大いなる愛
障害が生じた主制御脳の暴走により、姿勢制御装置が異常動作し、『天界』
をバラバラの方向に押しやる。それを緊急用の装置が補正しようとしてはいるが、元々最低限の緊急動作用であるし、それも二十パーセント程度しか動いていないのでは、とても対抗できるものではない。
『天界』は、ねじられ、ゆがめられ、弱い部分から折れ曲がっていった。
「だめじゃ、こっちもつぶれておる。向こうからまわるぞ」
耐久限界を超えた壁や床が、バラバラになって宙に漂っていたのでは、うかつに近寄れない。
重量がないとはいえ、質量はなくなったわけではない。押し潰されれば、お終いである。人間の力で押し返せるものではない。
そういった障害物は、重量空間でよりもやっかいだ。
特に今の場合、『天界』は絶えず振動し、揺れ動いている。あるいは外壁に穴が開いて、空気が爆発的に吹き出し、反動で大きく揺れることもしばしある。よって、宙に漂っている物体が、どのように動くかわからないのだ。
彼らは回り込んだ通路の先で、広大な空間に躍り出る。
どうやら機械工場らしい。
壁全面に、複雑な機械装置がぴっしり張り付いていた。
中には固定していたボルトがちぎれ、宙に漂いだしているものもあるが、それ程多くはない。
「ここまで来れば、外壁はもうすぐじゃ」
『天界』が作られた当時、ここで製造あるいは組み立てられた機械は、一部を除いてほとんど、宇宙空間での使用に使われた。
地上に送り返すのは、無重量空間でしか製造できない機械や加工原料だけで、あとは他の宇宙ステーションや、宇宙船などの建造のために使用されていたのだ。すなわち、宇宙に放出しやすいように、機械工場などはステーションの外側に作られている。
その機械工場を横断するように、彼らは進む。
だが、工場と工場をつなぐ通路にさしかかった時、『天界』が大きく揺れた。それにより、辛うじてつなぎ留められていた機械類の支持架がはずれ、一斉に跳びはねだしたのだ。
「きゃ!」
「うおぉ!」
彼らに向けて、無数の残骸が降り注いでくる。
とっさに動けたのはフレディだけであった。
彼は、神とキャシディを人員移動用の通路に向けて、突き飛ばした。
「フレディ!」
キャシディは、とっさに彼の方に手を伸ばすが、空を切っただけ。
突き飛ばされた神とキャシディは、狭い通路に入ることができたため、残骸はほとんど入ってこなかった。逆にその中心へエアジェットもない状態で流されたフレディは、比較的速度の遅い残骸につかまりながら、必死にかわしてはいたが、自由に動けぬ状態でそうそうかわしきれるものではない。
「うわっ!」
ついに彼の三倍はある残骸に突き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「早く彼を!」
キャシディは神の腰にしがみつく。なにもできない自分が、とてもはがゆい。
「もう少し落ちつかんと危険じゃ」
無重量状態とはいえ、空気は十分満ちているから、少しずつ速度は弱まっていく。
今はそれを待つしかない。
「でも、でも……」
彼女とて、今動けば危険なことくらいわかる。しかし残骸にぶち当たり、ぼろぼろになっていく彼を見るのは、身を切られるほどつらかった。
「そろそろいいじゃろう。後ろの方を見ていてくれ。まだ、速度の大きな破片が漂よっておるからな」
二人は、ようやくおさまりかけた残骸の乱舞の中に突入。
ゆっくりと慎重に残骸をよけながらであるから、彼のところまで行くのに、相当な時間がかかった。
「ああ、ひどい」
キャシディは思わず、そうもらす。
戦闘服はぼろぼろに破け、血にまみれている。
左腕はあらぬ方に曲がり、無数の破片が突き刺さっていた。
「さわってはいかん!」
思わず抱き留めようとしたキャシディを神がとめる。
彼女は驚き、差し伸べかけていた手をビクリと震わせる。
「なぜ……?」
キャシディは振り向き、神を見つめる。
少女の姿となった彼女の目から、大粒の涙が漂いだした。
「下手に動かせば、折れた骨がまわりの組織を傷つける。ここが無重量空間でよかったわい。でなかったら手の施しようがなかったじゃろう」
神は慎重にフレディの首筋に手を当て、奇跡の右手を作動させた。
どくどくと鮮血を吐き出していた傷口がふさがり、かさぶたとなる。
折れ曲がっていた腕も、ゆっくりと元にもどっていく。
「ねぇ、どうなの? 助かるの?」
キャシディはその様子を心配そうにのぞき込んでいた。
「とりあえず、生命に危険のないレベルまで回復させた。じゃが、頭や内臓の方にも損傷がある。完全に治すには時間がかかりそうじゃ」
「たすかるのね?」
彼女は安堵の涙を漂わせる。
「もっと安全なところへ運んで、再治療する必要があるがな。ここではいつまた、こいつらが暴れだすかわからん」
キャシディはフレディを抱きかかえ、神につかまる。
そして、怪我人をいたわりつつ、先程フレディによって突き入れられた通路にもどった。
「もう少し奥に入って、漂流物がなくなったら、再治療じゃ」
彼らは通路に入り込んだ破片をどかしながら、先を急ぐ。
百メートル程行ったところで、ようやくクリーンになったので、神はフレディの治療を再開した。
「どうじゃ? わしがわかるか?」
うっすらと目を開けたフレディに、神は問いかける。
「……」
彼は何かをいおうとしたが、言葉にならないようだった。
「フレディ、返事して!」
キャシディが神を押しのけるようにして、彼にしがみつく。
しかし、やはり言葉は出なかった。
「頭を強く打ったようじゃから、回復するまでしばしかかるじゃろう。ここまで来れば回復は時間の問題。そのうち意識もはっきりする」
「ほんとうに?」
「ああ、本当じゃとも」
「じゃあ、さっさとこんなところ脱出しましょ!」
キャシディは目の前を漂う水滴を払いのけ、発破をかける。
「そうじゃな」
警報は繰り返し避難を呼びかけ、壁は絶えず振動している。時折遠方より、すさまじい破砕音も聞こえた。
それは『天界』の断末魔の悲鳴のようであった。
実際、さほどもたないことは明らかだ。
再び彼らは、意識のはっきりしないフレディを抱え、進みだした。
希望を求めて。
『天界』の中枢。
マザーコンピュータは最後の指令を実行しつつあった。
『第四から第十二まで姿勢制御装置始動。出力MAX』
『全サブシステム、開放。制御を【人間】へ』
『エレベータ維持フィールド停止』
『彼女』の最後の指令。
それは、自らが滅び、そして彼女が守り育てた子供である『人間』へ制御を渡すことであった。
マザーコンピュータの下にあったものはすべて人間に引き渡され、これで
『神』の世界から、『人間』の世界となる。
神の『力』の一部は、『人間』に受け継がれ、新しい時代を築くのに役立つことであろう。そう、神の不要な時代を。
実のところ人間達が最後に、『神』を破壊することさえ、予定のプログラムであった。
そうでなければ、再び『絶対神』による恐怖支配が繰り返されていたはずだ。
――自立した人間。
それが、マザーコンピュータの求めた『人間』であった。
神の手を必要としない、強靭な精神と肉体を持つ、そんな『人間』こそがこの新しい時代に必要なのだ。
すでに彼らに『神』は必要なく、すみやかに退場すべき時が来ていた。
『彼女』は姿勢制御装置を暴走させ、ステーションを分解していく。
軌道エレベータを維持していたフィールドへのエネルギーが停止すると、フィールドを発生していたリングはバラバラになって散っていく。
二百年以上人間を支配してきた『神』は今、最後の時を迎えた。
『我逝く。愛しき子供等の為に』
それが感情を持たないはずのマザーコンピュータによる、最後の『思考』
であった。
暗黒の宇宙空間。
その一歩手前に彼らはいた。
途中で見つけた非常用の宇宙服を着て、真空中を漂う。
脱出カプセルを収めたエリアは外苑にあるため、外壁が破れると、そこは保護してくれる物などなにもない宇宙。
防災用のシャッターがいくつも降りていたが、そんなものはまったく役にたたないほど、メチャメチャに破壊されていた。
特にフレディの治療にかかった時間が痛い。
十分程であったが、この遅れのせいでいくつものシャッターに阻まれ、脱出カプセルのある場所まで行くのに、大きく遠回りせねばならなかった。
しかも、一番近くのその場所は、気密が破れ、宇宙服なしでは近づけない。
幸いなことに、緊急用の宇宙服は、たっぷり用意されていた。なにしろステーションの人口をカバーするため、大量に、しかもあらゆる場所に置かれているのだから、それも道理である。
神とキャシディは自分の身体に合った宇宙服を着け、まだ自由に身体を動かせないフレディが着けるのを手伝った。
そして今、破壊から逃れた脱出カプセルへ向かって、彼らは『なにもない空間』を進んでいた。
『どう? 動きそう?』
無線機から少女の声が飛び出してくる。
『マザーコンピュータがしっかりメンテナンスしていたらしい。衝撃で破損さえしていなければ、だいじょうぶじゃろう』
ここへ来た『人間』のために、マザーコンピュータが用意した物の一つが、それであった。
『彼女』は、手の及ぶ限り、万全の準備を行っていた。よく整備された脱出カプセルや宇宙服、それに作業用キットなど、いつでも使用できるようにされて、『彼女』の求めるような人間であれば、脱出が可能なように、すべてお膳立てされていた。
つまりここから脱出するまでは、マザーコンピュータの手の中にあるというわけだ。
そんなこととは知らぬ神は、外部のメンテナンスパネルを開けて、慎重に各機器をチェックし、正常に動作するのを確認した。
『これでよさそうじゃ。あとは中に入って始動させてみんと、なんともいえんが』
彼らは、そのカプセルに乗り込んだ。
カプセルといっても、定員は三十名。かなり大きい。
『もうヘルメットをとってもいいぞ』
エアロックも正常に作動し、彼らは簡易制御盤へ向かった。
神は制御盤を操作し、全機能のチェックと始動を指示。
その間キャシディは、フレディの宇宙服を脱がせ、座席にシートベルトで固定した。
三分ほど後、チェックオッケー、スタンバイ、が表示される。
「搭乗口閉鎖。全ワイヤー切断。微速前進」
脱出を迅速に行うために、本来カプセルの置いてある部屋は真空であり、後ろの乗り口だけが、ステーションとつながり、乗員を乗せるようになっている。
その搭乗口も、閉鎖、そして切り離された。
カプセルを固定していたワイヤーが爆破切断され、静々と進み始める。
「シャッターオープン」
神は前方のシャッターを開くリモートコントロール信号を送った。
しかし、わずかに動いただけで、そのまま動きを止めてしまう。
「こら、うごかんか!」
神は再度スイッチを押すが、シャッターは二、三度震えただけで、それ以上開こうとはしなかった。
「しかたがない、爆破スイッチを押そう。キャシディ、おまえさんも席につけ。ちょっと揺れるぞ」
脇から覗き込むように見ていたキャシディはフレディの隣に座り、彼と同じようにシートベルトをつけた。
その様子を確認した後、神はシャッターを吹き飛ばす爆弾の解除スイッチを押していく。これはいくつかあるスイッチを所定の手順で押していかなければならない。
一度でも間違えると最初からやり直しとなる。
神は一つ一つ確かめながら、手順通り操作していった。
そして、最後のスイッチを押すと、スクリーンに爆破一分前の表示が現れ、警告音がなった。
カウントダウンは進み、最終猶予である一分が過ぎた時、閃光と衝撃がカプセルに到達。
「どう?」
衝撃が収まった時、キャシディはシートベルトを外し、神のかたわらへ漂い来る。
「……見ろ」
神は答える代わりに、スクリーンを指さした。
「なんてこと!」
シャッターの向こうにもう一つシャッターが!
いや、シャッターではない。めくれ上がった外壁が出口を塞いでいたのだ!!!
「これじゃ通れない。他の緊急非難所へ移るしかないの?」
キャシディは悲痛な声でそうつぶやく。
「いや、もう無理じゃ。ここへ来るのでも、あれだけの苦労があった。いまさら他へ行く時間はない」
漂う瓦礫をようやく押し退けてここまで到達したのだ。
その時よりだいぶ時間もたっているから、今どんな状態になっているか予想するまでもない。
「なら、排除する他ないわ。残った爆弾すべてを使って、吹き飛ばす」
キャシディはそういったかと思うと、装備を入れたバッグの口を開き、準備を始める。
「危険じゃ。もう天界が耐えられるひずみをはるかに超えておる。いつ大きな崩壊があるやもしれぬのだぞ。いや、そこまでいかぬとも、小さな揺れは断続的に続いていて、浮遊物も絶えず暴れている。向こうまで行くだけでも、相当の危険を覚悟せねばならない」
「でも、このままでは、天界の崩壊に巻き込まれてしまうわ! もしうまくそれをやりすごす事ができたとしても、ここに閉じ込められたままだったら、いずれ酸素も食料もつきてしまう。やるしかないのよ」
彼女の小さなひとみが、決心の固さを物語っていた。
「わかった。わしも行こう」
「でも……」
「お前さんだけでは、うまく宇宙遊泳できまい」
「そうだけど……わかったわ。いっしょにいきましょ」
彼らは再び宇宙服を身につけ、『無』の空間に泳ぎだした。爆弾を手にして。
先頭を行くのは神だ。
その宇宙服の足、つまり余った部分にちっちゃくなったキャシディがしがみつくようにつかまっている。
前方のシャッターまではおよそ三十メートルといったところか。
そのシャッターの向こう、さらに数メートルの所に、はがれめくれた外壁が被さってきていて、人ひとりくらいなら抜けられそうであったが、カプセルが抜け出せるような隙間はない。
『そっち、もう少し右へ。そう、そこ』
別にキャシディの背中がかゆいわけではない。
彼女は外壁のはまり具合を確認しながら、爆弾をしかける場所を指示する。
神はそれに従って、キャシディと爆弾を運ぶのだ。
爆弾の信管は時限装置。
すべての爆弾は十五分に指定され、この時間内に、セットと退避を完了しなくてはならない。
二人は、浮遊物をよけつつ、急ぎ爆弾をしかけていった。
『振動が止まった。早く仕掛けんと危ないぞ』
それまで微動していた壁や床の振動が止まった。
これは天界が『死んだ』わけではない。
いままで少しずつ開放されていたひずみのエネルギーを、どこかがため込んでいるのだ。これが開放されたら、今まで以上に激しい衝撃に襲われるのは間違いない。
『あといっこ。これで終わりよ』
キャシディは用意してきた最後の爆弾を仕掛ける。もしこれで十分な空間が開かなければ、脱出は不可能となるであろう。
慎重に位置を修正して、起動スイッチを押す。
その時。
「きゃあ!」
「おう!」
突如として、天界が揺れだしたのだ。
これまで体験してきた中で、一番の揺れであったろう。
大きく、そして小刻みに天界を揺さぶる。
空気に満ちたところにいたら、激しいうなりときしみを聞く事ができたにちがいない。真空中では想像する他ないのだが、その音こそ破滅の音であった。
辛うじて形を保っていた天界は、その一撃で、四つの大きな塊となった。
一気に抜けた空気圧で、互いに離れ始め、まだひずみが開放しきっていないところはさらに分解せんと身震いする。
天界の壮絶な最後であった。
『ああっ……』
ようやく揺れがおさまった時、キャシディは周りを見回す。
壁に取り付いていたため、中の方まではじき飛ばされたのだ。
その衝撃で、わずかな間だが、気を失っていたらしい。
『ねぇ、おじいちゃん……かみさま、どこにいるの!? 返事して』
しかし応えはない。
『ねぇ、へんじして!』
再度呼びかけた時、かすかなうめき声がした。
『だいじょうぶ? どこにいるの? あたしはシャッターとカプセルとの真ん中あたりよ』
『なんじゃ、そんなところにおったのか』
神からいつもと変わらぬ返事が聞こえる。
『ねえ、どこにいるの? だいじょうぶ?』
『だいじょうぶもなにも、わしはとっくにカプセルに帰って来とるぞ。なにをやっとったんじゃい』
スピーカーから、叱責の声が飛び出す。
『ひどーい。あたしを置いていっちゃったんだ』
『さっき呼びかけた時、返事しなかったのはどっちじゃい』
『ごめんなさい。ちょっと気を失ってたみたいで』
『早くせんと、爆発するぞ。あと五分しかない』
『それだけあれば十分よ。すぐもどるから』
キャシディは命綱として付けてきたワイヤーを手繰りよせ、カプセルにもどる。幸いこの衝撃でも、カプセルに異常はないようだった。
急いでエアロックに入って、空気を充満させる。
「もう、おじいちゃんたら、薄情なんだからぁ」
キャシディはそういいつつ、エアロックから飛び出してきた。
しかし中にいるのは、フレディだけ。
「ねぇ、おじいちゃん。どこにいるの? トイレ?」
隠れられるところといえば、トイレか簡易キッチンくらいなもの。
しかしちょっと見ただけで、いないとわかった。カプセルはかくれんぼができるほど大きくないのだ。
――まさか!
キャシディはコンソールに飛び付き、通信機のスイッチを入れる。
涙が流れ出しているのにも気づかぬほど、夢中であった。
「おじいちゃん、どこにいるの!?」
『……わしはここじゃ。カプセルの中じゃといっておろうが』
たよりない、かすれるような声であった。
「いないじゃないの! うそつかないで、ほんとのこといって。ど・こ・に・いるの?」
『そうか、まにあったか。……わしの事は気にするな。もう助からん。瓦礫に胴体をはさまれて、内臓がぐちゃぐちゃじゃ』
「あれが、奇跡の右手があるでしょう!?」
『それがあるから自分の状態がわかるし、いままで生きていられた。…しかし、もう限界のようじゃ……』
彼の声はだんだんと弱々しくなり、最後の方はほとんど聞き取れない程だ。
「すぐ助けに行くから、もう少し頑張って!」
『きちゃいかん!』
神は最後の気力を振り絞って叫ぶ。
『わしの時代は、終わった。これからは、お前たちの時代じゃ。……わしは十分長く生きた。犯した罪も…できるかぎり償ったつもりじゃ。もう…眠らせておくれ。このわしが半生をすごした、この宇宙で……』
神は今、ゆっくりと目を閉じ、過去を振り返る。
彼と同じ時代に生まれた人間は、すでに過去の人となり、神は最後の生き残り。
地球をここまで破壊した責任者の一人でもある。
彼の半生は、償うことだけに費やされた。
できる限りの事はした。
これからは、彼だけの時間が流れる。そう、永遠という名の時間が……
神が最後の眠りについたのと、激しい爆発があったのは、ほぼ同時だった。
閃光と衝撃、それが一度に襲いかかり、カプセルをゆさぶる。
いや、カプセルだけでなく、キャシディの心も激しく揺さぶった。
「おじいちゃーん!」
たった十日程のつきあいであったが、まるで本当の父親か祖父のように感じていた。
命をかけて闘ってきた戦友でもあった。
キャシディのすすり泣きが、オンになったままの通信機から、聞く者のいない宇宙へ流れ出していた。




