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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
89/464

疑惑

 



 東暦2年1月1日元旦、左近は大晦日、家族と飲み明かし寝室で、酔い潰れて寝ていた。


 お、久々に雲の上のこの景色。って事は……

「新年おめでとう」


 その言葉を聞いた左近が振り返ると、そこにはいつものオバチャン神様が、いたのであった。

「新年早々の初夢で、あんたかよ……マジで最悪だ。で、何だよ今回は?」


「あんたね、これでも私は神様なの、分かる?

 新年の初夢で神様拝めるなんて、こんなにも、ありがたい事はないでしょ!」


「そう言えばそうだな。初詣に行かなくても、そっちから、来てくれるなんて、楽で良いや。

 まぁ、拝む気にはなれないけど」


「あんた、本当に悪口しか言えないの?

 まぁ良いや、とりあえずは、あんたに頼みがあって、ここにやって来たわけよ」


「頼みが?フレイアじゃ、ダメなのか?」


「あの子じゃ、ちょっと難しいかも、知れないのよ。

 今回は、あんたに直接言った方が早いと思って、こうやって出てきたの。

 実は、最近ちょっとダンジョンの数が、増えているみたいなの。

 まぁあのパーヴェルが、作ったんだと、思うんだけどね」


「みたいなのって、変な言い方だな」


「正確に言うとね、ダンジョンが増えたのは、分かるんだけど、正確な数と場所が分からないのよ。

 どうも、何処かに隠されている、みたいなのよね」


「そのダンジョンを探せって事か……でも、大陸全部ってのは無理だぞ」


「まぁそれは、私も分かってるし、そんな無茶な事は、言わないわよ。

 その隠されたダンジョンを、1つでも発見してくれたら、何で私に分からないかが、分かると思うから」


「まぁそれは、良いんだが……俺が動けるのは、連合国内か友好的な所だけだ。

 それと、1つ疑問何だが、何でダンジョンの情報が、必要なんだ?お前っていつも天界……ここで、ふんぞり返っているイメージなんだが」


「あんた、神様を何だと思っているのよ。

 私はダンジョンが出来ると、IDCUの人に、御告げで知らせているんだから。

 それに行動が限られているのは、分かってるし、この話も一応IDCUの人に、御告げで話しているから、大丈夫。

 でもあそこの人達って、場所が分からないと、動かないみたいなのよね。

 だから、貴方に頼んだ……」

 そう神様が話している途中で、左近の意識は、遠くなったのであった。


「……なた、あなた、朝ですよ」


 セシリーか?そうか、セシリーに、起こされたのか。

「ダメだってセシリー。私に任せて」


「起きて……」

「朝ですよ~!」


「へぽぉ!」

 起きていると言おうとした左近の腹に、ラナのジャンピングエルボーが、まともにヒットし、腹の底から変な声が出たのであった。


 こ、この爆乳娘は、手加減って知らんのかい。

 左近が腹を押さえて、悶絶していると、明るい声でラナが言ったのであった。

「ね、セシリー、こうすれば一発よ」


「いや、やる前から、起きてた様な……」

 はい、その通りですセシリーさん。


「あれ、そうなの?でも、これなら一発で起きるから大丈夫。

 そんな事より、もう皆集まりだしているよ、早く準備しなきゃ」


「い、いや……分かるけど、次からもう少し、優しく起こしてくれな」

 そう言って左近は、起きて準備しだしたのであった。


 この日は、佐倉家の家臣となる者の、初の集まりで、本日よりこのヴァルキア地方は、佐倉家の領地となる為に、顔合わせの意味をかねて、左近は主な家臣を集めていたのであった。


 左近は、裃姿で大広間に入ると、そこには、ルタイ人のみならず、様々な人種が集まっていたのである。


 元から居る、十字軍の者に加えて、主だった家は、柳生家、三好家、鬼島家、家長家、佐久間家、ウッド家等と言った、元々左近衛府の者達が、佐倉家の臣下となり、弾正の藤永家も臣下になった。

 そして、セレニティ帝国からは、マクレガー家と魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)全員が。

 ルセン王国からは、好戦的な一族で有名な、ジル・レイズ中尉のレイズ家。

 ペスパード王朝からは、アリナ・マイアー大尉のマイアー家。

 ザルツ王国からは、ネナド・ザザ子爵のザザ家が、領地を各国家に返却し、佐倉家の臣下となったのである。

 そして、黒騎士団(ブラック・ナイツ)もママ以外の者は、臣下となったのだが、そこにエリアスの姿は無かったのであった。


 彼は、帝国の臣民であり続けたいとの、信念の為に、左近の臣下と、ならなかったのである。

 しかし、左近はそれでも良いと思っていた。

 臣下と言っても、ほとんどは連合軍に出向と言った形になる為に、あまり今までと変わらないので、あったからだ。

 ただ所属する所が違うだけで、今まで通り親族として接するのに、変わりは無かった。


 左近は、集まっている大広間の壇上に上がると、深呼吸して言ったのであった。

「え~皆様、明けまして、おめでとう御座います」

 その左近の言葉に、広間がシーンと静まり、寒い空気が流れた。


 うわ、マジかよ。豪快にスベってしまった。

 ボケたつもりも無いんだが。ここは、気を取り直して……

「まぁ何だ……皆、本当によく集まってくれた。

 ルタイ皇国だけでは無く、領地も地位も棄てて、各国から集まってくれて本当に感謝する。

 そして、皆を快く送り出してくれた、各国にも感謝し、心からの礼を言わせてくれ、本当にありがとう。

 先ずは、佐倉家の基本的な理念を皆に伝えたい。

 大一大万大吉……つまりは、皆は一人の為に、一人は皆の為に、行動すれば、皆が幸せになると言う事だ。

 誰かが困っていたら、皆で助けてやり、お互いを支え合う、そう言う事を心掛ける様に。

 そして、集まってもらった皆は、それぞれ腕に覚えのある者達の様だが、俺の娘婿のこの兵庫も腕に覚えの武芸者だ。

 遠慮はいらん、もしも戦いたい者がいれば、俺に言ってから、戦ってもらってかまわない。

 兵庫も、それを望んでいるだろう?」

 そう言って左近が兵庫を見ると、兵庫はニヤリと、笑みを浮かべたのであった。


「そして、今まで俺の配下として戦ってくれた、十字軍の者達に、俺からの感謝の気持ちとして、金一封と名字を授けたいと思う。

 クロエ少佐、フンメル中尉、ミリア少尉、前に出てきてくれ」

 左近がそう言うと三人は前に出てきたのであった。


 これは、三人に事前に伝えていた事で、十字軍全員に名字に与える為に、代表して三人にこの場で与える事に、していたのであった。

 これには、佐倉家独特の問題があった為である。

 佐倉家は、人種や種族が多彩で、更には古参の者は殆どが、傭兵あがりであった為に、名字は持っておらず。

 元左近衛府のルタイ人や、他の者は貴族であるため、にどうしても名字を持たない彼等を見下してしまう傾向がある。

 かといって、全員の名字を無くすのは、家を取り潰す様で、出来ない。

 だとするなら、十字軍全員に名字を、つけてしまおうと言うのが、左近の目的であった。

「クロエ少佐、前に」


「はっ!」

 そう言ったクロエが、前に出て来ると、左近の前で跪いたのである。


「クロエ少佐、お前は俺達と一緒に、ダンジョンに入ったり、ナッソー防衛戦や数々の戦で、父のマルディ達と一緒に俺に尽くしてくれた。

 感謝の気持ちを込めて、お前にマイスナーの名字を与える。

 以後はクロエ・マイスナーと名乗り、また俺を助けてくれ」


「はっ!このクロエ、マイスナーの名字を授かり、以後はクロエ・マイスナーと名乗り、今後も忠義に励みます」


「次、ミリア少尉、前へ」


「はっ!」


「ミリア少尉、お前は十字軍の騎馬隊の副隊長として、我妻のアイリスを助け、妻が妊娠してからは、アイリスに代わり、お前が騎馬隊を率いて俺を助けてくれた。

 お前には、フィッシャーの名字を与える。

 以後は、ミリア・フィッシャーと名乗り、今後も頼むぞ」


「はっ、今後も戦の時は、お任せ下さりませ」


「次はフンメル中尉、前へ」


「はっ!」


「フンメル中尉、お前にはアルム砦の戦いで、助けられたばかりか、ナッソーの警備に数々の戦と、苦労をかけたな。

 お前には、ヘインズの名字を与え、今後はフンメル・ヘインズと名乗るが良い」


「はっ、閣下から戴いたヘインズの、名に恥じない働きをさせて頂きます」


「では、以上の者の祝いもかねて、今日はたらふく飲んで食べてくれ!」

 左近のこの言葉で、メイド達が料理を運んできて、宴が始まったのであった。


 この宴の中で、ミリアと清信が、兵庫と戦わせろと左近に言ってきて、左近がチラリと兵庫を見ると、笑みを浮かべて左近に言った。

「いつでも良いでしょう。何なら今から表に出て、立ち合いましょうか?」


 その言葉で、二人の闘志に火がつき、三人は中庭に、出ていったのであった。


 そんな中で、弾正が左近に、話し掛けて来たのであった。

「御館様、本日は息子も家臣にしていただき、誠にありがとう……どうされましたか?」

 そう言った弾正の目の前の左近は、いかにも気持ち悪いと言った、顔をしていたのである。


「弾正、お前にその喋り方は、似合わんぞ」


「人が真面目に、話しておるのに、お前は何でいつもそう……」

「それよそれ、弾正には、その話し方がお似合いだ」


 左近にそう言われて、弾正は何処か気が抜けた感じがして、言ったのであった。

「もういいわ。御主、そう言えばロックツリー商会のロビン会頭に、色々な鉱石を集める様に、言っておるそうだな?」


 こいつの耳は、地獄耳か?

「さすがは弾正だ、情報が早いな」


「硝石を何とか手に入れて、火薬を作り、鉄砲の開発か?」


「その通りだ。弾正、お前は今後、鉄砲隊の創設に関わってくれ。

 お前は鉄砲や火薬の開発、俺は資材の調達の方針でいく。

 治安部隊は、お前の息子の久恒に任せれば良いだろう」


「承知した。これでワシも歴史に名を残せそうじゃ」

 そう言った弾正は、笑顔で言ったのであった。



 その日は、宴で盛り上がり、清信とミリアは見事、兵庫に返り討ちにあい、兵庫の武名は鳴り響いたのである。




 ―――――――――




 左近達が宴で盛り上がっている頃、同じ左近の邸宅にあるママの一室で、ママとハンザそして、エリアスがいたのであった。


 ママは不機嫌そうに、葉巻の煙をエリアスに吹き付けて、静かに言ったのであった。

「ねぇ大佐、もう戦争が終わって4ヶ月は過ぎたけど、いつになったら、ガストン商会のナワバリを、私達にくれるんだい?」


「いや、まぁ……もう少しだけ、待ってくれないか?」

 そう言ったエリアスは、まるで借金取りに、脅されている者の様に、なっていたのである。


「まぁ良いだろう、私は気が長い方だからね。

 でも、このままズルズルってのも、良くないし。私もナメられるのは、好きじゃない。

 だから次の4月迄だ、4月迄に何とかしなけりゃ、あのアリエルって子も、大佐も分かってるね?」


「ああ……分かったよ」

 そう言ったエリアスは、そのまま部屋を後にしたのであった。



「ママ、アリエルは、何とかならねえですか?」

 思わずハンザは、そう呟くと、ママは思わず葉巻を、落としそうになりながらも、言ったのであった。


「ハンザ、あんた……そんな奴だったかい?」


「い、いや、忘れてくれ」

 そう言ったハンザは、何処か照れており、シルクハットをクイッと下げて、目を隠したのであった。


 へぇ、あの冷酷なハンザがねぇ

 そんな事を考えながら、ママはハンザを、見つめていたのであった。




 ―――――――――




 エリアスは、どうするか、頭の中で考えながら、聖導騎士団の詰所に一人で座っていた。


 どうするかだな……あのママの事だ、メンツにはルタイ人以上に拘るから、必ず俺に刺客を送り、俺は大丈夫だろうが、アリエルは確実に殺されるだろう。

 それは、メデル子爵との約定を違える事になるので、避けなければ……

 しかし、ヒースの奴、本当に裏切るかな?無理だろうな。アイツは昔から、ガストン商会が家の様な奴で、変に義理堅いからな。


 でも、一番叩けば埃が出るのは、ヘラルド・ガストン会頭だ。

 あの男は、昔からキナ臭い噂が常にある。そこをつけば、何とかなるかも知れないが、問題はヒースの処遇だ。

 そう言えば閣下が、准将にどんな手を使ってでも、ヒースを手に入れろと言っていたな。

 仕事が始まったら、准将に相談してみるか。

 そう思い立ったエリアスは、まだ酒が残っているのかと思いながら、宴に顔を出しに行ったのであった。




 ―――――――――




 1月5日、エリアスは清信に会いに行くと、秘書に左近の元に行ったと聞き、エリアスも左近の元に向かったのであった。


 エリアスは扉をノックし中に入ると、蘭とヴィオラが出迎えたのであった。

「これは、ノイマン大佐。今日はどうされました?」


「ちょっと閣下と准将殿に話があってな……大丈夫か?」


「じゃあ、聞いて来ますね」

 そう言った蘭は、中に入ると暫くして出て来て言ったのである。


「大佐、どうぞ」


「ああ、ありがとう」


 そう言ってエリアスが中に入ると、中には左近と清信そしてキースがいたのであった。


 キース内政長官?何で内政のトップが居るんだ?

 そう思ったエリアスに、左近が話し掛けたのであった。

「これは義父上。良かった、実は義父上に聞きたい事が、あるんですよ」


「聞きたい事?何でしょうか」

 そう言いながら座ったエリアスの目の前に、1枚の紙が置かれたのであった。


「義父上は、ラボックの村近郊にある、鉄鉱石の鉱山が在るのは、ご存知ですか?」


「ええ、確かガストン商会の鉱山ですね」


「実は、その鉱山が、売りに出されておりまして、皆で頭を、悩ませていたのですよ」


「どう言う事でしょうか?」


「実は、ある計画の為に、鉄が大量に必要で、その為に、ロビンのロックツリー商会に鉱山の経営をさせようかと思っていたのですが。

 売りに出されている鉱山が、その鉱山だったのです。

 それは、何ら不思議は無いのですが、その値段がたったの60万シリングです。

 埋蔵量を調べる山師の話では、この鉱山の埋蔵量は、この後380年は採掘しても、大丈夫だそうですので、価格が安すぎて、何か裏があるんじゃないかと思い、調べたのですよ。

 そしてガストン商会の帳簿を手に入れてビックリ、人件費があまりにも安すぎる。

 奴隷であっても、税金が発生する為に、税金の費用が発生するのですが、セレニティ帝国で調べても、それが全く無いのですよ」


「それは、給料の発生しない、奴隷では無い、誰かを使っていると、言うことですか?」


「その通りです……例えば、奴隷契約をされていない者をね」

 そう言った左近は、冷たい目でエリアスに言ったのであった。


「それは、奴隷以外の強制労働は、セレニティ帝国の法に触れます」


「そこなんですよ問題は。最初は、鉱山を購入すると、ガストン商会が嫌がらせをしてきて、購入者を追い出して、また別の誰かに売るのかと警戒して、色々と調べていたのですが。

 この事が分かり、更に皆で頭を悩ませていたのです……義父上に、この謎が分かりますか?」


「……周辺で、人拐いの話は?」


「全く無しです。因みに、鉱山夫のドワーフも居たとの、確認も取れませんでした」


 何だと?では、存在しない者の手で採掘されていたと言う事か?そんな馬鹿な話は無いだろう。

 全く分からん。だがヒースに聞けば何とかなるかも。

「全く分かりませんが、ヒメネスに聞いて見ましょうか?」


「これは下手をすれば、越権行為になるので、慎重に事を運びたいのですが……」

 そう言った左近は、難色を示したのであった。


「分かりました、では帝国人の私が、現地に行って、鉱山と帳簿の件を調べましょう」


 エリアスがそう言うと、左近は暫く考えて言ったのであった。

「じゃあ、アミリアか、ガブリエラのどちらかも、連れて行ってください。

 何かあった時に、連絡の取れる者が、いた方が良いでしょう」


「分かりました」


「ところで、義父上の用件とは、何ですか?」


 そうだった、忘れていた。

 まぁでも、この事が上手くいったら、ママとの約束は守れそうだし、他も上手くいくだろう。

「いえ、また帰ってからにします。では、早速行って来ますよ」

 そう言ったエリアスは、左近の執務室を後にし、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の詰所に行ったのであった。



 扉の向こうから、女性の明るい声がかなり聞こえる。

 エリアスは、帝国時代から、この魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)が苦手であった。

 ただでさえ苦手な女性の集団に、中に入ると女性騎士達に、変な気を使われて、アミリアと二人っきりにされるのだ。


 何だか、嫌だな。

 そんな気持ちを押し殺して、エリアスは扉をノックしたのであった。


「は~い、どちら様?あ、大佐。団長ですね、どうぞこちらへ」

 そう言って扉を開けた騎士が、エリアスの顔を見た瞬間に、目をキラキラさせて、エリアスの腕を掴んで中に無理矢理入れると、アミリアの所に引っ張って行ったのであった。


「い、いや、あのな……」

「もう良いですから、分かってますよ。団長、ノイマン大佐ですぅ」

 そう言うとエリアスは、騎士に押されて、団長室に無理矢理入れられたのであった。


 扉の向こうで、数人が息を殺して、聞き耳を立てているのが分かる。

 この状況は、マジで苦手だ。

 そう思っているエリアスに、アミリアがぶっきらぼうに、答えたのであった。

「どうした、エリス」


「いや、実はな、閣下からの命を受けてだな、お前かリルソー少佐と一緒に、セレニティ帝国に極秘で行って、調べて欲しい事があるそうだ」


「調べて欲しい事?」


「そうだ……ヒメネスのガストン商会だよ」


 そのエリアスの言葉を聞いた、アミリアは団長らしく、即断で決めて言ったのである。

「分かった、私が行く。長くなりそうか?」


「場合によってはな」


「分かった。ガブリエラ!そこにいるんだろ?」

 そう言ってアミリアが叫ぶと、扉が開き、慌てたガブリエラが、入って来たのであった。


「は、はい!」


「私は、暫く極秘で動く。後は任せたよ」


「はっ!」


「行くぞエリス、内容は道すがら聞く」

 そう言ってアミリアは、騎士団の詰所を飛び出し、エリアスはアミリアを追いかけたのであった。




 どうしたアミリー?何でそう焦っている?

 エリアスは自分の前を、急いでセントラル城に向かっているアミリアに、肩を掴んで言ったのであった。

「アミリー、ちょっと待てよ!何にをそう焦っているんだ」


 そう言って、無理矢理振り向かせた、アミリアの目には、涙がうっすらと、浮かんでいたのであった。

「アミリーお前……」


 そう言った時にアミリアは、エリアスの胸ぐらを掴んで、言ったのであった。

「お前こそ、どうして平然と、していられる!

 閣下がガストン商会を調べろと言う事は、ガストン商会は閣下に目をつけられたって事だ!

 って事は、ヒースの命が危ないって事なんだよ。

 あの閣下は、潰すと決めたら、自分の有利になる様に誘導して、偶然だと思っていても、それが閣下の策略の様に全てが動く……私は正直、あの人が恐い。

 そんな、閣下がガストン商会に目をつけたんだ、何としてでも、ヒースだけは、助けてやらないと」


 そっか、アミリーはヒースの事が、本当に心配だったんだな。

「それは、安心しろ。

 閣下は、ヒースは自分の配下に欲しい、だから何とかしろと、准将に言っていた。今回は大丈夫だよ」


「本当か?」


「ああ、とりあえずヒースに会いに行くか。道中で任務の内容を話す」


「……分かった」

 そう言って二人は、セントラル城に向かいながら、話をしたのであった。





「じゃあ、そのラボック鉱山の調査と、帳簿の謎を探れば良いんだな?」

 そう言ったアミリアは、何処か少し安堵しながら言ったのである。


「そうなのだが……」


「そうだな、閣下はどうやって、帳簿を手に入れたのか分からないが、その帳簿から推測されるのは、奴隷契約のされていない者が、強制労働させられているって事だ。

 これが本当なら、死刑にはならないが、一人につき20年の懲役……更にあの鉱山の規模だと、千年の懲役刑は行くぞ。

 それに主犯クラスは、それに加えて、あのおぞましい仮面幽閉の刑だ」


「ああ……あの熱した鉄の仮面を、顔に張り付けて、固定したままで幽閉する、見るのも嫌な刑だな」


「ヒースは、ガストン商会の幹部だ。いくら部署が違う、知らなかったと言っても、幹部は幹部……免れる事は無い。

 閣下の調べでは、周辺で人拐いの事件は、ほとんど無いって話だし……そもそも、ガストン商会はどうしてそんなにも、危ない橋を渡っているんだろ?

 そんな事をしなくても、鉱山事業に売春、カジノ、そして、ヒースの担当している人材派遣業等で、相当な利益があると思うのだが」


 確かに、アミリーの言う事は分かる。

 ガストン商会は、何故その様な危ない橋を渡ってまで、資金を集めているかって事だ……全く分からん。

「全く分からんな」


「ハハハ、閣下も何でお前に、こんな命令を下したのだろうな。

 とりあえずは、ヒースだ。本当に、これが私達の思っている様な事なら、アイツを何とかしないと」


「そうだな、先ずは、キングスベリーに行くか」

 そう言ったエリアスとアミリアは、ゲートを使って、キングスベリーに向かったのであった。




 ―――――――――




 キングスベリー。

 ここは、清信率いる左近衛府軍が、ザルツ王国内戦時に、水攻めの為の堤防工事を行ってから、その資金でヒメネスが、キングスベリーの開発を行い、その為に街は好景気になり、セレニティ帝国の中でも帝都ナリア以上に、賑わいをみせていたのである。

 そして、帝国第二の都市になりつつある、この都市を左近は重要視し、ゲートを設置していたのであった。


 エリアスとアミリアは、キングスベリーに到着すると、目の前の景色を見て驚いていた。

「おいエリス、キングスベリーって、こんなに賑わっていたか?」


「いや、どちらかって言うと、田舎町って感じだったのだが」

 そう思って唖然としている二人に、露店の男が話し掛けて来たのであった。


「おう、そこの軍人さん。あんた達は、帝国人かい?」


「ああ、そうだが……昔は、もっと寂れていた様な、感じだったのだが」

 そう言ったエリアスに向かって、男は得意気に言ったのである。


「この間の戦争で、ここにルタイ軍が駐留して、その資金で変わったんだよ。

 それもこれも、ガストン商会のヒメネスさんのおかげさ。今度このキングスベリーの、市長にって話も有るんだぜ」


 マジかよ、ヒースって、そんなにも優秀だったのか。

 ライと同じぐらい、頭が良いって事は知っていたけど、仕事の事は全く知らなかった。

「そのガストン商会の建物は、昔と同じ所に在るのか?」


「いや、今はここを真っ直ぐ行って、2ブロック先を右に曲がると、大きな屋敷が見えてくる。

 そこが、ガストン商会の建物で、ヒメネスさんも、そこに住んでるよ」


「ありがとう、行って見るよ」

 そう言ったエリアスは、アミリアと男に言われた様に、進んで行ったのであった。




「確かここを右に曲がって……おい、マジかよ」

 そう言ったアミリアが言うのも、無理は無かった。

 建物は、未だ工事中ではあるのだが、小さいながらも、レイクシティのセントラル区に在る、各国の屋敷と同じ様な屋敷であったからだ。


「ヒースの奴は、本当に凄いな……じゃあ行くか」

 エリアスは、そんな事を言いながら、ヒメネスの権力に、驚いているアミリアの肩をポンと叩いて、屋敷に向かって行ったのであった。




 何だか、何処かの領主の様だな。

 そんな事を考えながら、エリアスは門の両脇にいる、男に話し掛けたのであった。

「ガストン商会のヒメネスの屋敷は、ここで間違いないか?」


「……あんた達は?」

 そう言った男は、明らかに警戒しながらエリアスに言った。


「俺は、連合軍のエリアス・ノイマン大佐で、こっちの女性は、同じく連合軍のアミリア・マクレガー大佐だ。

 今日は、ヒメネスに話があって、やって来た」


「ヒメネスさんにねぇ……その軍服も本物かねぇ?」


 まだ、疑っているのか?

「ヒメネスに、エリスとアミリーが訪ねて来たと言ってくれ、それで分かるはずだ」


「……分かった。おい!」

 男は、半信半疑ながらも、もう一人の男に合図すると、言われた男は、屋敷に向かって走って行ったのであった。


 そして暫くすると、屋敷の扉が開かれそこに、ヒメネスが出て来て、手招きしなが大声で、言ったのである。

「エリス!アミリー!入って来てくれ!」


 その言葉を聞いた門番の男が驚くなか、エリアスとアミリアは、ヒメネスの元に行ったのであった。





 数々の、豪華な調度品の並ぶ廊下を通り、応接室に案内された二人は、豪華なソファーに腰掛けると、すぐにメイドが入れた、緑茶の入ったティーカップが出されたのであった。

「これは、ルタイ皇国の緑茶って飲み物だ、飲んでくれ。

 まぁお前達の所は、閣下をはじめルタイ人が多いから、珍しくは無いと思うが」


「いや、そんな事は無いよ。しかし、豪華な家だなヒース」

 そう言ったエリアスは、緑茶を一口飲んで、言ったのである。


「これな。何だかキングスベリーの市長が、ヒメネスさんの様な御人は、豪華な屋敷に住むのが常識って言って、土地と資金を提供してくれたんだよ。

 それに、キングスベリーの市街地は大方、建物を建て終わったんで、新しい仕事が出来たから、こちらとしても、大助かりだ。

 そう言えばエリス、お前の初孫も、もうすぐ生まれるんじゃなかったか?」


「ああ、来月らしい」


「それは、おめでとう。あの閣下とアイリの子供だ、男なら確実に女泣かせになるだろうな。

 それにマクレガー家は、閣下の佐倉家の臣下に、なったんだろ?婿養子ももらったし、これから、マクレガー家は、大きくなるぜ」


 ヒメネスがそう言うと、アミリアが持っていたカップの持ち手が、ピシッと言ってヒビが入り、アミリアは声を震わせて、言ったのであった。

「それだがな、クリスと婿養子の佐平次の奴、子供が出来たんだよ」


「それは、おめでとう」

 そう言ったヒメネスと裏腹に、アミリアの額には、青筋が出ていたのであった。


「おめでとう、じゃねえよ……どう計算しても、結婚してからじゃ無いんだ……」

 そう言うとアミリアは、ティーカップをプルプルと震わせて、言ったのである。


 あ、佐平次とクリスの二人、言いやがったんだな。

 今後その話題に触れるのは、厳禁だな……ヒースも同じ考えか。

 目の前のヒメネスは、その細い目でエリアスに合図を出していたのであった。


 話題を変えるか。

「ヒース実はな、今日はお前に、聞きたい事があって来たんだ」


「聞きたい事が?」


「そうだ。ガストン商会のラボック鉱山が、今売りに出されている事を、お前は知っているか?」


「ラボック鉱山が?そんな馬鹿な。あそこは、うちの鉱山の中でも、断トツに埋蔵量がある鉱山なんだ。

 あのオジキが、簡単に手放すハズが無い」


「いや、それが本当の話なんだよ。しかもたったの60万シリングで、販売されていた」


「バカな!彼処の埋蔵量からして、そんなにも、安いハズが無い!」

 そう言ったヒメネスは、声を荒らげて言ったのであった。


「それが本当の話なんだ。

 実はな、閣下がある計画の為に、鉄の安定供給が必要で、鉱山を探していたのだが、そのラボック鉱山が、売りに出されている事を知り、購入したいが、これはガストン商会の、罠じゃないかと、疑っているんだよ。

 例えば、購入者に嫌がらせをして、金だけ奪って、そこから追い出すとかな」


「確かに、有り得る話だが、さすがに閣下相手に、そんな事をやったら、命がいくつ有っても足りないぞ」


「そうだな、それは俺も、そう思うんだが……ここからが本題だ。

 実はな、閣下がガストン商会を警戒して、帳簿等を手に入れて調べて見ると、人件費が異常に安い。

 これは変だと思い、帝国に問い合わせても、奴隷の税金も徴収されていない……だが採掘は、されている……」

 そう言ったエリアスは、ヒメネスを見つめて言ったのであった。


「奴隷契約のされていない者の、強制労働か……」


「確信は無いが、疑ってはいる。

 知っての通り、今連合国内では、ルタイ皇国とセレニティ帝国の2ヵ国は、戦を乗り越えて、深い蜜月の関係になろうとしている。

 その事もあってか、閣下はこの事を見逃さずに、皇帝陛下に報告し、要請があれば、ガストン商会の取り締まりに手を貸すだろう。

 そうなれば、後は分かるよな」


「ああ……閣下からは、法を守らなければ、容赦なく潰すと言われている。

 それは多分、セレニティ帝国の国内であっても、そうなんだろうな。

 しかしオジキは、敬虔な北方教会の信徒だ。そんな、オジキが、奴隷契約されていない者を、強制労働させるなんて、ありえない」


 その言葉に、アミリアはピクリと反応し、言ったのであった。

「ヒース、北方教会は、人間以外の者は、悪魔の使いとして、北の方じゃ殺しているそうだな。

 それに、同じ人間だったとしても、悪魔に乗り移られたとして、拷問も殺しも何でも有りだ。

 そんな宗教を信仰している者が、人間以外の者を強制労働していても、何とも思わない……いや、むしろ神の神罰だとか何とか言って、率先してやるんじゃないか?」


 アミリアに、そう言われたヒメネスは、何も言い返せずにいたのであった。

 それを見たエリアスは、更にヒメネスに言ったのである。

「閣下は、俺達にガストン商会の事を調べる様に言った。って事は、暗にお前を助けろと、言われているんだよ。

 ヒースどうだろう、俺達に協力してくれないか?」


 そう言われたヒメネスは、唇を噛み締めて言ったのであった。

「俺は……俺は、オジキを裏切る事は出来ない……それが、いくらお前達の頼みでもだ」


 そうヒメネスが言った瞬間、アミリアは立ち上がりヒメネスをぶん殴ると、倒れたヒメネスの胸ぐらを掴んで言ったのである。

「おいヒース、これが、どんだけヤバい事なのか、お前は分かって言ってるのか?

 うちの大将が、ガストン商会に目をつけたんだ、このまま居れば、お前もどうなるか、分かってるんだろ?

 あの大将が、殺すにしても、普通には殺さないぞ」


「ああ、分かってるさ!でもな、オジキには、幼い頃から育ててもらった恩がある。

 それに、もしかしたら、何か違った理由で、人件費が出なかったかも知れないし、もしそうだとしても、説得して、何とか出来るかも、知れねえじゃねえか!」


 ヒメネスは、涙を浮かべながら、必死で言ったその言葉に、エリアスとアミリアは耳を疑った。

 幼き頃より、ライリーと1、2を争う冷静な知恵者が、こんなにも何も見えずに、愚かな選択をしたからである。

「お前は、死ぬ気なのか?」


 そう言ったアミリアの言葉に、ヒメネスは何も答えずに、ただアミリアの瞳を、見つめていたのであった。


 エリアスは、こう言った症状の人間を、よく見ていた。戦場で、盲目的に何かを信じて、死んでいく者の姿を。

 戦場で重要なのは、如何に冷静に分析して、情報を精査し、例えどの様な答えになっても、受け入れ対応するのが、エリアスであった。

 だが、こう言ったヒメネスの様な男は、誰かを頑なに信じ、都合の良い事しか信じない、真っ先に死ぬ者であり、こう言った者には、何を言っても無駄なのである。


「アミリー、ここは一度出直そう」

 エリアスは、悔しさで、胸を押し潰されそうになりながらも、言ったのであった。


 その気持ちを察してか、アミリアは、ヒメネスの胸ぐらを掴んでいたその手を離し、振り返りヒメネスに言ったのである。

「ああ……」

 僅か一言、そう言ったアミリアの頬には、涙が流れていたのであった。

 そしてアミリアは、一度も振り返る事無く、そのままエリアスと出て行ったのであった。



 お前達の気持ちも分かるよ……でもな。

 そう思ったヒメネスは、切れた唇の血を拭うと、叫んだのであった。

「これから帝都ナリアに向かう、旅の準備をしろ!」




 ―――――――――





「ヒースの奴、何であんな事を……」

 アミリアは、屋敷から出て、涙を拭うと悔しそうに言った。


「分からん……分からんが、一度ラボック鉱山に行って調査してみよう」


「そうだな」

 そう言った二人は、ゲートに向かって行ったのであった。



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