59 ある山小屋での惨劇
とある山小屋で剣を鍛える鍛冶師。
その様子は狂気に満ちており普通ではありません。
今回はいつもと違う雰囲気で始まります。
南部の火山地帯に程近い、誰も寄り付かない森深くにある山小屋。
薄暗い部屋の中で鍛冶の炎だけが周辺を照らす。
そこでは黙々と剣を鍛える鍛冶師。
部屋の隅には、その様子を震えながら見ている男女。
ふたりは手足を縛られ身動きが取れず、猿ぐつわも噛まされ声を発する事が出来ない。
鍛冶師は黙々と剣を鍛える。
やがて鍛冶師は狂気に満ちた目で剣を眺めると、その目を女性に向けた。
鍛冶師は男女の猿ぐつわを外した。
「やめてくれ!何でもする!お願いだ!命だけは!」
縛られた男は懇願するが、鍛冶師は薄ら笑いを浮かべ男を見下ろす。
「良い表情だ。」
鍛冶師は女を引きずり部屋の真ん中に連れてくる。
「やめて!殺さないで!お願い!」
「何もしないでくれ!妻のお腹には赤子が……!」
鍛冶師はそれを聞くと口角を上げた。
「それは良いことを聞いた。生贄が増えたではないか。」
そう言うと、鍛冶師は女の腹を刺した。
「ウ……ゴッ……」
「あー!やめてくれ!やめてください!」
鍛冶師は無言で女を斬り刻んだ。
「あ……あなた……」
「やめろーー!やめてくれーー!」
やがて女からは力が抜け絶命した。
「……コノヤロウ……コロシテヤル……」
「いいな。その怨みと狂気の目。その怨みが頂点に達する今を待っていたぞ。」
鍛冶師はためらう事なく、剣で男を何度も刺した。
「ウグッ……グハァ!この……怨みは……絶対に忘れない……絶対にだ!」
男は絶命した。
「その怨みが欲しかったんだよ。」
そう言って、鍛冶師は男女から溢れ出る血に剣を漬けながら、ふたたび剣を鍛え始めた。
「もうすぐ完成だ。100人分の怨みを込めて鍛えた呪いの剣のな……」
鍛冶師は虚ろな目で剣を見上げると、仕上げとばかりに血と砥石で剣を研ぎ始めた。
呪いの剣は赤黒く鈍い光を放ち始めた……
エルフの村から帰ってきたタイヨー君とロキシー王女は、ユニコーンを連れて学校に来ました。
もちろん『木の扉』で。
これで家に来た時のように目立つ事はありません。
学校もまだ夏休みで、部活動に来ている生徒ぐらいしかいません。
「さあ、ユニ。おうちに着いたわよ。」
しかしユニコーンはロキシー王女にすり寄っています。
「走りたいの?じゃあ少し走ろうか。」
ユニコーンが嬉しそう。
「私はちょっとユニコーンと走ってから餌と水を与えますわ。」
「じゃあ僕は技術部の方に行ってくるよ。」
「こんにちはー」
「あ、タイヨー君、こんにちは。夏休みなのに部活動かい?」
そう返事を返してきたのはライド部長。
「まぁそうなんですけど、この前作った馬車が壊れてしまって……」
「え?もうかい?そんな簡単に壊れるようには見えなかったけどなぁ。」
「……ちょっと無茶をしてしまって。」
「やる事なす事、ムチャクチャなタイヨー君のやった無理な事ってのは聞きたくないなぁ。」
「ハハハ……まぁそんなんで、あの馬車は木っ端微塵になっちゃいました。」
「何をどうしたら木っ端微塵になるのやら……で、どうするの?また同じ物を作って見る?」
「そうですねぇ……」
そんな雑談をしていたらロキシー王女がやってきました。
「これはロキシー王女。こんな工房に来られるなんて。」
ライド部長はちょっと驚きながらも挨拶しました。
「こんにちは。ユニコーンの世話が終わったのでタイヨー君の様子を見に来たんですけど、あの馬車は変わってますね。」
ロキシー王女が目をやるのはキャンピング馬車。
「あぁ、あれですか。面白いですよ。中をみてください。」
「まぁ!まるで小さなお部屋ですね。」
「そうなんです。とにかく旅を快適にというコンセプトで作ったようですが、荷物を運べないので旅行以外は役に立ちません。」
そう言って笑います。
そこでタイヨー君は、思い出したかのように聞きました。
「そうだ。馬車の後ろにね、キッチンを付けて、屋台専用の馬車を作ろうかな〜なんて思ったんだけど、ロキシーは料理できる?」
「え?」
「お料理だよ。何か作れるものはある?」
「え?」
「お料理……」
「え?」
タイヨー君は諦めました。
「やっぱり普通の馬車をまた作りますよ。」
そう言って、その日は学校を後にしました。
エルフの村から帰った後の残りの夏休み。
もっと強くなりたいと思いを強くしたスコット君とアトミック王子は、フラックスちゃんも一緒に森で魔獣と戦ったり、それぞれの部活に出たりと、充実した日々を過ごしていました。
そして夏休みも終わり登校日。
生徒たちは久しぶりの再会で盛り上がり、教室はワイワイとても賑やか。
それはスコット君もアトミック王子も同じです。
「いやぁ~本当に充実した夏休みだったね。」
清々しい顔で話すスコット君。
「本当だね。大叔父上にもご挨拶できたし、父上からの手紙も渡せたよ。」
少し懐かしむような顔をしたアトミック王子。
「僕もおじいちゃんとおばあちゃんに会えて嬉しかったよ。」
「そうだね。それにスコットは婚約者の両親にもちゃんと挨拶したしね。」
ザワザワ……
先程まで賑やかだった教室の中が静まりました。
皆がスコット君とアトミック王子の会話に耳を傾けています。
「い、いやだなぁ〜アトミックたら。な、何を言っているのかなぁ〜?」
「え?とぼけるのかい?ノルディカさんのお母さんと剣で語り合い、ご両親に認めてもらって、言われてたじゃないか。ノルディカをもらってやってねって。」
ザワザワ……ザワザワ……
「や、や、やだなぁ〜社交辞令だよ。ハ、ハハハ…ハハ……」
なんともいたたまれない空気の中、ユキ先生が入ってきました。
「皆さん、おはようございます。夏休みが終わってガッカリですか?皆さん静かですね。」
とクスクス笑うと話を続けました。
「今日は始業式が終わった後は解散ですが、騎士科の生徒達の練習試合が行われるようです。他校から先生と生徒が来るので失礼のないよう、揉め事など起こさないようにお願いしますね、スコット君。」
「……なぜ名指しですか?」




