表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/86

/14/

「とても面白いかたですよ。ジャパニーズ・エクソシスト」


 闇色の神父はそう言いつつ、目の前にいる少年に語りかけた。


「巫女、ですよ」

「そう、ミコ。和式の着物に武器はオフダと棒きれ。あれで悪霊をはらってしまった」

「そうですか」

「興味がないのかね?」


 つまらなそうな顔の少年に、神父はやさしげに問いかけた。


「なぜ、その場で殺してしまわなかったのですか?」


 少年は、尊敬すべき聖職者にむけてたずねた。


「ワタシは神につかえる者です。殺生せっしょうはいけません」

「でもずいぶんと昔は、たくさん人を殺しているじゃないですか」

「いいえ」


 神父はこれもやさしく答えた。


「われわれは、ただの一度も、自分の手を汚したことなどありません」


 告白にきた迷い子へさとすように言い聞かせる。


異端審問官いたんしんもんかん、信心ぶかい民衆のかたがた。神のおぼしにより、皆さんこころよく協力してくれました」

「ずいぶん卑怯ひきょうな宗教ですね」

「ええ。それでも世界の三分の一の人間が信仰している」

「みんなバカですね」

「それは神のみぞ知る、ですよ」


 少年の素朴そぼくな感想にうすく笑いを浮かべ、闇色の神父は聖書を開いた。


「神はのたまえり。信じるものは救われる」

「ありふれた勧誘文句ですね」


 少年は苦笑し、折っていたつるを宙へとほうり投げた。

 重力にさからい、鶴は支えもない場所にふわりと浮かびあがる。


「信じるものが救われるなら、天上の国というのはさぞバカばかりなんでしょうね。物忘れの老人に中毒者、生きるしか能のない下賤げせん愚衆ぐしゅうにはふさわしい生き場所です」


「だれでも自分だけは救われたいとねがうものです。他人を蹴落としても」


「まるでこの地上と同じじゃないですか」

千年王国ミレニアムとは、地上にあるのですよ」

「どこまで行こうと人は人ですか。救えない話です」


 少年は折り鶴を指ではじき、神父のほうへと進ませた。


「救いを誤解ごかいしてはなりません。神は言うことを聞く人間をご所望しょもうなのです」

「それなら言うことを聞かない人間は、楽園を追放されてもおかしくはありませんね」


 少年が指さすと、鶴は内側からはじけて舞い散る紙吹雪かみふぶきとなり、盛大にあたりに雪を降らせた。


「僕が、仕留しとめてみせますよ」


 紙吹雪につつまれた少年は、車椅子の上で、不遜ふそんな笑みをうかべた。


「自分の宿命すら理解しない、バカなお姫さまをね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ