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第二十八話

 お節介だとは思いながらもカイルは言葉を続ける。


「家まで送るよ。場所、案内してくれ」


 ロブはこの提案にどう答えたものかと悩む。

 カイルと別れたあとでこの場所に残って、無事な果実がないかを探そうと考えていたのだ。

 魔獣という想定外の出来事はあったにせよ、ロブの中の欲はまだ失われていなかった。


 しかし、カイルが言うことも一理ある。

 もしここでカイルと別れて、他の個体に遭遇したらひとたまりもないだろう。

 自分ではどうすることも出来ないまま、無惨に喰い殺されてしまうに違いない。


「……すまねぇな。危険は承知だが、帰る前にどうしても探してぇもんがあるんだ」


 ロブはしばらく悩んだ末、そう提案した。

 金は命には変えられないが、適性強化の果実を手に入れることも諦めきれない。


 あの魔獣と遭遇した今、本来なら一刻も早く森を離れるべきだ。

 ロブ自身、それは理解している。

 だが同時に、こんな状況だからこその好機でもあった。


 目の前には、あの化け物じみた魔獣を容易く斬り伏せた冒険者がいる。

 もしカイルが周囲を警戒してくれるなら、多少の危険を承知で群生地を探ることもできる。


 そう考えると、ここで何も得ずに帰るという選択だけは、どうしても飲み込めなかった。


「…わかった、俺は周囲を警戒しておく。何かの気配を感じたらすぐに言うよ」


 カイルはロブの提案を承諾した。

 ここで無理を言ってロブの機嫌を悪くすることは得策ではないだろう。

 予感の真偽を確かめることも出来なくなる。


「あぁ…ありがとう。さっさと探すとするよ」


 カイルが一緒に探すと言い出さないことに内心でホッとするロブ。

 下手に手伝われて、カイルに分け前を要求されては面白くなかったからだ。


 ロブはニヤリと笑うとカイルとアリアを置いて離れていった。


「……君はどうして話さないんだ…?」


 カイルはロブを見送ったあと、いつの間にかリリィの木を背にして座っているアリアに話し掛ける。


 俯いていたアリアは顔を上げるが、小さく首を横に振るばかりで、問い掛けに対する返答はなかった。

 

 そしてしばらくの間、カイルを見ていたようだが

また俯いてしまった。


 沈黙。

 森を抜ける風の音だけが、静かに木々を揺らしていた。


 カイルは無理に言葉を重ねなかった。

 問い詰めるような真似をしても意味はない。


 代わりに周囲へ視線を巡らせる。

 踏み荒らされた雪。

 潰れた果実。

 倒れている魔獣。


(……過剰強化、か)


 適性強化の果実はカイルでも数えるほどしか見たことがない。

 一体どれほど摂取したのか、今となっては不明だが、その数は一つや二つではないのだろう。

 

 カイルは小さく息を吐く。

 もし推測通りなら、この森は思っている以上に危険だ。


 そんなことを考えていると、不意に雪を踏む音が近づいてきた。


「……チッ」


 音の主は戻ってきたロブだった。

 男の手には赤い果実が一つだけ握られている。

 どうやら群生地の奥に、奇跡的に食い残しがあったらしい。


 だが、その表情は晴れない。

 あの魔獣に食べられていなければ、果実はもっとあったに違いない。

 そのため、一つ程度では到底満足などできなかったのだろう。


「……まぁ、何もねぇよりはマシか」


 吐き捨てるように言って、ロブは果実をリュックにしまった。


「……待たせたな」


 名残惜しそうに周囲を見渡したあと、カイルにそう言った。


―――――――――――――


 ロブの探し物が終わったことで、3人は家路に着いていた。


「アリア、疲れてないか?」


 魔獣が飛び出してきても対応できるように、先頭を歩いていたカイルは時折、後ろを振り返ってアリアの様子を確認する。


 アリアはその度に頷いて返していた。

 カイルの心配とは裏腹に、行きのときのような責任や圧がないため、アリアは精神的に楽だったので、あまり疲れを感じていなかった。


「…この道は…あっちだな」


 ロブが現在地を把握しながら、カイルに指示を出して進んでいく。


 大事な果実を持っているため、トラブルや魔獣との遭遇は避けたい。

 そのため、カイルと協力しながら出来るだけ最短距離を選ぶ。


 その甲斐もあって事件が起きることなく、やがて拓けた場所に出た。


「カイルさんよ。あれが我が家だ」


 ロブはそう言うとカイルの前に出て、自宅を指で示す。

 アリアも無事に着いたことを喜んでいるようだった。


「……あれか」


 カイルが指の先を見る。

 そこには、森の中にぽつんと建てられた古びた民家があった。


 家を囲うように木製の柵が組まれており、その内側には小さな畑と倉庫が見える。

 煙突からは薄く煙が立ち上っていて、中に誰かいることを感じさせた。


 雪に晒され続けた外壁は色褪せ、決して裕福とは言えない。

 だが、最低限の手入れはされているようだった。


(……2人暮らし、ではないのか?)


 カイルは空に消えていく煙を見ながら、そんなことを思う。

 少なくとも、少女一人を養う余裕があるような暮らしには見えなかった。


「さあ、入ってくれ」


 先に柵を開けたロブが振り返る。

 カイルは小さく頷くと、その家へ足を踏み入れた。

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