表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/44

お風呂だけ3人称! しょうがないよね、女性の入浴を覗くわけにはいかないし!

 大衆浴場の脱衣所にはヴォルフとサラだけがいる。

 いくつかの宿屋が共同で出資したレジャー施設だ。

 夕暮れ時には賑わっているはずなのだが、利用者は他にいない。

 サラが一日分の売り上げを遥かに上回る金額を払い、貸し切りにしたのだ。


「解除の仕方は覚えていますね?」


「うむ。もちろんだ。

 解除は呪文と同時に腕輪を外すだけで良いのだ。

 ラ・ヴィエルタ・ソウル」


 ヴォルフが腕輪を外すと、閃光が発生し、脱衣所を満たしていく。

 すぐに光は消えたが、同時に巨漢の姿も消えてしまう。

 しんと静まり返った脱衣場の中央で、床に落ちた衣服の膨らみがもそもそと動き、中から裸の少女が這い出てくる。

 身長も年齢もサラの半分くらいだろう。

 幼さの残る顔立ちに、強気な笑みを浮かべている。

 金髪と広いおでこに、太めの眉と大きな碧眼がチャームポイント。


「さすがは英雄王の身体なのだ。

 一日歩き続けたのに、まったく疲れなかったのだ」


 少女は手にした腕輪を色々な方向から眺める。

 王家に代々伝わる変化の腕輪という伝説のアイテムである。

 建国の英雄王ガーランドが魔王退治の冒険で使用したものだ。

 姿や能力を完全にコピーすることが出来る。

 ただし、変身が可能な対象は、使用者の先祖のみという制約がある。

 つまり、初代国王に変身できるということは、少女が英雄王ガーランドに連なる血族であることを意味している。

 少女は魔王にさらわれたという、王女シェリー、その人である。

 そして、かつてアルネと同じ孤児院で育った少女でもある。

 あるときは美少女、ある時は忍者、ある時は呪術師のサラの正体は、王族に仕える戦闘メイドだ。

 シェリーとサラは湯浴み場へと移動する。

 大理石で出来た王宮のお風呂と違って、大衆浴場の床は普通の石が敷き詰められていた。


「広いな!」


 幼い王女が百人収容可能な浴場に興奮して走りだそうとするのを、サラが肩を掴んで制止する。

 シェリーがもがくのを無視して、サラは両脇に手を通して小さい身体を持ち上げる。

 

「走ると危ないですよ。

 さあ、シェリー、つるぺたなお体をツルツル洗いますよ」


 サラは洗い場に移動して木の椅子に座る。

 地に足が付いたシェリーがすぐに逃げ出そうとするので、肩を掴んで無理やり腰掛けに座らせる。

 

「サラ、見ろ!

 変な動物が湯を吐き出しているぞ。何者だあれは!

 湯を出すのはライオンではないのか?!」


「さあ。後でうんちく野郎のアルネさんに聞いてみたらどうですか」


 後にアルネは


『風呂やプールの吐水口にライオンを使うのは王族や貴族のみの特権なんです。

 庶民がライオンを使うと不敬罪になってしまいます。

 変な動物は、せめて見栄を張ろうとして、ネコにたてがみをつけた結果です』


 と答える。


 シェリーは吐水口の動物が気になって立ち上がるが、

 サラの「シェリー」という声の温度が低かったので、ぴょんと飛び跳ねて腰掛けに座りなおした。


「ところで、つるぺたとは、どういう意味なのだ?」


 サラはシェリーの腕を取り、丁寧な手つきで包むようにして洗い始める。


「つるつるぺたぺたとして綺麗なお肌という意味ですよ。

 きっとシェリーは大人になってもつるぺたのままです」


「なるほど。サラもつるぺただな!」


「……はい。正しく、私もつるぺたです……」


「うむ!」


 もちろん、ガーランド王国特有の方言などではなく、つるぺたは、おっぱいがつるつるでぺったんこという意味だ。

 サラの身体もつるぺたで、シェリーと違って成長の余地はない

 サラは石鹸で泡を作ってスポンジにつけると、小さな背中から洗い始める。


「しかし、つるぺたなだけでは、昼間のエルフには勝てんな」


「貧乳が売りのはずなのに、エルフとして、あるまじき存在ですねえ」


「ちょっと痛いのだ」


「失礼。力が入ってしまいました」


 シェリーの背中がスポンジでこすれて、少しだけ赤くなっていた。


「なあ、サラ。

 騎士団の隊長まで私の救出に乗り出すとは想定外だ。

 話が大事になってしまったぞ」


「大事どころではありませんね。

 昼間に会った集団、おそらく百年前の魔王討伐部隊にも匹敵する精鋭揃いですよ」


「サラも一緒に謝ってくれる?」


「いいえ。私は何度もお止めしたのに、

 姫様に命令されて、無理矢理付き合わされているのです。

 むしろガッカリな被害者です。

 魔王の復活や王女の誘拐が全て狂言だったなんて、酷い話です。

 全てが露見したら私の死刑は免れないので、シェリーが国王に私の助命を請うのですよ」


「ず、ずるいぞ。計画していたときは、サラもノリノリだったではないか!」


「綺麗すっぱり、忘れました」


「酷い。サラは酷いのだ!

 私が政略結婚しちゃっても良いと思っているのだな!」


「暴れないでください。

 嘘ではありません。冗談ですよ。

 シェリーを政治の道具にすることは、私も反対です。

 シェリーが望むなら、いつでもハゲオヤジを始末しますよ」


「父上は禿げておらん!」


「恐怖で禿げ上がるまで報復してやるという覚悟の現れです」


「むう。サラは本当にやりかねんな……。

 そう言えばこの前、大兄様を池に突き落としたな」


「あのバカガキ、うざいっすからね!

 俺の女になれよ、金なら不自由しないぜなんて言いながら、

 パイタッチしようとしてきたので、目潰しして池にドボンですよ」


「それは大兄様が悪いな」


 シェリーがむすーっと頬を膨らませるのが可愛かったので、サラは上機嫌になってきた。

 特殊な事情で王家に仕えているサラに、屈託の無い笑顔で接してくる人物は少ないのだ。

 広い浴場に、鼻歌が響き始める。


「背中は終わりです。手をあげてください」


「なあ、サラ。

 私はアルネを騙しているようで、気がひけるのだ。

 正体を明かしても良いのではないか?

 アルネだって、私を助けるために旅をしているのに、

 実は本人が一緒にいたなんて知ったら、落ち込むぞ?」


「むしろ楽に目的が達成できて喜ぶんじゃないでしょうか。

 確かに、アルネさんは信用できそうです。

 からかうと面白い反応を返してくれるので、いじめがいがあります。

 もし、シェリーが正体を明かしても、他言しないでしょうねえ」


「ならば、適当に何処かで身を隠して、

 しばらくしてから誘拐犯から私を救出したことにすれば良いではないか。

 さらに、アルネが魔王の復活を阻止したことにすればいいのだ。

 それでアルネが私に求婚すれば、全て解決だ!

 私の婚約は当然、無効になる。

 あと、アルネをいじめてはいかん」


 相手の顔を見ながらでなければ話しにくいのか、シェリーが振り返ろうとする。

 サラはシェリーの動きを制しながら、洗い続ける。


「我が儘は駄目ですよ。

 私との約束を忘れたんですか?

 かつての英雄王ガーランドと同じ道のりで、他の勇者達よりも先に魔王城へ行く。

 それが私の提示した条件です。

 貴方の覚悟を見せてください。

 そうしたら、私は王族にではなく、シェリー、貴方自身に仕える。

 貴方の望みを何でも叶える。

 婚約を破棄させます。

 それと、アルネさんを弄るのは私の娯楽になりつつあるので、やめません」


「サラは変なところで厳しいのだ!

 あと、アルネをいじめてはいかん」


「アルネさんいじめは楽しいので、やめません」


「むう……」


 シェリーは〇歳の時に孤児院に預けられたので、アルネと出会ったのは七年前だ。

 もともとシェリーは、いわゆる不義の子なので、本来なら親無しの子として暮らすはずだったのだ。

 だが、シェリーが七歳を迎える頃、王国は政略結婚の道具として利用するために、シェリーを呼び戻した。

 一年間の教育を経て、いよいよ結婚という機に瀕して、シェリーはサラの手を借りて王宮から逃げ出したのだ。

 シェリーが政略結婚をすれば孤児院は資金面で援助してもらえる。

 しかし、シェリーは貧しくてもいいから、また大好きなお兄ちゃんたちと一緒に暮らしたいのだ。


 サラはシェリーが小さな肩を落としているのに気づいていたが、己の作業を続ける。

 桶に湯を汲み、シェリーの身体から泡を洗い落とす。

 直接湯をかけるのではなく、いちど自分の手に当てて勢いを殺していく。


「私は、アルネを騙そうとしているのか?」


「泣いちゃ駄目ですよ。

 涙はとっておいてください。

 すべてを打ち明けたあとに、アルネさんに見せてあげるのです。

 きっとアッサリ許してくれますよ」


 サラは後ろからそっと、シェリーの頭を胸に抱き寄せた。

 幼い子をあやすには、心臓の音を聞かせてあげるのが最も効果的なのだ。

 人間は母親の腕に護られているときは、いつも心臓の音を聞いているのだから。


「女の子の涙は最強です」


「最強か?」


「ええ。英雄王や魔王よりも強いですよ」


「なるほど。

 よくよく考えてみれば、王女を救った勇者が望む褒美は、

 王女との結婚に決まっておる。

 王道だし、歴史も証明しておる。

 アルネはきっと、わ、わた、わたしを」


「そのとおりですよ。

 もっとも、王女が七歳だからという理由で求婚するようなロリコンだったら、

 さっくり殺しますけどね」


「ロリコンとはなんだ?」


 シェリーが腕から抜け出て、きらきらする目をサラに向けた。


「シェリーのように可愛くてつるぺたな女性をこよなく愛する方のことです」


「ロリコンでも良いではないか。私もアルネのことは好きだぞ」


「男は狼なのです」


 サラがシェリーの腋に手を入れて立たせると、

 王女は多くの子供がそうするように、湯船に走り、飛び込んだ。


 行儀の悪さをしかる親はおらず、

 ただ、サラが優しい笑みを浮かべるだけだった。


「狼というと、あれか。昼間に襲ってきたワンワンのことか!」


 シェリーの瞳は、らんらんと輝いている。

 子犬の話題に食いついたような感じだ。

 どう猛な狼でさえ、英雄王の目から見ていたら、子犬も同然だったのだ。


「ツノでシェリーを貫こうとしてくるかもしれません」


 サラは自分の身体を洗いながら、湯船のシェリーと会話を続ける。


「だが、アルネは人間だ。ツノなど無いではないか」


「男は夜になると獣へ変身して、ツノが生えてくるのです。

 昼間に一度、切り落とそうとしたのですが、失敗してしまいました」


「な、なんと、そうであったか。怖いな」


「はい。怖いです」


「狼に変身したアルネには乗ってみたいな。馬よりも速いのだろうか」


「では後ほど、アルネさんに四つんばいになってくれるよう頼んで、乗ってみてはどうでしょうか。

 きっと涙を流しながら喜んでくれるはずですよ」


「うむ!」


 元気な声が風呂場に響いた。

 しばらくして、宿屋の一室で少年が巨漢の下敷きになる事件が発生した。

 さらに身動きの取れなくなった少年の顔を、何者かが「変質者がッ!」とか「このエロ勇者がッ!」とか罵りながら踏みつけたらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ