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終末の放浪者  作者: 生吹
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物資調達

「おーい。誰か」

 

 もぬけの殻になったドラッグストアを物色しながら染谷は呼びかけた。返事はない。


「ちょっと貰いますよ?」


 少女たちが住む地区からはだいぶ離れたところまで歩いてきた。ここにも食料はほとんど残っていなかったが、サプリメントとナプキンは手に入れることができた。


「チョコなんてどこにあるんだか」


 この生活を始めてからというもの、確実に独り言が増えていた。良くないことだとはわかっているが、何か喋っていないとどうにも心細くなるのだ。時には自分で自分を励まし、くだらない冗談を言い、孤独と不安をごまかしてきた。彼が人を助けるのは、優しいからでも見返りが欲しいからでもなく、ただ人との関わりを失いたくないという寂しさからだった。保菌者である自分が人と関わりを持つだなんてもってのほかであることは理解していた。何度も自ら命を絶とうとしたが、迷って迷って最終的に自身の特性を活かして生き残っている人々の役に立つ存在になろうと決めた。時には騙されて持ち物を丸ごと盗まれたり、感染していることを理由に殺されそうになることだってあるのだが、いつしか誰かのために物資を調達することが生きがいになっていた。これに以外に人と繋がれる方法がないからだ。


「てめえ、俺らのシマで何してやがる」


 ナプキンをリュックに詰めていると、背後から男に声をかけられた。歓迎されているわけではなさそうだった。おまけに「シマ」というワードを出してくるあたり、カタギの人間でもなさそうだ。


「だから、さっき呼びかけた。『誰か』って。なんでその時に返事しない? 戸締まりも――」

「うるせえよコソ泥野郎! ぶっ殺すぞ!」


 男は怒鳴った。その怒鳴り声を聞いてか、もしくはずっと陰から見ていたのか、複数人の男たちが湧いて出てきた。その手には少し拉げた鉄パイプが握られている。集団で殴られでもしたらひとたまりもない。


「まあまあ。男は生理用ナプキンなんて大抵必要ない。これだけ取ったら出ていきますんで」


 染谷はそう言うとそそくさと退散しようとした。いくら孤独で寂しくても繋がりを持ちたくない相手だっている。

 しかし男たちは納得がいかないようだった。

 

「てめえ、女囲ってんのか。歳いくつだ?」


 背後の男が興奮気味に言った。「しまった」と思った。


「俺はあと半年で25歳」

「お前の歳じゃねえ! 女の歳だよ!」

「なんでそんなこと気にすんだよ?」

「どこに匿ってるか言え!」

「最近の変態野郎は会話もままならねぇのか?」


 染谷は手近にあった尿漏れパッドを引っ掴んで、男に投げつけてやった。そして投げてから少し後悔した。感染してからというもの、どうにもカッとなりやすいような気がしていた。多少なりともウイルスの影響が出ているのか、単にストレスを抱えすぎているのか。


「もういい。リュック開けろ」


 今度はボス格の男が地を這うような低い声で言った。しかし染谷とてこんな怪しい奴らに物資を分けてやりたくはないのだ。


「あの、もう二度とここへは来ない。お願いです。子供のために物資が必要なんです。いや、子供って言っても俺の子供じゃなくて。偶然見つけた子供で、心細いなか俺の帰りを待ってるんです。こんな世の中だし、ここはおたがいに――」


 なんとか説得を試みたが、染谷が言い終わる前に男たちが一斉に口を開いた。

 

「聞こえねえのか? リュック開けろって言ってんだクソガキ」

「っていうか持ち物寄こせや。てめえ泥棒だろ? 当然の報いだよな?」

「女を寄こせばボコらずに逃がしてやってもいい」

「お前けっこう良い服着てんじゃねえか。それも盗ったのか?」


 あまりにも統率が取れていないので、染谷は段々とイライラしてきた。「うるさい!」と一喝しようか迷っていると、店の入り口に誰かが数人立っているのが見えた。それは紛れもなく感染者だった。妙な色の涎をだらだらと垂らし、息は上がっていて、興奮しているのが窺えた。


「ああ。でかい声出しすぎたな。これ俺のせい?」


 染谷が感染者の方を指さすと、男たちは黙ってそちらに目をやった。感染者が襲い掛かってきたのはそれとほぼ同時だった。


 染谷は特に何かすることもなく、ただその場にじっとしていた。男たちだけが大慌てで逃げ惑ったり、鉄パイプを振り回したりしていた。もうすでに感染している染谷は、奴らを刺激さえしなければ襲われることはほとんどなかったのだ。刺激さえしなければ……


 逃げてきた男が染谷の後ろに隠れ、彼を盾にしようとした。そのせいで男諸共感染者に突進されてしまった。「謝るから助けてくれ」と泣きつく男を引き剥がしてから仕方なく逃がしてやり、とにかく感染者を一発殴って距離を取ろうと全力で走ってしまったのがいけなかった。狂暴化した感染者は、走るものには特に反応する。おまけに殴られたときたら襲わない理由はないだろう。


「もういい! ゾンビ共全員ついて来い」


 染谷は怒れる感染者たちをどうにか挑発して店の外へ出た。彼が外へ出た瞬間、入口は閉じられ、瞬く間にバリケードが作られた。そのため直ちにターゲットは染谷1人に絞られた。あまりの判断と仕事の速さに、染谷は怒るどころか少し悲しくなってしまった。


「慣れてやがる……」

 

 暫くは持ち前の体力を活かして走り続けていたが、重いリュックを背負ったまま走り続けるのは不可能だと悟り、塀や民家の屋根の上に登りながら移動した。こんな事のためにパルクールを習っていたわけではないのだが、こういう時は本当にパルクールを習っていて良かったと過去の自分に心から感謝するのだった。

 住宅地を抜け、追ってくる感染者たちは少しずつ減ってゆき、やがてやけに筋肉質な1体だけになった。染谷は屋根から飛び降りて受け身を取りながら着地し、もうほとんど諦めモードだった感染者を一瞥してシッシと追い払った。感染者もさすがに面倒になったのか、元来た道をトボトボ帰っていった。

 

 しかし、かなり遠くまで来てしまった。

 

「帰るのめんどくせえな。食料もチョコも見つけてないし……」


 このままでは帰れない。染谷はため息をつき、途方に暮れた。日は西の空に傾きかけている。夜間に行動するのは得策ではない。とにかく大通りに出て、朝まで身を隠せそうな場所はないかと辺りを見渡してみる。ファミレスがあったので入ってみることにした。入口は施錠されていたが、ここ数年で身に着けたピッキング術を駆使して開錠し、中へ入った。



 






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