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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
88/464

暗躍

 



 東暦元年、12月5日。

 その日は、昨日までの嵐とは、打って変わり、太陽が顔を出し、まるで今晩の左近の結婚式を、祝うかの様であった。


 その晴天の下で、早朝よりセントラル城は、人々が慌ただしく動いていたのである。

 この日の夜から、セントラル城の大舞踏会場で、左近とセシルとセシリーの結婚式が行われる為、その準備でまさに戦場の様であった。


 その戦場の司令官は、もちろんエルマである。

 彼女は、制作総指揮を任されており、自らの趣味の為に、この結婚式にただならぬ気合いを、入れていたのであった。


 その戦場の中に、一人死にかけの負傷者の様な、パンドラがフラフラとやって来たのである。

「エルマァ~何とか出来ましたよ」


「お疲れぇ、パンちゃん。あれ?何で死にそうになってるのぉ?」


「あの、筋肉バカな義兄が、毎朝鬼のしごきをするから……そんな事より、昨日徹夜で作ったドライアイスは、どうしましょうか?」

 パンドラが言っているのは、あのドライアイスである。

 クエン酸を取り出す事に成功したパンドラは、重曹とクエン酸と水を使い、炭酸ガスを発生させて、それを濃縮して、ドライアイスを作ったのであった。


 そして調子に乗ったパンドラは、エルマやミラ達の前で得意気に、水にドライアイスを入れて、スモークを発生させて、驚かせたのであったが、エルマがこれは結婚式に使えると言った為に、急きょドライアイスの生産をさせられていたのである。

 そう、この事は、ただの身から出た錆であった。


「確か、アデルっちが、影移動で水に入れるから、後でアデルっちに渡して」


「ああ、アデルも被害者ですか。分かりました、直前に渡しておきましょう」

 そう言ったパンドラは、フラフラとしながらも、帰って行ったのであった。



 ―――――――――



「いやぁ、朝から露天風呂って最高だな」

 思わずそう言った左近は、左近衛府の一角に在る、岩風呂の露天風呂に来ていたのであった。


 休みの日は、朝から誰もいない露天風呂で、ただ一人で入る。これが最近の左近の日課であった。

 左近がのんびりしている露天風呂に、誰かが入って来る音がしたのである。


 誰だ?セシリーかな?

 そう思っている左近の所にやって来たのは、兵庫であった。

「義父上殿、御一緒に入っても宜しいでしょうか?」


「あんまり、男と一緒に入る趣味は無いんだが、まぁ入れよ」


「ありがとう御座います。では某は、身体を洗ってきますので」

 そう言った兵庫は、そのまま身体を洗い出したのであった。


 何で兵庫がここに?そうか、パンドラとの稽古が終わったのか。

 でも、露天風呂じゃ無くて、館の中の内湯に入れば良いのに……そうか、内湯はパンドラが、入るかも知れんからな。

 あいつも一応は、気を使っているのか。

 そう思いながら、左近が風呂に入っていると、身体を洗い終えた兵庫が入って来て、左近に言ったのであった。

「義父上、本日は御結婚、誠におめでとう御座います。

 なにぶん某は、急に聞いたもので、何もご用意出来ずに……」

「ああ、良いって、良いって。もう祝い品は貰ったから」


「え?」


「珠の笑顔だよ。

 あいつは、気丈な所があるが、お前に出会うまでは、心の中で本当に落ち込んでいた。

 でもお前に会ってからは、あいつは本当に、良い笑顔で笑う様になったんだ……感謝してもしきれんよ」


「そう言われますと、何か照れますな。

 それに、今でも本当に珠には迷惑をかけ続けて、本当に幸せにしているのか、不安です。

 それと、ついでに相談なのですが、某は結婚式に出るような服は、持っておりません。

 貸して頂けると有り難いのですが」


「それなら後で、連合軍本部の内局に言って、軍服の礼服を貰って来ると良い。

 階級はそうだな、少佐にしておけ」


「いや、しかし某は、軍人になるつもりは……」

「戦に出なくても良いさ。

 あのバスティやテスタだって、階級を持っている軍人だ。

 でもあいつらは、戦よりも違う事を学ばせたくて、執事とメイドと言った事をやらせている。

 それに、階級があれば何かと楽だ。佐官以上だとゲートも使えるし、図書館で読める書物の量も、変わってくる」


「は、はぁ……ありがとう御座います。

 そう言えば、珠から聞いたのですが、義父上は何やら今回が二度目の転生だそうで」


 珠め、兵庫に対して、口が軽すぎだろう。

「そうだが、二度目は転生では無いかな……転移の方だよ。俺はこの春に、この世界に飛ばされて来たんだ」


「そうだったのですか。ではその前の世界は、どの様な所だったので?」


「そうだな、あの関ヶ原よりも、約400年後の日の本だ」


「おお!で、では、柳生は、残っておりましたか?」


「ああ。剣術も、柳生の里も残っていたぞ。だが風景は、だいぶ変わっていたがな」


「そうですか、時の流れと言うのは、何とも無情ですな」


「ああ……」

 そう言った二人は、昔懐かしい大和の景色を、思い出していたのであった。




 ―――――――――




 その夜の、セントラル城は、華やかな雰囲気に包まれて、各地からやってくる貴族や王族で、賑わっていた。

 その中で新婦の控え室に、アイリスとラナがやって来たのであった。


「やっほ~!セシ……うわ!メチャクチャ綺麗じゃん、化粧もしてるし!」

 そう言って驚いたラナの目の前には、純白のウエディングドレスに、身を包んだ二人が、いたのであった。


「……止めて、マジで照れるから」


「そうそう、何だか私じゃ無い様で、変な感じがする」

 そう言った二人は、照れながら言ったのであった。


「でも、嫌じゃ無いんでしょ?」

 笑顔でそう言ったアイリスに、二人は頷いたのであった。


「……でも、私達がこんなにも豪華に、結婚式をやってもらえて、二人に悪い気がする」


「大丈夫、気にしない。

 私達には、私達の結婚式の良さが、あったんだから。ね、アイリス」


「そうそう、ラナの言う通り。それに、私達には二人以上の思い出があるからね。

 例えば、何処かの誰かが、旦那様に槍で肩を刺されたりとか、裸で森の中を歩かされたりとかね」


「それを、言わないでよアイリス!」


「……何それ、変なの」


「本当、変なの」

 そう言ったセシルとセシリーは笑い、控え室に明るい声が、響き渡ったのであった。



 こうして、左近達の結婚式が、始まったのである。

 広い会場に、丸いテーブルがいくつも並べられて、参列者が見守る中、段上のタキシード姿の左近に向かって、入り口から等間隔に黒い甲冑の槍を持った、黒騎士団(ブラック・ナイツ)の侍が整列したのであった。


 そして場内の明かりが、少し落とされ、薄暗い中、侍達の間に光が集中した時である。

 ザルツ王国の音楽隊が、クラシックな音楽を奏でると、テーブルの下からスモークの煙が出て来て、幻想的な空間を演出すると、いつの間にか、侍達の間に置かれた竹筒に、光苔の優しい明かりが灯されたのである。


 それは、霧の中に見える、滑走路の明かりの様な感じを、左近は持ちながら、二人がスモークと一緒に入り口から出てくると、思わず会場にいた者は、「おお!」っと声をあげたのであった。


 後に、二人の父親でもあるビート議長は、二人はまるで、雲の上を歩く天使の様であった、と言っていたが、その例えが、とても大袈裟とは言えないほど、その光景はピタリと、当てはまっていたのである。


 そして侍達が、槍を二人の頭上に掲げると、そこには小さな旗が取り付けられており、左近の家紋の三つ柏と、スターク家の紋章でもある、剣を持った狼が描かれていたのであった。


 その幻想的な通路を、ドレスに身を包んだ、珠とパンドラの先導で、二人は歩いて行き、時間をかけて左近の元に行くと、ひときわ賑やかな音楽に変わり、宴が始まったのであった。



「見ましたか関白殿、あの様な入場の演出は、女性なら誰もが憧れる事でしょう。

 それに、この料理も、あの大陸人が使っている様な、ナイフとフォークと言う物を使わなくても良い様に、肉を最初から切っておくこの心遣い……左大将は、本当に出来た御方じゃ。

 いやこの場の全てを仕切った、あのエルマとか言うエルフの者の功績であろうか」

 そう言ったのは、帝の名代で出席していた、玲子皇后であった。


「おそらくは、両方でしょうな。

 左大将も、あのエルマも二人とも、そう言った心遣いが出来る者です……皇后様、左大将を気に入りましたか?」


「うむ。日頃、帝が言っておる、忠義者を私は気に入った……のう父上」


「う、うむ……そうじゃな。

 まぁワシも日頃は、政で左大将や、その配下のキースと、やり合ってはいるが、あいつは本当に優秀だ。

 あの空いた耕作地の運用方法と言い、レイクシティでの試験的に導入した、駅馬車と言い……本当にあいつは、左近衛大将では無く、内政の朝廷に欲しい逸材じゃよ」


「おや、珍しいの、西園寺 大政大臣ともあろう者が、左大将を誉めるなんて」

 そう言った関白は、大政大臣を茶化したのである。


「止めて下され、ワシは純粋に左大将の能力は、認めております。

 それに左大将のおかげで、ザルツ王国とセレニティ帝国との二国に深い関係が出来ました。

 これは、後々ルタイ皇国にとって、計り知れない恩恵を、もたらす事になるでしょうな」


 この者、やはり派閥だ、何だと言っていても、物事は正確に見て、認める所は、認めておるな。

 そう関心しながら、関白は大政大臣に言ったのである。

「大政大臣よ、知っておるか?帝と左大将と、ガルド神魔国のフレイア魔王陛下の、三人の仲が良い事を」


「そうなのか、玲子?」

 そう冷静に言った、大政大臣は、内心驚いていたのである。


「玲子じゃ無くて、皇后様ですよ、父上。

 それは、帝ご自身が言っておられました。この二人は、唯一無二の親友だと……

 それに、私達の披露宴の時に、帝はフレイア陛下と、コウとフレイと呼び合っておりました」


 そこまで左大将は、帝に接近しておったのか……

 そう思っている大政大臣に、関白が驚くべき提案を、してきたのであった。

「のう、大政大臣よ。この大陸の領地を天領から、佐倉家にくれてはやらんか?」


「……何故です?」


「今のままでは、この大陸の領地の運営は、朝廷の許可無くして動く事が出来ん。

 それでは、御主の認めておった、左大将の内政能力が半減する。

 ならば他の大名の様に、年貢の2割りを朝廷に納めさせる事で、自由にこの地方を運営させた方が、朝廷に入って来る税も、増えるのでは、ないかな?」


 確かにそれは、ワシの頭の中にはあった。

 だが、この地方は1つの家に任せるほど、小さくは無い。

 いきなり他の大名よりも大きな、大大名を作る事になり、もしも裏切れば、取り返しのつかない事になる。

「それは、難しいでしょう。もしも、裏切れば……」

「無粋な考えはよせ、ここは祝いの場じゃ。それにな、左大将は今や、連合軍数百万を束ねる者ぞ。

 その様な事をするなら、とうの昔にやっとるわ」


「……確かに。では、官位はどうされます?大陸の守護の官位を新しく作ったとしても、ルタイ皇国の法では、正五位下、以上の官位には出来ませんので、左大将よりも下ですぞ。

 そうなれば、実質の降格になってしまう」


「ふむ、そうじゃの……」

 そう言った関白は、自慢の長い髭を擦り、考えて言ったのであった。


「では大政大臣よ、こうせんか?権大納言にして、領地を任せるのじゃ。

 権大納言なら、名ばかりの名誉職であるから、仕事も無い。それにな、どうせこの広い領地じゃ、家臣の数も足りんじゃろ。

 そこで、軍や他家からの引き抜き、もしくは出向を認める様にする。

 そうすれば、例の不穏な動きも、左大将が監視してくれるじゃろ」


「なるほど、一石二鳥ですな。でも左大将が本当に、了承するでしょうか?

 左大将は、将軍職を辞した前例も有りますので」


「そこは、左大将の外堀から埋めるのじゃよ。

 あの男は、妻にはめっぽう弱い、そこを何とかすれば、何とかなるじゃろ……それには、先ずは、妻の親から攻めんとな」


「なるほど、殿下はワルですな」


「お主もな」

 そう言った二人は、悪人の様な笑みを、こぼしていたのであった。


 本当に、この二人は、悪党ですね。さて左大将殿、どうされますかね……

 そう思いながら、皇后はワインを飲んでいたのであった。



 ―――――――――



 そして宴も終盤になった時であった、関白がエリアスの座っているテーブルに、やって来たのであった。

「ノイマン公、どうじゃ盛り上がっとるか?」


「これは、関白様。はい、このアミリアとヒメネスの三人で、昔談義で盛り上がっておりました」


 そう言うとヒメネスが立ち上がり、一礼して言ったのであった。

「初めまして、私ガストン商会の、ヒメネスと申します」


「うむ、ワシはルタイ皇国の関白、冷泉 永富じゃ。まぁヒメネス殿、座られよ」

 関白がそう言うと、ヒメネスは大人しく座り、関白も空いた席に座ったのであった。


「ノイマン公、少し貴公に話があっての。お二方も手伝ってくれるのなら、有り難いので、聞いて欲しいんじゃが……

 実は、左大将に大陸のルタイ皇国の領地を、全て与えてやりたいのじゃ……」


 その関白の言葉に、三人はキョトンと、していたのであった。

「まぁルタイ皇国の仕組みが、分からんよな。

 ルタイ皇国の領地には、二種類あってな。天領と大名領だ。

 天領とは、ルタイ皇国の帝の領地であり、何をするにも朝廷の許可が必要で、税も全て朝廷が回収する。

 一方、大名領は、その大名の物で、税は全体の2割りを朝廷に納めてもらうが、法も全てがその大名の自由じゃ。

 そうは言っても、基本的な法律や方針は、朝廷がきめるがの。

 このヴァルキア地方は、今は天領になっておるので、それを佐倉家に与えたい」


「殿下、それでは、今までは元帥閣下は、大名では無かったので?」

 そう言ったのは、ヒメネスであった。


「そうじゃな。近衛府は、大名と違い本来は、帝の護衛や帝の命で動く、直属の侍達で左大将は、そこの長であった。

 大名とは、その自分の領地を運営し、独自の家臣団を持ち、軍も持つ……まぁ言うなれば、小さな国の王と言った所じゃ。

 今回は、大陸なので軍は連合軍に入るが、まぁそこの元帥じゃし、元々皆が出向と言った形なので、なんら問題も無いじゃろ」


「じゃあ、官位はどうなりますか?」

 そう言って食い付いたのは、アミリアであった。


「そこは、左大将は侍の中でも、従三位で位が高く、大名の官位である守護職は、従五位上以下なので、守護職にすれば、実質降格になってしまう。

 そこで、位を1つ上げて、正三位の権大納言と言った官位にする。

 権大納言は、言わば位の高い名誉職じゃが、特例で大名となれば、実も伴い朝廷での発言権も、強くなるじゃろ。

 どうじゃノイマン公、悪い話でもあるまい?」

 そう言った関白は、長い髭を擦りながら、言ったのであった。


「確かに、そうですが……以前に帝が、大将軍にしようとして、閣下は拒否したので、今回もそうなるかと。

 それに、あのお方は、どうも左近衛大将の職に拘っているのか、出世欲は無いのか……」


「それよ、問題は。

 そこでじゃ、前回の様に、いきなりでは無く、外堀から埋めて、家族や関係者には根回しをしてから、本人に告げたいのじゃよ。

 あの四人の妻を何とかすれば、嫌でも昇進するじゃろ」


「私は、この話は、悪くないと思うぞ」


「俺も同じだ。残るはエリスお前の気持ち1つだ。

 閣下は、お前の義理の息子でもあるし、お前の意志が重要だ」


 そう言ったヒメネスと、アミリアは、エリアスを見つめていたのであった。

 暫くすると、エリアスは目を見開いて言ったのであった。

「殿下、この話を承諾する前に、本音を聞かせて頂きたい。

 本当は、何が目的なのですか?」

 そう言ったエリアスは、真っ直ぐな目で、関白を見つめて言ったのであった。



 この男、ワシが嘘をつくことに、全く警戒していない。

 こんな真っ直ぐな大馬鹿者には、正直に答えてやらんとな。

「もちろん、関白の位か、もしくは同じ正一位の位まで出世させる事よ。

 だがな、正一位には、関白、摂政、征夷大将軍の中で、唯一実力でなれる、征夷大将軍を、ノイマン公のご存知の様に、あやつは蹴りおった。

 残るは、関白か摂政しか無いのじゃが、関白と摂政は、摂関家と言われておる、家の者しかなれん」


「その言い方ですと、既に根回しはしている様で」

 そう言ったヒメネスは、その細い目が少し開いたのであった。


「そうじゃの、唯一摂関家以外の者がなれる方法が、摂関家の養子になる事。

 だがな、左大将の妻のラナは、既にワシの冷泉家の当主じゃ。それは、つまり……」

「閣下は、資格が既にある」

 そう言ったのはアミリアであった。


「その通り……協力してくれるか?」


「そう言う事なら、協力しましょう」

 そう言うとエリアスは、関白に頭を下げ了承し、この日の結婚式は、左近の知らない所で、数々の密約が成され、色々な意味で大成功に終わったのであった。




 ―――――――――




 12月15日、左近は自身の執務室で、昨夜の事を思い出しながら、鼻の下を伸ばしていた。


 しかし、昨日の夜も良かったな。

 あの結婚式の夜から、セシリーが自分の事を、ボクって言って、迫ってくるんだから。

 それに触発されてか、ラナとセシルも自分の事をボクって言うから、昨日はまさにボクっ子祭りだったな。


 これアイリスが、出産して、また一緒に寝る様になったら……アイリスもボクっ子になって迫ってきたら……最高じゃないか。

 ん~この完璧なナイトライフ。師匠待っていて下さい、俺もそのレベルまで、頑張って追い付きます。

 そして、我が神バスティよ、必ずやあなたを越えて、私が調教世界の神となろう。

 そうくだらない事を考えている左近に、クロエが呆れながらも、話し掛けて来たのであった。

「閣下、鼻の下が、伸びてますよ」


「うお、クロエ君、いつの間に!」


「さっきからですよ。

 で、今日のご予定なんですが、兼平から連絡が有りまして、帝国への出産祝いの刀が出来たので、本日にでも持ってくるそうです。

 その為に、ゲートの使用許可を、既に出しておきました。

 ……あの、出産祝いに刀って、生まれるのが女の子だったら、どうするので?」


 し、しまった…その事に今まで気が付かなかった。

 そう思った左近は、クロエの方を向いて、言ったのであった。

「……クロエさん、どうしましょ?」


「え?まさかの、ノープランですか?」


「……いやぁ…何と言いますか……はい、その通りです」

 そう言った左近は、申し訳無さそうに言ったのであった。


「どうする気ですか!今からじゃ間に合いませんよ!」


「す、すみません……そうだ、御守刀って事で渡そう」


「何ですそれ?」


「ルタイ皇国にある風習で、子供を守る御守りの刀の事だ。

 本来は短刀なんだが、なぁに皇帝陛下の子供だ、何でもデカイ方が良いだろう」


 左近がそう言うと、クロエは頭が痛いと言った様に、頭に手を当てて言ったでのあった。

「また、適当な事を……他のルタイ人から聞いたら、どうするんですか?

 そうだ、ルタイ人と言えば今日は、重要な会議がありまして。今朝、急に言われたのですが、本国から関白様と大政大臣様が来られて、閣下にお話があるそうです」


「何だかその二人って、嫌な予感しかしないんだが……いつからだ?」


「今からです」


 早っ!まぁあの二人だから、仕方がないか。

 そう思った左近は渋々と、自身の館の方に向かったのであった。




 ―――――――――




 えっと、何でしょうか、この状態は?

 左近がそう思うのも、無理は無かった。

 目の前には、関白と大政大臣。そして親族一同と全て勢揃いしており、何だか左近は裁判を受ける、被告人の様に、なっていたのである。


 ヤバイな……俺、何かしたかな?心当たりが多過ぎて、分からんぞ。

 そう思っている左近に、関白が話を切り出したのであった。

「今日、左大将に来てもらったのは他でもない。このヴァルキア地方の運営についてじゃ。

 知っての通り、このヴァルキア地方は、現在は天領になっておるが、ここはルタイ皇国より遠く離れており、更にはルタイ人以外の者との接触が多い。

 毎回、朝廷の許しを得ての運営では、何をするにしても行動が遅く、朝廷も大陸の事には、分からん事が多い。

 そうなると、ここの領民も苦しむ事になる。

 そこでだ、大政大臣と話し合い、このヴァルキア地方を佐倉家に与える事にした」


 おい、それって、大名になれって事か?

「それは、もしかして……」

「それともう1つ!」


 人の話を聞けよ、ゴリマッチョ。

「さすがに近衛府の長である、左近衛大将が大名になるなど、あってはならん。だから御主を正三位の権大納言に任命……」

「お断り致します」


 左近は、関白の最後の言葉を待たずに、即答で断ったのであった。

 だが、ここで引き下がる関白では、無かったのである。

「そう言うと、思っていたよ。では、ノイマン公、スターク議長、後は頼みましたぞ」

 そう言った関白達は、二人に一礼して部屋から出ていったのであった。


 そう言う事かい、既に根回しは終わっているって事か。

 あのゴリマッチョとタヌキの策略だな。

 そう思っている左近に、エリアスが話し掛けたのであった。

「閣下は、何故この話を拒否されるので?先ずは、その訳を聞かせて頂けませんか?」


「正直、面倒だからです。本当はこの左近衛大将も辞し、ナッソーの邸宅で自堕落に暮らしたい、それが夢ですので」

 あ、議長の額に青筋だ、アニメの様な綺麗な青筋だ。

 まぁ、娘婿が夢はニートで引きこもりです、って言ってるこんな奴なら、貴族の議長からすれば、キレるだろうな。

 俺なら間違いなく、キレるだろう。

 そして、ケンカしてうやむやにする、我ながら完璧なプランだ


 そんな良からぬ事を考えている左近に、兵庫がポツリと言ったのであった。

「治部殿への、義理立てですか?」


 その瞬間、左近は兵庫に、心の底を見られた様な感じが、したのであった。

「兵庫、それ以上言うな……」

 そう言った左近は、今までに無い殺気を容赦無く兵庫に、叩き付けたのであったが、兵庫は気にせずに言ったのであった。


「どうやら、図星と言った所ですな。

 おそらく義父上は、今でも治部殿の臣下であり続けたいと、願っているのでしょう」


「それ以上言うなと、言ってるだろう」

 そう言った左近は、野獣の様な剥き出しの殺意を、放っていたのである。


 お父様……これでは、本気で義兄様を殺しに来るのも、時間の問題ですね。

 しかし、お父様の本気を、私が止めれるのか?

 だが止めるしかない、この話が纏まれば、国力も容易に上がり、軍の戦力が格段に上がる可能性もある。

 その為には……

 そう思ったパンドラは、刀をいつでも抜きやすい様に、準備していたのであった。


 そして、兵庫は左近の言葉を無視して、話を続けたのであった。

「ですが、治部殿が今の義父上を見られたら、嘆かれ……」

 時間停止(タイム・アクター)


 兵庫の言葉を待たずして、左近は時間を止めて、アイテム・ボックスから、十文字槍を取り出すと、テーブルごしに槍を兵庫に突き出した瞬間、キィンと音を立てて、時間が停止した世界で、音が鳴り響いたのであった。


 左近の突き出した槍は、パンドラのテーブルに突き立てた刀が、十文字槍の鎌に当たり、止まっていたのであった。

「パンドラ、てめぇ……」

 そう言って、パンドラを左近が睨み付けると、止まっていた時間が、動き出したのである。


 他の者からすれば、いきなり左近とパンドラの姿が消え、兵庫に槍を突きだしている左近とパンドラが、現れたのである。

 その場の全員が驚いたのだが、兵庫だけは毅然とした態度で、その表情は何一つ変わっては、いなかったのであった。

「お父様、ここは冷静に……」

「俺は、冷静だ!冷静に、殿を侮辱したこいつを殺す!」


 そう言った左近に、兵庫が大きな声で言ったのである。

「何が侮辱でしょうか!本当の事を言って、何が悪いのですか!

 今の義父上は、誰にも知られたくは無い真実を、私に当てられて、ただ逆上されているだけでは、御座いませんか!

 これがあの関ヶ原で、鬼の左近と言われた、義父上ですか!」


「……何だと」

 そう言って、兵庫を睨み付けた左近の肩を、アイリスがポンポンと叩き、振り返るとパーンと言う音と共に、左近はアイリスに頬を叩かれたのであった。


「アイリス……?」

 アイリスに叩かれた事により、左近は驚き思わず言ったのであった。


「あなた、何を逆上しているのですか!これがいつも冷静に策を練り、数々の戦を、勝利に導いた男の姿ですか!」


「……アイリス」


「いつまで過去に、あなたは囚われているのです……あなたの守る者達は、過去にいるのですか?違うでしょ。

 今のあなたの家族は、目の前にいる者たちでしょ。あなたが守るべきは、この大陸、ルタイ皇国に住む民でしょ。

 今の過去に囚われている、あなたが親では、この生まれてくる子供が、とても不幸です。

 この兵庫を殺すなら、このお腹の子供共々、私を突き殺してからにしなさい!」

 そう言ったアイリスの目は、とても深い悲しみに、包まれていたのであった。


 そうだ、アイリスの言う通りだ……俺は、あの時代、あの世界にはもう居ない。

 俺がいる世界は、ここだ。もう戻れる訳、無いのにな……

 そう思いながら、左近は力なく椅子に座ると、兵庫が言ったのであった。

「義父上、義母上の言う事はごもっともです……ですが、義父上のお気持ちも、私は分かります。

 ですから、義父上は石田家の理念だけでも大事にし,治部殿の志しを受け継げば宜しいのではないでしょうか?

 石田家の家紋、大一大万大吉……私もその理念は、好きですよ」

 そう言った兵庫は、笑顔で言ったのであった。


 その笑顔を見た左近は、まるで憑き物が取れた様に、何かが身体から抜け、一筋の涙が流れていたのである。

 こうして左近は、関白、大政大臣の提案を受け入れ、正三位権大納言となり、左近衛大将は正成が就任する事になった。

 そして、4月に向けて連合軍とルタイ皇国は、再編成する事になり、ルタイ皇国内は大名家、近衛府軍が駐留する事になり、連合軍に残るルタイ人は佐倉家の臣下となったのであった。


 三好 左近衛中将 清信准将は、左近衛中将の官位を返上し、連合軍に残り佐倉家の臣下となる道を選び、鬼島 鶴も佐倉家の臣下となる道を選び、その父である左馬頭も佐倉家の臣下となる事になったのであった。

 こうして、境港にあった鬼島家の領地は、伯耆守護職である、和泉 伯耆守に返却され、鬼島家はその拠点をポートシティに移し、左近はそのままポートシティの支配を、鬼島家に任せる事にしたのであった。


 この鬼島家の行動には、事情があり、和泉家内部で鬼島家は、大きくなりすぎた為に、和泉家から妬まれ、前回の鬼島家取り潰し騒動の時も、伯耆守は鬼島家を守るどころか、むしろ率先して弾正府に協力していたのであった。

 そこで鬼島家は、和泉家を見限り、佐倉家の臣下となる道を、選んだのであった。

 だがこの出来事で、ルタイ皇国の水軍の勢力図が、変わる事になる。

 鬼島家が、大陸のポートシティに移転した為に、ルタイ皇国の水軍では、ルタイ皇国第2の水軍勢力である、安房守護職でもある、岡本 安房守 利勝が台頭してきたのであった。


 こうしてルタイ皇国本土の軍事力は増強され、連合軍内のルタイ人比率は下がったのだが、各国はそれに異議を唱えることは無く、むしろ自分達の発言力が、連合軍内部で強くなると思った為に、了承したのである。


 そして左近が、一番驚いたのが、藤永 弾正 久道が弾正府を辞して、佐倉家の臣下となる為に、頭を左近に下げたのであった。


 左近は、当初断ろうとしたのだが、ヴァルキア地方が佐倉家の領地となった事で、弾正府がルタイ皇国に引き上げる為に、独自の警察組織が必要になり、弾正府のノウハウを持っている藤永 弾正が必要と、アイリス達に説得され、渋々ではあるが、了承したのであった。

 そして左近は、領地を家臣に与えるのでは無く、各階級に応じて、毎月給料を支払うと言った体制にし、階級も軍と同じ様に統一し全ての者を、自身の直臣としたのであった。

 こうして左近は、大きな湖の国の大納言、湖国大納言と呼ばれる様に、なったのである。


 そして目まぐるしく変わる変革の中で、12月28日イリナ・セレニティ后妃が、一人の男の子を出産し、名をクラウディオと、名付けられたのであった。

 この報に敗戦で落ち込んでいた、セレニティ帝国の民は大いに、喜んだのであった。


 後に連合国内だけでは無く、大陸中で獅子皇帝と呼ばれる事になる、クラウディオ・セレニティ皇帝の誕生であった。



 ―――――――――



 年末、土御門 高明は、メギド魔皇国のパーヴェルの居る居城、レトラル城にいた。

 パーヴェルのスキルで、一瞬で連れて来られた彼は、パーヴェルに謁見した後、この殺風景な一室で幾日も待たされていたのであった。


 何とも、殺風景な所だよな。

 窓から見える景色も、赤茶色の土ばかりで草木も生えてやしない……兵庫、君は今は何をしているんだろう?

 また君と遊びたいなぁ。

 高明がそう思っていると、自分の背後に、何者かが居る気配がしたのである。

「誰だい?」

 そう言って振り返った高明の前には、パーヴェルが立っていたのであった。


「驚かせてしまったかい?」


「いや、大丈夫だよヴェル。それよりも、また幻影投影かい?

 いったい、いつになったら、本体に会わせてくれるの?」


「ハハハ、やっぱり君は、分かるんだね。高明、君はやっぱり面白いよ。

 そんな事より、ダンジョンの準備が出来たよ。御要望通りのスキルが、獲得出来るダンジョンだ」


「……何れくらいで、獲得できるんだい?」


「君の魔力は、ずば抜けているから、約三年ってところだね」


 三年……何とか間に合うか。

 そう思った高明は、思わず拳に力を入れたのであった。


「では高明、本当の君の姿を見せてもらおう。

 三年ってのは、君の本当の姿でかかる年月だ、人間の姿ならば、あのスキルは、数十年かかるからね」


「……分かったよ」

 そう高明が言うと、旋風が高明を包み込み、中から出てきたのは、黒い九尾の狐であった。


「いやぁ、ルタイ皇国って本当に面白いね、こんな獣人は、初めて見たよ。

 でもさ、最後に1つ聞いて良いかい……何で、僕の所に来てくれたんだい?

 何年も口説いても、全く無視をしていた君が、急に僕の所に来てくれた理由が知りたくてさ」


「……忠義の為だ」


「忠義の為……それって、僕じゃ無いよね?

 ルタイ皇国の帝?」


「ああ……」


「ふうん……まぁ良いや。でも、この契約は……」

「絶対だろ?分かってるさ。僕は契約通り、君の配下になるよ」


「なら、良いんだけどね。じゃあ行こうか」

 そう言ったパーヴェルと高明は、空間転移の煙の中に消えて行ったのであった。



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