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魔剣学園 ~ブラコン娘の奮闘記~  作者: 光闇雪
Chapter.2 ~フラグのへし折り~
22/23

Episode:021 YATOK

七様、誤字の報告ありがとうございます。


大変お待たせしました。第21話、更新です。

今話は爆発直後の夕季側のお話です。また、話が長くなったので、タイトルも少し変更しました。

では本編をどうぞ。

 爆煙が私を包んだ瞬間、炎の膜に覆われた私は、フワッとした感触とともに一瞬で上空へと浮上していきます。私はそれが紅焔であることに気付いて笑顔になりました。


「ありがとうございます、紅焔」

(いえ。ユキさまは主様の妹さまです。助けるのは当たり前でございます)


 目線だけをこちらに向けた紅焔が返事をしました。

私は微笑んで頷くと、紅焔に止まるように告げます。紅焔が止まったのを確認し、グラン先生にテレパシーで連絡をとります。


〈グラン先生〉

〈夕季か。使い魔から手紙を受け取ったが、これは本当のことか?〉

〈ええ。先程、鬥蕁麻(とうじんま)の襲撃を受けました〉

〈・・・なるほど。さっきの音はそれか。皆は大丈夫か?〉

〈大丈夫です。ただ・・・〉


 そこで話を一旦やめた私は、目の前に広がる煙を見つめます。 

 兄様や先輩方には、これが濃縮瘴気の煙であることは分かるでしょうから、私が何かやることはないですね。それに慎之助先生がいらっしゃいますし、ここは先生方に任せましょうか。

 私には他にやることがありますから。


〈どうした?〉

〈・・・鬥が濃瘴溶液を服用して自爆しました〉

〈なんだと? ・・・分かった。津久毛先生に伝えておこう〉

〈お願い致します。それと手紙にも書いておきましたが、私はやることがあるので、この後の実習はお休み致します〉

〈・・・本当にやるのか?〉

〈ええ。では・・・〉


 私はグラン先生との会話をやめると、背伸びをしてから髪をほどく。


「紅焔。前方一町、左方二里先でおろしてください。そしたら兄様のもとに帰っても構いません」

(かしこまりました。ユキさま)


 行き先を告げると、紅焔は速度を上げながら目的の場所に向かっていきます。

 私は、サイコキネシスで自分の身体を保護しながら、ほどいた髪をツインテールに結びなおすと、目をつむりました。


家城(やしろ)。今、あなたのもとに向かいます。大叔母様にそう伝えておいてください〉

〈夕季様!? い、いけません! 学校にお戻りください!〉

〈家城。これはお願いではなく、命令です。あなたや大叔母様は分かっていると思いますが、前学園長、鬥による襲撃がありました。襲撃はあの方々の差し金です。これは十年前、私との間で交わされた約束事に違反しています。私はあの方々に対して罰を与えなければなりません〉

〈し、しかし・・・・・・!〉

〈もう一度言います。これはお願いではなく命令です。大叔母様に伝えてください。いいですね〉

〈・・・・・・かしこまりました〉


 家城とのやり取りを終えた私は、深呼吸を一回行ってから精神統一をはじめました。


(ユキさま。目的の場所に到着いたしました)

「ありがとうございますね。紅焔」


 数分後、紅焔が目的の場所についたことを知らせてきたので、私はゆっくりと目を開けて立ち上がります。そして、紅焔にお礼を言うと、その場から飛び降りました。


「紅焔。お兄様によろしくお伝えくださいね」

(かしこまりました)


 もとの山頂に戻って行く紅焔。

 私はそれを見つめながら、サイコキネシスで落下速度を抑えて目的の場所へと降り立ちました。


「「「「「夕季様!?」」」」」


 そこには夜刀神家施設ボディーガード集団“YATOK(ヤートック)”の方たちが数名おり、私の顔を驚いた表情で見つめていました。その中でYATOKのリーダーである家城裕也だけは、真剣な目で私を見つめています。


「あの方々は逃げましたか?」


 私は家城に近づいてあの方々の行動を訊ねると、家城は首を横に振り、こう答えました。


「・・・・・・夕季様が亡くなったと思い込んでいるようです」

「そうですか・・・・・・。それは好都合ですね」


 私は一瞬笑みを浮かべると、あの方がいる夜刀神家が所有するビルへ視線を向けます。そして、ゆっくりとした足取りで、入り口に向かいました。 

 しかし、入り口にいた竜人族の男二人が私の前に立ちふさがってきました。


「こちらは関係者以外立ち入り禁止だ」

「一般の方はご遠慮願おう。早々に立ち去れ」


 私は目を細めて立ちふさがる二人を見つます。

 彼らは、一週間前に新しくYATOKに入った新人のようです。新人ですが、ボディーガードとして雇われた以上、その家の娘の顔ぐらい知っていて同然だと思いますが、どうやらこの二人は知らないようですね。

 家城やほかの方たちの反応で、私がどのような人物なのかわかるはずなのに、そこまで考えが及ばないのはいただけませんね。それに私に向けるいやらしい視線も。

 全くどういう教育をしているのですか? 家城。

 ゆっくりと家城の視線を向けて非難すると、顔を青くしながら腰を折って謝ってきました。

 私は長めのため息を吐きだすと、立ちふさがっている二人に殺気を込めた視線を向けます。


「「!?」」

「今は貴方たちにかまっている暇はありません。そこをどきなさい・・・・・・」

「「・・・・・・っ!?」」


 私の殺気にのまれて尻もちをつく二人。私は、その間を通り過ぎると、家城にもう一度視線を送ってからビル内へと入っていきました。

 さて、時間を少しロスしてしまいましたが、まぁこれぐらいならば大丈夫でしょう。あの方々にはそれ相応の罰を与えなければなりません。覚悟していらしてくださいね。


**********


 夕季がビル内に入ってから数秒。家城は顔を青くしたまま、未だ尻もちをついて呆けている新人二人を見つめていた。そこにボディーガードというイメージに合わない華奢な体格のメガネをかけた男が近づいてきた。

 その男、名を小鳥遊祐一(たかなしゆういち)といい、YATOKの副リーダーで事務方のトップを務めている。そして、かつて夕季と刃冶の教育係だった人物でもある。


「・・・・・・リーダー。すみません」


 小鳥遊は、背後から家城に声をかけて謝る。

 家城は視線を小鳥遊に向けると、深呼吸を一回行ったあと、口を開いた。


「確かあの二人はあなたがスカウトしたんでしたね、祐一さん」

「ええ。最初あった時は光るものがあったのですが・・・、どうやら私の見込み違いだったようです。夕季お嬢様と一般の方を間違え、なおかつお嬢様にあんな視線を向けるとは・・・・・・」


 小鳥遊はそう呟くと、ゆっくりとした足取りで二人に近づいていく。家城は小鳥遊の怒りを察して、黙って見守る。


「「あ。ふ、副リーダー」」

「お前たち・・・、いつまで腰を抜かしているつもりですか?」


 小鳥遊は、尻餅をついている二人の襟首をもって、グイっと高く持ち上げる。小鳥遊よりも一回りも大きい二人の身体が宙に浮く。


「「ぐふっ!?」」


 二人は苦悶の表情で、二人を持ち上げている小鳥遊を見つめる。

 小鳥遊は無表情で、二人を見上げていた。


「お前たち。研修で何を学んでいたんですか?」

「「ぐ・・・っ!」」

「最優先事項である護衛対象者の名前と顔を覚えるようにと言っていたはずでしょ? 覚えていたならば、あの御方が夜刀神家御当主、刃秦様の御令孫、夕季お嬢様だということは一目で分かったはずですよ?」

「「が・・・っ!」」

「夕季お嬢様と一般の方を間違えるなどあってはならぬこと。あまつさえ、夕季お嬢様に対してあの様な不躾な視線を向けるとは言語道断ですよ」

「「がは・・・っ・・・」」


 小鳥遊が首を絞める力をだんだんと強めていくにつれ、宙に浮いて身動きが取れないでいる二人は、苦悶の表情から血の気がだんだんと失っていく。そのまま行くと、二人は息絶えてしまう。しかし、小鳥遊は力を緩める気配がない。


「私も耄碌(もうろく)したようですね。お前たちの様な輩をYATOKにスカウトするとは」

「「・・・・・・っ」」

「やめなさい。小鳥遊」


ビクッ


ドタッ!


 あともう少しで二人を絞め殺すというところで、背後から声がかけられた。その声に反応した小鳥遊は二人を手放してしまう。そのため、二人は重力に従い地面に落下し、そのまま倒れ込んでしまった。


「「がはっ! げほげほ!」」


 首締めから解放された二人は、勢いよく咳き込んで死から脱出する。しかし、起き上がる力は残っていないようで、倒れたまま動く気配がない。

 そんな二人を無視して小鳥遊は身体ごと振り返る。

 そこには黒いリムジンが止まっていた。そして、車の前には運転手らしき男に支えられた着物の貴婦人が小鳥遊を見つめていた。


「恵美様・・・・・・」

「小鳥遊。その様な者たちにお前が手を下す必要はありませんよ・・・。家城」

「はっ」


 その貴婦人は恵美だった。恵美は、自分のそばで控えていた家城に声をかけた。

 家城は返事をすると、すぐに数人の部下に命じて二人を運ばせた。

 恵美は二人が消えたことを確認すると、そばに控えるように立った小鳥遊に優しい表情で話しかけた。


「小鳥遊。あなたも若くないのですから、あの様なことは若い者に任せなさい」

「しかし、あいつらは私がスカウトした者たちなので・・・・・・」

「家城から聴いているわ。あの者たちがユキちゃんに何をしたのかもね」

「・・・・・・申し訳ございません。恵美様」

「あなたが謝る必要はないわ。あの者たちにはそれ相応の罰を受けてもらうのだから」

「・・・・・・はい」


 恵美は、笑みを浮かべ頷くが、すぐに表情を引き締める。


「それにしても、分家連中はとんでもないことをしでかしたものね。報告を訊いたときは耳を疑ったわ。ユキちゃんをなきものにしようと企むなんて」

「恵美様・・・、夕季様をお止めになられないのですか?」

「・・・・・・家城も分かってるはずよ。ユキちゃんを止められるのは、ヤイバくんだけなのを。分家連中の企みを実行前に把握していたら、ユキちゃんが手を出す前に私が連中の息の根を止められたけれど、もう遅いわ。お姉様になんて詫びればいいのかしら・・・」

「恵美様・・・」


 悲しげな表情で、ビルの最上階を見上げる恵美。恵美にとって、姉であるさおりとの約束は何よりも優先すべきもの。それをあまり遂行できず、夕季にたくさんの重みを背負わせていることに恵美は自分を責めていた。

 先に結論を述べるならば、恵美は自分を責める必要は全くない。なぜならば、夕季は自分のやるべきことをあらゆる手段で実行しているだけで、重みなどかんじていないからだ。もし、ここに夕季がいれば、『大叔母様。私はやりたいようにやっているだけです。そんなに自分を攻めないでください。大叔母様が笑っていてくださるだけで、私は満足です』と言って恵美に笑いかけるだろう。


ドン!! ドン!! ドン!! ガシャーン!!


その時、ビル内から何か壁にあたる音が続けて3回訊こえてきた。そして最後に窓ガラスの割れる音がが聴こえてくる。家城のYATOKの面々は驚いて、空を見上げた。恵美は、ため息を吐き出す。


「始まったみたいね。ユキちゃんによる大粛清が・・・・・・」

「10年前のときのようですね・・・・・・」


 ビル内から訊こえてくる音に誰もが驚愕で動けない中、恵美と小鳥遊は無表情でビルを見上げながら10年前を思い出していた。6歳の夕季が起こした大事件を・・・。

第21話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。


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