観戦・アニマル大相撲! 5
『大鷲~、おお~わし~』
僕たちが食事を楽しんでいる間も、アニもうの取組は進んでいる。
丁度いま、ワシさんの大鷲関と、オランウータンさんの正猩関の取組が終わったところ。
立ち合いから廻しの手繰り合いになった展開は、どっちいの有利になるんだろうと思って見ていたら。
一歩引いて見せる事で、前掛かりになる相手の力を見事に利用した、ワシさんの技あり勝利。
決め手は、小手投げ。
相手のバランスが崩れたタイミングを見逃さない、見事な駆け引きだった。
「激しい相撲じゃ無かったけど、見応えがあったねー」
「大鷲関は、あの大きな体で頭脳派の技巧派やからね。
普段は突き相撲で前に前にやけど、相手を見たんちゃうかな?
正猩関は土俵際の強さに光るもん持っとるから、突き出しよりも引手で勝とうとしたんやろな」
「結果、上手くいったよね」
「正猩関も驚いたんと違う?
突き相撲に耐える覚悟しとったら、手繰り合いからの引き相撲やもん。
流れの中からならまだしも、立ち合いからやったからなぁ」
お膝の上の子グマさんも大満足だったようで、今の取組を真似するように右手をくるくる捻ってる。
楽しそうで何よりだけど…その技、僕で試したりしないでね?
「アニもうさんだから、体が大きいのはわかるんだけどさ。
オランウータンさんが大きいのはまだしも、ワシさんはそれより大きいよね?」
「あー、まぁなあ。
オランウータンより大きいワシって、考えてまうと違和感あるけどな。
それを言うたら、ワシが廻し掴める時点でアレやんか」
「…デフォルメ体って、すごいよね!」
「そうそう。適当な感じ方、受け取り方でええねん。
大鷲関見て分かったと思うけど、翼の先に指を電子生成しとるやろ?
あれで腕のリーチが伸びるねん。
せやから、獣大相撲では鳥の力士も多く居てな。
横綱3人の内、2人が鳥のアニもうさんなんや」
「3分の2じゃない!
鳥さん、相撲が強いんだねぇ」
取っ組み合いが得意な動物ってイメージはないんだけど。
2人も横綱に上り詰めてるってことは、鳥類のアニもうさんには相撲に適性があるってことだもん。
現実でも2本の足でしっかり立つ分、4足歩行が基本の陸上動物より立ち姿が安定するのかも。
羽ばたいて空を飛ぶって考えれば、腕の力も相当強いんだろうし。
それでも、オランウータンのアニもうさんに勝てるとは思えないから。
何かしらのアシストというか、公平性が保たれるように調整がされているのだろうけど。
「羽毛がフワフワな分、腕を手繰られやすいってデメリットもあるんやけど」
「えっ!?
羽を掴まれて大丈夫なの?
…ハゲない?」
「ハゲへんハゲへん。
しっかりとシステムにガードされとるから、羽の1本も落ちひんよ」
「そっか、良かった。
よくよく見ても、土俵の上にワシさんの羽が落ちてないもんね」
アニガーの裁付袴を着た2人のリスさんが、箒を持ってちょこまかと土俵を整えているけど。
その箒で抜けた毛や羽を片付けてるワケじゃないみたい。
「いま掃除しとる箒な、あれ同じや無いねんで」
「ふつうの箒じゃないの?
学校で使ってるみたいな」
「ウチの学校、あんな立派なん使ってなかったで?
もっと、こう、モップみたい持ち手の、毛先が固いやつ」
「あー、中学校はそれ使ってるかも。
小学校は、あのワラみたいな箒で掃除してた」
「ウチ使ったことないよ、あの藁ほうき」
『ご歓談中、失礼します。
土俵の中を均しているのは、竹ほうきです。
竹の小枝を束ねて作られた箒ですね。
もちろん、現実には藁ほうきも家庭や学校などで使われています』
「あれ、ワラじゃないんだ。
土俵の外側を掃いている箒は別の物なの?」
『はい。俵の外25cmは砂で作られており、蛇の目と呼ばれます。
力士の足が俵の外に付いたか否かを判断するのに重要な役目を持つため、取組ごとにリスの呼出が元通りになるよう整えます。
使われている箒は手ほうき、座敷ほうきと呼ばれます。
見た目では藁ほうきにも見えますが、獣大相撲に用いられるのは藁ではなく、ホウキモロコシというイネ科の植物が使われています』
「竹ほうきが土、手ほうきが砂って理解でいいのかな?」
『十分かと。
箒で整えるという事は、土俵を清めるという意味も持ちます。
こと大相撲に関しては、興行という面と、神道としての奉納儀式である面が絶妙に絡み合っており、分け隔てて考える事が難しいのですが。
取組ごとに土俵を清める事は、そのどちらにも有用に作用する、良い慣習と言えるでしょう。
力士の柏手、塩撒き、横綱の注連縄。
出雲大社の取り行う神事や、立行司による土俵祭。
これらからも、神道と興行の良い混ざり方を見て取る事ができます』
たしかに、色々な場面で神道の儀式が見えるよね。
土俵入りで柏手を打ったり、取組前にお塩でお清めをしたり。
横綱が巻く注連縄だって、神社の御神木に張られている以外、普段は目にしない物だし。
元旦に門松とセットで飾っておく位じゃない?
あとは…大水酒造の神棚にも張ってあったような。
「ウチも、そこまで詳しくは知らんかったわー。
こういう時にちょいちょい知識を増やしてくれるん、アニガーのええトコや。
ありがとうな、ナビ子ー!」
「僕も勉強になったよ。
ありがとう、スズメさん」
『恐れ入ります。
折よく、行事が軍配を返したところですよ?』
「あわわ。もう取組が始まるね。
えっと、ライオンさんと…セイウチかな?」
「獅子ノ富士と、セイウチ海の取組やね。
セイウチ海は、今日勝てたら技能賞や!」
おお、やっぱりセイウチさんで合ってたんだ!
…セイウチさんって、後ろ足あったっけ?
ある?
いや、あったとしても、2足歩行には向かないシルエットだよね?
…でも、ちゃんと土俵に手を付けてる。
既に両手を付けてる大きなライオンさんが凄く格好いいのに、セイウチさんが気になってしょうがないよ!
いったい、どんな相撲を取るんだろう…!
張り詰めた空気の中、セイウチさんが残りの手を下ろして…
「…変化しよった!」
「!」
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