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10. オークキングの野望


姫騎士の舞うような剣技が始まる。待ってたぜ。そこにとっておきの大ハズレをギフトしてやる。さあ渾身の致命的失敗(ファンブル)を見せてみろ!


バッキィィィィィンッ!!


あまりにも唐突に、何の前触れもなく、姫騎士の剣が砕け散った。


「はっ???……ええぇぇぇっ!?そっ、そんなっ……嘘っ!!?」


今まさに冷気を解き放とうとしていた刃が無数の破片となって飛び散り、そこら中デタラメに氷結晶の花を咲き乱れさせる。暴走する冷気は技を発動させた姫騎士自身に襲い掛かり、大ダメージを与えてゆく。


「ぐぅぅっ……うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


乱舞する結晶から逃れようと必死で身をよじるオリエ。致命傷は避けているものの、氷片がかすめる度にメイドの衣装が切り裂かれてゆく。


「こっ、このままではっ……ああっ、ダメッ!……ふ、服が凍って……」


マズい。サービスシーンも結構だが、このまま全部見えてしまうと全年齢対象じゃなくなってしまう。

やむなく俺は危険を覚悟で冷気の中に飛び込み、かなり際どい格好になりつつあるオリエを庇うように抱き寄せた。


「はっ、ハイカキン殿っ!??」


甲高い乙女な声を上げて半裸の姫騎士が狼狽える。まあ一国の王女、それも最強の姫騎士にこんな狼藉を働いた奴はこれまでいなかっただろうから、免疫が無いのも当然だ。


「なななななな何を……」


「身分のある方がそんな姿を見せるもんじゃない……って前にも言ったな。じっとしてろ」


黒い長衣(コート)の中に包み込むようにして体を密着させる。


「あっ……あああああのあの私っ……私っ……」


「わかってる。何も言わなくてもお前の気持ちは伝わった。俺に受け止めてほしいってのはこういうことだったんだな?」


「ちっ、違っ!?ここここれは事故でっ……とっ、ととと殿方にこんなはしたないことは決してっ……!」


「気持ちを偽ることはない。俺もお前の気持ちに応えてやりたいが………後ろの奴がなんて言うか………」


「えっ……??」


抱き合う俺たちの背後で、ドス黒い気配がまた膨れ上がった。


「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないこの泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫わた私の私のいといといと愛しいヒヒヒヒヒヒト人人人人に色色色色色目を色目を使う泥泥ドロロロロロロロ泥棒猫はのろ呪呪呪のろロロロロロロロロロロロロロロロロロ呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ォォォォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!!!!!」


「ひっ!!!!??」


キャサリンの呪いは普通に戦闘で倒されたぐらいでは消えない。時間が経てばまたすぐ復活する。その時間が5ターン。そう、ちょうどオリエの必殺技ゲージが溜まるのと同じ時間だ。俺はその時間を稼いでたんだ。ハズレガチャで攻撃を失敗させることはできても、俺とマノンの攻撃じゃオリエを倒すことはできないからな。ワンチャン致命的失敗(ファンブル)で自爆してくれりゃ御の字。じゃなきゃコイツに始末してもらうまでだ。

復活したキャサリンの怒りは凄まじく、俺も背筋が凍るようだった。そりゃそうだ。戻ってきた途端に目の前でほとんど裸の女が俺に抱きついてるんだから。ストーカー霊がブチ切れるのは計算通り。さあキツいお仕置きを頼むぜ。


「あっ……あやっ……はややややややややっ……」


どんな強敵も恐れないがオバケだけは怖い姫騎士が俺の腕の中でガタガタ震え出した。キャサリンの奴、よっぽど恐ろしい顔をしてるんだろう。俺も怖くて見られない。


「呪ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ……」


「ヒィィイイイイイイイイイイッ!!!」


ガクンとオリエの体から力が抜けた。恐怖のあまり失神したようだ。重っ!コイツ。

俺は支え切れない重さの筋肉姫を床に下ろし、色々見えちまってるメイ奴隷衣装の上にコートをかけてやった。


「裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者……」


「わかった!わかったって!演技だよ演技!」


収まらないキャサリンの怒りは俺に向けられる。だいぶ慣れてきたとはいえ、やっぱ怖いもんは怖い。助けてくれ。


「愛されてるね〜ハイカキンちゃん。よっ!罪なオトコっ!」


「ムキムキ〜モ!」


いつの間にかマノンがおネェとコワモテを復活させたようだ。


「ふしだらな行いの報いですっ。助けてあげません」


何やらマノンの奴もムスッとしてて、キャサリンを鎮めてくれない。なんなんだろうなコイツら。


「さて……頼みの綱が寝ちまったぜ?まだ奥の手はあるか?」


俺は仕方なく頭の後ろに張り付いてる怨霊を無視して、オークキングに呼び掛けた。


「いや〜降参だ。捕まえた連中は返すから、今日のところはこれで手打ちにしねぇか?」


「話が早くて助かる。お前は見かけによらず頭がいいからな、オーランド」


「俺の名前を知ってるのか??」


「まあな」


腐るほど引いたよ。SSレアでダントツの不人気キャラだ。性能は悪くないんだけどな。基本、美少女キャラを集めるゲームなのにこのビジュアルだ。敬遠されるのも仕方ない。


「元々人間と喧嘩するのはこれが最後のつもりだったんだ。メスブタどもを大量に頂戴してよ〜、ナワバリに戻ってたっぷり楽しもうって予定だったんだがな〜。ゲッヘッヘッヘ」


ゲスい言葉に、解放された騎士たちが色めき立つ。


「貴様ァッ!我らが王国でそのような下劣な真似が許されると思っておるのかァッ!!」


だがその言葉の本当の意味を知っている俺は助け舟を出してやる。


「まあまあまあ落ち着けって。お前はいちいち言い方がおかしいんだよオーランド。もう一回ちゃんと説明してみろ。何が欲しいって?」


「だからメスブタだよメスブタ。ウチの子分どもは頭悪りぃから家畜を手に入れても見境なく全部食っちまう。俺はメスブタを増やして繁殖させてぇんだよ。そしたらいちいち人間の村なんか襲わなくて済むだろ?こっちだって人間と喧嘩すんのは命懸けなんだ。ずっと戦ってばっかで、オークの若いのもずいぶん減っちまったからな〜」


「だっはっは!メスブタってマジモンの豚のことかよ!」


おネェが大笑いする。騎士たちは唖然としている。そう、このオークキング、オーランドは絵に描いたような悪党ヅラだが、実はかなりまっとうな奴なんだ。


「だから最初からそう言ってんじゃね〜か。ったくお前ら人間どもはヒトの言うことを聞きゃしねえ」


「まさか……姫様に相手をしろだの言うことを聞けだのと言っていたのも……」


「そうだぜ〜?……話を聞けっつってんのに喧嘩腰でよ〜。せっかく人間の好きな流行りの服までプレゼントしてやったのに」


いやその認識は間違ってるぞ。


「人間の服の好みなんか知るかよ。たまたま捕まえた人間に聞いたらあ〜ゆ〜のがいいって言うからよ〜」


それは単なるソイツの趣味だろ。


「人間の闇商人からこっそり服を取り寄せたらあの首輪が付いてたんだ。こりゃ〜使えるって思ったね」


モリスか。あいつ、オークにまで手を広げてんのかよ。


「人間はすぐ裏切るからよ〜、いざって時はコイツで無理矢理言うこと聞かせようってな〜。ゲッヘッヘッヘ」


「その笑い方やめろ。裏切られるのはお前の顔と態度が信用ならんからだ。本気で異種間交流を望むならまず自分の印象の悪さを自覚しろ」


「いや〜……わかっちゃいるんだが、ついクセで。オークん中じゃコレが男らしくてモテるんだが……人間の前じゃ気を付けるよ」


開いた口が塞がらない騎士たちに代わって俺が話をまとめてやるとしよう。


「誤解が解けたんなら話は簡単だ。このオークたちに少しばかり家畜を分けてやって、ついでに飼育のやり方なんかも教えてやったらいい。これで西の国境も平和になるだろ」


疑り深い数人の騎士たちはまだ納得がいかないようだ。


「しかしッ!貴様らオークはメスがいないから人間の女性を攫って子を産ませるのではないのかッ!」


オーランドはハァ〜ッと深いため息をついた。


「なんでそんなデタラメを信じちまうかね〜……人間の女がオークの子を産むわけね〜だろ。オークにも女はいるし、俺には女房が三人、子供が十六人いる。コイツらだってみんな彼女持ちだ。人間の女なんか相手してるヒマあるかよ。なぁ?」


彼女持ちらしいオークたちが一斉に頷いた。


「じゃあ……オークが人間の女性を攫って非道の限りを尽くすという話は……」


「そりゃ〜オヤジたちみてぇな頭の古い老害が人間をビビらすために広めた嘘っぱちの武勇伝だ。オークの女でも信じてる奴がいるからな〜。俺たち妻子持ちや彼女持ちはいい迷惑だぜ。なぁ?」


妻子持ちや彼女持ちらしいオークが一斉に頷いた。オークに対する偏見や固定観念が根底から崩れ落ちるような話だ。


「うぅぅぅ……ん……」


おっと、すっかり場が和んだところで姫騎士が意識を取り戻しそうだ。


「呪ロロロロロロロロロロ……」


「おいマノン、いい加減にコイツをなんとかしてくれ。これじゃオリエが起きてもまたすぐ気絶だ。話もできん」


「姫騎士さんが起きたらまたふしだらなコトするつもりですか?ハイカキンさんのえっち」


別に何もしてねぇよ、人聞きの悪いこと言うな。押し倒してきたのも勝手に裸になったのもコイツの方だ。俺はただ、この世界を成人指定から守っただけだ。


「うぅぅ……私は何を………」


「泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥ロロロロロロロロロロロロロロロ……」


「おい馬鹿。ハズレ。早くこのぶっ壊れ蓄音機を止めろ」


「やです。えっちな人の言うことは聞きたくありません」


ガキの喧嘩か。俺はイラついてブーたれ天使を強引に振り向かせると、さっきオリエにしたようにグイッと抱き寄せた。


「あぅ………ハイカキンさんのえっち………」


勘違いするな。天使パワーでキャサリンを大人しくさせるために密着してるんだ。決して胸に当たる無駄肉のポヨポヨを楽しんでるわけじゃない。勘違いするな。

天使は顔を赤くしてそっぽを向きながらも、俺にギュッと抱きついて清浄な天界のエネルギーを送り込んでくる。


「呪……ロ…………ロ……………………」


悪いなキャサリン、少し静かにしててくれ。俺はオリエと話があるんだ。


「あ……ハイカキン殿………す、すまない、さっきはとんだ醜態を……」


「いいからまず前を隠せ。色々都合が悪いんだよ」


「えっ?……はっ!?はわぁぁぁぁっ!!?」


ガバッと俺のコートを引っ掴んで胸の前にかき寄せる姫騎士。それでいい。全年齢全年齢。


「か、重ね重ねお恥ずかしいところを……」


「気にするな。お前が寝てる間にオークとは話がついた。なあオーランド、土産をやるから国境の先まで引き上げろ。そこに共同経営の牧場を作ろう」


「わかったぜ〜ハイカキンの旦那。俺はあんたの言うことは信じる。言う通りにするよ」


「ぼ、牧場??一体何がどうなって……」


困惑するオリエにかいつまんで説明してやる。


「長年にわたるオークとの戦いをいとも簡単に終わらせてしまうとは………ハイカキン殿、あなたは本当に一体何者なのだ………」


そんな大層なことはしていない。ただこの悪党ヅラの紛らわしいセリフを翻訳してやって、双方の利害が一致したってだけの話だ。でもまあ、ここはカッコつけとくか。


「ハイカキンは人知れず世界の危機と戦い続ける気高い自己犠牲の戦士……なんだろ?お前もその仲間に加えてやる。俺と一緒に来い、オリエ」


「えっ!?」


一瞬パッと目を輝かせて、差し出した俺の手を取ろうとした姫騎士が、ハッと後ろの騎士たちを振り返り、俯く。


「あ……その…………わ、私は一国の王女として、騎士としてやるべきことが………あの、あなたの仲間に誘っていただけるのは本当に………本当に光栄なのだが………」


「姫様!!」


歯切れの悪い主君を叱咤するように、後の騎士たちが声を上げた。


「あなたは一国の王女で収まるような器ではありません!この国のことは我々に任せて……ハイカキン殿と共に世界を守る英雄とおなりください!」


「お、お前たち……」


言ってることはカッコいいが、そもそもお前らに任せておけなかったからオリエがここに来たんじゃねぇか。まあいいや。この国に何かあったらその時は俺たちもまた手を貸してやる。それだけのことだ。


「は、ハイカキン殿!……ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いしますっ!!」


それは違うだろ。俺は別にお姫様を娶る気なんか無いぞ?


「の……ロ……呪………呪……呪ロロロロロロロロロ……」


「ひっ……!??」


ほら面倒くせぇのがまた怒り出した。おい無駄肉、ちゃんと抑えとけ。グイッと強く抱き寄せると、天使が「きゃっ……んんっ!」と俺の胸に赤い顔をピタッとくっつけたまま頬を膨らます。


「あぅぅ………えっちなハイカキンさんは知りません!」


「呪ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」


「ヒィィィィィィィィィィィッ!!!」


ああうるせぇ。なんだか謎に賑やかだが、これで目指すデッキ完成まで残るターゲットはあと一人となった。ちょうどいいことに、そいつを手に入れるイベントの発動条件はたった今満たしたところだ。


「で……さっそくだがオリエ、王女様の権限を濫用させてもらって、行きたい場所がある」


「え、あっ、はいっ!それは一体……」


俺は少しもったいぶって仲間たちの顔を見回してから、次の目的地を告げた。


「王立大図書館だ」


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