表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Animal Garden  作者: slowly
PR
35/57

◇親方

 土曜日。


 中学生にとっては学校がお休みの日。


 受験が終わった3年生にとっては、自由に使えちゃう時間だね。


 遊びに行くもよし。


 趣味に全力投球でもよし。


 一日中寝ていても…親に怒られなければ、よし。


 僕の場合は…



「ありがとうございましたー!」



 お店のお手伝い、売り子さんだね。


 レジ前に立って、お客さんとの接客担当。


 アルバイトじゃないよ?


 ただの実家の家業の手伝いだもん。


 僕はアニガーの通信料も払って貰ってるわけだし。


 頑張ってお手伝いしないとね!


 それに、仕事って言っても簡単なもので。


 お客さんも顔見知りのご近所さんと常連さんがほとんどだし。


 お店の中は10人お客さんが入ったらパンパンになる大きさ。


 入口から、会計、出口までがコの字型の店内だから。


 お話好きなおばちゃん方も、流れを切らない様に歩いてくれる。


 僕はお会計の時に2~3分おしゃべりする程度だから、疲れるほどの長話は稀。


 長話できるくらいにお店が暇なら、お話しするのもお付き合いだしね。


 今日だと、高校の入学をお祝いしてくれる人がたくさん!


 列の先頭でお会計をする人が、おめでとうってお祝いしてくれるから。


 次の人、また次の人って。


 みんながお祝いしてくれるんだよ! 


 いやー、素直に嬉しんだよ?


 でも、この勢いだとさ。


 ご近所さんにも常連さんにも、みんなに僕の進学先が伝わっちゃうよね。


 知られて困ることは無いんだけどさ。


 ちょっと、恥ずかしいよね。


 文房具屋さんのおじさん、万年筆をプレゼントしてくれるって言ってたし。


 和菓子屋のお婆ちゃん、お菓子を包んで持ってくるって。


 洋品店のおばちゃんは、ハンカチ見繕ってあげるって言ってくれて。


 この勢いだと、貰い物で部屋がパンパンになっちゃうよ!


 やんわり断っても、誰も聞いてくれないし。


 はっきり断っても、笑って流されるし。


 うー、遠慮なんかしてないのにー!



「家から酒を出す訳にはイカンからなあ」


「親方、僕まだ未成年だから。

 気持ちだけで十分だから」


「まぁ俺はお前さんの生まれ年の酒、取ってあるからな。

 成人した時に、纏めて祝ってやらあ。

 今回は、お前等の親父にくれてやるか」



 目の前でお会計の順番になっているのは、親方。


 おっきな酒蔵の蔵元で、僕のお爺ちゃんの将棋仲間。


 僕とみーちゃんのこと、産まれた時から知ってる人。


 僕たちは、小さい時から遊んでもらってるから。


 本当に頭が上がらない人なんだよ。


 餅つきをさせてもらって、食べさせてもらって。


 鯉のぼりも、ひな祭りも。


 ハロウィンとか、クリスマスだって。


 色んな行事ごとに僕たちに構ってくれた、面倒見のいい親方なんだ。



「実優も同じ高校なんだろ?」


「うん」


「そんなら安心だわな。

 お前等、どっちもボケボケしてるからな。

 せめて2人一緒じゃねぇと、心配で眠れもしねえよ」


「親方は、お酒飲めば寝れるでしょ?」


「んじゃ、お前等が心配で酒も喉を通らねえ」


「それは嘘」


「まぁ嘘だな」



 ガハハッと笑って背中を向ける親方。


 一々指摘しないけど。


 心配してくれてることへの照れ隠しなの、バレバレだからね? 


 僕もみーちゃんも、実家がお店を経営しているから。


 誕生日とかの記念日だからって、家族が休みになったりはしなかった。


 それでも、僕たちは2人で居たから。


 寂しくはなかったんだけど。


 そんな時は。


 お店が終わるまで、親方が連れだして遊んでくれたんだ。



「ああそうだ。

 お前等、受験が終わったんならよ。

 節分は実優連れてウチに来いよ。

 豆撒いて、恵方巻食うからな」


「わかった。

 みーちゃんと一緒に行くよ。

 友達も一緒でもいい?」


「いつもの5人組だろ?

 構わねえから、ちゃんと来いよ。

 甘酒も作っておいてやる」


「アルコールは飛ばしておいてよ?」


「ったりめーだ。

 お前等が最初に飲む酒は、もう決めてあらぁ」



 そう言って、親方はお店から出て酒蔵に帰って行った。


 親方の酒蔵、大水おうみ酒造はうちの町で一番敷地が大きくて。


 節分なんかの行事の節に、町の人たちに振る舞い酒を出したりもしてる。


 神社の氏子総代とか、お祭りの元締めとかも頼まれて。


 おらが町の親分って感じの人だけど。


 今日みたいに、『絶対来いよっ!』って言いに来る、寂しがり屋でもある。


 お正月にも餅つきしに行ったのにね。


 もちろん、僕の顔を見に来てくれた優しさもわかってるよ?


 でも、産まれた時から面倒見てくれてるってことは。


 僕だって、産まれた時から知ってるわけだからね。


 どーしても、可愛い面に目がいっちゃうってゆーか。


 …ちなみに、見た目は全然かわいくない。


 白髪頭に白髭の、矢鱈とガタイの良いお爺さん。


 ぱっと見、プロレスラーだと思うかもしれないほど、体が分厚い。


 いつも大水酒造の法被はっぴを纏っているから、よーく見れば酒蔵の関係者だってわかるんだけど。


 ムスッとした顔つきと眼光の鋭さ、深く刻まれた皺なんかが、威圧的な印象を与えがち。


 ホントは、お酒造りには頑固なだけの。


 優しい、子供好きなお爺ちゃんなんだよね。


 僕とみーちゃんにとっては、家族といっても違和感が無いほど近しい人。


 何かお礼ができればいいんだけど、難しいよね。


 僕たちよりずっと長く生きてて、色んな経験をしてきた人に。


 恩返しがしたいって思っても、何をしたらいいのやら。


 大人に相談しても、顔見せてやれば十分とか。


 何か作ってやれば喜ぶとか。


 その辺りはもうやってるんだよー!


 本人に相談しようものなら、鼻で笑われそうだし。


 ヒヨコ共が、背伸びしてんなよって。


 逆にお小遣いが飛んでくるのが目に見えてるもん。



「ムギちゃん、高校入学おめでとうねぇ。

 もうそんなに大きくなってたのねぇ。

 ついこの間まで、私の腰くらいの背丈だったのにねぇ。

 子供の成長って、早いわよねぇ」


「いらっしゃーい!

 こんにちはーっ!」



 答えが出そうにない宿題は先送りにして。


 今は接客に集中しないとね。


 お手伝いとはいえ、お仕事中だから。


 …それにしても。


 僕のシフトが終わるお昼までに。


 何回、同じ話が続くのかなー…


 嬉しいんだけど。


 沢山の人にお祝いされて、嬉しいんだけどね…


 あわー。


 早くツキノをモフりたいなー。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




☆本人に相談した場合☆


「あ?

 俺が生きてる内に、子供ガキこさえて連れて来い。

 死ぬほど喜んでやるよ」

「それで死なれちゃ困るんだけど」

「んじゃ、喜びで寿命を延ばす」

「…ありえる…」

大水酒造という酒蔵は、創作上のものです。

この物語は、フィクションとしてお楽しみください。

ブックマーク登録・評価ポイント・いいねを付けて頂き、ありがとうございます。

誤字報告も助かります。

読んで貰えて、嬉しいです。

がんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ