49話『間違った選択をしない為に』
「あら、遅かったじゃない」
「……僕からはこれ以上話せません。後は、マスターから直接お聞きください」
俺たちが扉を開けて中へと入ると、入れ違いになるように聡が部室から出ていき、俺と健は予想だにしなかった出来事から驚いて立ち止まってしまった。
「あなた達ね。固まってないで早く座りなさい。じゃないと色々と話さないわよ?」
絵美の言葉を聞いて体の硬直はなくなり、俺たちは絵美の話を聞くために椅子へと腰かけた。
「絵美からじゃなくて、出来れば聡から聞きたかったけどな」
絵美が話し始めるよりも前に、健は椅子に座ってから突然愚痴りだした。だが、健がこのまま愚痴を続けると絵美の性格上、話してくれなくなる気がしてならない。だからこそ、俺は健をまず黙らせることにした。
「健。そういうこと言ってると絵美は話してくれなくなるぞ」
「あら、分かってるじゃない。そういう事だから健は黙ってなさい」
「ちぇっ。ま、どっちみち聡のあの様子じゃあいつからは聞けないしな」
健は聡から聞きたがっているのだが、俺は絵美から聞くことが出来て少し安堵している。そもそも、聡は俺を嫌っているふしがあるし、健や絵美が一緒だとしても色々話してくれないだろう。しかし、雪を絶対と思っている聡は、何故絵美にだけ話をしに来たのだろうか。雪が聡に対して俺たちに伝えるように頼んだからとかなのか?
「……いや、聞く前から考え過ぎか」
「奏斗君? 奏斗君も何か言いたいことでもあるのかしら?」
今の俺の心の状態では、雪が絡むとどうしても考え過ぎてしまう。未だ絵美が話してもいないのにここまで考えてしまうのは無駄でしかない。ひとまず、絵美の話を聞き終わるまでは考えることを放棄するべきだ。
「なんでもない。話を頼む」
「えぇ、任せてちょうだい。私は記憶力には自信があるの。だから、聡君から聞いたことを一言一句全て話すわね」
絵美が話始め、三十分が過ぎようとしたときにようやく話は終わった。雪に関してはもちろんの事、聡がここに来た理由まで話してくれた。当然、話し終わるまでは健も俺も黙って聞いており、今からが考える時間だ。
「それで、奏斗は今の話を聞いてどう思ったんだ?」
「そうだな。聡が雪に頼まれて俺たちに伝えに来たっていうのはまぁ、有難いと思っている。ただ、雪が俺たちに隠して留学する件を話してくれなかったのはなんていうか悲しいかな。それに、どうして雪が学校に来ないのかは結局分からないし、先生が隠してる理由もわかんねえしな。とりあえず雪の事情は少し分かったし、あとは本人から詳しく聞きたいって感じかな」
絵美から聞いた話に対し、自分の思ったことを全て話した。勿論、雪が留学するっていうのを聞いたときは悲しかったし、出来れば行ってほしくはなかった。けれど、この考えは自分のエゴだと思っているし、絵美や健に聞かれない限り、話すのは間違っているだろう。
「そうか。やっぱり雪ちゃん本人から聞かないと色々分かんねぇよな。でも、奏斗は良いのか? 雪ちゃんの事好きなんだろ? 留学しちゃうんだぞ」
「そりゃ個人的には行ってほしくはないけどさ、決めるのは雪だろ? それに、どこに留学するのかも分かんないし……」
「ちょっといいかしら? 奏斗君は雪ちゃんが話してくれなかったって言ってるけど、私としては雪ちゃんは奏斗君に話そうとしたと思うのよ。だって、奏斗君が二回目の告白して時に雪ちゃんは奏斗君の家に来てたわけでしょ? それも、話があって来てたらしいじゃない。だから、雪ちゃんに説明を求めたいのは分かるけど、奏斗君が話を聞いてあげなかったのも悪いんだからね。だから、これから雪ちゃんともしも話す機会があっても、絶対に雪ちゃんを責めちゃだめよ。健もだからね?」
「分かってるって。そもそも俺は雪ちゃんを責める気はねぇよ。雪ちゃんにだって考えがあって俺たちに話さないんだろうしな」
絵美の言う通り、恐らく二度目の告白の夜に雪は俺に対して今回の留学の件を教えに来てくれたんだろう。しかし、俺は間違った選択をした。その結果が今の状況であり、絵美が釘を刺すように言ってきたのは、俺に今度こそ間違った選択をさせないためだ。
「ありがとな絵美。今の言葉がなかったらまた感情的になってたかもしれない。雪が悪いんじゃなく、話を聞かなかった俺が悪いってのを再認識したよ」
「って、奏斗。お前いつの間に二回目の告白なんてしてたんだよ、初耳だぞ!」
「いや、それはな。健には茶化されると思って話してねぇし、絵美には色々助けて貰ってたから少し話しただけだからな」
「馬鹿か! 別に茶化したりしねえよ。なんだと思ってんだ俺のことを!!」
「健。うるさいわよ。今はそれよりも雪ちゃんの事でしょ。―――っと、メールがきたわ。雪ちゃんからみたい」
「えっ! マジか! なんて書いてあるんだ?」
健や俺がメールや電話をしても一切返してこなかった雪が絵美にメールをしてきたのには素直に驚いてしまった。多分、聡が俺たちに話したことを雪に報告して、それを聞いた雪が絵美にメールしたんだろう。あまりにもタイムリーすぎるし、それ以外考えられない。
「それで、なんて書いてあるんだ? 読んでみてくれ」
健に頼まれ、絵美は雪からのメールを読み始めた。内容は長文ではあったが、俺たちの気になっていたことが主なようだった。




