50話『時間は止まることなく進んでいく』
「―――皆、ありがとう。―――っとまぁ、こんな感じね。とりあえず、一番重要なのが、雪ちゃんが海外に行くって所と、出発明後日ってところね。それと、私たちが忘れるかもしれないなんてあの子はホント何を言ってるのかしらね」
雪からのメールには、俺たちや学校に隠していた理由がまず書いてあった。それは、絵美の言葉通り、俺たちや学校の友達がいつ帰ってこれるかもわからない留学中に、もし忘れられてしまったら悲しいから、先に自分から離れていこうとしているらしい。また、メールには俺のことが少しだけ書いてあり、「必死に引き留めようとしてくれたのは嬉しかった」らしい。俺の告白は間違った選択しかもしれないが、俺の想いは雪にしっかりと伝わっていたみたいだった。それだけは唯一嬉しいと思える。
「……っにしても、わざわざ学校にまで嘘つくとはなぁ。いや、俺が雪ちゃんと同じ状況なら隠したくなるだろうし、分からなくもねぇか」
「ま、どっちみち先生には冬休みに入る最後の日に驚かせたいから黙っててもらえてるみたいだし、明日には皆分かっちゃうわよ。ま、雪ちゃんが学校に来るのかは分からないけどね」
「なぁ、健や絵美は悲しくねえのかよ。そんな風に話してるけどよ、次いつ雪と会えるか分かんねえんだぞ⁉」
「そんなこと分かってるわよ! 雪ちゃんが私たちが忘れるかもしれないからって別れを告げようとしてるのなんて嫌に決まってるじゃない! でも、こんなところで私たちだけ悲しい顔したり、怒ったりしても意味ないじゃない!」
「そ、それはそうだけどよ……」
「奏斗。お前が雪のことを好きなのも、会えなくなるのが嫌なのも分かってる。だからこそ、俺たちは怒ってる暇なんてないんだ。今からでもやれることを考えた方が良いだろ? それに、こういう悲しくなりそうなときは思いっきりポジティブに考えればなにか良いことがうかんでくるかもしれねえんだ。な? 思考がネガティブだと嫌な方向ばっか考えちゃうんだよ。だから、奏斗もこれから雪に対して何が出来るのか、何をしたいのかをちゃんと考えろ。時間は少ないんだから」
「健……。そうだよな。健の言う通りだ。すまん、つい取り乱しちまった」
「いいってことよ。それでだ、俺に考えがあるんだが……」
―――部活も終わって家へと帰った俺は、妹の奏恵を連れて雪の家の前に立っていた。これは、健が言い出した雪と直接話すための作戦であり、その内容は至極簡単なものだった。まず、少なくとも一番連絡が取れそうな絵美には雪との携帯を使った連絡を頼み、俺に関しては現状の通り、妹を使って雪とコンタクトを取るという作戦だ。妹に頼むのは、俺や健は既にメールとかでしつこく連絡してしまったということもあり、尚且つ、俺の場合は告白やらもしたため、これ以上しつこく迫るのは余計に雪を怒らせてしまう可能性があったからだ。
「それじゃ、お兄ちゃんは家に戻っててね」
「おう。任せたぞ」
奏恵が雪の家のチャイムを鳴らした今、俺は既に家の中へと戻っている。後は奏恵に期待して待つだけだ。一応奏恵には雪に聞いといてほしい内容を伝えてはあるが、正直雪は家から出てきてはくれない気がした。というよりも、俺が同じ立場ならこれ以上関わらないように話すことを拒否すると思う。
そんなことを一人で考えていると、十分程度が経ってから奏恵がガッカリしたような顔をして家に戻ってきた。どうやら雪も同じ考えを持っていたようだ。
「お兄ちゃん。やっぱり雪ちゃんは出てきてくれなかったよ~……」
「そっか。ありがとな奏恵。それとこの寒い中、外で待たせちゃって悪かったな。風呂は沸かしてあるから早めに入っとけ」
「うん! 先にお風呂に入っちゃうね! それと、お兄ちゃんが思っている以上に私だって雪ちゃんと会えなくなるの寂しいんだからね!! お兄ちゃん! もし明日学校で雪ちゃんと会えたら絶対にお話ししてよね!」
「分かってるって。お前と雪は仲良かったもんな。後はお兄ちゃんに任せとけ。絶対なんとかしてみせるからよ」
「絶対だからね!」
「おう!」
お風呂に向かう奏恵の目からは薄っすらとだけ涙が出ていたが、俺はそれに気付かない振りをすることしか出来なかった。
それから程なくして絵美や健から連絡がきたが、どちらにも雪からの連絡はなかったようで、あとは明日の学校に賭けるしか手段はなくなってしまった。




