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34話『歪んだ心』

 そして時間というのは早く過ぎ、いつの間にか学園祭の準備が進められて季節は秋に変わっていた。けれど、俺は何も変わらずに、雪と一緒に買い出しに行った日も、家で奏恵と雪とご飯を食べるときも、健や絵美、聡と普通に遊んだ時もいつもと全く変わらない俺でいた。けれど、こんなのがバレない筈がなかった。雪や絵美、健にはバレなかった。しかし、聡はどうだ。聡はきっと俺と同じ思いを雪に抱いている。だからこそ、学園祭前日の放課後という日に俺を呼び出したのだ。「大事な話がある」という用件で。

「――それで、俺に大事な話ってなんだ?」

「とぼけないでくださいよ。俺にはそんな塗り固めた仮面のような顔で演技しても無駄ですから。本音で話しましょう」

「ん? なに言ってんだ? 俺は学園祭の最終準備で忙しいんだが……重要な話じゃないなら戻ってもいいか?」

「……わかりました。けど、俺はあなたと違って真剣ですから。変わることを捨てた貴方には失望しましたよ」

 真剣な表情の聡に俺は下手な作り笑いしか浮かべられず、そんな顔を見た聡は俺を睨んでからその場を後にした。

「……戻らねえとな」

 まだ学園祭の準備は終わってない。俺は表情を戻し、クラスへと戻った。いつも通りを意識して。

「奏斗よ。今度の休みに我と魔力探知の旅に行ってみないか?」

 突然だった。きっと、雪は何も考えないで言った言葉だろう。しかし、俺はこの言葉を聞きたくなかった。雪にとってやっぱり俺は黒竜の使い手であり、所詮はマスターという奴なんだ。こんな事は分かっていたのに、実感したくないからこそ、俺は聞きたくなかった。必死にいつも通りを演じても、心の奥底では変化を願っていたんだろう。それも、雪に変わってほしいと俺は願っていたんだ。

「いや、もう俺はそういうの卒業したからさ、聡と行ったらどうだ?」

 思ってもないことも口から出まかせるように言う。これで雪が聡と行くと言えば俺はまた嫌な気持ちになるだろう。分かっているのに、逃げ道として聡を使ったのだ。最低だ。分かっている。

「……そうか。ならば今度サーヴァントと行くとしよう……」

 俺の言葉に対しての雪の返答など分かっていた。けれど、やっぱりその返答に俺の心はモヤモヤしてしまうのだ。この感情は嫉妬心。聡への一方的な嫉妬心だ。でも、雪にはこんな醜い感情はバレたくない。顔にも出ないように、抑えつけないといけない。

「ま、良いから早く帰ろうぜ。明日から学園祭だからゆっくり休みたいしな」

「うむ。休息は迅速に取るべきだ」

 家へと帰り、速攻シャワーを浴びてからご飯を食べ、雪と奏恵には疲れたから早く寝ると言って自室へと籠った。自室に戻ってからは、俺の心は荒れていた。虚しさや怒り、あらゆる感情と共に浮き上がる自分の醜い嫉妬心こそが俺の心を荒らしていた。演じることで押しとどめてきた感情が湧き出て、心はどんどん闇に染まっていく。

「……雪になんとも思われてないよな……」

 雪は俺が中二病であり、自分の中二設定に近いと感じたから近付いてきた。だからこそきっと、雪の中で俺に対しての好意なんてないだろう。けれど、もしも俺がもう一度中二病になればどうだ? もしかしたらという可能性はある。幸いにも明日からは学園祭だ。中二病を演じても誰にも何も思われない筈。俺は暗い部屋の中で一人薄ら笑うように笑みを浮かべた。

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