34.廃鉱山
闘技場のミッションが終わってから一週間後のことだった。
「ねえ、言いづらいんだけど」
クリスティーナはハヤトに向かって心底言いづらそうに口を開いた。
「もうすぐこの街に、はじまりの街の殲滅隊が攻めてくるわ」
「んえっ?」 いきなりの話にハヤトは驚いた。「どうして」
クーゼルの商店街がワイワイとにぎわう中を二人は歩いていた。鍛冶屋に武器屋、八百屋に果物屋。いろんなものを作る職人がこの街のNPCにそろい始めていた。
このにぎやかな街を襲撃しようっていうのか、ハヤトは思った。
「わからない。私には死しか見えないから」でも、とクリスティーナはついだ。「この前の闘技場でたくさんの人間が死んだでしょう? あの後はじまりの街の殲滅隊は復讐を誓ったのよ」
「復讐って、んな身勝手な。どっちかは死ななきゃいけない戦いで死んだだけじゃないですか。恨むならアウロを恨めってところだけどな。まあ俺もローザが殺されたら復讐してただろうし、気持ちはわからないでもないけど。しかしいつですか? いつ攻めてくるんですか? 何が狙いなんですか?」
「わからない。私にはいつのことか。それでもたくさんの人間が死ぬことだけはわかる。早く手を打つに越したことはないわ」
「それは間違いないと思いますけど、でも相手の予知者がこの街の人間が逃げることを知っていて、それでこの街を利用しようって可能性はないんですか?」
「でも……」
クリスティーナはざるに積んだ食料を持ちながらうつむいた。
ハヤトは空を見上げた。この街にいる人間は大体2000人くらい。他のエリアへの探索はある程度は進んでいたが、街づくりはクーゼル城を中心に自然と進んでいた。それをみすみす明け渡すというのはいただけなかった。
それに。
「ここにはデスゲームを終わらせるための鍵があるんですよ。絶対にここは明け渡せない」
ハヤトは言葉力強く言う。
「それなら、一応策はないことはありません。ここから次の荒れはてた土地を行った先に山があるそうです。そしてその山は荒廃した鉱山なのだそうです。そこに列車があります。その列車がうまく動くかはわかりませんが、線路をここまでつなげて列車戦に持ち込む、ということは考えられます。向こうはこちらよりも人数が少ない。だから列車で移動しながら魔法使いたちを倒していけば、ある程度の打撃を与えられるのではないでしょうか」
「なるほど、列車戦ですか……。シンに線路をひけないか、頼んでみます」
「よろしくお願いします」
クーゼルの人々はできるだけ戦闘地域から離れさせ、街の中心をできるだけ避けるようにして線路を敷いていった。すべての行動は慎重に夜に行われた。そうして戦闘への準備を整えさせた。
列車に乗るのは総勢200名。できるだけ対魔法に強い人員をそろえた。それから列車を動かすための火魔法を使える人員も。
そしてシンが指揮を執った。
「今から俺たちははじまりの街から来る野蛮人どもを駆逐するため、鉱山に向かう! そしてそこにある列車を動かし、襲ってきた敵兵を打ち負かし、はじまりの街へと追いやるのだ! 我々が闘技場で失った仲間たちを思えば悲しいだろう! だが今ここで、我々は野蛮なはじまりの街の奴らへ復讐を果たすのだ! わかったか! その悲しみを無駄にはするな! 必ず、必ず勝って我々の正義を示すのだ! いいか!」
おぉー!! という声が地面をふるわせるほど強く響いた。これで敵と戦う準備は整ったようだ。
そしてその夜、百鬼夜行が始まった。できるだけ敵に動きを悟られないようにするため隠匿スキルを使った。ただし敵には予知を持っている者もいるが、こちらの街には予知破りのアイテムが存在している。その予知破りにより、列車戦が始まるまで敵は攻めてこないことが分かった。
これで準備は万全である。クーゼルの戦闘員は士気も万全に廃鉱山へと向かった。
廃鉱山は、山肌は削られ、錆びたパイプが張り巡らされ、鉱山としての役割を果たすためと思われる様々な車両が打ち捨てられており、古ぼけて錆びだらけになっている。ものというものほとんどが原形をとどめていず、ボコボコになっていたり、穴が開いていたりした。
一行はそんな廃れ荒れ果てた人の気配のないところから車両を引っ張ってきた。先頭車両はディーゼル車のような見た目をしていたが、汽車のように火力で動くようになっており、火魔法の魔法使いが燃料の役割を担っていた。その先頭車両にハヤト一行は乗り込んだ。
廃鉱山は非常にほこりっぽく、車輪が空回りしたり、進路の切り替えがうまくいかず、鍛冶職人を呼んで修復してもらったりしているうちに、あっという間に夜が明けていた。
廃鉱山の砂山から、ひゅうひゅういう風に乗って砂ぼこりが舞う。
「こんなに荒れ果てた街まで奴らは本当に追っかけてくんのか?」アカリが尋ねる。
ハヤトは相変わらず派手なツインテールだ、と思いながら答える。
「追っかけてくるんじゃない、おびき出すんだよ。荒れ果てた新たな街を餌にな。俺たちがここにある資源を使うんじゃないかってきっと大騒ぎだぜ」
そうこうやり取りしているうちに、クーゼルで戦闘が起こったという一報が入った。
いよいよか、とハヤトは思った。この列車戦に、俺たちはすべてをかけている。今までの思いを、街を、命を。ハヤトは砂ぼこりに目を細めながら朝日を見つめた。今まで死んだ仲間たちのためにも戦わねば。




