大地への帰還
フレディが目を覚ましたのは、程なく大気圏に突入しようかというころだった。
「ここは、どこだ?」
見慣れぬ場所に、彼は自問する。
「脱出カプセルの中よ。もうすぐ大気圏に入るわ」
大気圏突入の準備のため、コンソールに着いていたキャシディが答える。
心なし、つんけんしているように感じられるのは、気のせいか。
「ずいぶん長いこと、気を失っていたらしいな」
「そうよ! 長すぎるくらいにね!!」
キャシディは前を向いたまま、こちらを見ようとはしない。
「どうした? なにを怒っている。……神の姿が見えんようだが……」
「彼はいないわ」
「いないって? まさか、天界に残ったのか!?」
「そうだったら、どんなにかましか……。おじいちゃんはいないの。もうどこにも! この世のどこにも!!」
キャシディは悲しみを新たにし、泣き叫ぶ。
彼はベルトを外し、ゆっくり席を立つ。そして、操縦席の後ろに来ると、キャシディの小さな肩にそっと手を置いた。
「あなたが寝こけていなければ、おじいちゃんは助かったかもしれないのよ!
あなたが!」
キャシディはベルトを外し、振り向きざま彼の胸を何度もたたく。
そんな彼女をフレディは抱きとめ、二人はもつれ合ったまま、宙を漂った。
彼の胸をたたいていた小さな手は、いつしか弱まり、キャシディは彼の腕の中で嗚咽をもらすだけとなった。
「ごめんなさい。あなたはなにも悪くないわ。……あたしの力が足りなかっただけ。あたしはなにもできなかった。それがくやしいの」
フレディはなにもいわず、彼女をただ黙って抱きしめる。
大気圏突入を告げる、警報がなるまで。
カプセルの操縦は素人でも扱えるようにほとんどが自動化され、人間がやることは目標を設定したり、いくつかの選択ができる時、コンピュータが聞いてくる質問に答えるくらいだった。
すでに目標は設定され、あとは不測の事態でも起きないかぎり、彼らにやることはない。
目標はもちろん、天界の塔があった根元だ。
塔自体は崩れ、分解してしまったが、その下には多くの仲間と、戦友がいた。機械との戦いに勝利したが、彼らにはまた、別の戦いがまっている。
そう、今度は自然、いや彼等自身との戦いだ。
自らの運命を決めるのは、自分自身なのだから。
「ところでさぁ」
塔の基礎部分が見え始たころ、キャシディがぽつりともらす。
「もう奇跡はおこらないわよね?」
「神はもういないからな」
フレディは彼女が何をいわんとしているのか、はかりかねる。
「じゃあ、あたし、やっぱりこのままなんだね」
フレディとキャシディは、しばし見つめ合った。
「……そうだな」
ようやく事態を察したフレディは、そういったきり黙り込む。
「ねぇ、こんなあたしでもいいの? あたしみたいなちっこいのお嫁さんにしたら、きっと変態っていわれちゃうわよ」
「……少し待てば大きくなるさ」
「待てる? 浮気なんかしない? 待ちきれなくて襲ったりしない?」
キャシディの問いかけは、大地に着くまで何度も繰り返されたのだった。




