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「とても面白いかたですよ。ジャパニーズ・エクソシスト」
闇色の神父はそう言いつつ、目の前にいる少年に語りかけた。
「巫女、ですよ」
「そう、ミコ。和式の着物に武器はオフダと棒きれ。あれで悪霊を祓ってしまった」
「そうですか」
「興味がないのかね?」
つまらなそうな顔の少年に、神父はやさしげに問いかけた。
「なぜ、その場で殺してしまわなかったのですか?」
少年は、尊敬すべき聖職者にむけてたずねた。
「ワタシは神につかえる者です。殺生はいけません」
「でもずいぶんと昔は、たくさん人を殺しているじゃないですか」
「いいえ」
神父はこれもやさしく答えた。
「われわれは、ただの一度も、自分の手を汚したことなどありません」
告白にきた迷い子へ諭すように言い聞かせる。
「異端審問官、信心ぶかい民衆のかたがた。神の思し召しにより、皆さんこころよく協力してくれました」
「ずいぶん卑怯な宗教ですね」
「ええ。それでも世界の三分の一の人間が信仰している」
「みんなバカですね」
「それは神のみぞ知る、ですよ」
少年の素朴な感想にうすく笑いを浮かべ、闇色の神父は聖書を開いた。
「神は宣えり。信じるものは救われる」
「ありふれた勧誘文句ですね」
少年は苦笑し、折っていた鶴を宙へとほうり投げた。
重力に逆らい、鶴は支えもない場所にふわりと浮かびあがる。
「信じるものが救われるなら、天上の国というのはさぞバカばかりなんでしょうね。物忘れの老人に中毒者、生きるしか能のない下賤な愚衆にはふさわしい生き場所です」
「だれでも自分だけは救われたいとねがうものです。他人を蹴落としても」
「まるでこの地上と同じじゃないですか」
「千年王国とは、地上にあるのですよ」
「どこまで行こうと人は人ですか。救えない話です」
少年は折り鶴を指ではじき、神父のほうへと進ませた。
「救いを誤解してはなりません。神は言うことを聞く人間をご所望なのです」
「それなら言うことを聞かない人間は、楽園を追放されてもおかしくはありませんね」
少年が指さすと、鶴は内側からはじけて舞い散る紙吹雪となり、盛大にあたりに雪を降らせた。
「僕が、仕留めてみせますよ」
紙吹雪につつまれた少年は、車椅子の上で、不遜な笑みをうかべた。
「自分の宿命すら理解しない、バカなお姫さまをね」




