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胸騒ぎ。其の二



「それと、まだある。アプリのプロフィールを開いてください」


クラスメイトたちはすぐにタブレットへ視線を落とし、素早く画面を操作し始めた。


プロフィールを開くと、自分の基本情報や各科目の平均点が表示されていたが、それだけではなかった。写真の横に、見慣れないバッジと数字――八十九が追加されている。


「気づいていない者もいるようなので説明しておく」シンドウ先生が言った。「プロフィール写真の横に、五色のいずれかのバッジと数字が表示されている。この色は、学園内での位置を示すものだ」


「詳しく教えてください、先生!」


「例えば、青白い色はプラチナ、橙がかった金属色はブロンズだ。全部で五段階――プラチナ、ダイヤモンド、ゴールド、シルバー、ブロンズとなる。上位十名がプラチナ、二十位までがダイヤモンド、二十一位から二十五位がゴールドだ」


一度言葉を区切り、続ける。


「下位二十五名はブロンズ、それ以外はシルバーとなる」


……危険だ。


こういう制度は、あまりにも露骨に分断を生む。バッジがなければまだ流せたかもしれないが……これは明確すぎる。最悪の場合、差別に繋がる。


だが――まだある。


「では、この数字は何を表しているんですか、先生♪」


「いい質問だ、イザナミくん。その数字は、いわば個人スコアだ。成績、行動、クラブ活動などを総合して算出される。数値が高いほど、総合的な評価が高い」


「先生、総合順位との違いは何ですか?」


「総合順位は、純粋に学業成績のみで決まる。一方、個人スコアは校内でのあらゆる活動を含めた評価だ」


先生は軽くリモコンを持ち直した。


「先に言っておくが、この個人スコアは主にクラブ活動や校内評価に関係するもので、成績には直接影響しない。実用というよりは、社会的指標に近い。例を見せよう」


ボタンを押すと、電子黒板に総合順位トップ10が表示された。


俺は十位だった。

一位は生徒会長――高森雫、九十九点。


ちなみに、このクラスからトップ入りしているのは俺だけだ。


「学業順位が学年ごとに分かれているのに対し、個人スコアは全校共通だ」

「つまり、各学年にプラチナが十名いる場合、学園全体では三十名になる。では、この一覧を見てほしい」


画面を指す。


「一位は生徒会長。続いて生徒会役員、各クラブの主将……そして十位が――君だ、イザナミ・レイくん」


クラスメイトたちの視線が一斉にこちらへ向いた。


俺は気にせず、話を聞き続ける。


「イザナミくん」先生が俺に向き直る。「仮に火曜日の件がなければ、君は現在九十三点だった。そして週初めのトラブルもなければ、九十九点だ」


……なるほど。


喧嘩で六点、口論で三点か。


「つまり、週の初めの時点で生徒会長と同点だった可能性もある。しかし、その場合でも君は二位だ。理由は分かるか?」


「生徒会長だからです」


「その通り。君はクラブにも所属していないし、役職もない。一方で彼女は生徒会長だ」


「でも先生〜」と黒瀬が割って入る。「ここに載ってる人の中に、私の友達もいるんですけど。クラブにも入ってるし、問題も起こしてないし、成績も悪くないのに……どうして六十点とか七十点くらいなんですか?」


「それは、イザナミくんがアイドルだからだ」


「……」


教室が一瞬で静まり返った。


俺はわずかに眉をひそめる。


「個人スコアは校内活動だけで決まるものではない」

「簡単に言えば、“社会的価値”の評価でもある」


「イザナミくんはアイドルだ。学園にとっての価値は、一般生徒より高いと判断される」


「安心してほしいが、このスコアは学業には影響しない。主にクラブや校内活動に関わるものだ」


「先生、そのクラブ活動って具体的には何ですか?」


お、いい質問だ。しかも聞いたのは、例の“ゴリラ”の一人。


「生徒の順位とは別に、クラブにもランキングがある」

「これは所属メンバー全員のスコア合計で決まる。現在はこうなっている」


リモコンを操作すると、ランキングが表示された。


1.弓道部 2873

2.バスケットボール部 2325

3.軽音部 2258

4.バレーボール部 2001

5.文芸部 1943


数字は合計スコアだろう。一クラブ最大三十人とすれば、上限は三千前後。それでも一位と二位の差は大きく、さらに下位との差はもっと開いているはずだ。


全校で約三百二十人、クラブ数は二十前後。この差は、単純な人数不足や個々のレベル差でも説明できる。


「先生、このランキングにはどんな意味があるんですか?」


「資金と優先権だ」

「上位クラブは設備が優遇され、施設の使用権も優先される。下位は場所の確保すら難しくなる」


一度言葉を切る。


「分かっていると思うが、クラブが長期間活動実績を出せなければ、解散となる。つまり――これは生き残りの問題だ」


一見すると、あまり魅力的な制度には思えない。


だが――それは表面だけの話だ。


クラブ活動は、進学において大きなアドバンテージになる。例えば、サッカーに将来性のある生徒にとって、国内トップのIT大学など大して意味はない。だが強豪サッカーチームを持つ大学となれば話は別だ。そのためなら、全力で取り組む理由になる。


そのためには、クラブでの実績と個人成績をまとめた推薦書が不可欠だ。


だが、クラブ自体が低順位で試合にすら出られないとなれば……実績など作りようがない。


つまり、生徒の順位とクラブの順位は、一見独立しているようでいて、実際には密接に結びついている。たとえ学業を重視せず、スポーツや音楽に打ち込む場合でも、成績を落とすわけにはいかない。


そうでなければ、個人スコアが下がる。


そしてそれは、そのままクラブ内での立場にも影響する。


極論を言えば、主将にとって重要なのはメンバーではなく結果だ。結果がすべてであり、そこから資金や優先権が決まる。


……とはいえ、違和感は残る。


例えば文芸部の人間をバスケットボール部に入れたところで、何ができる? 戦力になるとは思えない。むしろ足手まといになる可能性の方が高い。


つまり――まだ何かある。


そう考えていると、先生が続けた。


「察しのいい者は、クラブ間で生徒を移動させればスコアを操作できると考えたかもしれない」


「だが、そう単純な話ではない」


「各クラブには独自の評価基準がある。サッカーなら得点数、文芸なら作品数や評価、文章力などだ」


「つまり、音楽に優れた生徒をバスケットボール部に入れても、スコアが上がる保証はない。むしろ、下がる可能性もある」


「不用意にメンバーを入れ替えれば、結果としてクラブ全体の評価を落とすことにもなり得る」


……当然の話だ。


だが――


それは同時に、行き詰まりを意味する。


そもそも優秀な人材がいなければ、どうする? 引き抜きはリスクが高い。失敗すれば状況はさらに悪化する。


結局、残るのは自力での底上げだけだ。


……ほぼ詰みだな。


とはいえ、先生の言葉を思い返せば見えてくる。個人スコアはクラブ活動だけでなく、人間性や行動も含めて評価される。どれだけ能力があっても、素行が悪ければスコアは伸びない。


それでも――疑問は残る。


クラブごとの性質だ。


例えばサッカーであれば、最終的に求められるのは大会での勝利だ。


「いずれにせよ」先生は続けた。「個人スコアはあらゆる行動によって変動する。校内には多数の監視カメラが設置されており、行動はすべて記録されている」


「それらのデータを分析チームが処理し、リアルタイムでスコアに反映している」


その後、先生はいくつかのスライドを切り替え、クラブや生徒ごとの具体例を示しながら、この数値の重要性を説明していった。


「そうだ、もう二つだけ伝えておこう」


一度言葉を切る。


「総合順位の上位十名には、毎月追加の報酬が与えられる。例えば温泉旅行や高級レストランでの食事などだ」


「……」


だが、クラスの反応は鈍い。


当然だ。ランキングを見れば分かる。現実的にそれを狙える人間は限られている。


「もう一つ。これは私からの助言だ」


「まだクラブに所属していない者は、早めに入ることを勧める」


「たとえ学業で一位を取っていても、総合評価が低ければ“協調性がない”と判断される」


「大学にとって、それは大きなマイナスだ」


「以上だ。各自、よく考えて行動するように」


先生は教室を出ていき、俺たちは反射的に頭を下げた。


いつものホームルームより、明らかに長かった。ほとんど一限分を使っている。


それでも、誰一人としてすぐには動かなかった。


教室には静寂が残り、それぞれが新しい制度について考え込んでいる。


……嫌な予感がする。


朝の電話を思い出す。


なるほど。


これが――あいつの言っていた「面白くなる」ということか。


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