第1話:はじめての3Dスキャン
楠野 三は、派遣社員として大手自動車メーカーへ、「3Dスキャン」という未知の分野に飛び込んだ。3Dスキャナ、座標、デジタルアセンブリー、聞き慣れない言葉に戸惑いながらも、仲間と共に悩み、笑い、乗り越えていく日々。
現場で紡がれる、絆と成長の物語。
私は、派遣社員として自宅から近い会社に入社しました。
「私は山田です、1週間後に自動車会社に行ってもらうからそれまでにうちの製品を覚えましょうね」
「え?自動車会社?1週間後?てっきりまずは社内で研修受けてから行先を決めるモノだと思ってました」
「あれ?求人票に書いておいたはずなんだけどな。まぁそういうことだから」
求人票を細かくは見てませんでした...とにかく仕事を探さないと思った私は、内容を見ないで給料が高いからと言う理由で応募してました(汗
「派遣先で使う測定器はこれだから、しっかりと覚えてね」
測定器?って思った私は、本当に何も知らずに入社してしまったのだと少し後悔しました。
でも、やるからにはと思って話しを聞きながらメモを取り、マニュアルを見ながら1週間ただただそれだけを覚えようとしていました。
ですが、やっぱり覚えられないまま、派遣される日が来てしまいました。
派遣先で使う測定器を覚えるのもままならず、自動車会社に派遣されました。
とりあえず、入社の説明が終わって計測チームに配属された。
「みなさん、こんにちは、楠野です。正直わからない事だらけですが、ご指導の程よろしくお願いします。」
「こんにちは、なかなか元気がある人が来ましたね、まぁわからない事だらけだと思うけど、よろしくお願います」
そう言ってくれたのは、チームリーダーの林原さん。陽気な感じで良い人かもと思ったり。
「こんにちは、僕が世話役?君の教育係の菅野です、よろしくお願いします」
この人は菅野さん、とても良い印象を受けました。
「では、会社の説明は終わったんだよね。やってもらう事を説明するね」
と言って、説明は約2時間もかかった…長い...
入社した自動車会社で、三次元測定と言うモノを担当し、クルマ作りの効率化?開発期間の短縮?を行うのが業務となった。
分かってはいたものの、なにそれ?って感じで、なにかなんだかさっぱりわからないまま...
「まずは、このワークを測ってきてくれる、使う測定器はアームね」
「あの…アームってなんですか?」
「そんなことも知らないの?」
と言って、測定室と呼ばれるところに連れて来てくれた。
最初は測定室ってただの作業場かと思っていました。ですが、なんと温度と湿度が管理されていて年中同じ気温!季節感がなくなりそうで怖いです。
「アームってこれの事」
そこには、MMDxって書いてある謎のモノが立っていた。
「あ?これってうちの製品ですか」
「そうだよ、特に説明はいらないと思うけど、改めて、多関節三次元測定器って言って、人の腕みたいだろ?それでアームって呼んでるんだよ」
「これってアームって言うんですね、なるほど、確かに人の腕を逆さま?にした感じですね」
「じゃ、これをこれで測っておいてね。あ、座標は後で合わせるから気にしなくて良いからね」
と言って、菅野さんは他のテスクワークに戻ってしまった。
ワーク?座標?って感じで頭を悩ませていると一人の男性が声をかけてくれた。
「菅野さんていつもあんな感じで説明しないでどっか行っちゃうんだよね、大丈夫?」
と言ってくれたこの人は、川上さんと言う同じチームの先輩。
「大丈夫じゃないかもです、一応会社で習ったんですけど、まだいまいち使い方がわからないんです…」
「そうだよね、困るよねあの人、説明しないで。と言っててもしょうがないから、まずはそれを測るだけの使い方を教えるね」
「ありがとうございます、頑張ります」
「アームは、電源を入れてから初めに各関節を動かしてイニシャライズするんだよ、関節を動かしてここを使うからねって教えてあげる感じかな」
私は、不器用ながらもアームの先端をもって動かしてみた、なかなか思うようには動かない。
「会社でやった時はもっと上手にできたんですけでど、なんだか同じところばかり音がなっているような...」
「アハハ、最初はそんなもんだよ、慣れれば簡単だけどね」
と言うと川上さんはあっさりイニシャライズを終わらせました。
「さすがです、早くそうなれるように頑張ります」
「慌てないで良いよ、慣れるまでが大変だからね」
「あの、ワークってなんですか?」
「あ、ワークね、測定するモノの事だよ」
「あ、これのことをワークって呼ぶんですか」
私は、菅野さんに渡された黒いプラスチックのモノを持ってきていました。
「それそれ、ワークって言うのは測定するモノの総称で、測定対象はすべてワークって言い方をするんだよ」
「そうなんですね、勉強になります」
「まぁ、気にしないでね、早速測定してみようか」
そう言うと川上さんがまずは見本を見せてくれました。
「このようにペンキ塗りをするみたいに、一定の速さでむらなく全体をなぞって行く感じで」
「はい、やってみます」
私は言われた通りにむらなくやったつもり…でも全然ダメでした。
「川上さん、これって触らないで測るんですね、しかも全体を…測るって言うから定規とかで長さを測るんだと思ってました」
「そう思ったんだね、会社でもここまではやらなかったんだ」
「はい、設置の仕方とかケーブルの接続の仕方とか、そんなのばっかりで...すいません」
「いいって、ちゃんと説明すると、これは非接触多関節三次元座標測定器って言って、触らずにワーク全体の座標値を取得するモノなんだ、測るって言ってもワークのカタチをパソコンにスキャンするって事なんだよ」
「スキャンするってコピー機のスキャナみたいな感じですか」
「そうだね、コピー機のスキャナって紙に書いてある文字をパソコンの中に取り込むでしょ?そんな感じでワークのカタチをパソコンの中に取り込む事だと思っていいよ」
「そうなんですね、わかりました」
私はそういうとさっきと同じように、ワーク全体をなぞるようにスキャンしたけど、カタチがパソコンに入ってこない。
「川上さん、カタチが入ってこないんですけど、ちゃんとスキャンしてるんですけど。」
「あぁ、それね、黒いワークはスキャンし辛いんだよ、こういう時はスプレーを吹いてっと」
そう言うと、どこからかスプレーをもってきてワークに吹きかけました。そうするとワークは真っ白に。
「これでスキャンしてみて」
「はい」
さっきとはまるで違い、見る見る内にパソコンにデータ入ってきました。
「どういう事ですか?さっきとはまるで違ってちゃんとスキャンできました」
「ちゃんと説明したいけど、これから会議だから、まだ取り残しがあるだろうから、頑張ってね」
「はい、ありがとうございました。」
川上さんは会議に向かい、私はそのまま全部をスキャンしました。
「菅野さん、スキャンしました」
「あれ?菅野さんは?」
「あぁ、菅野くんなら帰ったよ、定時だからって。楠野さんも帰っていいよ。」
「え?もうこんな時間、お疲れ様でした。」
帰宅した私は昼間の事が気になり、計測コンサルタントをやっている従兄の元次さんに電話しました。
「もしもし、元次さん、みつです」
「なんだみつか、なんのようだこんな時間に」
「そんな言う方レディに失礼でしょ?」
「俺はお前の事レディとは思っていない、用が無いなら切るぞ」
「あ、ちょっとまって、聞きたい事があって」
私は、新しい職場の事、昼間のスプレーの事を従兄の元次さんに話しました」
「なんだ、そんな事か。お前が使っていたスキャナは光切断方式って言ってな、レーザー光をライン上に照射してワークに当て、そのラインをカメラで撮影して点群を取得するモノなんだよ。黒いモノって光を吸収する作用があるから、ラインが鮮明に映らないんだ。白くする事でラインがワーク表面に鮮明に映りちゃんとスキャンする事ができるって訳だ」
「え?なんで光切断?とかってわかるの?」
「多関節に着けるスキャナは、その特性から光切断のが都合が良い。カメラ式なんかは重くって動かし辛いからな」
「職場にはそれしか無いみたいだからカメラ式とかって言われてもわからないんだけど」
「そんな事は無い、自動車会社は大抵両方を使い分けてる。お前のいる部署に無いだけかもしれないから聞いてみろ、じゃぁな」
「あ、ちょっとまって」
元次さんは、面倒くさそうに電話を切ってしまいました。
でも、理由は分かったからよしとして、明日に備えよう。
つづく・・・




