もう遅い
「安心しろ、猿。範囲でセーブできる超高級アイテムだから、お前もセーブができる」
きっと距離は離れていないから市や長政、勝家も一緒にセーブできるだろう。
「ネエ、おカネを掛けちゃってもイイ? ノブナガぁ」
俺を見上げて、光秀はそう問い掛けてくる。そんな可愛くされたら、否定的な意見など言える筈がないだろう。
「いくらでもどうぞ。光秀、お前が満足できるようにしろ。むしろ、満足させてやるよ俺が」
それまで猿にも耐えて貰わなきゃいけないな。決して物足りないなんて思わせない、光秀を満足させてやる為に。
「アリガト。デモノブナガ、ソンなカッコいいコト言わないで。きゅんとしちゃうでしょ? ったく」
可愛らしく微笑むと、光秀は武器を構えて猿を突き始める。槍、ということは光秀は本気なんだな。職人を呼んで俺が専用に作らせた、光秀の為だけの武器だから。
「ふふふふ、はっはっはっは。イイ気分だよ、ふふふははははは」
楽しそうに笑いながら、光秀は猿を突き続けていた。左手では木刀を持ち、そちらでは叩き付けている。剣を使わないのは、縄を切ってしまわない為なのだろう。
「ノブナガもどう? タノシイよ」
満面の笑みを浮かべ、光秀は俺のことも誘ってくれる。相当ストレスが溜まっていたんだろうな、光秀……。俺が苦しみに気付いてあげられなかったから。だから。
「俺は大丈夫だ。お前が精一杯楽しんでくれ。苦しめられたのはお前の方だから」
確かに俺だって裏切り者をぼっこぼこにぶちのめしてやりたい。しかし、ストレスの溜まった光秀の楽しみ。それを奪うことはできないさ。
「それに俺は、お前のこと見てる方が幸せだし」
無意識のうちに、そんな言葉が口から零れていた。俺はどんどん恥ずかしくなっていった。が、光秀の真っ赤な顔を見たら俺の恥ずかしさはどこかに飛んで行った。そして、光秀の可愛さで俺は満たされて行った。
「不意打ちはダメだよ、反則。ボクもシアワセはノブナガだとオモウ。デモ、コイツを苦しめないとダカラさ。ツギはノブナガのバンかもよ? コノグッズにお世話にナルのは」
恥ずかしそうな表情をしていたが、途中からはドS色に戻っていた。
「な~んてね♡」
ほら、ドSだ。そんなこと言って舌を出されたんだぜ? 俺がそれで死にそうになるのは分かり切っている筈。それをあえてやるのだから、光秀はドS過ぎて困る。
「アッヤバヤバ。ノブナガ見てたら、回復ワスれてた」
そう言って光秀は猿の体力を回復させる。攻撃をすれば当然HPは減る。いくらアイテムで防御力を上げているとはいえ、光秀の攻撃を喰らえば体力はすぐなくなる。
だから光秀は、回復アイテムを使い何度も猿を攻撃しているのだ。その度に猿は暴れてくれるので、光秀は楽しくて仕方がないだろう。
「もう、間違えても殺したりするなよ? 光秀はドジだな」
「テヘッ☆」
こんなやり取りをしながらも、光秀は武器を持っているのだ。外見などいろいろ考えても、この絵面はかなりシュールだろう。
「なあ猿、勿論明日もログインしてくれるよな? 待ってるから、絶対来いよ」
ログアウトされる直前、俺は猿にそう言った。そして答えを求めている。その意思を表す為に、ガムテープを剥がしてやった。飛び切り痛く。
「…………はい。信長様の命令は絶対ですので」
苦しそうにしながらも、猿はそう答えた。その言葉の真意を確かめようとしたが、そのままログアウトされてしまう。
どうしてあんなことを答えたのだろう。答えずに時間を稼ぐことだってできた筈。最後の暴言を吐くことだってできた筈。どうせそのあとログアウトされるのに、どうしてなのだろう。リアル出会うこともありえないのだと言うのに……。なぜ。




