ディープインパクト
スライディールの城は、いわくを持つにふさわしい構えの城だった。異様だ。
城壁は高く、鬱蒼とした森を映したかのように暗い。城外には深い堀が巡らされており、正門に向かう唯一の石橋の先には、巨大な鉄の扉が鎮座している。それも二段構えという念の入れようだ。
侵入者を許さない――
父王の強い意志がうかがえた。
侵入者の意気を挫くには、これだけでも十分なはずだが、王は徹底していた。
鉄扉の向こうにあるのは、ひとつの開口部もない城だった。
侵入者を許さず、その逆も許さない――
心を病み、正気を失った王女(愛娘)のために造られた城は、巨大な檻だった。
「……」
鉄扉をくぐった男たちは皆、その異様さに息を飲んだ。
「御使い様たちは、ここに、自ら望んで入られたのか……」
リグリエータが、だれにいうともなくいったそれを、サルファが拾った。
「ええ、そうですよ」
しかしその声は明るかった。そして、
「皆さん、こちらです」
と、誘導する。
サルファが案内した場所は、壁だった。石造りの壁――のはずが、サルファがいくつかの石に触れた後、両腕をかけると、壁が大きく割れた。実際には押し開いたのだが、はじめて目にする男たちには驚愕ものだった。
「ここが……入り口なんですか」
「どうなってるんですか?」
「ここまでして……」
「仕掛け扉ですよ。さ、どうぞ中に入ってください」
サルファは、男たちの驚きに構わず、入城を促した。
促されるまま中に入った男たちは、そこでまた驚いた。
暗い石畳のたまり、その先にある短い階段を上りきる――と、そこには、別世界が開けていた。
光が、溢れていた。
外観の陰鬱さなど微塵もない。巨大な中庭を廻るように造られた城の内部は、まばゆい光に満ちていた。
繊細な装飾が、優しい色彩が目に飛び込んでくる。閉塞感が、一気に払われた。
「美しいでしょう?」
サルファに問われ、男たちは無言で頷いた。
「さあ、御使い様たちは、二階の大広間にいらっしゃいます。そちらに行きましょう」
驚きも覚めやらぬ男たちは、視線をそこここに移しつつ、グレンとサルファの後をついていった。
◇ ◇ ◇ ◇
回廊を半分ほどめぐったところで、建物内部に入る。
大階段を上り、開け放たれた扉を目にして、男たちは緊張した。
この先に、御使い様がいる――
と思えば、当然だった。緊張に顔を強張らせながら進んでゆく。と、突然、扉のところから、ひょい、とだれかが顔をのぞかせた。と思うとすぐに引っ込んだ。
「?!」
一瞬のことで、よくわからなかったが、女性であることは間違いなかった。引っ込むときに、長い髪が跳ねるが見えた。
男たちが顔を見合わせる。
あれが、御使い様か?――
驚いている男たちの耳に、声が聞こえた。
「玲ちゃーん。グレンさんたち来たよー」
明るい娘の声。その後に、
「なんだよ、あいつら。もう来たのかよ。ゆっくり来いっていったのに」
聞きなれた声が続く。
グレンとサルファが笑い、足を止めてしまった男たちを促した。
「行こうか」
「さあ、皆様をお待たせしないでください」
そして、男たちは大広間に入ろうとして――止まった。
◇ ◇ ◇ ◇
広間の中央に、四人の娘たちが並んで立っていた。
「スライディールの城へようこそ」
こちらに微笑みを向けている。
「はあ……。こんにちは、山野 良子です」
人である――と。
「二木 玲於奈です」
美しい、とも聞いていた。
「沢田 瑠衣です。どうぞ、瑠衣って呼んでくださいね」
わかっていた。が、
「北岸 玲です。ふふ……それでは突然ですが、アリアロスさんに問題です! アリアロスさんを伴侶に決めたのは、わたしたち四人のうちの、だれでしょうか。三秒でお答えください。どうぞ!」
「……」
「……」
その実像と実体は、男たちの想像を、はるか上方に超えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「三秒って、あんた。アリアロスさんに答えさせる気、ぜんっぜんないでしょ?!」
「大丈夫! アリアロスさん、頑張って!」
「そういってる間に、もう三秒たったんじゃない?」
「残念です……アリアロスさん」
玲が、さも残念そうに首を振る。
「これで、アリアロスさんの拒否権はなくなりました――」
驚きの上に情けない表情を塗り重ねるアリアロスに、玲は神妙な声をかけた。と思うと、次の瞬間、憂い顔を笑顔に変えた。
「ま、本当は、拒否権なんて、もとからないんですけどね」
「酷い、玲ちゃん」
「そう? 今日は優しい方じゃない? 酷いときは『さあ、何?』とかやってるじゃない」
瑠衣の非難の声に、玲於奈が応じ、
「いきなり馬鹿さ曝け出して、もう、聞いてるこっちが恥ずかしいわ!」
と良子が怒る。
「いやいや、わたしたちがどういう人間か、皆さんに知ってもらわないとね? 夢見させちゃ悪いでしょ?」
玲は普段と変わらぬ声音と調子でそういうと、男たちに笑みを向けた。
「一応、声だけはおかけしときますね。皆さん、どうぞ、中にお入りください」
そういわれて、動けるものはいない。
「うーん」
玲が、眉根は寄せながら、口元で微笑むという芸を見せた。
「レナーテの皆さんは、そこがお好きなんですか? いらっしゃる方はどなたも、そこの、入り口のところで立ち止まられます。対男性用の結界でも、張ってあるんでしょうか?」
「玲……?」
しらじらしく訊く玲に、良子が、それはそれは恐ろしいドスの効いた声と睨みを向ける。
瑠衣と玲於奈が顔を見合わせ、こっそり笑い、そして玲は慣れたもので、あわてずさわがず微笑を浮かべる。
男たちは眼前で繰り広げられるやりとりに、ただただ呆然とし、キリザは、肩を震わせながら自分のもとにやってくる僚友たちに、笑い声をかけた。
「はじまったな」
◇ ◇ ◇ ◇
「失礼しました。皆さん、驚かれていらっしゃるんですね。わたしたちが人間であると、先に知らされていても、聞くと見るでは大違い――いきなりの話で混乱もなさっているでしょうし、平静でいられないのはよくわかります。驚くな、という方が無理な話です。ですからどうぞ、気持ちが落ち着くまで、そちらにいらしてください。その間に少しばかり、わたしたちのことをお話しさせていただきますね。ああ、無理に動いていただく必要はありませんよ。不都合はありませんから」
いいながら、玲は男たちに歩み寄る。瑠衣、良子、玲於奈の三人も、ともに歩み寄った。
男たちとの距離を縮めた玲は、間をおかず、口を開いた。
「まず、皆さんにお伝えしておきたいのは、先ほどもちらっといいましたが、容姿に関することです。わたしたちは、ご覧のとおり、たいへんな器量良しです]
ためらわずにいい切った。
「ぷっ」と、瑠衣がふきだす。玲於奈が笑み、良子が呆れる。
「容姿ばかりでなく学業の成績も優秀で、だれからも褒められます。褒められるんですが……実は、人間性はそれほど褒められたものではありません」
首を振り、声は殊勝さを装っているが、玲の全身から放たれる陽気が、それを見事に損なっていた。
「わたしたちの見目に騙されないでください。奥ゆかしく、控えめで、正義感が強く、思いやりがある――ように思われがちです。お行儀よくしているとさらに、無垢で善良な娘たちだと、他人から思われます。こちらがびっくりするくらいです。わたしたちの容姿がそう思わせてしまうのでしょうが、わたしたちはそんな人間ではありません。たとえばこちらの瑠衣ですが……」
と、玲は大親友に目を向ける。
瑠衣も応えるように微笑みを向ける。
「紛うかたなき美少女です。はかなげで、虫も殺せない可憐な娘だと思われるでしょう? ですが、実体は、虫も、人の心も、がっつりわしづかみにしてしまうという、おそろしい美少女です」
「えへへ」
瑠衣が恥らうように可愛く身体を揺らす。
「いや、あんた、何恥ずかしそうにしてんの? 褒められてないけど」
良子の呆れ声に笑いつつ、「そしてこちらの玲於奈ですが……」と玲は続ける。
「はっきりいいます。美人です。将来、男を惑わす毒婦になるだろうといわれています。彼女は大変危険です。が、人生を狂わされる――、棒に振る――、ようなことはありません。なぜならその前に、直接な身的被害に見舞われるからです。断り無く触れるものには厳しい制裁が、即座に、彼女自身の手で下されます。ですので、皆さん、彼女には十分注意してくださいね。人生が狂う前に怪我をします。人生が狂うよりかは、そちらの方がだんぜんいいとは思いますが、おすすめはしません。伴侶以外の方は近付かないよう、お願いします。故意はもちろん、うっかりでも、触れないでください。近寄りすぎてもいけません。なれなれしく話しかけるのも、遠慮してくださいね」
厳しい顔でいう玲に、男たちは心と身体の両方を引いた。
しかし、いわれた本人は、
「まるで猛獣扱いね」
他人事のように微笑んでいる。うつむき加減の、嫣然とした微笑は、男たちの心をいろんな意味でざわめかせた。
「よろしいですね? 皆さん。くれぐれも注意してください。わたしたちと一緒のときは大丈夫ですし、そうは見えないと思いますが、嘘偽りない事実ですので、忘れないようお願いします」
玲の念押しの声に、数名が頷いた。
それに頷き返した玲は、ほほを緩め、隣に視線を向けた。
「で、次はこちらの良子ですね」
何をどういうのか――
警戒心もあらわな良子を見ながら、玲は唇を動かした。
「ご覧のとおり美人です。美人ですが……顔も性格も言葉もかなりきついです。すぐに怒ります。沸点は低く、いつも機嫌が悪そうな顔をしています。そうな、ではなく、実際不機嫌なことが多いです」
「だれのせいだと思ってんの?」
「わたしのせいです――と、いつもいわれます。そのうち、空が青いのも、月が丸いのも、わたしのせいにされるのではないかと、少々不安に思っています」
「ちょっと」
「ですが、四人の中で一番の常識人です。努力家で、真面目で、律儀で、打てば響く面白さを持っています。そしてもちろん、有能です」
「良子、売られるんじゃないの?」
玲於奈の突っ込みに、瑠衣がふきだした。
玲も笑った。良子は無言で、友人たちを睨みつけている。
「ふふ。とまあ、こういう具合ですね」
と笑う玲に、
「ちょっと」
良子が待ったをかけた。
「あんた、自分のこといってないでしょ」
「え? いったほうがいい?」
「いわないでどうすんのよ。あんたが一番ひどいでしょうが」
「玲の場合、いわなくてもいいんじゃない? わかるでしょ」
「うん、そうだけど。聞きたぁい、玲ちゃん」
「そう? じゃ、瑠衣ちゃんのご要望にお応えしましょうか」
というと、玲は男たちに笑みを向けた。
「それでは皆さん、心の奥歯を食いしばっておいてくださいね――というのは冗談です」
男たちがひるむ前に、玲はあっさり前言を翻し、
「グレンさんたちからお聞き及びでしょうし、もうだいたいのところはおわかりでしょうから、簡単に済ませますね」
と前置きした。
「褒められた人間性でないのは、実はわたしです。どういうわけか、わたしは正義感の強い人間だと思われるんですが、そんな人間ではありません。目の前で倒れたひとは助けますが、三メートル先まで追いかけて助け起こすようなことはしません」
「玲ちゃん、せめて五メートル」
「いやあ、忙しいからね。健常者は、追いかけてまで助けませんよ」
「玲のいうことはもっともね」
「嘘じゃないから怖いわ」
友人たちの反応に、玲は笑う。
「ああ、すみません。人として、ぎりぎりの正義感は持ち合わせている、くらいです。相互扶助の精神はありますが、奉仕の精神はありません。欲は深いですし、我欲に忠実です。計算高く、目的のためならなんでもしますし使います。おもねることにも抵抗はありません。ひとの好き嫌いも、なさそうに思われますが、ありますし、必要が無ければそれも隠しません。友人たちや親しい人間には、嫌がられるほどまとわりつき、構い倒します。逆に、興味のないことや興味の持てない他人には、一切関与しません。非常に極端な上、身勝手です。その身勝手さは、自他共に認めるほどです。うーん。こうしていってみると、わたしって、かなり酷いなあ」
「いいの。それこそが、玲ちゃんだから」
「ぶっちゃけるところが、玲のすごいところよね」
「他人事みたいにいってるけど、あんたもよ、玲於奈。ったく、恥ずかしいわ」
良子以外の三人が、声を出して笑い合う。
「ま、こんなところですね。というわけで、皆さん、わたしたちの外見から、中身を判断しないでくださいね。幻想と期待を抱かないでください」
「夢見ろっていわれても、もう無理でしょ」
「見れるのは相当な馬鹿よね」
「玲於奈ちゃん、そんなはっきりいっちゃダメ!」
明るく声を交わす四人。その四人を、先ほどよりさらに呆然と見つめる男たちに、玲は笑いかけた。
「わたしたちの中身は容姿を裏切ります。こうして皆さんにお話しし、且つご覧に入れたのは、皆さんとは、これから長く深い付き合いになるからです。伴侶の皆さんと側近の方たちには、隠したり、嘘をついたり、ごまかしたり、ということをしたくありませんでした。少々急すぎて、驚かせてしまったのは申し訳ないんですが、まず、わたしたちという人間を知っていただきたかったんです。もちろん、今のがすべてではありません。が、わたしたちの在りよう、といいますか、傾向はだいたいおわかりいただけたと思います。ということで――」
瞬時に玲はいたずらな光を瞳にのせ、それをひとりの男に向けた。
「もうおわかりですね、アリアロスさん。それではお答えください。あなたの伴侶は、だれでしょうか!」
◇ ◇ ◇ ◇
「……」
問われたアリアロスは、情けないほど狼狽した。まさか、過ぎ去った問いが、帰ってくるとは思わなかった。
何故だ!――
心に、何故の嵐が吹き荒れる。
しかし、心の叫びは一語の声にもならなかった。
ふるふると、力なくぼさぼさの頭を振るしかできない。
そんなアリアロスに、声がかかった。
「おい、アリス。答えろよ」
笑い声でいったのは、キリザだった。ここまでじっと僚友たちと一緒に、長椅子で顔合わせの様子を眺めていたが、とうとう我慢できなくなったようだ。
「俺らも、誰が誰の伴侶か教えてもらってねえんだよ。だから、早く答えろ。こっちも待ってんだ。知りたくてうずうずしてるんだよ」
「そ、そんな――」
「いっとくけど、間違えんなよ。レナーテの筆頭軍師なんだから、これぐらい読めるよなあ。玲ちゃんもそうふんで、お前に訊いてんだぜ。な? 玲ちゃん」
と声を向けられた玲は、そうだとも、そうでないとも、どちらともとれるような曖昧な笑みをキリザに返しただけだった。
「ま、領分違いだから間違っても構わねえが、何かしらの罰は受けるだろうな」
何の罪で?! 誰に?!――
アリアロスの理性が叫ぶ。が、身体がいうことをきかない。
「いえ、罰はありませんよ」
玲が即答した。が、続く言葉は、アリアロスを突き落とした。
「罰はありませんが……間違えると、これから先が大変でしょうね。アリアロスさん、答えはどうぞ慎重に。いちかばちかでご自分の運をお試しになるのもいいですが、おすすめはしませんね。どうもアリアロスさんは、そうした運が弱いというか、ごく薄いように見えるので。あ、髪の毛は豊富ですよね?」
と笑う玲に、玲於奈が、こちらも微笑みながら付け足した。
「悪運も……」
そんなふたりに、
どうしてわかる?!――
アリアロスは顔で答えた。
アリアロスの後方から、これまで聞かなかった男たちの笑い声がした。声を落としたのは、ガウバルトとヤーヴェだった。
しかし、火中の栗のように、ひとり内心をぽんぽんはぜさせているアリアロスは気付かない。しかも、前方別方向から飛んできた声が、アリアロスの、なけなしの注意力を全部持っていった。
「アリアロスさん! 今のすごいヒントですよ! 回答への道しるべがありましたよ!」
「え? ど、どこですか?」
「ええー? アリアロスさぁん」
瑠衣の残念そうな声に、
「あんたたち!」
恐ろしい怒声が続いた。
「いい加減にしなさいよ! ったく」
良子だった。しかし、アリアロスを助けに入ったわけではなかった。
「昨日から予定が狂いに狂ってるっていうのに、のん気に他人をいじくって、も、ほんと信じらんないわ!」
友人たちに厳しい声と視線を投げる。と、まったく同じものをアリアロスに向けた。
「アリアロスさん。友人たちはあなたをからかって楽しんでるだけです。間違ったくらいで、死ぬようなことはありません。まあ、近い状態に、精神的に追い込まれるかもしれませんが、それは、正解しても同じです」
厳しい声と視線を向けられたアリアロスは、ひるむと同時に、『正誤に関わらず精神的に追い込まれる』という恐ろしい未来に恐怖した。
「ちょっと、良子――」
玲が身体を折って笑い出した。アリアロスを奈落の底へ叩きつけた良子は、「何?」と不機嫌ながらも応える。
「……いや。相変わらずすごいなあ、と思って」
は? 何いってんの?――と返す良子に、玲は耐えかねたように首を振りながら、姿勢を戻した。そして、アリアロスに笑顔を向けた。
「アリアロスさん、大丈夫ですよ。そこまでひどくありませんから……ね?」
「ええ。今のところ、そのつもりはないわね」
眼前の短いやり取りに、アリアロスはこぼれそうなほどに目を見開いた。
「だそうです。アリアロスさん、よかったですね。限定つきなところが少々不安ですが、アリアロスさんでしたら、大丈夫でしょう」
という玲に、アリアロスが目を移す。
訊ねるようなその目に、玲は微笑んで答えた。
「そうです。アリアロスさんを伴侶に決めたのは、この玲於奈です」
男たちが息を呑むのが聞こえた。玲はそれを聞きながら続けた。
「なぜアリアロスさんを選んだのかは、後で玲於奈に聞いてくださいね。今は皆さんに伴侶をお教えするのが先ですので」
といいつつ視線を横に移した玲は、目的の人物がいないことに気が付いた。
「あれ? 良子は?」
目で良子の姿を探す――と、良子はすでに、広間の中ほど――キリザたちの近くで控えていたゼクトの前に立っていた。
「ゼクトさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ゼクトは驚くことなく、良子に応じた。仕事場で交わされるような挨拶を済ませた二人は、グレンたちの隣の長椅子に落ち着いた。
「うーん、さすが」
早いね――と、玲が視線を戻したときには、瑠衣もすでに動いていた。相手の前で、にっこり微笑んでいる。
「レイヒさん、よろしくお願いします。ふたりで最強の夫婦を目指しましょう」
最強って、あんた――と良子がいう間に、レイヒが差し出された瑠衣の手をとる。
「光栄です。瑠衣様」
「様はいりません。瑠衣でお願いします」
「わかりました。瑠衣」
二人は微笑みを交わしていた。
玲は、二人の優しい微笑みにつられたように微笑んだ。そしてその微笑を前に向けた。顔を上げ、じっと相手を見つめる。
「……黒だと思っていたんですが、深い青だったんですね。青が群れたような色、群青ですね。わたしの大好きな色です」
その群青の瞳に自分を映しながら、玲はいった。
「ソルジェ殿下……北岸玲です。どうぞ、玲とお呼びください」




