お部屋で寝転び、くつろいでいると思いきや……

「やめてくれないかな?」

「何を?」

「そういう夢に私を出すの」

「はぁ!?」

 思わぬ発言にまごつく俺に、峯崎さんはただ一瞥しただけだった。

「なぜ他に電話して助けを求める選択肢がないかな。だいたい私、携帯持ってないし。エレベーターには乗らない。てか、そっちの外に出れない。インフルにかかる予定もない」

 てっきり完全に無視されるものと思っていたのだが、視線を本に落としたまま一気にそう言われてしまった。今日はどこかしら不機嫌だ。


「『処刑台のエレベーター』」

「うーんと……はい?」

 しばらくの沈黙の後に発せられたその言葉は、会話の続きってことで良いのだろうか? 峯崎さんのペースで話題を変えられても当然ついて行けないので、仕方なくきき返してみると、

「五十年くらい昔のフランス映画。不倫関係の男女が電話で愛を語り合うんだよ、完全犯罪の計画立てながら。でも犯行後、男はエレベーターの中に閉じ込められる。お互いに連絡がつかなくなったから、女は心配して夜の街をさまよう。そうこうするうちに別のトラブルに巻き込まれて……」

 そこまで言うと、あふっと一つ、大きなあくびをした。

「よく覚えてないけど、たしかそんな感じだった。そもそも人伝にきいただけだから、実際の映画の内容とか知らないけど、その男女が結ばれることはないね」

「そうですか……」

 どこか遠くの記憶を思い出すように顔を上げながら本を閉じると、おもむろに起き上がる峯崎さん。

「まあ、あれだよ。人間、歪んだことはたいてい上手く行かない」

「……」

 しかも何か語り出した。ろくに知りもしない映画なのに? こういうときほど、つくづく適当な人だと思わずにはいられない。

「観ようと思ったら、観れなかったんだよ」

 こちらの考えていたことが顔にでも出ていたのだろうか、峯崎さんは苦虫を噛み潰したように言う。いや、心なしか泣きそうな顔をしている? その映画、そこまで観たかったのか……

「今度レンタルで観ようよ、一緒に」

 そう言ってにっこり笑ってみれば、峯崎さんは目を見張った。そして一言、

「遠慮しておく」

 俺は笑顔を引きつらせながらそっと立ち上がると、そのままトイレの扉から、すごすごと自分の部屋へ帰って行った。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 『処刑台のエレベーター』。数年前、日本でもリメイク版が公開されていた。ずいぶんと有名な映画らしかったが、峯崎さんから話をきくまで、俺は一切の存在を知らなかった。

 全体的にアンニュイな雰囲気の映画だ。峯崎さんはなぜこの映画に、あんなに執着していたのだろうか? 白黒の画面の向こうで、受話器を握った女――主人公の愛人の唇が動いた。

「Je t'aime...(愛している)」と。

 その様子を食い入るように見つめながら、もう二度と知ることのない答えを胸の奥底へと追いやった。


【一羽の兎さんは「早朝のエレベーター」で登場人物が「結ばれる」、「友情」という単語を使ったお話を考えて下さい。】

恋愛お題ったーとかいうところで、お題をもらいました。けど、私が恋愛を書くとこうなる……もう、無理やり感が満載で自分でも笑ってしまいます!

お付き合いいただき、ありがとうございました。


※同人誌『三猿霊媒師』『うさぎの短編集』にも収録されています。

詳細は活動報告を読んでください。

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