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「でてきなさい!」
あえかの凛とした声が響く。
「ここにいることはわかっています!」
「騒々しいですな」
暗い旧校舎からでてきた溝口おどろは、無精ヒゲの生えたあごをボリボリ掻きつつ、陽の当たる場所へと出てきた。
「今日学校は休校です。部外者は立ち入り禁止ですよ」
「おぬしがヤミヨミの神父じゃな」
日和と大沢木はおどろいた目で金剛を見た。
「ふむ」
溝口はちらりと日和に目をやり、「以前言いませんでしたかな? ワタシの睡眠のジャマをするなと」
「もうお昼をまわっています」
律儀に注意するあえか。
「そうですか、それはご丁寧に。……日の当たる時間というのが、きらいなのですよ」
髪を掻くとフケらしきものがパラパラこぼれた。
「風呂も三ヶ月くらいは入っていない」
「きったねー!!」
日和が声をあげると、キッ! とあえかと金剛ににらまれた。
「なんで?」
「アンタが”ヤミヨミの神父”だってんなら、証拠があるぜ?」
大沢木は鋭いまなざしで担任教師をにらみ据えた。
「美鈴をだせよ」
ふっ。と溝口が笑う。
「南雲美鈴が、どうかされましたか?」
「いいかげんにしろ。痛い目にあいたかねえだろ?」
「教師に対する口ぶりとはおもえんな。仕置きが必要か」
溝口は白衣のポケットに手をつっこんだまま、ふらりと大沢木へ歩きだした。
あえかと金剛が身構える。
「PTAから苦情がでなければいいのだが」
「心配するなよ。チクッたりしねえからよ」
「そうか」
パチンッ、と溝口が指を鳴らした。
南雲美鈴が旧校舎からでてくる。
「てめぇ、やっぱり……ッ!!」
「美鈴さんをあやつり、鏡をうばったのはあなたですね」
あえかの言葉に、溝口は首をふって「なんのことやら」とふてぶてしく笑った。
「彼女はみずからの意思でおこなったのだ」
「「美鈴!!」」
日和と大沢木が同時に走りだした。
溝口が白衣のそでを振り、黒い表紙の本を取りだした。
パラリと開き、御言葉をとなえる。
「神は云われた。第三日、と」
雑草だらけの地面がわきたち、急激な背丈へと成長すると、生き物のように彼らの進路を妨害した。
白衣のポケットから黒い帽子を取りだすと目深にかぶる。
ついで白衣をはぎ取り、裏返しにして黒い神父服を纏う。
パチ・パチ・と手際よくホックを留める。
メガネを外した彼は、人を安心させるまなざしを”組織”の敵たちへと向けた。
「ようこそ。みなさん。わたしが闇黄泉の神父です」
大麻を咥えた神父が言った。




