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召喚労働者はじめました  作者: 広科雲


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48 再会と別れ

 日本時間12月11日午前8時。ショウこと日比野小吉ひびのしょうきちのアリアドへの呼びかけは功を成さず、徹夜明けのけだるさに少年は包まれていた。

 その結果を彼の両親および、ルカこと長柄遥ながらはるかと彼女の母親に告げた。

 親たちはそろって複雑な表情を浮かべ、小吉に少し寝るように勧めた。少年は素直に従い、ベッドにもぐった。

「異世界という話じたいが嘘ではないのか?」

 小吉の父親が重いため息をついた。彼は未だ半信半疑であった。

「まぁ、しばらく様子をみましょう」

 小吉・母はそう答えて、出勤する夫を見送った。

「嘘じゃないからね」

 小吉・母がリビングへ戻ると、遥が母親に訴えていた。彼女の母親も、小吉の父親と同じ疑念を抱いているようである。魔法を見せられてなお疑うのは、一つに願望からだ。せっかく共にいられるようになった娘を、わけのわからない場所へ行かせるのを認めたくない気持ちがある。小吉・母はそれがわかった。彼女の夫も、自分自身も、同じだからだ。

「でも、このままというわけにもいかないでしょ? 夕方までは待つけど、それでダメなときは家に帰るからね?」

「……わかった」

 遥はその条件を飲まざるを得ない。このままマルマへ戻れるまで日比野家の厄介になるわけにもいかない。

 立ち聞きする形となった小吉・母は二人の間に入り、夕方までの滞在を快く承知した。実のところ、いてもらってもまったくかまわなかったのだが、先方にも事情があるだろう。特に暴力夫との件も法的に解決しなければならない。

「遥、向こうの世界に行くというのなら、あの人を訴えるのは――」

「ごめんなさい。長くはここにいられない……」

 一番の被害者である遥が日本に留まれない以上、傷害を訴えることができない。裁判になれば、数日で片が付く問題ではないからだ。

「それじゃ泣き寝入りになるわよ?」

「わたしは向こうで仲間といられるからいい。それよりお母さんのほうが心配」

「お母さんも大丈夫よ。ちゃんと弁護士さんに相談して縁を切るから。日比野さんが良い方を紹介してくださるって」

 遥・母が小吉・母に顔を向ける。彼女は笑顔で力強くうなずいた。

「友人なんだけど、女性の権利を守る活動に熱心なの。きっと力を貸してくれるわ」

「ありがとうございますっ。母をよろしくお願いしますっ」

 遥は深く頭を下げた。日比野家には世話になりっぱなしである。そのお礼が少しでもできればよいのだが、あいにく遥には何もなかった。

「まかせて。そんなクズ男は絶対に許さないから」

 憎しみを込めて毒舌を吐く彼女に、遥は親子だなぁと苦笑いした。

 母親二人が弁護士に会うため外出すると、家の中は小吉と遥だけになる。そうはいっても小吉は睡眠中なので、遥は一人、リビングで時間をつぶした。昨夜、小吉が選んでくれた映画コレクションから一枚を取り鑑賞する。合間あいまにアリアドへの呼びかけを行ったが、反応はなかった。

 『ダイ・ハード』の1と2が見終わったころ小吉が降りてきた。まだ眠そうであった。

「母さんたちは?」

「弁護士さんに会うって出かけたよ」

「そっか。……昼は?」

「まだ」

「じゃ、なんか食おうか」

「うん」

 小吉が洗面所へ向かったので遥もついていく。

「なにか用意していった?」

「お金は置いていったよ」

 遥はショウに続いて手を洗った。

「外は行きづらいなぁ……」

 小吉がこぼす。行方不明だった人間が、しれっと近所に食べに行くのは抵抗があった。このまま町に残るのならともかく、また行方不明になる身としてはなるべく顔を見られないほうが両親には体裁がよいのではないだろうか。

「なにか作ろうか?」

「鳩でも捕まえてきて捌く?」

 ともにサバイバル教練を受けた間柄である。やろうと思えばできた。

「どうしても鳩が食べたいならやるけど?」

「ごめん、冗談だ」

 真面目な顔で否定する彼に、遥は「わかってるよ」と笑った。

 台所に入って冷蔵庫を開ける。食材は一通りそろっていた。手軽にできるということで、ハムエッグを遥が、分業で小吉がサラダを拵える。朝の味噌汁が残っていたので温め直した。

「新婚若夫婦みたいだね」

「ブフッ」

 お決まりのジョークを交えながら作業を行い、リビングで向かい合って「いただきます」を唱和する。小吉はハムエッグにポン酢をかけ、遥は普通の醤油を垂らす。おたがいに「ぬぬっ」とけん制するが、言葉には出さなかった。それは千日戦争のはじまりを意味するからである。

「それで足りるのか?」

「今日はほとんど動いてないし、おやつだけは大量に用意してくれたし」

 戸棚にお盆いっぱいのお菓子がある。小吉の母親が遥たちの着替えを買うついでに仕入れてきたものだ。この他にもパーティー用の大袋が部屋の隅で山となっている。

「ホント、迷惑かけてごめんね」

「気にしなくていいよ。母さん、なんかテンションあがってるから好きにやらせといて。もともと世話好きだし」

「そういうとこショウとそっくりだね」

「あのテンションは否定しろっ」

「うん、あのテンションは否定する」

 遥が口を押えて笑う。小吉もつられるように笑みがこぼれた。

「……でもだからこそ、早めにどうにかしないとね。いつまでも甘えていられない」

「だな。けど、アリアドが応えてくれないんじゃどうしようもない」

「だからむこうの様子だけでも見られないか、ちょっと試してみようかと思ってるの」

「できるのか?」

召喚門ゲートは無理だけど、応用して小さい窓くらいならできないかなって。せめて声だけでも届けば、たがいの状況確認はできるでしょ?」

「そうだな。それだけでも助かる」

「ただ、装置を作らないとならないから、すぐには無理」

「完成する前にアリアドとコンタクトが取れたなら、それでいいんじゃないか? ルカには無駄働きさせちゃうけど」

「それはいいよ。元はと言えばわたしのせいなんだから。ごめんね、余計なことに巻き込んで」

「仲間なんだから当然だろ。それに、おまえのことは別にしてもオレとしてはよかったと思ってるんだ。なんだかんだ、家に戻れて親と話ができた。これってスゴイ特権だろ。他の人は身内に伝えることすらできないんだから」

「そうだね」

 遥は深く同意した。記憶が戻って真っ先に心配したのが母親であった。他の異世界人たちにも、それぞれに想う人がいるはずなのだ。

「母さんに聞いたんだけど、オレたちみたいな行方不明者を捜索するテレビ番組がやったらしいんだ。その数だけ……その数以上の何も知らずに安否を気遣うしかできない人たちがいる。その人たちに何もできないのが申し訳ないよ」

「うん……」

 二人はしんみりとして、しばらく無言であった。

「……考えてもしょうがない。まずはできることをやろう」

 小吉は立ち上がり、空いた皿を重ねた。「まずは洗い物から」と口元を緩める彼に、遥も「うん」と賛同した

 話題に出た行方不明者捜索番組の録画を二人で観る。何となくあれっと思う人や、あからさまに特定できるような人もいた。二人同時に「あ!」と声を出し、たがいを見るような場面もあった。共通しているのは、親類縁者の嘆きであった。彼らの訴えには身がつまされる。短い時間だが小吉の写真も映った。それとともに司会者と話す母親の電話ごしの声を、小吉は一生忘れないだろうと思った。

 午後3時をまわり、遥がおやつを遠慮なしにつまんでいると二人の母親が帰ってきた。たがいの状況報告をし、遥は母親とともに家へ帰ることになった。そのさい、いったん東京の実家へ立ち寄ると聞かされた。遥の荷物回収もあるが、前夫の遺品や持ち出せなかった書類なども残してきている。いずれは取りにいかねばならず、それは早いほどよい。

「なら、わたし一人で行ってくるよ。あの男がいてもわたしならバーンとやれるし」

「でも……」

 母親としては簡単には任せられない。ただでさえ苦労をかけた娘に、またあの男と対峙する可能性がある場所へ送るのは胸が締め付けられるほど苦しい。

「オレも行くよ。一人で行って途中で餓死されても困るし」

「ショウぉっ」

 遥に睨まれて、小吉は笑いながら謝った。

 小吉の母親にも後押しされ、遥の母は二人で行くのを認めた。

「これ、持って行って」

「カード?」

「日比野さんに勧められて帰りがけに買って来たの。それをスマートフォンに入れると、30日間使えるんですって」

 データ専用プリペイドSIMカードだった。

「でもわたし、本体持ってないよ?」

 実の母がそれを知らないはずがない。遥が戸惑っていると、「待っててね」と小吉・母が自室に入っていった。数分もせずに戻ってきたとき、その手にスマートフォンがあった。

「お父さんが使ってたSIMフリー機だから、そのカードが使えるわ。もう型遅れで電池も長持ちしないけど、持って行って」

「え、でも……」

「いいから。あげるわけじゃないからね。むこうへ行くときは、ちゃんと返してね」

 子供に飴玉をあげるような笑顔で押し付けられたスマートフォンを、遥はオズオズと受け取った。

「あと、予備バッテリーも貸してあげる。それホントに長持ちしないから。あ、そうそう、充電器もあとで持ってくるわ」

 テンション高く一気にしゃべる小吉の母親に、遥は涙が出そうになる。

「ありがとう、ございます……」

「いいのよ、どうせ使ってないんだから。……小吉、それデータ専用だから、通話アプリを入れてあげなさい」

「わかった。てか、母さん、なんでそんなに詳しいんだよ?」

「ポケベル時代からの携帯電信機器ユーザーを舐めないでほしいわね。ついでに言えばこれでも大学でてんのよ? 今のあんたよりよっぽど学があるわ」

「あ、そうなんだ……」

 母親の最終学歴など興味もなかった息子は、半分驚き、半分感心した。

 試しにSIMカードを挿すと問題なく電波を掴んだ。アカウントを作成し、最低限の設定を済ませる。通話ができるところまで進めると、長柄ながら親子は日比野家を出た。

 駅で母親と別れ、遥は小吉とともに東京方面の電車に乗る。母親の現住所は東京とは逆方向だった。すこしでもあの男から離れたかった心理であろう。

 電車での移動はスマートフォンのレクチャーをしている間に終わっていた。SNSでやり取りする方法も学び、隣に座っていながら短文のやり取りを楽しんだ。

 最寄り駅に着くころには日もだいぶ傾いていた。街灯が光りはじめている。

「オレがまず様子を観てこようか?」

「ううん、大丈夫。もしあいつがいたとしても押さえつけるだけだから」

 遥の笑みは、むしろそれを期待しているかのようだった。

「でもおそらく家にはいないよ。マスコミやヤジウマがまだいるだろうし、そんなところにいられるほど度胸もない」

 今の遥はそれがわかる。あの男がどれだけ小さな人間であるか。弱者にしか力を向けられない矮小な男なのだ。

「それならいいけど、今度はヤジウマのせいで近づけないんじゃないか?」

「ちょっと無理して【瞬間移動】で中に入って、また出てくるよ。ショウはおやつの確保をよろしく」

「わかったわかった。帰りにファーストフードでも行くか」

「ホントに!? わたし、行ったことないっ」

 目を輝かせる遥に小吉はたじろいだ。思わず「どんな生活を送ってたんだ」とツッコミそうになった。

「……そんな喜ぶほど大層なものでもないぞ?」

「そんなことないっ。友達と寄り道したり、買い食いしたりって夢だったんだよ? いま思えば、ショウとナンタンでいっしょに屋台で食べたのが初めてだったかも」

 詰め寄ってくる遥に小吉は圧倒される。純粋な笑顔はまぶしく、思わず赤面してしまう。

「そんなグイグイくんなっ。それならどこに行きたいか考えておいてくれよ」

「うんっ」

 遥はご機嫌で最後の角を曲がる。視線の先にはアパートがあり、一人の制服姿の女子学生がウロウロしていた。遥みたさのヤジウマだろうと小吉たちは思った。

「一人くらいなら普通に入っても大丈夫そうだな」

「うん。前みたいにもっとたくさんいるかと思った」

「みんなそれほど暇じゃないのか、冷めやすいのか、この間で懲りたのか」

「全部じゃない?」

 遥はもう一度周囲を見回し、その女の子以外の怪しい人物がいないのを確認した。

 二人は少女を無視して部屋を目指した。目も合わせぬように通り過ぎる。もし騒ぐようなら部屋に駆け込み、用件を済ませて【瞬間移動】してしまえばよいだけである。

「あ……」

 女の子が二人に気付いて声を上げる。小吉たちはそれでも無視した。

 が、次の一言で小吉も遥も足を止めて、彼女を凝視してしまった。

「ショウさん……?」

「!?」

「やっぱり……! やっぱり、そうだったんだ……」

「アイリ……?」

 小吉は彼女の顔を覚えていた。山で死にかけたときに、奇跡のような体験をした。彼の魂は疑似体を離れ、東京へと跳んだ。そのとき出会ったのがマルマ世界でアイリと名乗っていた川見幸かわみさちだった。

「はいっ。はい! アイリです!」

「アイリ……!」

 思いがけない再会に、小吉は幸を抱きしめた。幸のほうは驚いていたが抵抗はしなかった。

「今回は体つきなんですね」

 幸は笑った。

「うん、ちゃんと体つきで帰ってきた――て、ごめん!」

 小吉は自分のしていることに気づき、慌てて離れた。

「ショウ、とりあえず中に入ろ。ちょっと目立ちすぎ」

 遥の声に批難が強かったのは周囲の状況問題だけでない。しかし、小吉にはそんな微細な心情など感じ取れないので、「そうだな」と幸も誘って遥の家に入った。

 遥の義父はいなかった。部屋の中はゴミが散乱し、弁当などの食べかすが異臭を放っていた。虫もわいているのか、カサカサという音もする。

「ごめんね、こんな汚いところで。わたしがいたときは掃除をしてたから、こんなじゃなかったんだけど……」

 遥は嫌悪感よりも小吉と幸に見られている恥ずかしさに泣きたくなった。

「気にしなくていい。ルカのせいじゃないだろ。必要な物を集めて早く出よう」

 小吉は先陣を切って部屋に上がった。

「あ、もう靴のままでいいから。何が落ちてるかわからないし。アイリちゃんは外で待ってたほうがいいよ」

「あ、いえ、手伝えることがあれば言ってくださいっ」

 埃と悪臭は耐えがたいが、家の住人についての情報はネットで知っていた。自分よりもひどい境遇にあって、それを乗り越えようとしている長柄遥を素直に尊敬していた。比べて、汚れるくらいなんだというのか。

「ありがとう。そう言ってもらえただけで充分だよ。すぐ済むから待ってて」

 やんわりと断られ、幸は手が出せずにその場で待った。ただ気になって仕方のないことがあり、我慢できずに口にしていた。

「あ、あのっ、あなたはわたしの知っている人ですかっ?」

「え?」

 遥だけではなく、小吉も手をとめて彼女を見た。

 勘のいい遥は「ああ」と得心した。

「ううん、わたしはあなたとは初対面だよ。マルマでの名前はルカ。アカリでもマルでもないよ」

 「ああ、そういうことか」小吉もようやくわかった。

「アイリはルカの動画を見て、マルマの誰かだと思ったんだな」

「はい……。あんなことができるのはマルマの魔術師くらいだから。その前にショウさんもこっちに来たし、もしかしたらって。それにルカさんを探している人がいるのもわかって、その人も同じ召喚労働者サモン・ワーカーなんじゃないかって」

「オレだって思った?」

 幸は首を振った。

「そうだといいなとは思いましたけど、確信したわけじゃありません。でも、ルカさんを探しているときのSNSのやり取りを見てると、ショウさんらしいかなって。あんな一生懸命で、どんな情報にも丁寧に返事するなんて、わたしが知るかぎり一人しかいませんでしたし」

「そうかな……」

 小吉は自分のことなのでよくわからない。彼にとってはあれが普通だった。

「そうですよ。わたしがこの件を知ったのはきのうなんですけど、ほぼ徹夜でやり取りを読んで泣いちゃいました」

「ショウ、そのアカウント教えてっ」

「ヤだよ! すぐに消す!」

 迫る遥に小吉は激しく抵抗した。

 幸が目の端の涙をぬぐいながら笑顔を浮かべる。

「だからわたし、学校の帰りにここへ来てみたんです。動画はぜんぶ途中で終わっちゃってたし、悪魔が出たとか書かれてたし、どうしても気になって」

「そっか。今日で良かったよ。そうでなければ会えないままだった」

「はい、良かったです」

「それでショウがいっしょだったから、わたしが誰か気になったのね?」

「はい。もしかして、アカリさんかなって……」

「アカリだったらオレを跳ね飛ばして真っ先にアイリに抱きついてるよ」

「あはは」

 幸は楽しそうに笑った。想像だけでも嬉しくなってしまう。

「さっきも言ったとおり、初対面だよ。わたしがマルマに降りたとき、あなたはすでに日本に戻っていたから。でも、ショウやアカリから話は聞いていた。マルも、アキトシも、リーバも、あなたを忘れていないよ」

「……!」

 幸は胸が熱くなった。初対面の人が自分を知っている。それも、以前の仲間からの言葉を通じて。彼らが本当に自分を覚えていてくれた証である。彼女は溢れてくる涙をこらえず、拭い続けた。

 小吉と遥はそれ以上話しかけず、作業に戻った。遥の着替えや重要書類などを集め、カバンに詰める。

「終わったよ。行こうか」

 小吉が幸に呼びかけると、「はい」と鼻声で彼女は答えた。

 外へ出て駅に向かう。

「アイリの家はここから近いの?」

 すっかり暗くなっていた。時間は午後6時に差し掛かる。冬の東京ではもう夜の時間である。

「1時間くらいです」

「それじゃまっすぐ帰ったほうがいいな。家の人が心配するだろ?」

「いえ、ちゃんと連絡を入れておけば――」

 手を振って否定する幸に、小吉は「ダメ」と遮った。

「まだ中学生だろ? 家の近くまで送っていくから、話はその道すがらにしよう。それで足りなきゃ電話もメールもあるから」

「……はい」

 幸はうなずいた。

「ルカもそれでいいか? 遠回りになるけど」

「いいよ。場合によっては【瞬間移動】使ってもいいし。あとでお腹減るけど」

「電車代とどっちが安いだろうな。タクシー代と同じくらいになったりして」

 小吉が笑うと遥はふくれた。

「瞬間移動!?」

 魅惑的な言葉に幸が食いついた。

「ああ、こいつ、疑似体(むこうの体)のままここにいるんだ。だから魔法も使える」

「すごーい! わたし、結局、魔法って見てないんです!」

 幸の目がまた輝いた。

「見せてあげたいけど、燃費悪すぎて大変なの。非常時以外はなるべく抑えてるから、ごめんね」

「そうなんですか……。こちらこそすみませんでした」

 幸が素直に頭を下げる。遥はなるほど、と思った。

「ショウもアカリも、こういう素直さにやられたわけね。二人ともに持ってない部分だから」

 「おいっ」小吉がツッコむ。アカリといっしょにされてはたまったものではない。

 幸はそんな二人を可笑しそうに見て、ふと思い出した。

「そういえば、一番初めに聞かないといけなかったんですけど、お二人はどうして東京へ? それに、どうやって……?」

 質問を受け、遥と小吉は顔を見合わせた。

「……簡単に言うと、わたしにはこの世界でやり残しがあって、日本に戻る方法も偶然知ったから来たの。そのやり残しってあまりいいことではなくて、ショウはそれをとめようと来てくれた。アリアドに頼んでね」

「あの、ごめんなさい……」

 濁した言葉とさきほどの遥の家、それにネットにばら撒かれた様々な情報から、幸は答えを見つけた。もっと早く気付くべきだったのだ。気付いてしかるべき状況が目の前にあったではないか。彼女は後悔にうなだれた。

「いいよ、あやまらなくて。目的は120%で達成されちゃったから。これ以上ない方法でね。それに遅かれ早かれ、あなたには話すことになったと思うから。だから気にしないで」

「はい、ありがとうございます」

 遥の笑顔に、幸も心が軽くなった。

「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったね。長柄遥ながらはるか、マルマ名はルカ。ちなみに向こうの性別は男」

 「ええっ」と驚きつつ、幸も「川見幸かわみさちです。マルマ名はアイリです。よろしくお願いします」と応えた。

「そういえばオレも本名は言ってなかったな。日比野小吉ひびのしょうきちだ」

「小吉っておみくじの小吉?」

 遥が今さらに訊いた。

「そう。大吉じゃないんだよ」

「『飛翔』の『ショウ』とかじゃないんだ……」

「なんでガッカリしてんだよっ。名前は自分で選べないだろっ。だいたい、『翔吉』だったらもっとカッコ悪くないか?」

「だって、ねぇ?」

 遥が幸に振る。彼女は困ったように微笑んだ。

「マルが知ったら『リトル・ボーイ』とか『プチ・ラッキー』とか呼ばれちゃうよ」

「ヤメロっ。それにプチは英語じゃないっ」

「え、そうなの!?」

「おまえは頭がいいのか悪いのか」

「マルマの知識なら豊富にあるよ。それに、これからたくさん覚えるよ。もう邪魔はいないから」

 真面目に答える遥に小吉はいろいろな言葉が浮かび、その中の最善を選んだ。

「……そうだな。ゲームもできるし、映画も観られる。ハンバーガーだって食べに行ける」

「うんっ」

 心からの笑顔を浮かべる遥に、幸はピーンときた。

「もしかして、お二人って……」

「違うよ? 向こうでは男だって言ったでしょ? それにショウには――」

「アー、アーッ」

「……なに?」

 小吉はいぶかしむ遥を引き寄せた。

マルマ(むこう)なら別にいいけど、こっちでは倫理的に怪しいからヤメロ」

 ショウとシーナとアカリの現在の関係は、ルカにもマルにも公言していない。が、短いながらも旅を共にしていればいろいろと勘付くだろう。三人は納得しているのだが、周囲がどう見るかは別問題である。

「なんで? 堂々とできないならちゃんと考えたほうがいいよ?」

 そして遥は気付いていた。もっとも、シーナがルカに『別の方法』を示唆したときから予測はしていたのだ。

「ぐ……」

 まさに正論である。小吉は言葉が見つからない。

「大丈夫。シーナだけにしとくから」

 遥はニヤニヤしていた。とても楽しそうだった。

「あの、訊いたらまずかったですか……?」

「ううん。ただ、ショウは恥ずかしがってるだけ。カノジョいるって言うのが」

「そうなんですか? アカリさんですか!?」

 興味津々で問いかける少女に、ショウは口ごもる。当たりではあるが、表面上は違う。

「まだ照れてんの? シーナっていう子。いっしょにゴブリンをたおしたのが縁だっけ?」

「そ、そうだな。あれが縁なんだろうな」

「その縁もすごいですね。詳しく聴きたいですっ」

 さらに前のめりになる幸に、小吉はたじろぐ。改めて話せといわれるのは黒歴史を暴かれるのと同じくらいに恥ずかしい。

「話しづらいなら、わたしが脚色して話そうか?」

「それもヤメロっ。だったら自分で話すっ」

 「だってさ」遥は幸に小吉を譲った。二人の背中を見るように歩いていく。仲の良い兄妹という雰囲気だった。フッとため息がこぼれてしまう。自分はショウにとってアイリのような妹にはなれず、シーナやアカリのような恋人にもなれない。それならいっそ出会わなかったほうがよかった――などとは思わない。出会わなかったときの不幸を考えれば、今は充分に幸せであった。

「それに、まだ負けたわけじゃないしね」

 遥は両のこぶしを握り、自分を鼓舞した。


 同じころ、長柄遥の実家アパートに三つの人影があった。同じ制服を着た高校生だった。彼女たちの目的は、話題にあがった遥の見学である。彼女たちのうちの一人が興味を持ち、「会ってみたい」と言ったところ、友人二人が面白がって便乗した。

「そこらしいけど、電気ついてないね」

「やっぱ逃げちゃったのかなぁ」

 付き添い二人があからさまにつまらなそうな顔をした。

 一番後ろを歩いていた背の高い女の子が「しかたないか」とあきらめたようにため息を吐いた。

「せっかくここまで来たのにさー」

「受験生の貴重な時間を無駄にさせやがってー」

 友人たちの身勝手な憤慨に、彼女は苦笑いをこぼす。

「勝手についてきといて……」

「なァによ、一人じゃ寂しいと思って付き合ってあげたのにィ」

「そーだそーだ。A判定の裏切り者ーっ」

「それ関係ないでしょ。あたしのは努力の結果と言ってほしいわね」

 サイドテールを揺らしながら彼女は反論した。

「もとのデキが違うんだよ、ヒカリお嬢様っ」

「ヤメロっ。強制的に勉強させられる身にもなれっ。それにお嬢様でもないっ」

「あんな家に住んでれば立派なお嬢じゃんか。ゼイタク者っ」

「セーセキユーシュー・ヒンコーホーセーはお嬢の宿命じゃん?」

 そう言って二人は笑う。

「そんな宿命、川に投げ捨てたいわ。あ~あ、さっさと独立するか、いっそ異世界でも行きたい……」

「出た、ヒカリの現実逃避。……そういや、その動画の子の服装も、なんかそれっぽいよね? 『インフィニティ・ハーツ』に出てきそうなカンジじゃん?」

 彼女がヒカリのスマホを覗き込み、動画の長柄遥の服装を指さす。遥が着ているのはリーバが作ったコートだった。

「……うん。そう、これなのよ。あたしがこの子に興味を持ったのは。この服をあたしはなんか見たことがある気がするの。これをみんなで着ていた気がする……」

 ヒカリが真面目な顔でつぶやくと、友人たちは大笑いした。

「これ!? こんなコート!? コスプレじゃん、こんなの!」

「もしかしてヒカリってコスプレイヤーだったの!? あ、でも、ヒカリならなんかカッコよさそう! 男装だけどね!」

「あんたら~っ」

 ヒカリが本気で怒ったのを見てとり、二人は距離をとる。追いかけっこは長く続かず、はしゃぎながら遥の家から遠ざかっていった。


 幸を自宅近くまで送り、三人はたがいの連絡先を交換しあった。

 別れ際に幸が訊ねた。

「いつまでこっちにいるんですか? ずっとというわけではないんですよね?」

「うん。アリアドと連絡が取れしだい帰るよ」

「そうですか……」

 小吉の返事に幸の顔は沈んだ。

「ただ、それがいつになるか……。本当はとっくに帰ってるはずだったんだけど、連絡がつかなくてさ。だから長期戦を考慮してルカの私物を取りに来たんだ」

「そうなんですね。それじゃ、また会うこともできますか?」

「こっちにいる間ならいつでも」

 幸は喜び、次の日曜日に会う約束をした。もちろん、アリアドとの接触がそれまでなければ、である。

「電話やメールはいつでも大歓迎だよ。わたしあまり動けないから暇だし」

「はい。では、いっぱいしちゃいますね。むこうの話、もっと聞きたいですから」

 「それでは」と幸は頭を下げ、玄関に走っていった。いつもならとっくに家にいる時間である。途中で連絡はしたが、両親は心配しているだろう。

 手を振って幸を見送ると、小吉と遥は来た道を戻っていった。

「いい子だね、アイリちゃん」

 遥は上機嫌である。彼女にとっても幸は貴重な友人となっていた。この世界にいる、たった二人の友人のうちの一人に。

「前に話したけど、マルマにいたときとはぜんぜん違うからな。いい子だったのは変わらないけど」

 ショウの持つアイリのイメージは、おとなしいというよりも内気な子だった。他人が怖くて一線を引いていた。それが今では180度変わっていた。

「なにがそこまで彼女を変えたんだろうね?」

 覗き込んでくる遥は、笑みを浮かべていた。

「周囲が彼女を認めたからかな。仕事で自信がついたのが一番かも。あとはアカリに引っ張りまわされて、考える暇もなかったとか」

「そうかもね」

 含みを持たせた顔で遥はうなずいた。

「……なんか言いたそうだな」

「別に。彼女とわたしの共通点が一つだけあったなって」

「あるか? あいつ、おまえみたいに大喰らいでもメチャクチャでもないし、似てるとは思えないけど」

「ショウぉぅ……!」

 頬を膨らませる程度の可愛げではなく、殺気さえ感じさせる威圧感を遥は発した。

 「冗談だって」小吉は彼女をなだめるが、内心ではやはり共通項が見つけられなかった。

 遥は怒りを鎮め、ため息をつく。「まったく、この人は」と呆れてしまう。そして唐突に思いついた。共通項は一つではなく、二つあった。今、思いついた一つは、彼に対し好意があること。大小の違いはあるが、それは間違いないだろう。

 そしてもう一つが――

「……ありがとね。初めて遇った人が、ショウでよかったよ」

 遥は感慨深くつぶやいた。その出会いがなければ、何も始まらず、何も終わらなかった。アイリもルカも、どのような道を歩いたか想像もつかない。少なくとも、今、この場に、この気持ちをもっていなかっただろう。

「だからわたしは、この恩を死んでも返すよ」

「縁起でもないこと言うなっ」

 つぶやいたはずの一言は、思いのほか声が大きかったらしい。小吉が遥を睨んでいた。

「恩とか思うなよ。ぜんぶがお互い様だ。言っただろ、奇跡でも偶然でもなく必然なんだよ。おまえだからオレは放っておかなかったし、おまえもオレだから助けてくれたんだろ? ならこれはオレたちが作ってきたものだ。どっちか一方の気持ちじゃない」

 遥は呆然とし、それから噴出した。

「なんで笑うんだよっ」

「だって、そんなセリフ、どこから出てくるの? 感動を通り越して背筋が凍るよっ」

「おまえなっ」

 少女相手に本気で怒れない小吉は、顔を真っ赤にするしかなかった。

「……あー、笑った。それじゃ、いっしょに考えてくれる?」

「なにをだよ?」

「アリアドが言ってたこと。未曽有の危機なんだって」

「!」

「知らないと思うけど、ギザギ国が滅ぶかもしれないほどの危険が迫ってるって言われたの。それを回避するにはわたしのような特別な疑似体を持つ人間が必要なんだって」

「それは少し聞いた。あと、ミコさんもルカと同じで自分が特別だってのも言ってた」

「ミコさんて、ショウを助けた人? そっか、あの人もそうなんだ。でもそれくらいじゃなきゃ、あの遺跡を解析して使えるようにはできないか……」

 遥はいろいろと納得した。

「その危機ってなんなんだ?」

「具体的には知らない。マルマに戻ったらアリアドから聴くはずだったんだけど」

「そうなのか」

 二人は想像力をフル活動し、さまざまな憶測を導き出した。それは遥の家の最寄り駅に着いても続いた。

「結局のところ答えは出ないよな。ぜんぶ想像だし」

「うん。まずはマルマ(むこう)と通信できるようにがんばってみる」

「頼む。オレはアリアドに念じるしかできないしな」

「暇があれば遊びに来てよ。それじゃ」

 駅の出口で手を振る遥に、小吉も同じ動作を返した。

 何度も振り返る遥が見えなくなると、小吉は地元へ向かう電車に乗った。上り電車は空いており、座ることができた。

 電車に揺られながら、小吉は漠然と考えていた。こうまでアリアドと連絡が取れないのは、彼女に何かあったからではないだろうか。もしそうなら、ただ待っていても解決しない。かといって、現状では遥に頼るしかない。小吉には何の力もないのだから。

「前みたいに祈れば帰れるってわけでもないよなぁ」

 試しに目をつぶって真剣に願ってみたが、電車の音も感触も消えなかった。

 もし帰れなかった場合はどうするか、小吉は考えてみる。この世界で生きていくのが確定となり、学生に戻るしかないだろう。遥だけはどうにかしてやりたいが、どうにもならなければいっしょに生きていくのも視野にいれなければならない。となれば莫大な食費が必要となるわけだが、さてどうやって稼いだものか……

 そこまで想像して頭を振った。いくらなんでも先走りすぎだろう。

「けど、今年度の課程を捨てるなら、それまでどうするかくらいは考えないとな。それとも今すぐ学校へ行けば留年は免れるか?」

 休学の理由が事故や事件によるものなら、もしかするとすぐに復学できるかもしれない。が、そのどちらでもなく、個人的理由――すなわちただの家出では学校側の対応は渋いものとなるだろう。他に説明のしようもないので、まずいい顔をされるはずもない。

 小吉の吐息は深い。学校へ戻るとしてもタイミングは最悪だ。期末試験がはじまっているだろうし、終われば試験休みからの冬休みにつながっていく。戻る時期としてはあまりよいとは思えなかった。

「なら、バイトでもするか。家でただアリアドとのコンタクトに時間を費やしても仕方ない。ルカの援助にも食費がかかるし、稼ぐほうがマシだよな」

 その案を小吉は本気で考え始めた。同時に、ある一人の顔が浮かぶ。

「ニンニンさんみたく日払いのバイトを探してみようかな。それなら定番仕事と違ってすぐに辞められるし」

 小吉はスマートフォンを取り出し、検索した。『高校生』『バイト』『日払い』で検索するとかなりの量の情報があふれだした。一通り流し見するだけで、電車移動時間どころか就寝前までかかった。

「どうせならニンニンさんの気持ちがわかるような仕事を選んでみようかな」

 短絡的な発想で、ショウはデスクワークや倉庫作業ではなく、運送助手系の仕事を選択した。ホームページで派遣会社への面接を申し込むと、深夜にもかかわらず自動応答により明日の午後に事務所へ行く手筈が整った。

 それから二日後には、少年は筋肉痛に悩まされることになる。


 12月14日・日曜日。小吉と遥は再び東京へ足を延ばした。今回はアイリこと川見幸かわみさちと遊ぶためである。清々しい気分だった。それは作業や仕事のストレスから解放されたからではなかった。二人の親たちは、一向に進展しない異世界との交信とやらにヤキモキしており、それを感じた少年と少女は家に居づらかったのだ。

 それまでの数日は、遥はマルマへの連絡手段の構築、小吉は日雇い派遣の仕事に精を出していた。

 親からみれば、今の子供たちは『引きこもり』のようなものだ。学業もおろそかにして、フラフラしているだけにしか見えない。長柄遥はまだ許された。もとより高校へは進学しておらず、精神的にもようやく落ち着きかけている時期と考えられるからだ。

 一方、日比野小吉は行くべき学校があるにもかかわらず、バイトにうつつを抜かしている。さっさと異世界とやらに戻るのならまだしも、「今日も連絡がつかなかった」の一言である。特別、連絡を取る手段を講じているようにも見えないものだから、いぶかしさも増すというものだ。

「戻る気がないなら学校に頭を下げてきなさい」

 母親の一言は耳に痛い。

「――というわけで、どうにかなりそうか?」

 小吉は幸との待ち合わせ場所で、彼女の到着を待つあいだに訊いた。

「ごめんなさい、まだちょっとかかる。試行錯誤しながら魔具を作ってるところなの」

「マグ?」

「魔法道具。時空間通信機だよ」

「できるのか?」

「あと一つだけ材料が足りなくて、でもちょっと手が出なくて安いのがないかネットで探してるところ。そろえば今週中にはなんとかできるかも」

「マジか! 何がいるんだ?」

「質のいい水晶球。小さくてもいいんだけど、天然で透明度の高いの。大きさは4センチもあれば充分」

 天然ではない水晶などあるのか小吉は疑問に思ったが、それよりも大事な質問を優先した。

「いくらするんだ?」

「質によりピンキリみたい。スマホで調べたら低品質でも5000円はする」

「1万円あれば満足いくのが買えるか?」

「そんなお金ないよ。だから困ってるんじゃない」

 遥が頭を振った。

「オレが出すよ。このためのバイトだったと思えば、必然てカンジがするだろ?」

「いいの?」

「オレには魔具は作れないからな。材料提供くらいはさせてくれ」

「……うん。それじゃ、お願いします」

「いや、こっちこそお願いします、だ。とにかくこれで少しは進展するな」

 遥が「うん」と力強くうなずいた。その向こうから幸の姿が見えた。


 12月18日午後9時30分、遥は時空間通信魔具を完成させた。試運転にはバイト上がりの小吉も呼び出して、遥の家で行われた。

 水晶に魔力をこめ、チャンネルを合わせる。水晶球の少し上に黒い渦が巻き、中心部に何かが映りはじめた。

「誰か聴こえますか? 誰か!」

 渦は薄暗い石壁を映している。遥はそこが召喚門ゲートのあった遺跡であると確信していた。

 何度目かの呼びかけに、近づいてくる声がある。

「なんかこっちのほうから声がするね。この声ってもしかして――」

「ミコさん!」

「ショウちゃん!? なに、この謎空間! これって召喚門ゲート!?」

 空中に浮かぶ10センチほどの渦巻く輪の奥に、ショウと黒髪の女の子が見えた。この少女が11号素体(イレブン)であるのはすぐにわかった。

「よかった、つながった! みんな、そこにいるんですか!?」

 小吉の問いかけに、バルサミコスは顔を曇らせた。

「……どうしたんです?」

「キミの仲間はここにはいない」

「ボダイに戻ったんですか?」

 小吉は間髪いれずに問いを重ねた。そうさせるだけの不安が、彼女の表情にはあった。

 召喚十天騎士は一度視線を泳がせ、あきらめたように告げた。

「……この世界にはいないんだ。だからもう会えないよ」

 彼女の言葉に、小吉も遥も言葉を失った。

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