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【改稿版】悪役令嬢ですが、監禁エンドだけは回避したい  作者: ayami


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第8話「静かに始まる逃亡計画」

 最近私は、ひとつの結論に辿り着いていた。


「……これ、包囲されてない?」


 朝。


 学園の正門をくぐった瞬間。


 いつもはいないはずの場所に、見慣れない騎士が立っている。


 視線は鋭く。


 けれど、私を見ると、すぐに逸らす。


 ……あからさま。


 昼。


 食堂へ向かえば、必ず隣に侍女のマリア。


「今日は混みますから、ご一緒しますね」


 にこにこ。


 断れない笑顔。


 逃げ道なし。


 放課後。


 図書室へ行けば。


 中庭に出れば。


 帰ろうとすれば。


「偶然だね」


 と、必ず現れる殿下。


 ……偶然なわけあるか。


 もはや日課。


「警護、増えてるよね……?」


 小声で呟くと。


 マリアは、にっこり微笑んだ。


「殿下のご配慮ですわ」


 配慮(=監視)。


 優しさの皮をかぶった包囲網。


 怖い。


 本気で怖い。


 


 その日の夕方。


 私は自室に戻ると、すぐに扉を閉め、鍵をかけた。


 背中を預けて、ずるずると床に座り込む。


「……やばい」


 小さく呟く。


「これは……本気でやばい」


 胸が、ぎゅっと苦しくなる。


 原作後半に逃げようとして失敗し――


 完全囲い込みルートに突入する場面。


 優しい監禁。


 愛情過多。


 一生外に出られない未来。


(……今、その分岐点じゃない?)


 嫌な汗が背中を伝った。


「……やるしかない」


 私は立ち上がり、机の引き出しを開けた。


 中から現れたのは――


 ・城下町の詳細地図

 ・偽造通行証

 ・平民用の外套

 ・変装用の眼鏡

 ・簡易的な金貨袋


 ……地味に頑張った成果。


「これだけあれば……いけるはず」


 震える指で地図を広げる。


 目指すのは、隣国フェリス。


 貴族制度が緩く。


 身分を隠せば、生きていける国。


「まず、夜明け前に学園を抜ける」


「裏門から南道へ」


「検問前に森を通って……」


 何度も、何度も。


 頭の中で逃走ルートをなぞる。


 失敗できない。


 一度捕まったら、終わりだ。


 


 ――そして、その日。


 私は、いつもより早く寮を出た。


 理由はひとつ。


 殿下に、できるだけ会わないため。


(最近……視線が重い)


 廊下を歩いても。


 階段を降りても。


 教室にいても。


 どこかで、見られている気がする。


 しかも。


 優しい目で。


 それが一番、怖い。


「……今日こそ、静かに過ごそう」


 小さく呟き、教科書を抱え直す。


 早足で廊下を抜ける。


 もうすぐ教室――


 と思った、その瞬間。


「ヴィクトリア」


 背後から、低い声。


 聞き慣れすぎた声。


 逃げ道を塞ぐ声。


 ……終わった。


 私は、覚悟を決めて振り返った。


「え、えっと……おはようございます、殿下」


 完璧な作り笑顔。


 完璧な距離。


 完璧な“普通”。


 ……のはずだった。


 なのに。


 エドワード様は、じっと私を見つめたまま動かない。


「……今日は、随分早いね」


「そ、そうですね! たまたまです!」


 即答。


 早口で逆に怪しさ満点になってしまった。


 一歩、近づいてくる。


 私は反射的に下がる。


 ――しまった。


「……避けてる?」


 静かな声。


 でも、鋭い。


「い、いえ!? そんなこと……!」


 視線が泳ぐ。


 自覚ありすぎ。


 彼は、ふっと微笑んだ。


 優しい。


 ……優しいけど、怖い。


「なら、よかった」


 そう言いながら、距離を詰める。


 近い。


 近すぎる。


 周囲が消える。


 世界が二人だけになる。


「最近、元気がない気がして」


「そ、そんなことないです!」


「本当に?」


 覗き込まれる。


 逃げ場なし。


「そ、そうだ! 次の授業、遅れますよ!」


「……君となら、遅れてもいい」


 即答。


 重い。


 周囲がざわつく。


(やめてぇぇぇ……!!)


 彼は声を落とした。


「ねえ、ヴィクトリア」


「……はい」


「……どこかに行くつもり?」


 心臓が跳ねる。


 全身が凍る。


「え!? な、なにを……!」


「最近、落ち着かない」


 真剣な瞳。


「君が、遠くなる気がして」


 ……終わったかもしれない。


 私は必死に笑った。


「どういうことです? 私はどこにも行きませんよ?」


 大嘘。


 最大級の嘘。


 彼はしばらく黙り――


 そっと、頭に手を置いた。


「……なら、信じる」


 優しく。


 逃がさない声で。


「裏切らないでね」


 にこっと笑う。


 ……怖い。


「は、はい……」


 鐘が鳴る。


「行こうか」


「……はい」


 並んで歩きながら。


 私は、心の中で叫んでいた。


(監視、完成してる……)


(もう……時間がない……!)


 


 その夜。


 私は、震える手で日記を開いた。


【殿下、警戒レベルMAX】


【距離=逆効果】


【包囲網=完成】


【逃亡決行まで、あと三日】


 ペンを置き、深く息を吐く。


「……絶対、逃げる」


 小さく呟く。


 誰にも聞こえないように。


 ――彼にだけは、知られないように。

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