合点承知の助
操縦シミュレーション室にて。
草木も眠る丑三つ時。
ここを去ってから数時間ずっと駆け走っていた茜。汗だくの身体のままに煌々とした電気を付けては声を大にして菊花に訴えたのである。
僕がマニュアル本を全部覚えるのは無理だと判断しないでほしかったああああああ。
いや無理でしょ。
菊花は一刀両断した。
「この二か月間のデータから未来を予測したの。予測できたの。無理。絶対に無理。未来永劫あり得ない。けど、努力は認める。だから私は建設的な意見を提案したの。何が不満なわけ?」
「僕はマニュアル本を全部覚えてみせますうううううっ」
「だからできないって言っているの」
「できるもんっ!」
「現にできてないでしょ。いい加減自分の実力不足を受け入れなさい。あんたの目的は何よ。「ナナカマドん」を操縦してみんなを助けたいんでしょ。マニュアル本を全部覚える事が目的じゃないでしょ」
「そうだけど………そうだけど。菊花の言う通りだけど。まだ僕には与えられた時間がある。今できないって判断しなくても」
「与えられた時間があるって本当にそう思ってる? いつ何が起こるか分からないこの世界で本当にそんな事を思っているの? 使えるものは使えばいいじゃない。使って、時間を有意義に使えばいい。使っちゃだめだって制限されているわけじゃないんだから。それとも、他の十九人の訓練生の中で唯一自分だけがズルするみたいで嫌なわけ?」
「それもある。それもあるけど。それだけじゃなくて。僕はまだ僕自身を諦めたくないんだ。諦めたくないんだよ。菊花」
「意味不明」
「………うん。そうだよね。うん。意味不明だね。一刻も早くみんなの助けになる為には菊花の提案を受け入れるべきだって分かっている。けど………うん。菊花にいつも助けてもらえるわけじゃない。スマホの充電がなかったら。スマホが故障したら。そうしたら、菊花に頼り切っていた僕は「ナナカマドん」を操縦できなくなる。いざという時に操縦できないんじゃ意味がない。「ナナカマドん」を操縦できるって保証をもらって「ナナカマドん」に搭乗したはずなのに、そのいざって時に操縦できなかったら、僕は死んでも償いきれない罪を犯す事になる。一生後悔する。そうならない為にも、菊花の提案は受け入れない。でも。すごく嬉しかった。ありがとう」
「………その言葉、覆さないのね」
「うん」
「………私をスマホにダウンロードするのが嫌なわけじゃないのね」
「………はぃ」
「………」
「………」
漆黒の闇と三日月という今現在の空の景色が映し出されている画面に突如として、そして初めて茜に姿を見せた菊花。それはそれは﨟たけた微笑を浮かべて言った。
ビシバシ鍛えてあげるから覚悟しなさい。
「泣き言を口にしても容赦しないから。いいわね」
「っよろしくお願いします!!!」
「万が一実力不足で訓練生を辞めさせられたら、分かっているわね」
「合点承知の助っ!!!」
(2026.10.15)




