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翌日。
道場に着いた日和は、大沢木を囲んでなやんでいる金剛とあえかをみかけた。
「いっちゃん! 元気になったのか?」
「ああ、心配かけちまったな、日和」
もとのやさしげな目を取りもどした旧友をみて、日和はうれしくなった。
「師匠、と金剛サン、どうしたんですか?」
「いや、なに」
金剛はしきりに首をひねり、あえかに困った目をむけた。
あえかも困ったように目を伏せる。
(困った顔もおうつくしい)
「狗神を祓おうとおもったのですが……」
あえかは手にもったお祓い棒を掲げて、細い息を吐いた。
「祓えないのです」
「祓えない?」
「うむ。魂との癒着がおおきすぎてな。ワシ等ではどうしようもない」
「でも、元気じゃないすか。いっちゃん」
「ひーちゃん、そうなんだよ。早く解放してくれねえかな。おふくろが心配するんだ」
「電話入れたのか?」
「ああ、朝一によ」
照れたように、大沢木は言った。
「このまま様子を見るしかありませんね」
「そうじゃな」
「大沢木君。本日よりあなたも、この道場へきなさい」
日和と大沢木はそろって声を上げた。
「「はぁ!?」」
「祓魔の法がわかるまでは、経過を見ることにします。ただぼうっとしているのもつまらないでしょうから、あなたも『真心錬気道』を習ってみるのはいかがでしょう。きっと良い経験になりますよ」
「ちょ、ちょっと待った師匠! おかしい、それはおかしっすよ? ここの門弟になるにはきびしい試験が……、それに、大沢木君だってそんないきなり」
「いいぜ。あんたにゃちょっと興味がある」
日和は全身セメントと化したかのように固まった。
「良いでしょう。ならば今日から」
「待て! いっちゃん、思い直せ! これ以上人が増えたらオレの当初の目論見が! 未来予想図が! あえか様のチチが! 遠ざかってしまうだろう!」
「春日君はだまってなさい」
「いーや師匠、言わせてもらいますよ。俺がどれだけの覚悟でこの道に入ってきたか」
「やっほー、おっまたせ」
美倉みすずがあかるく入ってくる。
「なにやってるんですかー? みんなで」
「そうだ師匠! あーゆーテンパな娘が一人いるだけで、この道場の風紀が乱れる! オレと師匠の甘ずっぱい空気が乱される!」
「あれ? 大沢木君がなんでいるの?」
「ああ? 誰だよおまえ」
大沢木はするどい目ツキに変えると、みすずに向けて言った。
「オレはてめーみてーなチャラチャラした女が大ッきらいなんだよ」
「な、なによー! あんたなんか小二のときに告ってフられたくせに!」
「な、何で知ってやがる!」
顔中真っ赤になって、大沢木が立ち上がる。
「誰だ! 誰がしゃべったんだ!?」
「あ、えーと、ね……そう、春日君!!」
「日和てめー!」
「待て、違う! なんかよくわからんが誤解だ! わかった! 入門許可するから!」
なかよく道場を駆けまわる3人を見た金剛は、手にもつ酒ビンに直接口をつけ、ごくごくと水のように飲み干した。
ぷはぁ、と酒臭い息が吐きだされる。
「さわがしいのう」
彼の言葉に、あえかも微笑んでうなずいた。
「ええ。とっても」
後日、大沢木は入門テストを受け、難なくクリアした彼は、無事『真心錬気道』への正式入門を果たした。
そのとき日和がどうだったかというと……どうでもいい話であった。
(to be continue...)




