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37.殺される覚悟

 とある日、ハヤトたち一行は荒廃した街を歩いていた。すすけた商店街を歩き、中の腐った食料をあさったり、倒壊した建物からは使えそうな鉄や木を収集した。店の看板や舗装されていただろう道もボロボロになっていたが、ところどころにかつての賑わいを思い出させるような雰囲気があって哀愁が漂っていた。


 アカリは、ボロボロになった柱を蹴飛ばして建物を崩し、喜んでいた。そんな彼女に、オースティンがげんこつをくらわせたりしていた。この二人はどうやらそれなりに相性がいいようだ。




 そうしてしばらく回遊したところで、湯気が立ち上っているところを見つけた。ハヤトたちがそこへ行ってみると、温かい湯が沸いてたまっているようだった。要は天然温泉だ。アカリとオースティンは入れだの入らないだのもめていた。


 手を突っ込んでみると、その温度は熱すぎずぬるすぎない適温だった。ハヤトは汚れた体を洗い流したい気持ちもあったが、女の人が入るのだったら、ためらわれるなあなどと思っていた。でもクリスティーナさんだったら……、そんな風に思っていたら、一緒に横を歩いていたローザが口を開いた。


「お兄様、一緒に入りませんか」


「え? おま、……、わかった」


 ハヤトはつべこべ言わずにとりあえず入ってみることにした。




「お兄様」


「なんだ?」


「シンさんが言うところによると、Uの字のNPCが数人見つかったそうです。それからAURO、の四文字以外は見つかっていないそうです」


「となるとやっぱりAUROなんだよな」


 二人はむわむわと煙をくゆらせるお湯に、肩までつかりながら話しあった。


「アウロがヒントなのか……。ん? 待てよ。アウロがヒントなんだよな?」


「お兄様はそうおっしゃいました」


「するとアウロがヒントということになる」


 ローザはハヤトの発言にはてなマークを浮かべた。


「お兄様、話がややこしくなっています」


「ああ、悪い悪い。つまりあの二頭身の堕天使がヒントじゃないかってことさ。あの二頭身とか、独特な虹色の髪型とか……、あ」


「あ? ……ですか?」


 ハヤトはとあることに気づいて、急に心臓がバクバクし始めた。気分が高揚してきた。解けた。解けたぞ。謎が。


「そうだ。AUROしか見つからないんなら、AUROの四文字を使って六文字の単語を作ればいいんだ。そしてアウロの髪の毛は虹色。そこから連想されるものが答えなんだ。なんだかわかるか?」


「じらさないでくださいよ……。そこから連想されるもの、ですか? 虹とか……、他に何かありましたっけ」


「ある」ハヤトは少し間をおいてから言った。「オーロラだ。AURORA。これなら四つの文字だけを使った六文字の単語として成立する。これが答えなんだ! やったぞ、ついに謎が解けた!」


 と言ってハヤトはざばっと立ち上がる。


「お兄様、他にも人がいらっしゃるので目立つ行動は控えられた方が……」


「しまった」


 といってハヤトは漬け物のようにしんなりして湯につかりなおした。


「しかしこれは大発見だ」とハヤトは言った。


「確かにそうかもしれません」とローザ。「クーゼル城に戻ったら血族みんなを集めて試してみましょう」


「血族?」ハヤトは耳慣れない言葉を聞いて頭にはてなを浮かべた。


「Aの血族、Oの血族、Rの血族、Uの血族。みんなはそう呼んでいるようです」


「なるほど。血族、ね。血液型みたいなものとして認識されてるのかな」


「そうかもしれません」


 四つの血族で六つの石畳を埋めればいいのだ。ハヤトはなんだかワクワクしてきた。




 一行はハヤトの気づきや提案を受け入れて、クーゼル城に戻ってみることにした。しかしこれはハヤトにとってはうれしくない結果を招くこととなった。


「何だって……?」


 六つの石畳にAURORAの順番に人を立たせても座らせても同時に攻撃させても、何も起こらなかったのだ。


 どうしてだ、何が間違っている。ハヤトの中で様々な考えが錯綜した。しかし一向にこれといった特別な答えは浮かんでこない。ハヤトは他に何か手掛かりはないかとあたりを見回した。しかし目の前の物々しい黒々とした門、そして天高くそびえる廃れた城、さらに複雑な紋章が描かれた石畳……。


 ハヤトはそこではっとした。Rのところに立っていたローザをどかせてその紋章をよくよく観察してみた。するとそこには昔の字体か、あるいは極度に装飾をこらした字体でRが書かれていた。これはRだという先入観を持っていなければ決してわからないような形をしていた。そしてそこにはあるもう一つの紋章が描かれていた。ローザにだけそれを見せたが、いまひとつピンときていないようだった。


 だがハヤトにはわかっていた。そのスペードのマークとハートのマークがともに描かれていることの意味を。






 クーゼルの人々は街と列車と橋の修復にとりかかり、部分的に破壊されてしまった街も徐々にその面持ちを取り戻していった。


 そして石畳に人を立たせてから三日後、ローザがとあるホテルの部屋の風呂に一緒に入っているときに、やけにしおらしそうにして聞いてきた。


「お兄様、私はずっと思い続けてきました」


「何をだ」


「お兄様はいつもストレートでいらっしゃいますね……。私はずっと考えていたのです。でも答えがわかりませんでした」


「ああ、もしかして石畳の、」


 ハヤトのしゃべりをさえぎるようにつんのめるように、ローザは同意する。


「そうです。あのときお兄様は何かに気づかれていたのでしょう? なにか、大切なことに……。一体それは何ですか? もしこれが核心をついてしまったなら申し訳ありません。胸の内に秘めておくべきことなんでしょう? もしそうでないなら放っておいていただいて構いません。お兄様……」




 ハヤトはそう言われてそれを言わずにはいられなかった。自分があのとき気づいたことを。そしてこの先に待っているかもしれない結末を。


「ローザ、誰かに殺される覚悟はあるか?」


「へっ?」


 ローザは呆然とした。

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