Episode:019 山頂血戦?
レフェル様、ヒョウガ様、感想ありがとうございます。
お待たせしました。第19話、更新です。
今話は魔斬山山頂での出来事です。
では本編をどうぞ。
「もうすぐ頂上みたいだよ、三人とも」
「やっとか・・・・・・、今日は一段と疲れたな」
「いや、お前は何もやっとらんだろうが」
「そうだよ。ヤイバは、ただ見てただけじゃない」
「分かってないなお前ら。何もやらないというのは、思った以上に疲れるんだぞ」
「いや、意味が分からんし」
私は三人の会話を微笑んで訊きながら、今回の魔斬山登山について考えていました。
(フラグのへし折りはいいとしまして、稻羽之素菟戦での思いかけない狂戦士モードへの変身はちょっと考えもんです。ただ、ユーマとウィルネと仲良くなれたので、全体的には良かったかもしれませんね)
ちなみに金鵄、蓑亀、八咫烏、八岐大蛇の幻霊獣たちは、ユーマとウィルネの活躍で、何事もなく倒すことができました。
「よし。頂上に到着っと」
「この後はどうするのかな?」
「うむ。1年生はお前たちが最初か」
「あ、グラン先生」
頂上に到着したとき、グラン先生の声が聞こえてきました。振り向くとグラン先生が腕くみをして、こちらを見つめていました。
グラン先生のほかにも、先生方がいたはずですが、姿が見当たりません。そのことをたずねると、『理事長に頼まれて、掃除に行った』と答えました。
ああ。あの賊の回収に向かったんですね。納得です。
「この後、私たちはどうしたらいいんですか?」
「全員が頂上に到着するまで、グループごとに待機だ」
ウィルネの質問に、グラン先生は後ろを指差して答えました。見ると2,3年生がグループごとに分かれていました。
(えっと、3年生がほぼ全員、2年生が半分ぐらいでしょうか。ふむふむ。1年生は私たちだけのようですね。まぁ、当たり前ですけど)
「なるほどな。で、どのように並んでいるんだ?」
「向かって左からA,B,C,Dという順番に集合している。全員がそろったら、次に何をやるかを指示する。それまではグループの連中とかと話をしていてもかまわん」
「はい、分かりました。えっと私のグループは・・・・・・、あ、あそこかな。じゃ、またね。ユーマ、ヤイバ、ユキ」
「「「おう(うぃ~)(ええ)」」」
私と兄様とユーマの三人はグラン先生と別れて、グループAの先輩方がいる場所に向かいました。ちなみにウィルネはグループCに所属しているので、そちらに向かいました。
「あ、おかえり~」
お従姉様が私たちに気づいて、手を振りながら近づいてきました。そして私たちの顔を覗き込むなり、幻霊獣についてたずねてきました。
「三人とも、幻霊獣はどうだった?」
「こいつとこいつの嫁が全部倒した」
「へぇ~。えっとユーマくんだっけ?」
「は、はい! ユーマ・サラマンダーと申します!」
ユーマは直立不動で返事しました。
どうやら緊張でガッチガッチになっているようです。兄様の『こいつの嫁』発言をスルーしていますから。まぁ、緊張するのも仕方ありません。ユーマにとって、いえ、大多数の生徒にとって、お従姉様は雲の上の方ですし。
「にゃはは。そんなに畏まらなくてもいいよ~。一年間、同じグループなんだから仲良くしましょう♪」
「は、はい!」
「それにしても相当鍛えているみたいだね。見ただけで分かるよ♪」
「きょ、恐縮です!!」
お従妹様に話しかけられるほど緊張の度合いが上がっていくユーマ。
「夕季。頂上についたのはいいが、この後は何をやるんだ?」
「ふふふ。なんでしょうねぇ」
そんなユーマに興味がないといった感じで、兄様がこの後の授業についてたずねてきました。
私は知らない振りをして微笑みました。兄様をサボらせるワケにはいきませんからね。
「そうか。まぁ、何がきても適当にやるから、別に知らなくてもいいか。はぁ~。ちょっと寝るわ。始まったら起こしてくれ」
「はい、分かりました」
欠伸をした兄様は、私の背中に寄りかかると眠り始めました。
私は兄様が倒れないよう注意しながら、ゆっくりと腰をおろします。そして葛葉のモフモフのしっぽを堪能しつつ、ユーマとお従妹様の方に視線を向けました。
「なるほど、みんな第二トラップの立札を左に行っちゃったのか」
「はい。そういえば左に行ったらどうなるんですか?」
「にゃははは♪ わたしもよく分からないんだ。グラン先生曰く、『左と右、どちらの道を通っても頂上に着くようになっている。しかも左の道が右の道より距離は短くしている』だって」
グラン先生がおっしゃった通り、正解の右の道ではなく、不正解の左の道に行ったとしても頂上に着くことができて、左の道の方が頂上までの距離を魔法で短くされています。
兄様に左に行ったらどうなるかと訊かれたときに行きますかと答えたのは、そのためです。ですが、左の道へいくと・・・・・・。
「え? でも、右に行った俺らの方が早く着いてますよ?」
「そうだよね。私も疑問に思って訊いたら、『距離は短いんだ』って言っただけでそれ以外は何も教えてくれなかったんだ」
そう。左の道は距離だけが短いんです。
「う~ん。よく分かりませんね。左の道には何があるんでしょう?」
「さぁ? 左に行ったクラスメイトに訊いても、教えてくれなかったからねぇ。ね? ギース」
「・・・・・・・・・・・・」
お従姉様はそばにいた、3年生のギースさんに声をかけますが、ギースさんは顔をしかめただけで、何も答えませんでした。
「ほらね。何も教えてくれないんだよ」
「な、なるほど」
「あ、ユキちゃんなら何か知ってるかもしれないね」
お従姉様がこちらを見つめてきました。
確かに私は、左の道に行ったらどうなるか知っていますが、ここは曖昧な表情をしながら肩をすくめてみせることにします。
「あら? ユキちゃんも知らないみたいだね」
「そうみたいですね。うーん。ほんと左には何があるんでしょうねぇ」
「何だろうねぇ」
とりあえず私も知らないという解釈をしてくれたようです。
ユーマやお従姉様には悪いですが、知らないのなら、知らないままでいた方が二人のためです。ね、ギースさん?
「・・・・・・・・・・・・(こくり)」
ギースさんに視線を向けると、ギースさんは私が言いたいこと察して、頷いてくれました。 私も頷き返そうと首を動かしたとき、お従姉様に近づくグラン先生に気づいて、動作の途中でユーマとお従姉様の方を向き直りました。
グラン先生は耳打ちして、お従姉様が頷いたのを確認してから、その場を離れました。そして私たちが登ってきた道を降っていきました。
『左の道に進んだ1年生たちの到着が遅すぎる。様子を見てくるから、ここは頼む』
フィジカル・レインフォースメント(身体強化)で聴力を高めて、グラン先生の話を盗み聞きしていた私は、葛葉にメモした紙をグラン先生に届けるよう頼みました。
〈お願いしますね〉
〈わかりました~♪〉
葛葉は『こ~ん♪』と鳴くと、目も止まらぬ速さでグラン先生のあとを追い掛けていきました。
〈ユキちゃん? どうしたの?〉
私の行動に気づいたお従姉様がテレパシーを送ってきました。 私は瞑想するように目をつむって、お従姉様に返答しました。
〈お従姉様。周囲を警戒してください。私の予想が当たってないとも限らないので〉
〈予想?〉
〈ええ。お祖父様や学園長がすぐに向かえない、そしてグラン先生がいない、この機会を逃すほど、あの人は甘くありません〉
〈あの人・・・・・・? って、まさか!?〉
**********
〈あの人・・・・・・? って、まさか!?〉
パン! バシュッ!
愛紗美が誰かを思い浮かべたとき、茂みから銃声が鳴った。そしてグループAの2,3年の間を通り過ぎ、弾丸が夕季の足元に着弾した。
『『『『『!!』』』』』
「ユキちゃん! 大丈夫!」
数秒遅れて、グループAが反応して茂みを睨みつけた。また愛紗美は座って瞑想をしつづける夕季に、慌てて近づいた。
「大丈夫です。近くに着弾しただけですよ」
夕季がゆっくりと目をあけて、愛紗美を見つめて答えてから、銃弾が飛んできた方向を睨みつけた。当然、銃弾を撃った者の姿は見えない。しかし、夕季は撃った者が誰であるか分かっているかのように口を開いた。
「鬥。そこにいるのは分かっています。でてきたらどうですか?〈お従姉様、皆さんを中央に集めさせてください〉」
「皆! 警戒しながら中央に集合!」
『『『『『おう!(はい!)』』』』』
夕季の命に従って愛紗美が行動を起こし、皆に訊こえるような声量で指示を出した。その指示で行動を開始した生徒たちは、瞬く間に中央に集合する。
その場に残ったのは、夕季と愛紗美、そして未だに眠っている刃冶だけだ。
「・・・・・・ぐひひひ。この時を待ってたんだ。グランがいなくなるのをな。ぐひひひ」
その時、一人の男が茂みの中から現れた。その男は、顔半分が完全に潰れており、身体が猫背で折り曲がっているため異様な雰囲気を醸し出している。そして両手には、魔力銃が二丁光っていた。
**********
「久しぶりですね、鬥。確か十年ぶりでしょうか?」
私は無表情を貼付けて、茂みから現れた男に話し掛けた。男の名は鬥蕁麻・・・・・・、かつて学園長を務めていた者です。
「ぐひひひ。そうです、そうです。十年ぶりですよ、夕季お嬢様。見ない間にえらい別嬪になりましたなぁ。ぐひひひ」
「相変わらずの下品な笑みをしていますね。まぁ、それがあなたの個性でしょうから、何も言いません。さて私たちに何かご用ですか? ご用がなかったら、消えてくださると助かります」
私は鬥の用事など当に理解していましたが、あえて気づかない振りをしながらたずねました。
鬥は下品な笑みを浮かべたまま、私とお従姉様、そして兄様を順に見つめると、急に真顔になって口を開いた。
「もはや忘れたワケじゃあるまいな、夜刀神夕季! 十年前、私の顔を潰し、それにも飽きたらず、私を学園長の座から引きずり落とし、九年もブタ箱にほうり込んだことを!」
「・・・・・・・・・・・・」
「この十年。私がどんな思いで過ごしてきたか、お前には分からないだろう! 私はいつかお前に復讐するためだけに生きてきたんだ!」
鬥は二丁の魔力銃の銃口を私に向けて、怒鳴りちらしました。
「・・・・・・・・・・・・はぁ、くだらねぇ」
その時、背中に寄り掛かっていた兄様の呟きが、ため息とともに聞こえてきました。顔だけを向けると、兄様は私の背中に寄り掛かりながら、紅焔に餌を与えていました。
どうやら兄様が起きてしまったようです。まぁ、あんだけ大声をあげられては、寝ていられませんね。
「くだらないだと!? もう一度言ってみろ、夜刀神刃冶!」
私に銃口を向けたまま、怒りをあらわにする鬥。兄様は欠伸をしつつ、もう一度同じ言葉を口にしました。
「はぁ、くだらねぇと言ったんだ、鬥」
「き、貴様!」
鬥はさらに激昂すると、銃口を兄様に向けて発砲しようとしました。
私はその動作の一瞬の隙をついて、死角から小石を指で弾いて飛ばしました。
「なっ!?」
狙い違わず銃を持っている手に小石が当たり、銃を思わず落してしまった鬥。そして驚愕の表情をうかべたまま、動きを止めてしまいました。
「ユキちゃん、ナイス♪」
「しまっ!? がはっ!?」
それを見逃すお従姉様ではありません。すばやく鬥の懐に飛び込むと、鳩尾に肘鉄をくらわせました。
「ま、まだだ。夜刀神夕季。お前を殺すまで、俺は倒れん!」
しかし鬥は、よろめきながらも持ちこたえると、ポケットから何か液体が入っている小瓶を取り出して、それを一気に飲み干しました。
その小瓶から漂ってきた臭いを嗅いで、私は驚愕の表情を浮かべました。
「あなた、まさか!?」
「ふははははは!! 死ねぇ! 夜刀神夕季!」
次の瞬間、鬥の身体が大きく膨れ上がっていきました。
「なっ!? これは!?」
「・・・・・・はぁ~。本当にくだらない」
「兄様! お従姉様!」
ため息を吐く兄様と驚愕するお従姉様の腕をとった私は、テレポートで皆さんが集まっているところに移動させました。その直後、鬥の身体が大爆発して、私を爆煙が呑みこんでいきました。
第19話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
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≪用語説明≫
魔力銃:
魔力を圧縮して、弾丸として撃つことができる銃の総称。
使用者の魔力によって威力が違う。
≪超能力説明≫
テレポート(瞬間移動):
サイコキネシス(念動力)の派生技。対象となるものに触れることで、どこでも転移させることができる。ただし、自分自身は転移できない。




