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―――イゴラフさんが、戻ってアミーラさんのお祖母さんに報告すると言って帰ってから、牛丼を買いに外出した。
車の量が少し少ないけど、至って日常すぎる。全然パニックなってないのがすごいな。あ、ついでに武器ランキング上位のスコップ俺も買ってこようっと。
えええええ、ホームセンターのスコップ売り切れてる!! もしかしてみんなあのランキング見てるのか!?
また今度にするか……満点市場で売ってないかな。
家に着いてミケとアヴィラさんにごはんをあげて、俺も食べて風呂入って寝よう。
ああーあ、なんか疲れた。
もう引っ越しの荷物の片付けとか、ほんとどうでもよくなってきたな。段ボールからそのまま使うか……。たまにミケが俺の服が入ってる段ボールに入って楽しそうだしな、うんうん。
―――次の日、ミケとアヴィラさんをお医者さんに連れて行くケージの準備をしながら二人に話しかける。
「ミケー、アヴィラさん用のケージがないから、ミケは昔使ってた少し小さめの子猫用のケージに入ってもらって、アヴィラさんはミケの使ってもらうけどいいかー? 昨日ごはん買う時買えばよかったけど忘れてた」
ミケはこちらを見つつ、なんとなく嫌そうな雰囲気を出しているが、たぶんだめとは言ってないな。ほんとに嫌なときは隠れるけれど、今は隠れてないし。
ミケはほんと俺の言うこと分かってるみたいでケージにもちゃんと入ってくれる。
地震が来たときも、揺れたらここに入るんだよって言ってあって、ちゃんと入れたらおやつあげるようにしていたら、ケージは嫌なものじゃないと慣れたらしいしな。
今は逆にアヴィラさんが怖いのかちょっとイカ耳になって警戒してるのが笑う。
「アヴィラさん、お医者さんに行かないとミケの隣にいられないかもしれないんだから、ちゃんと入らないとだめだよ」
どうみても渋々ケージに入っている小さくなってくれたアヴィラさんとミケを連れて車に乗り込む。
―――さて行くか。
アヴィラさんが初めての車なのもあって、なんかびくびくしてるな。
「アヴィラさん、これは自動車と言って、こっちの人族の移動手段の一つなんだよ。もうすぐ着くから落ち着いてね」
信号待ちの時見たけど、毛がぶわっぶわになってる。あとで宥めてあげないとなー。
―――さて着いたっと。
ここのいつも来ている獣医さんは優しいし、説明もきちんとしてくれるし、そして融通も利かせてくれるからかなり助かるんだよなー。
昨日電話して、急ぎでワクチン打ちたい子がいるって言ったら、じゃあ今日来てねぇって言ってくれたしなー。ありがたすぎる。
動物病院に二人を連れて入っていく。
と、いつもの猫ちゃんやわんちゃんの鳴き声が急にぴたっととまった。
え、静かすぎる。
受付を済ませても、なんか息を潜めるかのような雰囲気の動物たちがいる。
えぇ……? なにこれ、もしかして本能でアヴィラさんがトラってわかるのかな?? ミケだけの時はこんな風になったことないぞ。
まあアヴィラさんは大人しくしているから、どうしようもないな。俺がちゃんと見ていようか。
―――診察室に呼ばれて入る。
「こんにちは、ミケちゃん、虎太郎君。ミケちゃん相変わらずかわいいちゃんだねぇ。あとこちらが新しい子かな? お名前は? 「グァ」「アヴィラさんです」おやーー! ちゃんと答えられるのぉ? えらいちゃんだねぇ? アヴィラちゃんね、アヴィラ君かな? 「男の子です」うんうん、アヴィラ君! 大きい猫ちゃんだねぇ? ……んん……? んーー??」
テンション高い先生に答えながら、挨拶して状態の説明をする。
この先生は俺より二つ上の中学時代の先輩で、昔からここで動物病院を営んでくれている。というか、親の動物病院を継いだんだよな。
そう、だから融通を利かせてくれるのもあるんだろうなー。ちなみに俺と同じ独身だ。
動物が好きすぎるからか、新しい子が嬉しくて仕方ないらしんだよなー。今日のテンションはいつもよりすごいな。
「先生、こんにちは。今日はよろしくお願いします。アヴィラさんにワクチン一式と検査をお願いしたいのと、あと実はミケが、んーと怪我はしてないらしいのですが、なんか体調が悪かった? らしく、念のため見ていただきたいなと伺いました」
「ああ、あ、じゃあアヴィラ君の血液採取と、あとはワクチンしてしまおう。はい、ちょっとちくっとするよー」
「アヴィラさん、大丈夫だから。よしよし」
「グゥゥゥ」
唸りながらアヴィラさんが俺の腕と胴の隙間に頭を入れてきた。落ち着かせるように撫でておく。かわいい。我慢しててえらい。
アヴィラさんの注射が終わったあと、ミケのことも色々調べてくれたようだった。
「虎太郎君、アヴィラ君って……猫ちゃん?? 北欧猫にしてはちょっと大きすぎるし、模様がどう見てもトラだよねぇ?? トラの子供にしか見えないねぇ??
……あと、ミケちゃん……、子猫のときにちゃんと避妊手術したよねぇ? カルテにも書いてあるし、僕が処置したしねぇ……? ううーん、虎太郎君がよければ、ミケちゃんMRIしてみない?」
MRIかー、高いんだよな。……でもやっぱりミケになんかあったぽいな。してもらおう。
「お、お願いします……。ミケ、ちゃんと検査してもらっておいで」
―――血液検査とかMRIの結果出たらあとから連絡するからまた来てね。と言われて家に帰ることにする。
うおお、さすがに出費がデカいな。垂れ流し配信で収益化ってなるんかなー。帰ったら見てみよ……。なんとか少しでも足しになればいいけどなー。
―――そして家に戻ったら、家の前に警察の格好した二人組とスーツ着てる偉そうな人がいるんだけど……?
え、俺なんかした? 税金滞納してないしな?? 相続税払うほど資産なかったし……。
えぇ……? 怖。
「……こんにちは、山岸警察の佐藤と申します。こちらは後藤です。こちらは、国家危機管理部の佐久間さんです。あなたが田川虎太郎さんで間違いありませんか?」
警察官の制服を着て手帳を見せてくれながら自己紹介してくれたのが、佐藤さん。若めの女性警察官さんだ。可愛い系だ。後藤さんが中年の警察の方。普通のおじさんなんだけど眼光が鋭い。ちょっと怖いな。
スーツの佐久間さん、―――こちらはエリートっぽい男性―――国家危機管理部とか聞いたことない部署だけど、異次元ゲートができたときに新設でもされたのかな。
「はい、わたしが田川虎太郎ですが、……なにか……ありましたか? 税金はちゃんと払っています」
「いえ、違いますよ。いただいた異次元ゲートの件で、もう少し詳しく情報提供をお願いしたいとのことでですね。
……お電話したのですが、お出にならないようですのでこうしてわざわざ伺ったわけです。
普通はオンラインで済むんですが……。田川さん配信されてますよね? それでちょっと上の方がアポを取れとうるさくてですね。
……おかげでこちらも他の仕事あるっていうのに……いきなり行ってこいって大変ですよ……。あ、そういうことで申し訳ないんですがお話伺えますか?」
「……ああ、異次元ゲートの。電話……? あ、なんか通知うるさかったのでマナーモードにしててそのままにしてました。……申し訳ない。あの、もしかして配信がいけませんでしたか? 消してきましょうか」
なんかこの佐藤さんという女性、ちょっと失礼だな。可愛らしいのにもったいないな。
と、佐久間さんと呼ばれた人が口を挟んできた。
「いやいや、悪いわけではなくて、むしろそのままでいいらしいんです。配信は消さないでおいてほしいですね」
「……わかりました。あっと、先に猫たちを家に入れてもいいですか? 少しお待ちになってください」
ミケたちを家に入れて言い聞かせる。「ミケ、アヴィラさん。ちょっとお客様だから待っててね。アヴィラさん念のため小さいままで居てほしい。ミケのこと頼む。あ、病院後のおやつはお客さん帰ってからな、ごめんよ」
さてさて、どんな要件なんだろう。




