暑い夏の日の事後の話
暑い。床に寝転がり、はっはっと胸で浅く呼吸をしながら、飛紗は遠くのほうで蝉が鳴いているのを聞いた。髪が首にはりついて気持ち悪い。いざというとき結べたほうが結局楽だからと学生時代から長いままにしているが、ばっさり切ったら眞一は驚くだろうか。
そんな眞一は隣に座っていて、咽喉を押さえて軽く咳きこんだ。
「中学生みたいなセックスをしてしまった」
はー、と呆れるように嘆息したあと、指で額の汗をぬぐう。
「夏はばかになってしまっていやですね」
そしてテーブルに置いたままにしていた水を手に取り、あち、呟いた。窓からの燦燦とした陽を浴びて、ぬるくなったどころではないらしい。この暑さでは仕方のないことだ。飛紗自身も発熱している気がする。さすがの眞一も気怠そうに前髪をかきあげた。それはそうか、と先ほどまでの行為を思い返して、無意識のうちに口角が持ちあがる。羞恥よりも先に愉快な気持ちが立ったのがおかしい。一定の恥ずかしさを超えると、人間は笑ってしまうようだった。
「水。飲んでください」
飛紗が起きあがれないと踏んだのかストローを差したペットボトルを差し出されて、うつ伏せに体をひっくり返す。舌でたぐり寄せて口に含んだ瞬間、自分でも驚くほど必死になって吸いあげた。途中で何度か眞一に促されるまま水分補給はしたものの満足な量ではなかったのか、あるいは、それを超える運動量だったか、どちらかだ。
最後の一滴まで飲みほして、ぷは、と大きく息を吐く。気持ちばかりの涼しさが漂った。
スポーツドリンクないからこっちも飲んで、と同じように差し出されてストローを吸うと、塩水だ。舌がばかになっているのかいまいち味が判然としないけれど、おそらく。
「中学生のとき、こういうセックスしとったんや?」
ぺし、と膝をたたけば、互いの汗が吸いついた。声がかすれている。小さく咳きこんで調整しようと試みるも、むしろ咽喉に引っかかって意味はなかった。
眞一が一四のとき、飛紗は七つだ。普段は気にならない年齢差も、学生で考えるとぞっとするほど遠い。そもそも飛紗が大学生だったときに眞一は講師をしていたくらいだから、当り前といえば当り前なのだけれど。
「してません。比喩です」
「どうやろなあ」
「もともとそんなに興味がないというか、淡白なほうなので」
「淡白う?」
「いや、うん、いま説得力ないのはわかっています」
眞一がクーラーをつけて、レースカーテンを引いた。昼間から贅沢だ、と時計を見ると、針がもう四時を指している。明るさに騙されて気づかなかった。疲れるはずだ。
再び隣に座った眞一が、汗で飛紗の首にはりつく髪を丁寧に取っていく。
「飛紗ちゃんが特別なんです。私がいちばん驚いてる」
それこそ年齢差の関係もあって、性欲に関しては自分のほうがあることを飛紗は知っている。常に冷静さを失わない眞一が飛紗のことになるとたくさんの「特別」をくれるのがうれしくて、わかっていても言葉にしてほしくて、ついあれこれと言及する。
ほら、と頬をなでられた。
「空調で汗が冷える前に、お風呂入ってしまいましょう」
助けてもらいながら体を持ちあげる。なんて人間くさくて、まぬけなのか。
「わたし眞一のこと、すっごくすきやわ」
知ってます。眞一はあたかも当然のごとく、いつもの困ったような笑みを浮かべて過不足なく頷いた。