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「やったー! ようやく授業終わった-!」
日和はさけぶと鞄を手にとった。
「待ちなさい!」
その背に声がかかる。
「今日は春日くんたちの班が掃除当番でしょう」
ほうきを手にして迫ってくる南雲美鈴に、イヤな顔をして仲間を見た。
志村、御堂以下数名が、げんなりとした顔をして掃除道具入れからバケツやほうきやぞうきんを手にし、めんどくさそうに掃除をはじめる。
「なんてマジメなやつらだ」
「フツーです! あなたもこの月代高校1-A教室の生徒ならきちんと学生の本分を実行しなさい!」
「ばっかだなー、そーじなんざやったってどうせ汚れんだぜ? やらないほうがいいじゃんか」
「それは不精者の理屈です。すこしは学校の役に立ったらどう?」
委員長はほうきの穂先を日和の顔面にちかづけた。まごう事なきいやがらせだ。
「ふっ。自慢じゃないがオレは部屋のそーじをしたことがない」
「春日君の部屋なんて興味ありません。みんながやってることをやらないほうがズルいて言ってるの!」
なんかこの前からずいぶんつっかかってくるようになった気がする。
オレはコイツになにかしたか?
「わぁったよ! やりゃいいんだろ! やってやるよ! グチグチいやがって」
日和はほうきをぶんどると、志村に向かって声をかけた。
「野球しよーぜ!」
「おっ! ヒヨリイイコト言った!」
「おれの稲妻ぞうきんシュートが受けれるか?」
日和のかけ声に、つまらなそうだった面々が俄然目を輝かせはじめる。むろん、教室の美化清掃についてではない。
「男子ってバカばっかり!」
委員長は怒った顔をしてまた文句を言おうと口をひらきかけた。
「南雲さん」
「はい?」
声をかけられ、そちらの方向に眼鏡を光らせた。
端正な顔をした少年が、車椅子の車輪を鳴かせて近づいてくる。
「あ、東君」
「今日放課後に生徒会の打ち合わせがあるんだけど、空いているかな」
東正龍。1-Aの副委員長をしている。ととのった顔立ちと大人びた物腰、成績もクラスでトップクラスという彼は、唯一幼いころに負ったというケガのせいで、足が不自由で車椅子での移動を余儀なくされている。
美鈴は彼が苦手だった。
「あの、ごめんなさい。今日も用事があって……」
副委員長は「あはは!」と快活に笑い、
「いいよ。僕が出ておくから」
「ごめんなさい……」
自分のせいで委員会の仕事のほとんどを背負うことになっている彼に頭があがらない。
普段「委員長」としてクラスのとりまとめ役を引き受けているものの、放課後や休んだ日の雑務はすべて副委員長である彼が一手に引き受ける。本来委員長と副委員長で二つにわけてこなさなければならない仕事も、副委員長である彼が不平も言わずテキパキとこなすから、運営にはなんの支障もなかった。
成績も優秀で、中学3年のときに出場した学生論文のディベートでは、準優勝したほどの実力だ。そんな彼に、クラスの女子が気にしないわけがない。
「さすがアズマ様」
「たよれるぅ」
「ホント、南雲さんなんてお飾りみたい」
このやりとりがあったあと、必ずと言って良いほど、クラスの女子連中から一斉にひんしゅくのまなざしでにらまれる。
これがイヤだった。
うなだれた美鈴に、東は「気にしなくていいよ」と言った。クラスのひときわぶーたれている女子グループに向かって、声をあげる。
「君たちもいいかげんにしてくれないか? 僕が好きでやってることだ。文句が言いたいなら、僕に言ってほしい」
そして、いつものように女子は引き下がる。たとえ叱られるとはいえ、学年彼氏にしたい候補No.1の東に声をかけてもらうことは、彼女たちにとってうれしい事らしい。
ようは、美鈴をダシにして、東に自分たちを見てもらおうという曲がりに曲がった恋愛行動だ。
彼女がクラスの女子に溶けこめないのも、この要因が十二分にある。
「それじゃまた」
そう言って、東は立ち去ろうとした。
「かっきーん!!」
日和の打ち取ったぞうきんボールは多大な空気抵抗を受け、東の顔にぱすっ、とかかった。
「あっ! 悪いアズマ!!」
あわてて駆け寄った日和に、乾いたぞうきんをはぎ取った東は、苦笑を浮かべた。
「こんなところで野球はいけないよ。ヒヨリ」
「わりーわりー」
女子からすさまじい非難の声が上がる。
日和は東からぞうきんを受け取ると、「どこまで行くんだ?」と声をかけた。
「生徒会室だよ」
「連れてってやるよ」
「たすかる」
女子たちのわめき声を無視して雑巾を志村に渡すと、東と昨日夜20:00からやっていたクイズ番組の話をしながら二人で教室を出ていく。
なんの因果か、クラス一モテない男春日日和と学年一モテる東正龍は仲がよい。
志村たちはバッターがいなくなってしらけたのか、まじめに掃除に取りかかる。
美鈴は憂鬱な顔で鞄をもつと、ひとりで教室を出て行った。




