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終末の放浪者  作者: 生吹
1/4

生存者

連載形式ではありますが、10000文字以下の短いお話です。4話で完結します。


 2000年代のゾンビパニック映画のような出来事がいつか起こるのではないかというくだらない妄想は、誰もが一度はしたことがあるだろう。しかしそれは大抵の場合とりとめのない「妄想」で終わったはずだ。一度新型のウイルスが世界を覆いつくしたこともあったが、その時だってまさか数年後にそれ以上の惨劇が繰り広げられるだなんて、誰も思わなかったのではないか。


 感染者が自我を失い、人が人を襲い始めた。それは人口の密集する大都市で当時多発的に発生し、政府が慎重な話し合いをしている間にも瞬く間に拡散されてしまった。ウイルスは増殖という目的を確実に果たしていった。


 それから更に時が過ぎ、いつか映画で見たようなポストアポカリプスが現実のものになっていた。生き残った人々はバリケードで囲われた街や孤島のシェルターに息を潜め、ラジオで生存者を募ったり、時々外の世界に食料を調達しに行ったりする日々を送るようになった。どこかの人工島ではワクチンの開発が進められているという噂も飛び交ってはいたが、本当のところはわからない。

 

 雨の降る冬の日。誰もが暴徒と化した感染者に怯えるなか、外の世界を悠々と闊歩する青年がいた。染谷というその青年は、今日も孤独に食料調達の旅に出ていた。ホームセンターから拝借した地厚の撥水パーカーに、ポケットの多いクライミングパンツを着込み、両手にはトレッキンググローブを嵌め、大容量のリュックを背負っていた。まるで登山にでも出かけるかのようだ。自分で切った髪はバサバサに傷んで少し色が抜けている。彼の身体には複数の咬傷が見られたが、どれも傷口は塞がってケロイドのようになっており――それでも自我を失っていなかった。染谷の頭は不気味なほど冷静で、体調にも変化がなく、黙っていれば健康な人間とほとんど変わらない状態だった。ほとんど……


「生存者ですか?」


 トタンやら木材やらでバリケードを張られた民家の窓を覗き込んだ時、ふいに窓が開き、中にいた15~6歳ほどの少女から声をかけられた。その声にはまだ幼さが残っており、いたく心細そうであった。


「出てくんなよ。うつるぞ」


 染谷は顎に引っ掛けていたマスクを戻し、民家の窓から速やかに距離を取った。「どうして。あなたは大丈夫でしょう?」と戸惑う少女に、染谷は簡潔に説明した。


「こう見えても感染してる。もう3回は嚙まれたり血を浴びたりしてる。いわゆる無症候性キャリアってやつかもしれない」

「むしょうこう……?」

「感染しても何も症状が出ない、健康保菌者だよ」

「じゃあ、ずっと1人でいるんですか?」

「まあ、そう。誰かと一緒にいたらうつしちゃうかもしれねえし。でも物資を探してくることはできる。まあ、空気感染しないとはいえ、本当は保菌者が持ってきた物資なんて受け取らない方が良いんだろうけど。気にしないのであれば……?」


 染谷が尋ねると、少女は少し考え込んで、家の奥に戻った。それから少しして、10歳くらいの少年を連れて戻ってきた。


「今、私たちは弟と2人で暮らしてます。たまに自分たちで外に出て食べ物を探しに行くけど、近場のスーパーや商店は漁りつくしてしまって……食べ物が足りません。水は、庭の井戸のものを飲んでいます。古い家ですから。使えるガスバーナーもあります」

「そうか。井戸があるのはいいな。――親御さんはどうした? 聞いて平気?」


 染谷の質問に、2人の表情が強張る。こちらから完全に目線を外し、押し黙ってしまった。どうやらもうこの世にいないか、感染して暴徒と化してしまったようだ。


「わかった。今持ってるものをいくつか渡しておく。ゴソゴソやってる間に欲しいものをいくつかリストアップしておいて」


 染谷は雨の当たらない軒下に移動し、リュックの口を開けると、中に入っている物資をいくつか取り出してみた。賞味期限切れの辛いカップラーメンが2つに小豆の缶詰と桃の缶詰が1つ。懐中電灯が4つ。痛み止め、抗生物質、胃薬が数箱。水の入ったペットボトルが2本。空のペットボトルが1本。そして太いロープが1本。


「なんで懐中電灯ばっかり4つもあるんだ? どうりでクソ重いと思った」


 リュックを漁っていると、窓から少女の手が伸びてきた。その手には必要なものが書かれたメモ書きが握られていた。染谷はそれを受け取り、ひとまず懐中電灯と食料をいくつか渡した。


「このラーメン辛いけど食えそう? 今日は寒いから丁度いいか。小豆の缶とか嬉しくないよな。最近の子は和菓子もあんま食べないし、桃にしような」


 そんなことをぶつぶつ言いながら伸ばされた手に物資を手渡す。しかしこれだけではどうにもならない。自分の食料は残しておかなければらならいし、少女から手渡されたメモには食料のほかに栄養が取れるサプリメントや生理用ナプキン(口頭では言いづらいが紙に書けといえば大抵書いてくれる)などの物資が記されていた。そしてメモの一番下には幼い字でチョコレートと書かれている。おそらく少女の弟が書いたのだろう。


「OK。少し遠くまで行って探してくる。戸締りはしっかりな」


 染谷の言葉に少女は申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「本当にすみません。外は危険なのに」

「俺にはそれほど危険じゃない。保菌者になってから、あいつらに追われる頻度が目に見えて下がった。感染したから基本的に用済みなんだと思うわ」

「でも、本当にお気をつけて」


 染谷はメモ書きを胸ポケットに仕舞い、民家を後にした。





 

 

登場人物が「ゾンビ」と呼ぶ描写がありますが、奴らは走りますし死んでいるわけではないので、厳密には感染者でありゾンビではないのです。

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