8話
中尉との話の後、九十九技術少尉の狂気的な治療受けたのち(サンプル採取は全力で拒否した)、一週間程で退院し、俺は今、雪風中尉に呼び出され、隊長執務室に来ている。
俺はノックをし、返事を待つ。
「誰だ?」
「加藤准尉です!入室許可を求めます!」
「入れ」
「入ります!」
入室した俺は、来客用の机でお絵描きに励む大尉から目をそらし、役員机に座り執務にしておられる二人の中尉の方を向く。
「加藤准尉、呼び出しに応じ参上致しました!」
「ああ、退院そうそうご苦労。呼び出したのは他でもない。先日話した、隊長の付き人の件だ」
「はっ!心得ております!」
「返事だけはいいな、お前・・・」
俺の返答に呆れながらも、気を取り直して説明を続ける中尉。
「付き人といってもやることは簡単だ。隊長に付き添い、行く先々で隊長の要望に応え、その内容をまとめて俺に提出れだけだ」
「それだけですか?」
「ああ、因みに要望聞く際に掛かった費用については、報告する際に精算してから経費で落とすように」
「了解しました」
「よろしい。それでは、今日から三日間、頑張ってくれたまえ」
「はっ!」
雪風中尉の激励に敬礼とともに返す。
それを横から聞いていた、吹雪中尉は何とも言えない顔をしながら立ち上がり、今尚お絵描きを続けている日向大尉に歩み寄る。
「茜、今朝、言ったこと覚えてるかい?」
「ん?なんのこと?」
「三日間はあたしも雪風も、一緒に入れないから、代わりに加藤が一緒に居てくれるって話さ」
「え?そうなの?」
「ああ、だから加藤にあんま迷惑かけんじゃないよ」
「うん、分かった!」
吹雪中尉は大尉と、そんな親と子のような会話をした後、俺に向かって「あとは、任せた」とだけ言い、執務に戻る。
「それじゃあ、イチ君いこっか?」
大尉はソファから立ち上がり、扉から出ていく。
俺はそれについていく。
side雪風
(すまん、准尉)
隊長と准尉が出て行った扉に向けて、俺は心の中で謝罪をする。
「いくら何でもあれは、やりすぎなんじゃないかい?」
吹雪が苦笑気味に問いかけてくる。
「じゃあ、あんたがやるか?隊長の付き人?」
「それは嫌だ」
「はは!だろうな」
俺の冗談に本気で即答する吹雪に、笑って返す。
それに対して不機嫌そうな顔をしながら口を開く吹雪。
「それは別として、新人に茜の世話をさせるのは可哀想じゃないかって、話しだよ」
「あいつはこれ位しなければ反省しないタイプの人間だ」
「あたしもそう思うけどさ・・・」
「それに、そんなに大きな問題なんて、早々に起きないさ」
俺の言葉に吹雪は「それもそうか」と納得する。
「さあ、隊長が居ない内に、溜まった書類を片付けよう。隊長が居たのでは一日かけても半分も終わらないしな」
「そうだな。この量だったら半日で終わらせられるろうからね」
「ほんとな!!すばらしいよな!!!」
俺は人の犠牲のもと成り立つ、この三日間を満喫することを決めた。
side加藤
「ふん♪ふふん♪ふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら、迷いなく陸軍省内をあるく大尉に思わず疑問を投げる。
「あの、大尉」
「なに?イチ君?」
「大尉はどちらに向かわれているのでしょうか?」
「う~んと、おじいちゃんの所!」
「お、おじいちゃん、ですか?」
「うん!会いに行くとお菓子をくれる、優しいおじいちゃんなんだ!」
「は、はぁ・・・」
俺は大尉の言葉に思考を巡らせる。
(おじいちゃん・・・そのまま受け取れば、祖父を示す言葉だ。そうなると、陸軍省内に大尉の縁者がいることになるが、日向という高官に聞き覚えは無い。大尉の外見の年齢から考えて、その祖父となればかなりのベテランだ。そんな人物の名前を聞かないなんてことはないだろう。そうなると、その人物は年の割に大した功績の出せていない、窓際の人間だろな)
「加藤か?」
大尉の後ろを歩きながら思考を巡らせていると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
そちらに意識を向けると、そこには前隊の隊長である、佐藤中尉が立っていた。
「お久しぶりです、佐藤中尉」
「ああ、久しぶりだな。といっても、まだ二週間もたって居ないがな」
「そうでしたね。こっちは忙しくて、もっと長く感じてしまいました」
「そうか、こちらは面倒ごとがなくなって、すこし業務が楽になったよ」
「それは良かったですね」
「ああ、とても良いことだ、とてもな」
妙にテンションが高い中尉に首を傾げつつも、中尉の言葉に相づちを打つ。
そこに大尉が入ってくる。
「おじさん、久しぶり!!」
「これは、日向大尉!挨拶が遅れ、申し訳ありません」
大尉のおじさん呼びに慣れているのか、気にした様子もなく中尉はピシッとした敬礼をする。
「二人はお知り合いなんですね」
「うん、佐藤のおじさんはおじちゃんの所の中隊長だから、よく合うんだ」
「そうですか」
「そういえば、大尉がここに居るということは、今日も・・・」
「おじいちゃんに会いに行くんだ!」
「なるほど、そうでしたか」
素早い動きで大尉から俺に視線を移した佐藤中尉は、俺の両肩をつよくつかむ。
「絶対に失礼の無いようにしろよ・・・!いいか、絶対だぞ・・・!!」
「は、はい」
鬼気に迫る様子の中尉に俺は頷くことしかできなかった。
「じゃあ、行こっかイチ君」
そんなことを気にした様子のない大尉は勝手に進みだす。
俺は中尉に敬礼をし、それを追う。
先ほどの中尉の反応から、自分で考えた窓際の人間である可能性は低いだろう。
それどころか、かなりの高官である可能性まで出てきた。
そこで俺は大尉に直接聞いて見ることにした。
「大尉、少しよろしですか?」
「ん~?なに?」
「おじいちゃんとは一体誰なのでしょうか?」
大尉は少し考えた後に口を開く。
「う~んと、おじいちゃんは修蔵って名前ですっごく偉い人なんだ!」
「しゅ、修蔵、ですか・・・?」
「うん!とっても良い人で、会いに行くと、よくお菓子をくれるんだ」
俺はそこまで聞き、嫌な予感がし始める。
(修蔵なんて名前の、しかも中尉があそこまで必死になる人物なんて、一人しか心あたりがない。だが、大尉の言うおじいちゃんと、あの方の印象が合致しないし、なにより、あの方は・・・)
「まあ、会ってみれば分かると思うよ?」
大尉は廊下の奥にある両開きの扉の前で足を止め、ドアノブに手を掛ける。
その扉の上にはこう書かれていた、
《第一大隊 隊長執務室》
それは関東の対異能テロの中枢を示す文字だった。
「は?」
俺はそれを見て唖然とするしかなかった。
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