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VR恋リアのテストだと思ったら本物の異世界でした〜「ヤラセだろ?」と勘違いした俺たちの愛の力が最強すぎる件〜  作者: ぽてと


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9/9

第8話 聖女様のキャベツの千切りはマッハの速度で

四組のハチャメチャなデイリーミッションが終わり、夕刻。

参加者たちは無事に、湖畔の豪華なシェアハウスへと帰還していた。


「アー、皆さん! 初日のミッション、本当にお疲れ様でした! 見事な『愛の力』の数々、ディレクターとして感無量です!」

リビングのモニター越しに、神が拍手喝采を送ってくる。

「さて、恋リアの夜といえば『手作りのディナー』ですよね! キッチンには豪華な食材が揃っています。皆さまで協力して、美味しい夕食を作って親睦を深めてくださいね♡」


神の放送が終わると、リビングに集まった八人の間に微妙な空気が流れた。

疲労困憊でソファに沈み込む者(ジン、シルフ)、バフの暴走で気まずそうにしている者(ルーファス、グレイシア)。そんな中、真っ先に立ち上がったのは純白のシスター・ティアだった。


「あの……私、お料理手伝います! あまり得意じゃないんですけど、皆さんのために頑張りたくて……」

胸の前で両手をギュッと握り、恥じらうように上目遣いで周囲を見回す。


(よしっ。ここは『頑張り屋さんだけど、ちょっとドジなお料理初心者』をアピールする絶好のチャンス! 男って生き物は、女の子がエプロン姿で「きゃっ、火が熱い!」とか言ってるのを見て庇護欲を掻き立てられるのよ。計算通りに動くわよ、マイ!)

中身の苦労人女子・マイは、脳内で完璧な『モテるお料理フリ計画』を練り上げていた。


「おお、ティアちゃんが作るのか! じゃあ俺も手伝うぜ。火起こしとか力仕事なら任せてくれ!」

すかさずアヴァロン(佐藤アキラ)が立ち上がる。彼もまた、ファミレスの厨房で鍛えたバイトスキルがあるのだが、ここではあくまで「頼れる暗黒騎士」として振る舞うつもりだった。


二人揃って広々としたアイランドキッチンに立つ。

大理石のカウンターには、ミッションで手に入れた極上の『オーク肉』や、異世界の巨大な野菜キャベツのようなものがゴロゴロと置かれていた。


「わぁ……お野菜、とっても大きいですね。私、こんな大きな包丁持ったことなくて……」

ティアはわざとらしく、キッチンに備え付けられていた牛刀を両手で恐る恐る持ち上げた。

(ふふん、まずは『包丁の使い方が危なっかしいアピール』よ! ここでアヴァロンが「危ないな、俺が手を添えてやるよ」なんて言ってバックハグ状態になれば、確実にカメラの撮れ高(胸キュン)が稼げる!)


「あっ、なんだか重くて……落としちゃいそう……きゃっ」

ティアは、わざと手元を狂わせてみせた。


――しかし。

その時、ティアの視界の端に、山のように積まれた『未処理の巨大キャベツ10玉』と『大量のオーク肉』が映り込んだ。

そして彼女の耳に、幻聴が聞こえたのだ。


『マイちゃん! 今日ディナーの予約で満席だから! キャベツの千切りと肉の下処理、あと5分で終わらせて!!』


それは、かつて彼女が掛け持ちしていた『超絶ブラックな居酒屋の厨房バイト』での、店長の怒号の記憶だった。


(……ッ!? ヤバい、ピークが来る! 早く回さないと店長に怒鳴られる!!)


過酷な労働環境に長年身を置いてきたマイの身体は、山積みの食材を見た瞬間、生存本能(あるいは職業病)によって完全に『厨房のプロモード』へと切り替わってしまった。


「ティアちゃん? 大丈夫か、俺が代わろ――」

アヴァロンが手を伸ばしかけた、その時である。


トントントントントントントントントントントンッ!!!!!!!


鼓膜を劈くような、凄まじい連撃音。

アヴァロンが目を剥いて固まった。

ティアの手元で、牛刀が残像を残してブレていた。先ほどまで「重い」と震えていたはずのその手は、プロの料理人すら青ざめるほどの圧倒的な速度と正確さで、巨大な異世界のキャベツを次々と『極細の千切り』に変えていく。


「な、え……!?」

アヴァロンの言葉など、今の彼女の耳には届いていない。


(1玉クリア! 次! 芯は斜めに落として葉脈に沿ってカット! 包丁の重さを利用してスライドさせる! 無駄な動きを削れ!)

ティアの目は、もはや純真なシスターのそれではなく、戦場の鬼神の如き鋭さを放っていた。

修道服の袖を乱暴に捲り上げ、マッハの速度でキャベツを粉砕し終えると、今度は流れるような動作でオーク肉の塊を引き寄せた。


「ふっ、はっ、せいッ!」

ザクッ! ドンッ! スパーン!

的確に筋を切り、脂肪を削ぎ落とし、一口大に切り分ける。その間、わずか十数秒。

そのまま巨大なフライパンを二つ同時に火にかけ、油を敷き、肉を放り込む。ジュワァァァッという食欲をそそる爆音が響き渡る。


「塩コショウは高い位置から! 焼き目は強火で一気につける!」

フライパンを片手で豪快に煽り、宙に舞う肉汁のシャワー。


アヴァロンは、キッチンに寄りかかったままポカンと口を開けていた。

リビングで休んでいた他のメンバーたちも、何事かとキッチンを振り返り、その信じられない光景に釘付けになっている。


(よし! これで肉料理50人前完了! 次はスープの仕込みに――……はっ!?)


カチャリ、とフライパンを置いた瞬間。

ティアは我に返った。


(や、やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)

ティア(マイ)は心の中で絶叫し、両手で顔を覆った。

(ドジっ子アピールするはずが、完全にブラックバイトの動き出ちゃったじゃない! なんだよこの完璧すぎる千切りの山と、プロ級のオーク肉のソテーは! これ絶対「女を捨ててる」とか「可愛げがない」って引かれるやつだ……! 私の賞金一億円がぁ!)


恐る恐る、隣のアヴァロンを見上げるティア。

「あ、あの……アヴァロン様。ち、違うんです。これはその、神様が私にお力をお与えに……」


言い訳を捻り出そうとしたティアの言葉を、アヴァロンの大きなため息が遮った。

「……ティアちゃん」


アヴァロンは真剣な顔で、ティアの両肩をガシッと掴んだ。

(終わった……! 「お前、本当はシスターじゃないだろ」って疑われる……!)

ティアが目をギュッと瞑った、次の瞬間。


「お前……すげぇな!!」


「……え?」

アヴァロンの瞳は、キラキラと少年のように輝いていた。

「俺、今までファミレスの厨房でバイトしてたから分かるんだけど、今の包丁さばきと手際、ガチでプロレベルだぞ! しかも、この美味そうな匂い……!」


アヴァロン(アキラ)は、大学生として一人暮らしをしている。毎日の食事はまかないかカップ麺ばかり。彼にとって、「手際よく美味しいご飯を作ってくれる家庭的な女性」というのは、中二病の暗黒騎士という設定を忘れるほどに、心の底から『グッとくる』要素だったのだ。


「いや、マジで感動したわ。ティアちゃん、か弱くて守ってあげなきゃって思ってたけど……なんていうか、すっげぇ良い奥さんになりそうだな。俺、胃袋掴まれちゃったかも」


照れくさそうに、鼻の頭を掻きながら笑うアヴァロン。

その言葉に嘘偽りは一切なかった。作られた「清楚さ」ではなく、彼女の無自覚な「生活力」と「逞しさ」に、アヴァロンは本気で惹かれてしまったのだ。


「え、あ……」

ティアの心臓が、トクン、と大きく跳ねた。


(い、胃袋掴まれた……? 奥さんになりそう……?)

これまでの人生、必死に働く姿を誰かに褒められたことなどなかった。計算外の角度から飛んできた、あまりにも真っ直ぐで素直な称賛。


「……バ、バカ。大げさですよ、アヴァロン様……」

ティアは顔を真っ赤にして、今度こそ本物の『素の照れ隠し』で顔を伏せた。


ピロンッ!


『システムアナウンス! ティアさんの微細な心拍数上昇(本物のときめき)を確認!』


(ちょっと、システム! 今のはノーカン! ノーカンだから!!)

心の中で神のシステムに抗議するティアだったが、彼女の顔の赤みは、すぐには引かなかった。


美味しい夕食を囲み、和やかな空気に包まれたシェアハウスの夜。

しかし、彼らはまだ知らない。

この平和な夜の静寂を切り裂くように、窓の外の暗闇で、恐るべき『レイドボス』の影がシェアハウスへと迫りつつあることを。

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