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「委員長になにか変わったところがないかって?」
日和は車椅子を押しながら、たずねられた質問をオウム返しにたずね返した。
「ああ。最近元気がないみたいに感じないかい?」
「そーか?」
毎日のように美鈴からクレーム=注意を受けているから、「いつもどおりにうるさい女だ」と答える。
「ははは! ヒヨリは委員長と仲が悪いしね」
「そーだよ。あいつ、人のやることなすこといちいち文句つけるんだよ。まるでおふくろみてー」
「ヒヨリがちゃんと掃除してたら、彼女も怒らないとおもうよ」
「いーや。きっと他の事で怒るにちがいない。だからオレはそーじをわざわざやらんのだ」
「それはイイワケだね」
「よくぞ見破った」
たがいに笑いあうと、生徒会室の前までたどり着く。
「ありがとう」
東はまぶしいくらいの笑顔で礼を言った。
「何言ってんだ。このくらいで」
「いや、感謝してるよ。日和に声をかけてもらわなきゃ、僕はきっと、ひとりの友達もつくれなかっただろうからね」
「なーに言ってんだ。おまえ、クラスの人気者じゃん!」
日和の言葉に微笑を浮かべた。
「すこし欠点があるだけで、人間はとても残酷になる」
車椅子に乗っているだけで、友達づきあいを拒むクラスメイトがいる。足が不自由というだけで、厄介者のように見る者がいる。人とちがうだけで、好奇の目で自分を見る人間がいる。春日日和は、そのどの人間でもなかった。
ふつうの友達として接してくれる。
彼が声をかけてくれたのがきっかけで、他のクラスメイトとも仲良くなれた。副委員長という大役をがむしゃらにこなしているのも、クラスの全員から頼りにされているという自負があるからだった。
「ヒヨリがいなければ、僕の人生はもっと荒んでいたとおもう」
「……まぁよ、ヤナ奴はいるよ実際。オレだって、昔はいじめられもしたからな。だから分かるんだ。弱いヤツがどんくらいつらいって事がさ」
照れたように日和は語った。
「なんか暗い話になっちまったな」
「そんなことはないよ」
「あっ、東くん、今日は早いね!」
生徒会役員の上級生だろう、東を見かけて声をかけてくる。
日和は手を挙げた。
「じゃ、また明日な!」
「ヒヨリ、待って!」
声をかけられ、肩ごしにかえりみた。
「南雲――委員長のこと、気づいたことがあったら、僕に知らせてほしい」
「は? まぁ、いいけど、なんでそんな――」
ピーン! と直感がひらめいた。
むふ。
「いいぜ。なんか気づいたら教えてやるよ」
「助かるよ」
「へへ、なぁに。似合いのカップルだとおもうぜ」
ニヤニヤとうす気味わるい笑みを浮かべる日和に苦笑をかえし、東は上級生の女生徒に車椅子を押され、生徒会室へと入っていった。
その女生徒が、生徒会室へと消える前に日和に向けて舌をつき出す。
キツネにつままれたような顔をした日和はあごに手を当て、「う~む」と悩んだ。
「モテすぎるってのも、考えモンだよな」




