エリアスとアミリア
エリアスとアミリアは、ゲートを使ってレイクシティに戻った後、旅の準備をし、馬を連れて帝都ナリアに移動した。
ここから、目的地のラボック鉱山迄は、馬で西に2日の距離である。
二人は、ヒメネスの事が余程応えたのか、必要な会話以外は、終始無言でその苦しみを、内に秘めていたのであった。
そんな二人であったが、その悲しみを誤魔化す為か、日が落ちる頃には、いつもの二人に、なっていたのである。
「おいアミリー、そろそろ日が落ちる様だし、野営の準備をしないか?」
「ん?そう言えばそうだな。じゃあ、そこの開けた所で、野営するか」
そう言った二人は、街道から少し外れた所に入ったのであった。
野営か、久々だな。
そう言えば、食料やテントって持ってきてたかな?……しまった、ヒースの事で頭がイッパイで、忘れていた。
「なぁアミリー。お前、食料やテントって、持ってきているか?」
「ん?何でそんな物がいる?私達は、基本的に現地調達が常識だ。
私達、魔女騎士団は、聖導騎士団の様に、恵まれていないんだよ」
し、しまった!魔女騎士団は、食料から何から何まで、現地調達するサバイバル集団だった。
そう思いながら、唖然としているエリアスに、アミリアが言った。
「ほら、そんな顔で突っ立ってないで、刀を持って、そこの森に入るぞ。
暗くなったら、食料調達は難しいぞ」
そう言ったアミリアは、馬を繋いで、一人先に森に入って行ったのであった。
「ちょ、ちょっとアミリー待てよ!」
そう言ったエリアスは、慌ててアミリアの後を、追い掛けて行ったのであった。
もう、何れ程歩いたのだろうか?既に、元居た場所の方向なんか分からない。これは、アミリーからはぐれたら死ぬぞ。
そんな事をエリアスが考えていると、アミリアはふと立ち止まり、地面の小さくて丸く黒い、正●丸の様な物を拾うと、クンクンと匂いを、嗅ぎしたのであった。
「アミリー、何だそれ?」
「これか?これは、糞だ」
「ふ、糞?糞って、あの糞か?」
「そうだ。これは……ホーンラビットの糞だな。
まだ暖かい……この数って事は、近くにホーンラビットの群れがいるな。
喜べエリス、今日はご馳走だぞ」
そう言ったアミリアは、ニヤリと笑みを浮かべて言った。
え?ホーンラビットなんか食べるのか?これが魔女騎士団の常識なのか?
それに、ホーンラビットって魔物だぞ、食べれないだろ。
そう思っているエリアスの目の前で、アミリアは跪ずき、地面に手を当てて目を閉じて言ったのであった。
「大地の聖霊に命ず、我に生命の息吹を示せ。グランド・ソナー!
……近いな……移動もしていない。
よし、エリスよく聞け、ここから真っ直ぐ向こうに行った所に……そうだな、200メートルほど行った所に、ホーンラビットの群れがいる。
この時間だと、移動はしないで、固まって寝るんだろう。
お前は迂回して、ホーンラビットをこっちに誘導してくれ。
群れは、3,40匹程だと思うが、もしも一匹でいるなら、そいつはモドキだ、相手にするな」
「いや、誘導ってどうすれば良いんだ?」
「ホーンラビットって奴は、人間を見ると、集団で襲ってくる。
だけどな、5,6匹殺すと、勝ち目が無いと思い、一斉に人間と反対方向に、逃げ出すんだよ」
「ちょっと待て、って事は、俺が魔物と一人で、戦うのかよ」
「出来ないのか?こんなの魔女騎士団じゃ、入団したての騎士が、やる仕事だぞ」
何だと?……やって、やろうじゃないか。
「分かった、やってやるよ」
「そうそう、ホーンラビットは、角さえ注意すりゃ、大丈夫だから」
「ああ、分かったよ」
そう言ったエリアスは、言われた様に、大きく迂回するして、進んだのであった。
確か、この先に居ると言っていたが本当に……居た。
いや、居る事は、居るのだが、何だよこの数!多すぎだろ。
50は、いるんじゃないか?そろそろ太陽も落ちてきた事だし、早くしないと暗闇に包まれてしまうな。
そう思ったエリアスは、刀をゆっくりと抜くと、静かに近寄ろうとした瞬間であった、エリアスの足の下にあった枝が、パキっと言った音を立てたのである。
それを合図に、ホーンラビットは、一斉にエリアスの方向を見ると、全てのホーンラビットの目が、赤く光っていたのであった。
その一斉に振り向いた、約100個もの赤い瞳は、この薄暗い森では十分に気持ち悪く、エリアスは思わず後退りしたのである。
実はこのエリアス、戦場では、常に先陣を駆け抜ける武人なのだが、魔物と戦うのは意外と初めてで、どう攻撃して良いのか、分からずにいたのであった。
デカいと言っても、犬程の大きさだし、新人の騎士が倒せる程だと言っていたから、大丈夫だろう。
そう思ったエリアスは、ホーンラビットに近付くと、ホーンラビットは、ピョンピョン小さく跳ねて近付いて来たのであった。
何だこれ?楽勝じゃないか。
そう思った時であった、エリアスのすぐ近くまで来たホーンラビットが、勢いよく下から突き上げる様に、跳ねたのである。
「うお!」
思わずそう言ってエリアスは、身体をひねり、何とかかわしたのだった。
これは、あの角で下から突き上げられると、死ぬかも知れん。
それにあの数……所詮はホーンラビットと思い、侮っていたら、死んでしまう。
なるほど、新人の騎士の仕事と言うのが、分かった気がする。
姿形に油断していれば、死を招く事になる。
それを経験で学ばせるのか……聖導騎士団の騎士が増えたら、魔女騎士団と合同で、演習させるのも悪くは無い。
そう思ったエリアスは、気持ちを引き締めて、ホーンラビットに向かったのであった。
エリアスは、ホーンラビットに懐に入られない様に、気を使いながら、一匹、また一匹、と確実に倒して行ったのである。
そして、7匹目を倒したのだが、ホーンラビットは、逃げる素振りも、見せなかったのであった。
おい、アミリー!どうなっているんだよ、もうこれで7匹目だぞ。
逃げるんじゃ、無かったのかよ。
そう思ったエリアスであったが、そのホーンラビットの赤く光る瞳に、恐怖が映し出されている事に、気付いたのであった。
コイツら、もしかして、今にも逃げ出したいんじゃ……でも他の者が、逃げないから、誰も逃げ出さないと言った事なんじゃないか?
だとするなら、切っ掛けさえあれば。
エリアスは、そう感じて腹の底から、大声を出して、刀を振り上げたのであった。
「ぎにゃ~!」
しまった、訳の分からない声に、なってしまった。
そう思ったエリアスとは裏腹に、ホーンラビット達は、ビクッとして固まり、一番後ろのホーンラビットが逃げ出すと、それを切っ掛けに一斉に逃げ出したのであった。
よし、少々不本意だが、このまま追い掛ければ、アミリーの所に行くだろう。
そう思ったエリアスは、ホーンラビットの群れを、追い掛けたのであった。
暗い闇に包まれる森の中を、駆け抜けるエリアス。
だが彼は、今必死であった。
実は今彼は、方向を見失っていた。ここでホーンラビットの群れを見失うと、完全に森の中で迷子になってしまう。
エリアスは、サバイバル技術においては、ほとんど素人と言っても、良いレベルである。
聖導騎士団の壊滅した事件の時でも、弾正に助けられるまで、ほとんど飲まず食わずで、さまよっていたのだ。
だが必死に逃げるホーンラビットは、通常のウサギより大きいと言っても、2倍ほどである。
身長の高いエリアスが追いかけるのも、この森の中では、枝が飛び出ていたりして、エリアスの身体を徐々に切り刻んでいき、その姿を見失っていったのであった。
しまった、何処に行った?
そう思ったエリアスの耳に「ピー!ピー!」と言った悲痛な声が、聞こえて来たのであった。
あっちか!
そう思ったエリアスは、必死でその声の方向に行くと、蔦で作った罠で、ホーンラビットが、3匹吊るされていたのであった。
「お、エリス、お疲れさん。何だよその顔、泣きそうになっているぞ」
そう言ったアミリアは、笑顔で言ったのであった。
「うるさいな、良いじゃないか。で、次はどうするんだ?」
少し照れながら言ったエリアスに、アミリアは自身のマジック・バックからナイフを取り出すと、エリアスに何かを寄越せと言ったポーズをやって、言ったのである。
「とりあえず、その刀を貸しな」
何故だろう?そんな事を思いながらエリアスは、言われるまま刀をアミリアに渡すと、アミリアは刀を抜かずに、一匹のホーンラビットの後頭部を、勢いよく殴ったのであった。
「お、おいアミリー」
「ん?とりあえずホレ」
そう言ってエリアスに、刀を放り渡したアミリアは、気絶したホーンラビットの角を掴むと、そのままナイフで首を斬り、そしてそのまま腹も斬って、中に手を入れたのであった。
「な、何やっているアミリー」
「何って、核を探しているんだよ。ちょっと急いでいるんで、待ってな……お、あった」
そう言ってアミリアが取り出したのは、青く光る小さなクリスタルの様な物であった。
「これが、私達が核と呼んでいる物で、これを魔物から取り出すと、魔物は消えないんだよ。
でも、条件があって、魔物が気絶か寝ていて、意識が無い事。
取り出すのと、解体するのは、職業に料理人を持っている者がやる事なんだよ。
ちなみに魔女騎士団では、入団すると料理人の職業を得るために、1ヶ月食堂やレストランで働くんだ。
まぁそんな事より、早く処理をしないと、さっき初めて聞くモンスターの声がした。
そいつが来たら、厄介かも知れんので、急ぐぞ。
エリス、お前は穴を掘ってくれ。そこにホーンラビットの臓物を入れて、痕跡を隠すから」
「ああ……」
アミリアにそう言われて、エリアスは穴を掘りながら、ふと思ったのであった。
初めて聞く魔物の声?
もしかして、俺のあの声かな?
「なぁアミリー。
初めて聞くモンスターの声って、その声は、ホーンラビットが、逃げてきた方向から聞こえたのか?」
「当たり前だろ……お前、姿を見たのか?」
「いや……見たと言うか……その……すまん、その声の犯人は俺だ」
そう照れ臭そうに言ったエリアスを見て、アミリアは吹き出し、笑ったのであった。
「プッ…ハハハ、すまんエリス。あの声は無いだろう。ぎにゃ~だって……ハハハ」
「笑うなよ。何で俺も、あんな声を出したのか、分からないんだから」
「ああ、すまんな。じゃあ、その刀で、ホーンラビットを殴って、気絶させてくれるか?
処理の方は、私がするからさ」
「……ああ」
そう言って、ホーンラビットに、刀を向けたエリアスの目には、「ピー、ピー」と鳴きながら、まるで命乞いを言っている様に、見えたのである。
うっ……ダメだ、出来ない……
「すまん、アミリー。俺には、出来ない……」
「全く、情けない男だね、こんなの、クリスでもやるよ。ほら、貸しな」
そう言ったアミリアは、エリアスから刀を借りると、手際よく、ホーンラビットを解体して、行くのであった。
こんな時って、女性は強いな……俺には無理だ、あんな目をされたら、傷付ける事は出来ないよ。
そう思いながらエリアスは、アミリアとホーンラビットから滴り落ちる緑の血液を、見ていたのであった。
それにしても、核って呼ばれているこの物体は、何だろうか?
まぁこのおかげで、明かりには困らなくて助かるから、良いんだが。
そう思っていると、アミリアが言って来たのである。
「核が不思議か?実の所、私達も分からないんだよ。
ただ、壊せば中から、1シリングが出てくる。私が知っているのは、それぐらいだ。
よし、出来た。エリス、あの木の枝を斬ってくれ、それぐらいは出来るだろう?」
「分かったよ」
そう言ったエリアスは、居合い抜きで枝を斬ると、アミリアはその枝に解体した肉を、くくりつけると、言ったのである。
「エリス、その核を持って前を歩いてくれ。それは非常時の、明かりになるから大丈夫だろう。
道は教えてやるよ」
そう言ったアミリアは、道中薪をエリアスに拾わせながら、最初の野営地に、戻って行ったのであった。
アミリアは、野営地に到着すると、早速魔法で薪に火をつけ、ホーンラビットの肉を魔法で水を出して洗い流すと、2つは香草をたっぷりと塗り込み、もう1つはルタイ皇国で買ってきた、味噌をたっぷりとつけて、焼いたのであった。
その手際の良さを見ていたエリアスは、思わず感心して、思わず見入ってしまったのであった。
アミリーって、あの性格さえ何とかすれば、絶対に良い奥さんに、なったと思うんだけどなぁ。
まぁいきなり結婚して、まさかのクリスが生まれた瞬間に離婚とは、アミリーらしいっちゃ、らしいけどさ。
そう思いながら、見詰めている視線に、アミリアは気が付いたのか、少し照れながら言ったのである。
「な、何だよ…」
「いや、お前って、昔から黙っていたら、良い女なんだがな」
「あ?どういう意味だ、コラ」
「それだよ、それ。アミリーが結婚した時と、離婚した時は、皆が驚いたけど、離婚した時は、俺は「ああ、アミリーだな」って思ったよ」
「だから、どういう意味だって、言っているんだ」
「お前は、子供の頃から、何も変わって無いなって事さ」
そう言ったエリアスは、子供の様な笑顔で言ったのであった。
まるで今この時は、幼かった頃の様に、二人は懐かしく感じていたのである。
そう思っていると、何やら森の方から、足を引き摺る様な弱々しい音が。聞こえた様な気がしたのであった。
何かいる!
それは、二人が共通して、認識した事であった。
直ぐ様、昔懐かしい空気から、一気に緊張感が走り、お互いに、何も言わずに、火を消して武器を用意し、背中合わせになり、お互いの背後を守ったのである。
何かいる……これは、足を引き摺る感じで歩く音だ。って事は二足歩行タイプ、人間か?
しかし、この歩き方、フラフラと、そしてゆっくりと、引き摺る様に歩いている…アンデッド系の魔物か。
だが俺は、アンデッド系の魔物と戦った事が無い。
確か、アイリが言っていたが、アンデッドのゾンビは頭、スケルトンは、身体に有る石の様な物に、攻撃しなければ、他の場所はダメージが無いと言っていた……アミリーは、知っているのか?
そう思ったエリアスは、小声でアミリアに話し掛けたのであった。
「アミリー、アンデッド系と、戦った経験は?」
「……無い。お前は?」
「俺も無い。だがアイリから、弱点や注意点を聞いた事がある。ゾンビは頭、スケルトンは石の様な物を狙う。
魔物は、一体と思うか?」
「私が感じるのは、一体だ。お前は?」
「俺も同じだ……」
そうエリアスが、話している途中で、その魔物と思われる者が、ドサッと言う音を立てて、倒れた音が聞こえたのであった。
倒れた?……その後、動く気配は無い。
って事は、魔物じゃ無い!
そう思ったエリアスは、アミリアを見ると、アミリアも同じ認識の様であった。
二人は、お互いの意思を目で確認すると、何も言わず静かに、森の中に入って行ったのである。
エリアスとアミリアは、周辺を警戒しながら近付いてみると、8歳程の人間の男の子が、倒れていたのであった。
子供…何でこんな所に?
そう思いながらエリアスは、周辺警戒をアミリアに任せ、子供の脈を調べると、まだ微かに脈があった。
「アミリー、周辺は?」
「大丈夫だ。それよりも、何だよこの子供は?
この服も靴もボロボロだし、それより第一、服や靴のサイズが、全く合っていない……盗んできたな、これは。
どうする?この季節、ここで放置していたら、この子は、凍死するぞ」
「助けるしか、ないだろう」
そう言ったエリアスは、子供を抱えて、言ったのであった。
―――――――――
しかし、この子は、もしかして遭難したのでは、ないだろうか?
もしもそうなら、親の元に送ってやらなければ……途中の街で、保安隊に任せれば良いか。
しかし、まさかあのアミリーがなぁ。
そんな事を思いながらエリアスは、子供を抱き締めて、焚き火の前で暖めている、アミリアがいたのであった。
「ん?何だよ」
そう言ったアミリアは、少し照れながら言ったのであった。
「いや、この子は森で遭難したのかなぁって、思ってな」
「多分、違うと思う。
この子の服や靴は、どう見ても盗んだ物だ。もしも、遭難したのなら、盗んだ家で、助けを求めれば良い。
それをしなかったのは、人を避けなければ、ならない理由……盗賊か、人目を避けての逃走。
この場合は、後者だろうな。この子の手は、盗賊の手じゃない……どちらかと言うと、肉体労働者の様な手だ。
それに、この子の身体は、異常に痩せすぎている……森に入って余程、日にちが経過しているのか、それとも貧しい家の子か、それとも……」
アミリーの言いたい事は、分かる。
ガストン商会の不可解な帳簿に、この痩せすぎている、肉体労働者の様な子供。
これが、もしも繋がった時は、とんでもない大事件になってしまう。
ヒース、これでもガストン商会に留まるつもりか?
エリアスが、そんな事を考えていると、その子供が気が付いたのである。
「う……ん……」
「お、気が付いたか?」
エリアスは、子供に優しく言ったのであった。
「…う……ん……ヒッ!」
気が付いた子供は、明らかにエリアスに脅えて、アミリアの膝に、しがみついたのであった。
「ほら、エリス。お前の顔が恐いんだよ。
安心しな、あのおじさんは、顔は変な顔だけど、優しいから。
私はアミリアで、あの変な顔のおじさんは、エリアスって言うんだ。所で、名前は何て言うんだい?」
エリアスは、アミリアの言う変な顔に、不満を持ちながら、子供の前で怒る事無く、笑顔でいたのであった。
そして、子供も二人を見て、少し安心したのか、話し出したのであった。
「……テト」
「よしテト、お前お腹が減ってないか?肉しか無いけど、食べるか?」
そう言ったアミリアが、焚き火で焼いていた、ホーンラビットの肉を切り分けて、テトに差し出すと、最初は警戒しながら手を伸ばし、肉を掴んだ瞬間、勢いよく食べ出したのである。
「腹が減っているのは分かるが、いきなり食べると、身体がビックリするぞ。
ゆっくり、そして少しずつ食べるんだ」
そう言ってアミリアは、テトの頭を優しく撫でて言うと、テトは理解したのか、頷いたのである。
「良い子だ……所でテトは、どうして森の中に倒れてたんだ?」
「……逃げてきた」
「家出か?」
「違う…鉱山から逃げてきた」
そのテトの言葉を聞いた時に、思わずエリアスとアミリアは、顔を見合わせたのであった。
「テト、辛いだろうが、話してはくれないか?力になってやれるかもしれん」
アミリアがそう言うと、テトは暫く考えて、その重い口を開いたのであった。
「僕は、両親の居ない孤児で、シクサの村の、北方教会の孤児院で育ったんだ。
ある日、貴族に養子に出されるって聞いて、馬車に乗ると、そこは鉱山だった……そこでは、僕と同じぐらいの子供達が働かされていて、逃げたら残った者を全員殺すし、何処までも追い掛けて、捕まえて殺す、保安隊は、俺達の仲間だから諦めろと言われてた。
でも、ある日、新しく来たベリンダって女の子が、言ってた。
この帝国は、ザルツ王国と何年も戦争をしているって。
だから、僕達は一斉に逃げる計画を考えて、ザルツ王国に逃げようと考えたんだ。そこなら帝国と仲が悪いから、絶対に追っ手は来ないって思ったから。
でも……でも……」
そう言ったテトは、大粒の涙をボロボロと流し、言葉を詰まらせたのであった。
エリアスとアミリアは、この涙でその先は、どうなったのか、想像が出来たのであった。
アミリアはテトの頭を優しく撫でて、まるで母親の様に言ったのである。
「よく頑張ったな、テト。
お姉さんと、おじさんがお前を、絶対に安全な所まで逃がしてやるが、お前にも、手伝って欲しい事があるんだ。どうする?
これは、他の子供達を助ける事になるんだが、出来るか?」
テトは暫く考えて、大粒の涙を拭って、アミリアの顔を見て言ったのであった。
「うん、何でもするよ」
「よく言ったテト、それでこそ男だ。
明日は、私達の上司……偉い人に会ってもらう。そこで、お前が知っている事を、正直に話して欲しい。
後は、その悪い人達を絶対に捕まえて、同じ様な子供達を助けてやるから。
今日は、このままゆっくりと寝な。見張りは、そこのおじさんがやるから」
俺かよと、ジェスチャーしているエリアスを、無視してアミリアは言うと、テトは肉を食べ終わると、余程疲れているのか、アミリアの膝枕で、スヤスヤと寝たのであった。
「もう寝たか。余程疲れていたんだな」
そう言ったアミリアは、エリアスを見詰めて、真剣な顔で言ったのであった。
「エリス、これはガストン商会だけの、話じゃ無さそうだな」
「ああ、北方教会が絡んでくるし、最悪は北方連合が絡んで来て、戦争になるかも知れんぞ。
シクサ村って言えば、北方教会の司教が居て、住民全員が教会の信者だ……パナスの再来に、なるかも知れん」
エリアスが言っているのは、住民全員の虐殺であった。
「そうだな……皇帝陛下の許可が有れば、閣下はその方針を選ぶ可能性は高い。
それに、テトは保安隊も、ガストン商会の仲間だと言っていた。ナリアの中に入いるのは、危険かも知れんぞ」
「では、俺が一足先に、レイクシティに一人で戻り、リンを連れて来よう。そこで空間転移すれば、大丈夫だ。
そうだな、今から出発しても良いだろう」
「そうだな、それしか無いか。
しかしここは、街道から外れているとは言え、日が上れば街道には人通りもあるし、テトが見付かる危険は高い、早く戻れよ」
「分かったよ」
そう言ったエリアスが立ち上がり、出発の用意をしていると、テトが起きて、寝ぼけながら言ったのであった。
「……おじさん、何処に行くの?」
「おじさんは、安全な所まで、連れて行ってくれる人を、連れて来るよ。
アミリアのおばさん……」
「お姉さん!」
アミリーめ…変な所に、こだわりやがって。
「お姉さんの言う事をよく守って、静かにしているんだ、良いね?」
「……うん」
不安そうに言ったテトに、エリアスは、にこりと笑いかけて、馬に飛び乗ると、帝都ナリアに向かって、夜道を走り出したのであった。
―――――――――
見張りなんてやるのは、久々だな。
そう思いながらアミリアは、テトに膝を貸しながら、街道の方を警戒していたのであった。
やがて日が登り暫くすると、街道の方から人が往来する声が、聞こえだしたのである。
まずいな、そろそろ森の中で隠れた方が良いか。
「テト、起きてるか?」
「うん……」
「人が多くなって来た。そこの森に入って隠れるぞ」
「うん。おじさんは?」
「もうすぐ来るよ、ほらこの服を着な。そのボロボロの服よりは、暖かいはずだから」
そう言ったアミリアは、マジック・バックから、軍服のコートを出すと、テトに着せたのであった。
テトの身体のサイズには、合っていないのだが、テトはコートを着ると、幸せそうに、アミリアに言ったのであった。
「お姉さん、暖かいね」
「そりゃ良かった」
そう言ったアミリアは、テトの頭を優しく撫でたのである。
さてと、私達は森に入れば良いだけだが、馬をどうするかだな。
そう考えていると、背後の森から、人の気配をアミリアは感じたのであった。
誰かいる!
そう思ったアミリアが、腰のマジック・バックに手を入れて、大剣を掴み警戒していると、4人の男が出てきて、その内の一人が、アミリアに話し掛けてきたのであった。
「よう、こんな所で、何しているんだい?」
コイツらガストン商会の者か?
「何だって良いだろ。早く向こうに行きな」
「威勢の良い、姉ちゃんだな……ん?そのガキの着ている服は、連合軍の軍服だな。
階級は大佐で、その部隊章は魔女騎士団……雷帝、アミリア・マクレガーか!」
「チッ、私も有名人になったもんだね」
「まぁ良いや。マクレガー大佐よ、その子供を渡してくれねえか?もしかしたら、俺達の探している子供かも知れないんでな。
嫌とは言えねえよな。まさか軍人が法を犯すなんて、重罪だからな」
コイツら、やっぱりガストン商会の者か。
どうする?ここで戦っても良いが、テトが邪魔だ……ん、空間転移?
アミリアの視界には、話している男の頭上に、空間転移の黒い煙が、見えたのであった。
リンか!
そう思ったアミリアは、すかさずテトを抱き締めて、男達を見ない様にした瞬間、空間転移から槍が出て来て、男の頭蓋骨を、吹っ飛ばしたのであった。
「な、何だよ!」
「どうして!」
何が起こったのか分からない男達の目の前に、空間転移からリンが出てきたのであった。
「貴様、こんな事をして、ただで……」
リンに向かって威嚇している男の胸に、無情にもリンの槍が突き刺さる。
その光景を見た、残る二人の内、一人は森へ逃走したのだが、リンの空間転移の攻撃で、背後から心臓を貫かれて、あえなく倒れたのであった。
そして、一瞬で3人を殺したリンの姿に、腰を抜かした男に対して、槍を突き刺そうとした瞬間、アミリアが止めたのであった。
「リン、そこまでだ!」
アミリアの声で、リンの槍の穂先が、男の顔に当たる手前でピタリと止まり、男は放心状態に、なったのであった。
「そいつは、何か情報を、持っているかも知れない。このまま連行する」
アミリアがそう言うと、リンは頷いたのであった。
やがてエリアスが、やって来ると、そのままアミリア達は、リンの空間転移でレイクシティに戻って行ったのであった。




