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異世界カルテット ~わがままに踊ります~  作者: たらいまわし
第四章 勢力は次第に強まり、各所に被害をもたらすでしょう
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ディープインパクト

 スライディールの城は、いわくを持つにふさわしい構えの城だった。異様だ。

 



 城壁は高く、鬱蒼とした森を映したかのように暗い。城外には深い堀が巡らされており、正門に向かう唯一の石橋の先には、巨大な鉄の扉が鎮座している。それも二段構えという念の入れようだ。

 


 侵入者を許さない――



 父王の強い意志がうかがえた。



 侵入者の意気を挫くには、これだけでも十分なはずだが、王は徹底していた。

 鉄扉の向こうにあるのは、ひとつの開口部もない城だった。


 侵入者を許さず、その逆も許さない――


 心を病み、正気を失った王女(愛娘)のために造られた城は、巨大な檻だった。






「……」


 鉄扉をくぐった男たちは皆、その異様さに息を飲んだ。


「御使い様たちは、ここに、自ら望んで入られたのか……」


 リグリエータが、だれにいうともなくいったそれを、サルファが拾った。


「ええ、そうですよ」


 しかしその声は明るかった。そして、


「皆さん、こちらです」


 と、誘導する。

 サルファが案内した場所は、壁だった。石造りの壁――のはずが、サルファがいくつかの石に触れた後、両腕をかけると、壁が大きく割れた。実際には押し開いたのだが、はじめて目にする男たちには驚愕ものだった。


「ここが……入り口なんですか」

「どうなってるんですか?」

「ここまでして……」

「仕掛け扉ですよ。さ、どうぞ中に入ってください」


 サルファは、男たちの驚きに構わず、入城を促した。

 促されるまま中に入った男たちは、そこでまた驚いた。

 暗い石畳のたまり、その先にある短い階段を上りきる――と、そこには、別世界が開けていた。


 光が、溢れていた。

 外観の陰鬱さなど微塵もない。巨大な中庭を廻るように造られた城の内部は、まばゆい光に満ちていた。

 繊細な装飾が、優しい色彩が目に飛び込んでくる。閉塞感が、一気に払われた。



「美しいでしょう?」


 サルファに問われ、男たちは無言で頷いた。


「さあ、御使い様たちは、二階の大広間にいらっしゃいます。そちらに行きましょう」


 驚きも覚めやらぬ男たちは、視線をそこここに移しつつ、グレンとサルファの後をついていった。




◇  ◇  ◇  ◇




 回廊を半分ほどめぐったところで、建物内部に入る。

 大階段を上り、開け放たれた扉を目にして、男たちは緊張した。


 この先に、御使い様がいる――


 と思えば、当然だった。緊張に顔を強張らせながら進んでゆく。と、突然、扉のところから、ひょい、とだれかが顔をのぞかせた。と思うとすぐに引っ込んだ。


「?!」


 一瞬のことで、よくわからなかったが、女性であることは間違いなかった。引っ込むときに、長い髪が跳ねるが見えた。

 男たちが顔を見合わせる。


 あれが、御使い様か?――


 驚いている男たちの耳に、声が聞こえた。


「玲ちゃーん。グレンさんたち来たよー」


 明るい娘の声。その後に、


「なんだよ、あいつら。もう来たのかよ。ゆっくり来いっていったのに」


 聞きなれた声が続く。

 グレンとサルファが笑い、足を止めてしまった男たちを促した。


「行こうか」

「さあ、皆様をお待たせしないでください」



 そして、男たちは大広間に入ろうとして――止まった。




◇  ◇  ◇  ◇




 広間の中央に、四人の娘たちが並んで立っていた。



「スライディールの城へようこそ」



 こちらに微笑みを向けている。


 

「はあ……。こんにちは、山野 良子りょうこです」



 人である――と。



「二木 玲於奈れおなです」



 美しい、とも聞いていた。



「沢田 瑠衣るいです。どうぞ、瑠衣って呼んでくださいね」



 わかっていた。が、



「北岸 あきらです。ふふ……それでは突然ですが、アリアロスさんに問題です! アリアロスさんを伴侶に決めたのは、わたしたち四人のうちの、だれでしょうか。三秒でお答えください。どうぞ!」


「……」

「……」



 その実像と実体は、男たちの想像を、はるか上方に超えていた。





◇  ◇  ◇  ◇





「三秒って、あんた。アリアロスさんに答えさせる気、ぜんっぜんないでしょ?!」

「大丈夫! アリアロスさん、頑張って!」

「そういってる間に、もう三秒たったんじゃない?」

「残念です……アリアロスさん」


 玲が、さも残念そうに首を振る。


「これで、アリアロスさんの拒否権はなくなりました――」


 驚きの上に情けない表情を塗り重ねるアリアロスに、玲は神妙な声をかけた。と思うと、次の瞬間、憂い顔を笑顔に変えた。


「ま、本当は、拒否権なんて、もとからないんですけどね」

「酷い、玲ちゃん」

「そう? 今日は優しい方じゃない? 酷いときは『さあ、何?』とかやってるじゃない」


 瑠衣の非難の声に、玲於奈が応じ、


「いきなり馬鹿ささらけ出して、もう、聞いてるこっちが恥ずかしいわ!」


 と良子が怒る。


「いやいや、わたしたちがどういう人間か、皆さんに知ってもらわないとね? 夢見させちゃ悪いでしょ?」


 玲は普段と変わらぬ声音と調子でそういうと、男たちに笑みを向けた。


「一応、声だけはおかけしときますね。皆さん、どうぞ、中にお入りください」


 そういわれて、動けるものはいない。


「うーん」


 玲が、眉根は寄せながら、口元で微笑むという芸を見せた。


「レナーテの皆さんは、そこがお好きなんですか? いらっしゃる方はどなたも、そこの、入り口のところで立ち止まられます。対男性用の結界でも、張ってあるんでしょうか?」

「玲……?」


 しらじらしく訊く玲に、良子が、それはそれは恐ろしいドスの効いた声と睨みを向ける。


 瑠衣と玲於奈が顔を見合わせ、こっそり笑い、そして玲は慣れたもので、あわてずさわがず微笑を浮かべる。


 男たちは眼前で繰り広げられるやりとりに、ただただ呆然とし、キリザは、肩を震わせながら自分のもとにやってくる僚友たちに、笑い声をかけた。


「はじまったな」





◇  ◇  ◇  ◇





「失礼しました。皆さん、驚かれていらっしゃるんですね。わたしたちが人間であると、先に知らされていても、聞くと見るでは大違い――いきなりの話で混乱もなさっているでしょうし、平静でいられないのはよくわかります。驚くな、という方が無理な話です。ですからどうぞ、気持ちが落ち着くまで、そちらにいらしてください。その間に少しばかり、わたしたちのことをお話しさせていただきますね。ああ、無理に動いていただく必要はありませんよ。不都合はありませんから」


 いいながら、玲は男たちに歩み寄る。瑠衣、良子、玲於奈の三人も、ともに歩み寄った。

 男たちとの距離を縮めた玲は、間をおかず、口を開いた。


「まず、皆さんにお伝えしておきたいのは、先ほどもちらっといいましたが、容姿に関することです。わたしたちは、ご覧のとおり、たいへんな器量良しです]


 ためらわずにいい切った。

「ぷっ」と、瑠衣がふきだす。玲於奈が笑み、良子が呆れる。


「容姿ばかりでなく学業の成績も優秀で、だれからも褒められます。褒められるんですが……実は、人間性はそれほど褒められたものではありません」


 首を振り、声は殊勝さを装っているが、玲の全身から放たれる陽気が、それを見事に損なっていた。


「わたしたちの見目に騙されないでください。奥ゆかしく、控えめで、正義感が強く、思いやりがある――ように思われがちです。お行儀よくしているとさらに、無垢で善良な娘たちだと、他人から思われます。こちらがびっくりするくらいです。わたしたちの容姿がそう思わせてしまうのでしょうが、わたしたちはそんな人間ではありません。たとえばこちらの瑠衣ですが……」


 と、玲は大親友に目を向ける。

 瑠衣も応えるように微笑みを向ける。


「紛うかたなき美少女です。はかなげで、虫も殺せない可憐な娘だと思われるでしょう? ですが、実体は、虫も、人の心も、がっつりわしづかみにしてしまうという、おそろしい美少女です」

「えへへ」


 瑠衣が恥らうように可愛く身体を揺らす。


「いや、あんた、何恥ずかしそうにしてんの? 褒められてないけど」


 良子の呆れ声に笑いつつ、「そしてこちらの玲於奈ですが……」と玲は続ける。


「はっきりいいます。美人です。将来、男を惑わす毒婦になるだろうといわれています。彼女は大変危険です。が、人生を狂わされる――、棒に振る――、ようなことはありません。なぜならその前に、直接な身的被害に見舞われるからです。断り無く触れるものには厳しい制裁が、即座に、彼女自身の手で下されます。ですので、皆さん、彼女には十分注意してくださいね。人生が狂う前に怪我をします。人生が狂うよりかは、そちらの方がだんぜんいいとは思いますが、おすすめはしません。伴侶以外の方は近付かないよう、お願いします。故意はもちろん、うっかりでも、触れないでください。近寄りすぎてもいけません。なれなれしく話しかけるのも、遠慮してくださいね」


 厳しい顔でいう玲に、男たちは心と身体の両方を引いた。

 しかし、いわれた本人は、


「まるで猛獣扱いね」


 他人事のように微笑んでいる。うつむき加減の、嫣然とした微笑は、男たちの心をいろんな意味でざわめかせた。


「よろしいですね? 皆さん。くれぐれも注意してください。わたしたちと一緒のときは大丈夫ですし、そうは見えないと思いますが、嘘偽りない事実ですので、忘れないようお願いします」

 

 玲の念押しの声に、数名が頷いた。

 それに頷き返した玲は、ほほを緩め、隣に視線を向けた。


「で、次はこちらの良子ですね」



 何をどういうのか――



 警戒心もあらわな良子を見ながら、玲は唇を動かした。


「ご覧のとおり美人です。美人ですが……顔も性格も言葉もかなりきついです。すぐに怒ります。沸点は低く、いつも機嫌が悪そうな顔をしています。そうな、ではなく、実際不機嫌なことが多いです」

「だれのせいだと思ってんの?」

「わたしのせいです――と、いつもいわれます。そのうち、空が青いのも、月が丸いのも、わたしのせいにされるのではないかと、少々不安に思っています」

「ちょっと」

「ですが、四人の中で一番の常識人です。努力家で、真面目で、律儀で、打てば響く面白さを持っています。そしてもちろん、有能です」

「良子、売られるんじゃないの?」


 玲於奈の突っ込みに、瑠衣がふきだした。

 玲も笑った。良子は無言で、友人たちを睨みつけている。


「ふふ。とまあ、こういう具合ですね」


 と笑う玲に、


「ちょっと」


 良子が待ったをかけた。


「あんた、自分のこといってないでしょ」

「え? いったほうがいい?」

「いわないでどうすんのよ。あんたが一番ひどいでしょうが」

「玲の場合、いわなくてもいいんじゃない? わかるでしょ」

「うん、そうだけど。聞きたぁい、玲ちゃん」

「そう? じゃ、瑠衣ちゃんのご要望にお応えしましょうか」


 というと、玲は男たちに笑みを向けた。


「それでは皆さん、心の奥歯を食いしばっておいてくださいね――というのは冗談です」


 男たちがひるむ前に、玲はあっさり前言を翻し、


「グレンさんたちからお聞き及びでしょうし、もうだいたいのところはおわかりでしょうから、簡単に済ませますね」


 と前置きした。


「褒められた人間性でないのは、実はわたしです。どういうわけか、わたしは正義感の強い人間だと思われるんですが、そんな人間ではありません。目の前で倒れたひとは助けますが、三メートル先まで追いかけて助け起こすようなことはしません」

「玲ちゃん、せめて五メートル」

「いやあ、忙しいからね。健常者は、追いかけてまで助けませんよ」

「玲のいうことはもっともね」

「嘘じゃないから怖いわ」


 友人たちの反応に、玲は笑う。


「ああ、すみません。人として、ぎりぎりの正義感は持ち合わせている、くらいです。相互扶助の精神はありますが、奉仕の精神はありません。欲は深いですし、我欲に忠実です。計算高く、目的のためならなんでもしますし使います。おもねることにも抵抗はありません。ひとの好き嫌いも、なさそうに思われますが、ありますし、必要が無ければそれも隠しません。友人たちや親しい人間には、嫌がられるほどまとわりつき、構い倒します。逆に、興味のないことや興味の持てない他人ひとには、一切関与しません。非常に極端な上、身勝手です。その身勝手さは、自他共に認めるほどです。うーん。こうしていってみると、わたしって、かなり酷いなあ」

「いいの。それこそが、玲ちゃんだから」

「ぶっちゃけるところが、玲のすごいところよね」

「他人事みたいにいってるけど、あんたもよ、玲於奈。ったく、恥ずかしいわ」


 良子以外の三人が、声を出して笑い合う。


「ま、こんなところですね。というわけで、皆さん、わたしたちの外見から、中身を判断しないでくださいね。幻想と期待を抱かないでください」

「夢見ろっていわれても、もう無理でしょ」

「見れるのは相当な馬鹿よね」

「玲於奈ちゃん、そんなはっきりいっちゃダメ!」


 明るく声を交わす四人。その四人を、先ほどよりさらに呆然と見つめる男たちに、玲は笑いかけた。


「わたしたちの中身は容姿を裏切ります。こうして皆さんにお話しし、且つご覧に入れたのは、皆さんとは、これから長く深い付き合いになるからです。伴侶の皆さんと側近の方たちには、隠したり、嘘をついたり、ごまかしたり、ということをしたくありませんでした。少々急すぎて、驚かせてしまったのは申し訳ないんですが、まず、わたしたちという人間を知っていただきたかったんです。もちろん、今のがすべてではありません。が、わたしたちの在りよう、といいますか、傾向はだいたいおわかりいただけたと思います。ということで――」


 瞬時に玲はいたずらな光を瞳にのせ、それをひとりの男に向けた。


「もうおわかりですね、アリアロスさん。それではお答えください。あなたの伴侶は、だれでしょうか!」


  



◇  ◇  ◇  ◇





「……」


 問われたアリアロスは、情けないほど狼狽した。まさか、過ぎ去った問いが、帰ってくるとは思わなかった。


 何故だ!――


 心に、何故の嵐が吹き荒れる。

 しかし、心の叫びは一語の声にもならなかった。

 ふるふると、力なくぼさぼさの頭を振るしかできない。

 そんなアリアロスに、声がかかった。

 

「おい、アリス。答えろよ」


 笑い声でいったのは、キリザだった。ここまでじっと僚友たちと一緒に、長椅子で顔合わせの様子を眺めていたが、とうとう我慢できなくなったようだ。


「俺らも、誰が誰の伴侶か教えてもらってねえんだよ。だから、早く答えろ。こっちも待ってんだ。知りたくてうずうずしてるんだよ」

「そ、そんな――」

「いっとくけど、間違えんなよ。レナーテの筆頭軍師なんだから、これぐらい読めるよなあ。玲ちゃんもそうふんで、お前に訊いてんだぜ。な? 玲ちゃん」


 と声を向けられた玲は、そうだとも、そうでないとも、どちらともとれるような曖昧な笑みをキリザに返しただけだった。


「ま、領分違いだから間違っても構わねえが、何かしらの罰は受けるだろうな」


 

 何の罪で?! 誰に?!――



 アリアロスの理性が叫ぶ。が、身体がいうことをきかない。


「いえ、罰はありませんよ」


 玲が即答した。が、続く言葉は、アリアロスを突き落とした。


「罰はありませんが……間違えると、これから先が大変でしょうね。アリアロスさん、答えはどうぞ慎重に。いちかばちかでご自分の運をお試しになるのもいいですが、おすすめはしませんね。どうもアリアロスさんは、そうした運が弱いというか、ごく薄いように見えるので。あ、髪の毛は豊富ですよね?」


 と笑う玲に、玲於奈が、こちらも微笑みながら付け足した。


「悪運も……」

   

 そんなふたりに、



 どうしてわかる?!――



 アリアロスは顔で答えた。


 アリアロスの後方から、これまで聞かなかった男たちの笑い声がした。声を落としたのは、ガウバルトとヤーヴェだった。


 しかし、火中の栗のように、ひとり内心をぽんぽんはぜさせているアリアロスは気付かない。しかも、前方別方向から飛んできた声が、アリアロスの、なけなしの注意力を全部持っていった。


「アリアロスさん! 今のすごいヒントですよ! 回答への道しるべがありましたよ!」

「え? ど、どこですか?」

「ええー? アリアロスさぁん」


 瑠衣の残念そうな声に、


「あんたたち!」


 恐ろしい怒声が続いた。


「いい加減にしなさいよ! ったく」


 良子だった。しかし、アリアロスを助けに入ったわけではなかった。


「昨日から予定が狂いに狂ってるっていうのに、のん気に他人ひとをいじくって、も、ほんと信じらんないわ!」


 友人たちに厳しい声と視線を投げる。と、まったく同じものをアリアロスに向けた。


「アリアロスさん。友人たちはあなたをからかって楽しんでるだけです。間違ったくらいで、死ぬようなことはありません。まあ、近い状態に、精神的に追い込まれるかもしれませんが、それは、正解しても同じです」


 厳しい声と視線を向けられたアリアロスは、ひるむと同時に、『正誤に関わらず精神的に追い込まれる』という恐ろしい未来に恐怖した。


「ちょっと、良子――」


 玲が身体を折って笑い出した。アリアロスを奈落の底へ叩きつけた良子は、「何?」と不機嫌ながらも応える。


「……いや。相変わらずすごいなあ、と思って」


 は? 何いってんの?――と返す良子に、玲は耐えかねたように首を振りながら、姿勢を戻した。そして、アリアロスに笑顔を向けた。


「アリアロスさん、大丈夫ですよ。そこまでひどくありませんから……ね?」

「ええ。今のところ、そのつもりはないわね」


 眼前の短いやり取りに、アリアロスはこぼれそうなほどに目を見開いた。


「だそうです。アリアロスさん、よかったですね。限定つきなところが少々不安ですが、アリアロスさんでしたら、大丈夫でしょう」


 という玲に、アリアロスが目を移す。

 訊ねるようなその目に、玲は微笑んで答えた。


「そうです。アリアロスさんを伴侶に決めたのは、この玲於奈です」


 男たちが息を呑むのが聞こえた。玲はそれを聞きながら続けた。


「なぜアリアロスさんを選んだのかは、後で玲於奈に聞いてくださいね。今は皆さんに伴侶をお教えするのが先ですので」


 といいつつ視線を横に移した玲は、目的の人物がいないことに気が付いた。


「あれ? 良子は?」


 目で良子の姿を探す――と、良子はすでに、広間の中ほど――キリザたちの近くで控えていたゼクトの前に立っていた。


「ゼクトさん、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ゼクトは驚くことなく、良子に応じた。仕事場で交わされるような挨拶を済ませた二人は、グレンたちの隣の長椅子に落ち着いた。


「うーん、さすが」

 

 早いね――と、玲が視線を戻したときには、瑠衣もすでに動いていた。相手の前で、にっこり微笑んでいる。


「レイヒさん、よろしくお願いします。ふたりで最強の夫婦を目指しましょう」


 最強って、あんた――と良子がいう間に、レイヒが差し出された瑠衣の手をとる。


「光栄です。瑠衣様」

「様はいりません。瑠衣でお願いします」

「わかりました。瑠衣」


 二人は微笑みを交わしていた。


 玲は、二人の優しい微笑みにつられたように微笑んだ。そしてその微笑を前に向けた。顔を上げ、じっと相手を見つめる。


「……黒だと思っていたんですが、深い青だったんですね。青が群れたような色、群青ですね。わたしの大好きな色です」


 その群青の瞳に自分を映しながら、玲はいった。


「ソルジェ殿下……北岸玲です。どうぞ、玲とお呼びください」



 



 

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