十五雪目
あれ?長くないww
焦った様子のポーストン様が不躾にノックもなしに扉を開いた。
「何!? 犯人の特定は!」
「ついております!」
ぐおっ!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く!!!
「パリシア!」
「ッ! スレルト。お前はパリシアとここに居てくれ!」
頭もガンガンする気持ち悪い。
運悪く不規則に来る体調悪化が訪れる。
それに気付いたスレルトが慌て、王太子も気付いたが、王太子は当然侵入者の方に向かわなければならない。
「パリシア様。お辛いでしょうがこれをお飲みください」
王宮医に差し出された薬を飲むと、急激に意識が遠のいた。
多分、眠り薬の類いだろう。
* * *
「――シア」
薬が抜けきらず眠たい。
「あうあー」
「――ッ! カリアス!?」
私の可愛い子の声に目が覚める。
もちろん目の前には愛し子のカリアス。
………………カリアス?
「いた! って、ジュノット!? ロザラオ!? 何でここに…?」
頭を叩かれ、そちらを向けば我が夫ジュノットとロザラオに抱き締められた。
「心配したのよ!」
「帰ったら居ないとか、心臓に悪すぎるだろ」
「ごめん…。でも何でここが分かったの?」
私を抱き締めているはずの腕が震えていて、すがられている気がする。
それくらい心配してくれていたのだと思うと、不謹慎だけど嬉しい。
なんて、底意地悪いかな?
「村近辺で王国軍を見たって人が居たんだ」
「で、魔術で調べたらビンゴだったから急いできたのよ」
……あれ? 王国の魔術警備大丈夫?
「さっ、帰るか」
「そうね。こんなとこさっさと退散しましょう」
「うー」
「あら、やっぱりカリアスもそう思う?」
立ち上がった二人を見て疑問に思う。
何故、私にあてられた部屋じゃない?
てか、こんなに簡単に会わせてもらえるものか?
それ以前に、『退散』ってどういう意味だ?
「パリシア!」
「侵入者が! 我が側妃をどうするつもりだ!」
ああ、―悪い方に―繋がりそうだった一連の流れが―悪い方に―繋がった…。
「何言ってるの? パリシアは私の妻よ!」
事実上の新旧(?)夫の顔合わせである。
「確か、君はスレルトだったね。これはどういうこと?」
「僕は、パリシアが好きなんだ…!」
ジュノットの発言が、ロザラオとスレルトの会話てか、スレルトの態度で真実味を感じたのだろう。
王太子の連れてる隊がどよめいた。
「パリシアは俺の側妃だ」
「王太子殿下だろうと、して良い事と悪い事があるんじゃないんですか!」
ごもっとも。
ロザラオの発言につい内心、頷いてしまうのは不可抗力だよね。
「というか、人の妻に手を出すなんてふざけてるの!」
「返していただけないというなら、連れて逃げるまでだ!」
ジュノットが杖、ロザラオが剣を構える。
ん?
「多夫一妻制を制定してる。充分じゃないの?」
「僕だってパリシアを想う気持ちに偽りはないよ!」
剣を構える王太子と隊士達。
「交渉決別のようですね」
「そのようだな」
ロザラオと王太子がお互いの意思を確認する。が、私の意思は無視らしい。
ロザラオ! お前もか!
『風よ!薙払え!』
先手はジュノットの魔術。
限定的な暴風が隊士達を襲う。
「ウィンディ、風を止めて!」
だが、スレルトの精霊がそれを止めてしまう。
「ぐっ…! ぅあ゛!」
ジュノットVSスレルトの魔術と精霊の戦いとは別に、剣の戦いも起きてるようで、ロザラオが隊士達を百人斬りの如くばっさばっさと倒している。
隊士達も近衛騎士である以上、実力は折り紙付きのはずなのだが……流石、元期待の出世株とでも言うべきだろうか?
「……俺を狙わないなんて、とんだ臆病者だね」
「多勢に無勢、最初に数を減らすのは当然の判断である事も分からないんですか? 国の未来を絶望視してしまいそうです」
凛とした男と爽やかな男が笑い合う姿は、まるで一枚の絵画のようだが、後ろにブリザードが吹き荒れている。
笑ってんのが逆に怖いから!
「プロイス様!」
うげっ!
騒ぎを聞き付けた近衛騎士が集まり出す。
「お前は! どういうつもりだロザラオ!」
「どういうつもりか? 妻を取り返すつもりだよ!」
どうやらロザラオの知り合いが居たらしい。
「だからって国を敵にまわす気か!?」
「ならお前は許せるのか? 最愛の妻を奪われて!」
「そうよ! 国が相手だから仕方ないって泣き寝入りしろって言うの!? ふざけないで!」
ロザラオとジュノットの主張に相手も言葉に困った様子である。
「パリシアの夫だろうが、パリシアを奪う奴は許さない」
「許さないは、こっちのセリフよ!」
援軍も来て、どんどん戦いが酷くなる。
私は、カリアスを抱き締めたまま、戦いの行方を見守ることしかできない。
「はぁっ!」
「ッ――!!」
「ロザラオ!」
「来るな! 戦いに集中しろ!」
援軍が増えるにつれ、多勢に無勢、ロザラオ達が劣勢となり、ロザラオが怪我をした。
ジュノットが駆け寄ろうとするけど、ジュノットも気を抜けたい状況であり、ロザラオに叱咤され、持ち場に集中する。
こんなの望んでないのに…!
「あうー」
騒音にかきけされる小さな声が、私の腕の中の小さな命が、震える事しか出来ない私に勇気を与えてくれる。
「大丈夫よ。お母さんが止めるからね」
私の気持ちを反映した様に不安そうなカリアスを優しく抱き締め、戦いの中に足を踏み入れる。
「スレルト!!」
『土よ! 呑み込め!』
その時、スレルトと目があった。
焦った様子のスレルトが持ち場を放棄して、こちらに走ってくる。
隙だらけのスレルトに王太子が焦ったように声をかける。ジュノットが一番の天敵を倒そうとする。それを無視して走ってくるスレルトが何か叫んだようだが、聞こえない。
あれ?
全てがスローモーションに見えた。
ジュノットが呪文を言い終えたくらいから目の前が真っ暗に染まって、平衡感覚が狂ってぐらつく。
ああ、カリアスが怪我をしないようにしないと。
倒れ始めているいるのに、いやに冷めた頭が一番に思ったのは、それだった。




