第23話
「危ない……っ!!」
ユリウスを押しのけ飛んできた物を避ける。
自分の髪がはらりと揺れてキラキラと舞った。
飛んできたナイフが地面に刺さり、カイトは騎士に押さえつけられる。身動きを封じられ、苦し気に呻いた彼を見て警戒を緩めた。
尻もちをついたユリウスに支えられ息をつくと、ハッとしたような声が聞こえ視線を向ける。
「エリシア……。キミの髪が……。」
目を見開いたユリウスに指摘され、短くなった自身の髪をそっと触った。
「あら、だいぶ軽くなっちゃったわね。」
ケロッとそう言うと、ユリウスは悲し気に顔を顰めて手を伸ばす。
「僕の、せいだ。」
「何を言ってるの。ただ髪が短くなっただけじゃない。」
ユリウスの言いたいことは分かる。
貴族の女性たちにとって髪は大事なもので、肩よりも短く切りそろえている者はいないのだ。だからこそ、彼は本気で悪いと思っているのだろう。
私がぷっと噴き出すと、不思議そうな顔をする。
「そんな顔しないで。私にとっては髪よりも貴方が大事よ。」
私にとってはそれだけだった。
泣きそうなユリウスに髪をさらさらと撫でられくすぐったい。
「それとも、髪が短い私は嫌い?」
微笑んで問いかければ「それはない」と強く否定される。
「だったらいいの。」
震えている手を取ってぎゅっと握った。
安心させるように微笑むと、青い瞳が揺らいでいく。
「……もう。全く、泣き虫なのね。」
「……ごめん、ごめんね。」
流れる滴を拭いてそっと頭を抱き寄せた。
縋るように腕が回され、仕方ないなと少し呆れてしまう。
「ほら、家に帰りましょう?そしたら、一緒にお昼寝でもしたいわね。」
気にしているユリウスの髪を撫でながら、本当に助かったのだと少し震える手をそっと握った。
*
翌朝。
既に日の高い時間に目が覚めた私たちは、のんびりとソファに隣合って座る。心配をかけた使用人たちに「休んでください」と怒られたため今日は休むことにしたのだ。
「エリシアにはちゃんと言っておくべきだったね。」
「そうね。」
ユリウスが危険だと言ったのは、コーネリア家には敵が多いと知っていたからだったそうだ。
王家の影すらも取り纏めると聞いた時はとても驚いた。それと同時に彼の情報の多さや、王家からの態度に納得するものがあった。
話している時の彼の顔は不安で揺れていて、私を巻き込みたくないという気持ちも、過去の自分がしてきたことを知られたくないという気持ちも伝わってきた。
でも、その気遣いは不要なのだ。
「私が貴方を愛しているのは変わらないわ。危険なことはしないでとは言えないけど、私にも心配くらいさせて欲しいわ。」
「……エリシアは強いね。」
私を見て眩しげに目を細めたユリウスに微笑む。
「それはユリウスのおかげよ。」
自身の能力を隠して逃げていただけの私が、人の役に立ちたいと思い直せたのは彼のおかげだ。きょとんとした顔にくすくすと笑いが漏れる。
「貴方が私を変えてくれたの。私が前向きでいられるのも、こうして楽しく笑って過ごしているのも。感謝してるわ。」
「僕は何もしていないよ。」
「ううん、それでも。私にとってはそうなの。」
優しい手が短く整えられた髪を梳く。
「そっか……。」
言葉を飲み込んだユリウスは、それ以上何も聞かず小さく笑う。
気持ちのいい午後の陽射しに気分が良くなった私は、ユリウスの手を引いて立ち上がる。
「せっかくだから、一緒にお庭でお茶でもしましょう?」
「……ふふ、元気だなぁ。」
可笑しそうに言ったユリウスにつられ、私もふっと笑う。
「ほら、早く。」
急かすように手をぎゅっと握ると、軽く握り返される。
「転んじゃうよ?」
「ふふ、ユリウスがいるから大丈夫よ。」
ドアに向かっていた足を止めて、自信ありげに振り返るとため息が返ってくる。
その顔は嬉しそうで、幸せそうで。
きっと私も同じような表情をしているのだろう。
細められた青い瞳を見て、穏やかに揺れる花とティータイムを楽しんでいた。




