第81話 近衛! 突入、突入!
「ちょっとした興味から聞くんだが、あんたはこの国の何代目の国王にあたるんだ?」
俺は国王に訊ねた。
「八代目だ」
「建国して何年?」
「来年で百二十年になる」
「初代は国王になる前は何やってた人?」
「地方の小さな豪族だな」
「その豪族がなぜ国なんか興したんだ? お山の大将のままでも良かっただろうに」
「この国以前にあった国の圧政に立ち向かった結果だ。乞われて王になった」
「ご立派な人だったんだな。豪族よりも前の先祖は?」
「さて?」
「俺が思うにそういう地元の親分連中ってのは、大体、元々の腕っぷしが強い奴らだ。農家の生まれか猟師の生まれか知らんが、腕っぷしが強い分、荷物を沢山運べるとか強い獲物を獲れるといった理由で周りから慕われる。山賊として荒事がうまかったのかも知れん。慕ってくれた仲間と目の前の仕事をこなしていく内に取り巻きが増え一家を構えて豪族になるといったところだろう」
「かもしれんな」
「なぜ取り巻きが増えるんだと思う?」
「強いからだろう? 近くにいれば、いざという時に守ってもらえるからじゃないのか?」
「豪族ともなれば戦だってあるだろう。取り巻きとして戦に駆り出されれば死ぬかも知れないぜ」
「そうだな。ならば、なぜだ?」
「単純にそいつと一緒にいれば自分と家族が食いっぱぐれないからだよ。もし駆り出された戦で自分が死んでも残された家族は補償や仕事の世話をしてもらえて生きていける。そうしてくれると信じられる親分だったからそいつの周りには人が集まったんだ。親分だから獲物の一番うまいところを取るだろう。金だって沢山手に入る。親分が一番裕福になって一番いい目をみるのは当然だとしても、ついて来た周りの人間を飢えさせずに食わせ続けたから取り巻きが増えたんだ。その結果、国王になった。要するに国王の価値ってのは国民を食わせられるかどうかさ」
「ふむ」
「翻って、あんたはどうだ? 十分に国民を食わせているか? ここは良い国か?」
国王の目が泳いだ。
俺は言葉を続けた。
「生きてる内から国民が来世に期待するような国は、もう終っているだろう。その国民に現世での希望を与えるのではなく来世すら人質にする宗教はもっと駄目だ。その宗教と国が結託するようでは、あんたの先祖なら間違いなくあんたを討つんじゃないか。国民は食わせる対象だ。食い物じゃない。国民を十分に食わせている限り、おこぼれとして国王は富にあずかれる。高貴な者の義務ってのはそういうことだろう。順番を間違うなよ。あんたの先祖は今この国にはいないが、あんたの先祖が当時の国に対して思ったように、あんたを間違いだと思っている人間がいるかも知れないぜ」
「ルンヘイムか?」
「ルンヘイムがどう考えてるかは知らん。もっと目の前にさ」
俺の言葉にざらりとしたものを感じたのだろう。
国王、ゴスム、隊長の顔が緊張した。
隊長の右手がさりげなく剣の柄に近づいた。
「ところで王国の力でゴスムの『沈黙』は『解除』できなかったのか? それとも本気では手配しなかった?」
俺はあからさまに話題を変えた。
「王国に所属する最高の【回復魔法士】にはできなかった」と国王。
「正統教会は?」
「同じだ」
「今日、【神官戦士】たちの『石化』を教会が『解除』できなかった報告は受けたのだろう?」
「もちろんだ」
国王は神妙な顔で肯定した。
俺は少しだけ感心した。
「あんたは、肝は据わっているな。よく、のこのことこの場に本人が姿を現した」
「安全のための小細工はさせてもらっている。この部屋で魔法は使えん」
「本当に? 『解除』 ゴスム、何で国王を止めなかったんだ?」
「お止めしたさ」
自分で答えておきながらゴスムは唖然とした顔をした。
「馬鹿な。結界の中で『沈黙』が『解除』された」
「『施錠』」
続けざまに俺は別の魔法の名前を口にした。本当は無詠唱ですむ話だが、相手とヘレンに俺が何をしたか把握させる必要がある。
国王の背後の扉でカチャリと音がした。鍵がかかった音だ。いつでも王が逃げられるように、またいつでも控えている兵が乗り込んでこられるように、俺とヘレンの背後にある扉と違い国王が入って来た扉には鍵がかけられていなかった。
「貴様っ! 陛下、お逃げをっ!」
隊長が国王が座るソファを後ろに倒した。
国王はソファの動きと合わせて、後ろにでんぐり返しをする様にして身を翻した。
同時に国王を庇うように、倒れたソファを乗り越えた隊長がテーブルの上に立つ。
鞘走らせた剣で抜きざまに俺を斬ろうとした。
けれども、その位置はヘレンの前。
ヘレンが立ちあがりざまに手甲で隊長の剣を弾き、逆の手の張り手で隊長の顎を跳ね上げた。
綺麗に弧を描くように背後に吹き飛んだ隊長が床に落ちる。
空中に『KO』という文字が幻視された。隊長は動かない。気絶したらしい。
ヘレンが自分の掌を見てから、あれっ、という顔で俺を見返した。どうやら『バフ』が効き過ぎていた。現状復帰よりも俺は大分盛ってしまっていた様だ。
その隙に国王は素早く俺が鍵をかけた扉に近づきノブをガチャガチャと動かしている。
もちろん、開かない。
『知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない』
もし魔王に転生したら言ってみたい言葉ナンバー幾つかの内の一つを思いついたが、さすがに口にしたらまずいだろう。国王相手だ。本当に魔王認定される危険がある。
五本の指先に炎を灯して『最下級火炎呪文だ』というのもやってみたいが、生憎【支援魔法士】である俺には『火炎呪文』は使えない。せいぜい『石化』だ。
「近衛! 突入、突入!」
国王が扉越しに隣室に呼びかける。
異常に気が付いたのか扉の向こう側からも扉に取り付いて開けようとしている音がする。扉に体当たりのような激しい衝撃も加えられている。
けれども簡単には『施錠』は外れない。扉そのものを破るか枠ごと破壊する必要があるだろう。あいにく頑丈そうな扉だった。
俺の視界の中の『地図』では三十程の赤い光点が扉の向こう側で蠢いている。
「『石化』」
俺は国王が開けようと奮闘している扉を含む壁一面を『石化』させた。
撓んでいた扉が壁と結合し、びくりとも動かなくなった。
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