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召喚労働者はじめました  作者: 広科雲


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35 召喚冒険者の一歩

 異世界マルマに存在する五つの大陸のうち、カクカ大陸は最大のものである。大陸には大小27の国と50余の自治都市が存在し、極東に位置するギザギ王国は中規模に属する。敷地面積はおよそ75万平方キロメートル(アス・ラード)、日本のほぼ二倍の広さだ。人口は200万人。これは市民権を有する数であり、亜人種や不法滞在者の数は含まない。

 ギザギ国は、古代王国ムカシンが滅びて百年以上が過ぎてから建国された。『銀の道』が天変地異により封鎖され、大陸中央へ戻れなくなった者たちが平野部へと下りて町を造った。思いのほか居住に向いた土地であったため、畑を作り、狩りをし、ほそぼそとだが確実に人口を増やしていった。それ以後はお決まりの権力闘争と、平和を謳いながらの戦争である。そうして勝ち残ったのが初代ギザギ王である。

 ギザギ王家は建国から218年、19代を数えている。

 一世代あたりが短期なのは理由がある。初代ギザギ王は、血統と長期政権による停滞と腐敗を望まず、五年ごとにふさわしい者を議会の選定により決定するよう布告を出したのである。彼自身が五年後に玉座を退き、選出された彼の長男が二代目となった。さらに五年後には初代に仕えた内務大臣が、さらに五年後には血縁もない公爵家の者が即位することとなる。

 だが、その慣習も時代と共に初期の浄化作用を失い、権力闘争の引き金となる。もっとも短命な第11代ギザギ王は、即位後わずか二ヶ月で毒殺された。

 これを受け、政治の舞台から降りていた初代ギザギ王の末裔が、国を憂いた多くの下級貴族や平民に後押しされて表舞台に戻り、第二次統一戦争に勝利して第13代ギザギ王として玉座に着く。以後、初代の理想は子孫によって撤回され、血統による存続がはじまった。

 第13代ギザギ王には、第二次統一戦争から付き従う四人の有能な下級貴族がいた。国王は腐敗した高級貴族を処断し、彼ら四人を取り立てた。それが現在でも『四公』と呼ばれる東西南北を守護する四大貴族の祖先である。

 しかし、現在の四公は始祖のような固い友情で結ばれてはおらず、不仲ではないが不干渉を貫いている。国の大事であってさえ、協力しあおうとはしない。

 例えばサイセイ砦のある西のエスト領は魔物からの侵攻があっても、王以外からの援助を拒み続けている。領内に他の公爵家の軍を入れるのを認めないのだ。

 つい先ごろのギザギ十九紀14年7月にも、ゴブリン軍の襲撃があった。これはゴブリン軍の惨敗よって決着がついたが、敗残兵が散り散りとなり各地で略奪が起きた。このときもエスト側は危険喚起をしただけで、領外に実働部隊の派遣を申し出なかった。申し出たところで、自領同様に他の領主が認めるわけもないとわかっていたからだ。

 このような事例は、ここ数十年、領主が代替わりしても続いている。それがもっとも悪い方向に向かったのが、7年前の北方ノウス領での事件である。それは一時、大貴族のみならず国王までも青ざめさせるほどの事態を招いたが、魔導師アリアド・ネア・ドネの秘策により、最北の都市ホクタンの陥落を免れた。それ以来、各大都市には王直属の諜報隊が陰ながら活動するようになったという。

 カクカ大陸全体に目を移すと、中央から西部にかけては小規模ながら国同士の戦争が頻繁に起きている。その争いにギザギ国が巻き込まれもせず200年以上存続したのは、その土地がらによるところが大きい。

 東をマルマ最大の海洋・デカデ海に、北から南は西に半円を描くトゲト大山脈に囲まれ、天然の要害が他国からの侵略を許さない。

 一方で、山脈や海に住む魔物からの襲撃に悩まされ、20年前には西の一角が破られかけたこともある。

 その絶体絶命のピンチを救ったのが『異世界人』であった。大魔導師ドネが特殊な召喚術で呼び出した彼は、陥落寸前の砦を救い、勇者となった。

 これに気をよくした当時の第18代ギザギ王はさらなる勇者を求め、異世界召喚を実務化した。これが後の召喚労働者サモン・ワーカーのはじまりである。

 そして20年、ごく稀に現れる勇者を除き、凡百の異世界人がギザギ国でつつましく生活していた。その中の一人に、ショウという少年がいる。

 マルマ名・ショウこと日比野小吉ひびのしょうきちは、日本生まれの高校二年生・17歳。高校一年の年度末まで野球部に所属していたが、成長に見切りをつけて退部。以降はゲーム三昧の日々を送っていた。ある日、その生活に虚しさを覚えたことをきっかけに、魔導師アリアド・ネア・ドネの招きに応じてマルマへと降り立った。

 召喚から一月ひとつき)後、彼は山林で土砂崩れに巻き込まれ消息不明となった。奇跡的に助かった彼は、80日後に召喚労働者サモン・ワーカーの町ナンタンへと帰還する。

 就労レベルは4。職種クラス戦士ウォリアー見習い。保有スキル・無し。ナンタン守備隊より銀特等勲章・受勲。ゴブリン討伐数・13。超大型・真紅背毛大猪レッド・グレート・ボア討伐。チーム・ショウ(仮)のリーダー。

 性格は真面目で、スポーツ少年であったため、上下関係には多少うるさい。いろいろと考え込むタイプだが、機転が利き、決断すべきときは行動が早い。望んだわけではないが、いつのまにかパーティーのリーダーに据えられていた。理由の一つに、チーム内に不和があるためだ。彼が接着剤、もしくは緩衝材にならなければチームは機能しないと、メンバー全員が認識していた。

 その問題児の一人が、レベル7の魔術師ウィザード・マルである。

 大そうな職種クラスを名乗ってはいるが、覚えている魔法はたった三つしかない。いずれも攻撃に特化しており、本人も『攻撃こそ最大の防御』と言い張っている。

 黒髪の背の低い少年で、どうやら元は中学生らしい。ショウは実像に興味がないので詳しくは知らない。子供らしく生意気で口は悪いが、一本スジの通った発言をし、実践しようとしている。正義や、弱きを助けるのを信条としているようで、そういった面でも子供らしい。短所も多く、気分やで短気、落ち着きがなく勉強嫌い。そのため任務でも暴走しがちで失敗も多かった。異世界人管理局アリアン・専属召喚労働者セルベント時代、同期の仲間であるルカと同じ小隊にいたにも関わらず、マルのレベルが7、ルカが8なのはこのためである。

 そのルカという少年は、美男子というより美少女に近い容姿をしている。ウェーブのかかった銀髪と長身も合わさって、女性たちの目を引いている。しかしながら性格がのんびりとしていて掴みどころがなく、思ったままを口にし、他人に無頓着、大食漢で極めて雑食。そんな外見とのギャップに、ガッカリする女性が同じ数だけ存在した。彼自身も女性には興味がないらしく、寄ってくる女性に対してもあしらい方が雑だった。もっとも、同姓に対しても興味対象外には素っ気なく、接触を好まない。唯一、なぜかショウにだけは異様に執着しており、性別を超えて好きらしい。ショウは寒気を覚える一方、友人として彼を頼りにしていた。

 ルカのレベルは前述のとおり、8。アリアン・セルベント時代には小隊・副隊長を任されていた。職種クラスは一種に特定できない全能力者オール・ラウンダーである。彼はいかなる技術もすぐに吸収し、再現ができた。特に魔術関連に強く、現在のギザギ国で主流となる『魔法のスキル化』もなしに自在に魔術が扱える。教練にもなかった術まで使ってみせたことがあり、彼の異能は底が知れなかった。

 そんな反則級強者チート・キャラとショウを巡る戦いを真っ向から仕掛けるのが、元アリアン・セルベントのシーナである。

 栗毛の緩やかな髪とイキイキとした眼は、ショウが初めて会ったときと変わらない。ショウが80日ぶりに生還したときは、髪がずいぶんと伸びていた。伸ばし始めた理由は自分でも明確ではない。ただ、長いほうがカワイイと思われるのではないかと、誰の視線を気にしたものかわからない思案はあったようだ。仲間が聴けば鼻で笑うところであろう。

 彼女はこのパーティーの中では最高レベルの9である。彼女よりも早くセルベントとなり、小隊・副隊長まで務めたルカよりもレベルが高いのは、害獣駆除などで実績を重ねていたからだ。一方で、ルカたちは片田舎に駐在員として派遣されたものの、平和な村に実質的な仕事はなく、実績を稼ぐことができなかった。これがレベル差の原因である。もっとも、その就労レベル自体が3以上になると価値はなく、シーナも自慢などしない。むしろセルベントを辞めたためにレベルに応じた納税義務が復活したので、腹立たしささえあった。

 シーナの職種クラス守備的戦士ディフェンダーである。前線には立つが、敵を倒すのが目的ではなく、敵を足止めし、味方の攻撃を有利にする役割を持つ。格下相手であれば積極的に戦いもするが、あくまで味方の盾となるポジションだった。これにシーナは不満であるが、回復魔法を持ち、同じ前線に立つショウが他にスキルもないので攻撃オフェンスは任せるしかなかった。もっとも、ショウと肩を並べて戦えるだけで彼女は充分に嬉しかった。

 シーナは明るく、楽しいことが大好きであるが、それはトラウマの反動である。日本にいたころ、彼女は『鈍亀ドンガメ』というあだ名でイジメられていた。そのイジメそのものも問題だが、抗えなかった自分も嫌悪しており、マルマでの彼女は自分を変えようとしていた。それは、ショウという自分を受け入れてくれる人と出会い、実を結んでいく。

 ショウへの好意を自覚した矢先、彼は土砂崩れに巻き込まれ死亡宣告される。が、80日後、彼は生還を果たした。帰ってきた彼を、シーナは今の生活を守るために拒絶したが、仲間たちの後押しを受けてショウのもとへと戻り、恋人となる。今が幸せの絶頂期といえよう。

 仲間の最後の一人、アカリもショウと関係を持っている。現代日本人から考えると良識を疑うような三人の関係は、シーナの提案による『みんなで幸せになろう』計画の一端であった。もっとも、アカリ自身は精神面での結びつきが弱いと断じており、ショウとは恋人ではなく友人寄りで、人前では素振りすら見せない。

 素の彼女は口が悪く、マルとしょっちゅうケンカをしている。ショウにだけは話しているのだが、日本にいる弟がマルのような感じなのだそうだ。いつもケンカばかりしていて、そのノリでマルを相手にしているという。ムカツクけれど、本気で憎んでいるわけではない。もとより、そんな気持ちがあれば仲間になっていない。

 本質的には寂しがりで、強気でいるのはそれを隠すためだとショウたちは気付いていた。一方で、ワガママで融通が利かず、これに強気が加わると面倒くさいことこの上ないときがある。そうはいっても、根はまっすぐで仲間を思いやる面もある。強い言葉で相手をやりこめたり、逆に力強く励ましたりするのも、彼女の複雑さの妙であろう。そういうアカリだからこそ、シーナもショウも彼女に好意を持つのだった。

 パーティー内での役割は、弓術士アーチャーとして後方からの支援が主となる。訓練所でさまざまな武器を試したが、彼女が自分で選んだ道がもっとも適正であったらしい。訓練所では伝説を残しており、そのときに付いた二つ名が『赤い殺人(レッド・キラー・)女王蜂ビー・クィーン』である。このような名をつけられ、アカリはさぞかし憤慨していると思いきや、意外と気に入っているようだ。さすがに自分からは名乗らなかったが、他人から呼ばれると満更でもない顔をしていたとの証言も残っている。それだけ弓には自信があったようだ。実際、メンバー同士で一対一の模擬戦をした場合、アカリに勝てるのはルカだけで、シーナでも半歩譲り、ショウとマルは完全に負け越している。

 そんな特色ある一団は、始まりの町ナンタンを出発したばかりであった。目的は定まっておらず、無計画な旅だった。ただ一つ、全員が心に抱いている気持ちは共通している。

 それは、『冒険者として』のスタートであった。


   ※ ※ ※


 五人の冒険者がナンタンの東門を抜ける。冬を前にして、冷たい風がときおり体をなぶっていく。五人はリーバ作のロングコートを身につけており、外套までは必要としなかった。

 収穫の季節は終わっており、街道沿いの南北の畑はほとんどが地面を晒している。冬に収穫を迎える一部の根物野菜だけが青く残っていた。

 2キロ弱の畑を抜け、石橋を渡り川を越える。浅く流れは穏やかで、冷気さえ感じそうな透きとおる水が長い束となって果てまで伸びていた。

「そういや、ここで水遊びしようとか話したよな」

 ショウは橋の真ん中で足をとめ、初めて見る川に眼を細めた。

「あー、あったねー」

 隣のシーナが懐かしく振り返った。

「どっかの誰かのせいで予定が変わったけどね」

 アカリが鼻を鳴らす。話をした翌日、ショウは山で消息不明となった。

「おまえはもともとノリ気じゃなかっただろ」

 ショウが口を尖らせ反論する。

「なに言ってんの? あんた抜きでやったわよ?」

「マジで!?」

 ショウは驚いてシーナにも確認する。栗毛の少女は苦笑いしながらうなずいた。

「気晴らしに、ね? ホリィさんと赤羽組の三人と、なぜかツァーレさんとベルさんも……」

「マジで!? なにそのテコ入れ水着回! 男は誰が参加したの!?」

「させるわけないでしょ。……もっとも、シーナのストーカーだったダイゴは離れて観てたみたいだけど」

「マジか、うらやましすぎるだろ……」

 ショウはものすごく悔しかった。

「いい気晴らしにはなったわね。暑いし、いろいろムシャクシャしてたし、悪いことばっかじゃなかったわ」

 アカリは薄く笑んだ。あのころの苛立ちと喪失感の原因となった問題人物が、今は近くにいる。だからこそ懐かしく楽しい思い出に昇華できた。

「カメラがないのが残念だったね。ツァーレさんの写真なんか、きっと高く売れただろうなぁ」

「念写魔法ってないのかな」

 ショウが気持ち悪いことを言いだす。本音であるのがわかるだけ、よけいにキモイ。

 シーナがムッとして腕を叩いた。

「ショウくん、ちょっとゆっくり話をしよっか」

「え、シーナの写真、欲しがるのマズかった?」

「ふえぇ!?」

 まさかの言葉にシーナの声は裏返り、顔を赤くした。

「はいはい、オヤクソク展開はいいから。ほら、行くわよ」

 アカリが二人の頭をはたいて歩みを進める。先行するマルとの差が開いていた。黒髪少年は旅にテンションが上がっており、一人でズンズン進んでいく。

 ショウはそれに気付き、慌ててマルを追った。放っておくとどこまで行くかわかったものではない。シーナはそんなショウを追う。

「まったく、スタートからバラバラじゃない。大丈夫なの、このパーティー」

 アカリがため息を吐く。

「このへんは平和だし、一人旅だっていけるよ。街道だから行き来もあるしね」

 最後尾をのんびりと歩いているルカが言った。答えが返ってくるとは思ってもいなかったアカリは、驚いて跳び上がりかけた。

「そ、そう? さすが、異世界人管理局アリアン・専属召喚労働者セルベントとして各地に派遣されてただけあるわね」

「各地ってほどでもないよ。任地の二ヶ所とその道中ていどだし」

「それで何か面白いものはあった?」

「ないよ。興味もなかったし。アカリには話したじゃないか。ボクがセルベントになった理由」

「あー、そうね」

 アカリは思い出した。ルカは早く強くなりたかった。そしてショウと旅に出るつもりだった。セルベントになったのはそのための手段に過ぎず、任務や規則など端から無視するつもりだった。

「でも、目的がなくなっちゃったからね。だから小隊にも参加したし、任地にも行った。どうでもよかったんだよ」

 真面目に語るルカにアカリは調子が狂う。それだけショウがいない喪失感が大きかったのだろうとはわかる。が、そんなのは彼だけではない。

「それじゃ結果的に、初心のままに旅を楽しめるわけね。あたしと同じだ」

「そうだね。今度は楽しめそうだ」

 ルカは微笑み、ショウを追って足を速める。

 最後となってしまったアカリも、足取りが軽くなるのを感じていた。

 ルカの言葉どおり、街道を歩いているかぎり旅は平穏だった。すれ違う行商人や、追い越していく馬車、見回りなのか槍を持ってゆっくりと進む騎馬隊。平和過ぎて冒険という意識は薄れ、行楽旅気分になっている。

 およそ一時間ほど歩くと、北と北東に別れる分岐点に着いた。

「トウタンを目指すなら北東の道だよ。北からも行けるけどね」

 ルカが地図を広げるショウに教えた。

「最短なら北東ってことか」

「うん。サウス領は碁盤みたいにけっこう区画整理されてるから、領を抜けるまでは適当でも大丈夫だよ」

「さすがルカ、詳しいな。セルベントのかがみだな」

「セルベントは関係ないよ。興味があるから覚えただけだし」

 そう応えつつも、ショウに褒められて気分がいい。

「急ぐ旅でもないし、適当に寄り道しながら行ってみるか」

 ショウが仲間に意見を求めると、異口同音に「任せる」と答えた。ショウへの信頼感ではなく、どうでもいいからである。

「そういえば、北のほうならセルベントの第2小隊が駐留している村に着くんじゃないかな」

 ルカが記憶を掘り起こす。

「第2小隊?」

 ショウは異世界人管理局アリアン・専属召喚労働者セルベントではないので、小隊番号で言われてもピンとこない。

 対して、元セルベントのシーナが過敏に反応した。

「第2って、コーヘイのとこじゃなかった?」

「コーヘイさん!?」

 シーナにつられショウは声をあげる。ルカへと視線を戻すと、銀髪の少年はうなずいた。

「そう、コーヘイ・チームだよ。メンバーは、サト、レイジ、クロビスだったかな」

「それは会いに行かないとな」

 ショウは驚きと懐かしさを感じた。世話になった先輩の中で、コーヘイ・チームが一番付き合いが深かった。あの事故も彼がいるときに起きた。きっと辛い思いをさせてしまっただろう。ショウはずっと謝罪と礼を言いたかった。

「じゃ、行きましょ。ついでに他の人にも会いに行けば?」

 アカリが即決する。目的がないよりは歩きがいも出てくる。

「そうだな、それがいい。ルカ、トウタンまでの経路で会えそうな小隊ってわかる?」

 ショウの無茶な注文に、さすがのルカも苦笑いが浮かぶ。

「ボクが知ってるのは古い情報だよ? 第2小隊だって任地を離れてるかもしれないんだけど」

「それでもいいよ。行くだけ行って、会えればラッキーで」

「えーと……」

 ルカは記憶をほじくり返した。

 セルベントの小隊は全部で22存在する。ショウが知っていそうな小隊メンバーは、第1から第4、第13と第17くらいであろう。

 第1小隊は説明を受けるまでもない。かつてマルとルカもいたカッセのチームである。二人の抜けた穴を埋めて、今は以前と同じナンタンから見て北西のエリアにいる。なので、遠回りをしないかぎり出会うことはない。

 第2小隊はコーヘイ・チームで、これから会いに行く。

 第3小隊はイソギンチャクをリーダーとした、なぜか海がらみの名前ばかりのチームだ。オルカ、カジキ、ナナミというメンバーがいるらしい。ショウはリーダー以外に面識はない。彼らも西寄りにいるため、今回は会えない。

 第4小隊の隊長はレックスが勤めている。メンバーには以前からの仲間であるタカシとジューザがいる。彼らは東エリアのもっとも端、トウタンを目指すルート上にいるので、普通に歩いていれば必ず顔を合わすはずだ。

 ここまでが、ナンタン守備隊から勲章を受けた人物がリーダーを務める精鋭部隊である。ショウも受勲時に町にいれば、小隊長となるよう強く勧められていたであろう。そうなれば人のよい彼のこと、まかり間違えればセルベントとなっていた可能性もある。しかし異世界人管理局も、今さら数ヶ月前の英雄モドキを勧誘しようとはしなかった。彼よりもよい人材は溢れており、実際、22部隊もそろっているのだから。

 第13小隊は女性のみで構成されていた。トレード・マークとして、兜に赤い羽根をつけている。リーダーはシーマという黒髪の裏匠りしょうである。副隊長が長い金髪の戦士カテジナ、メンバーに魔術師ニナがいる。さらに四名の一士いっし――最下級セルベント――がおり、全小隊で唯一の7名構成という大所帯である。

 シーマたちは当初、ショウを失ったアカリに、セルベントとなりリーダーになってもらいたいと望んでいた。だが、アカリもシーナも拒否したため、自分たちでチームを立ち上げた。その後、シーマたちも精神的に成長して、過去の自分たちのような不安を抱える女性に声をかけてメンバーに引き入れていった。

 女性だけのパーティーというのは難しいらしく、メンバー間の問題も多い。また、恋愛沙汰も日常茶飯事で、シーマはもうチームとしての安定はあきらめて、希望があれば除隊もすぐに認めた。そのような状態のため、管理局からも戦力としてではなく、女性セルベントの小隊研修班のような扱いを受けるようになっていた。シーマたちは困惑したが、かつての自分たちを思い出し、その役目を担うようになる。ゆえに任地もナンタンとなり、せいぜい外壁周辺が任務場所となっていた。

 余談だが現在はダイゴのチームにいるパルテも、かつてはシーマ・チームにいた経歴がある。気の強さからメンバーともめて除隊したあと、行き場のなかった彼女はダイゴに拾われた。

 そのダイゴが率いているのが第17小隊、シーナの古巣である。

「つまり、会えそうな知り合いはコーヘイさんとレックスさんのチームくらいってことか」

「そうだね。トウタンへは遠回りになるけど、ルートは決めやすいかな」

 ショウの言葉にルカが注釈を加えた。

 リーダーはうなずき、北へ進路をとった。

 北東の道に比べ、道幅は半分ほどしかない。大都市トウタンに最短でつながる北東の街道が太く賑やかなのは当然であった。

 めっきり人影は減ったものの、のんびりとした田舎道にはそれなりのおもむきがある。

 緩やかな丘をいくつも越え、ときおり現れる林道を抜け、誰も刈らない雑草に埋もれかけた細道を進み、昼を目前に小屋が見えた。

「村の出入り口に必ずある監視小屋だよ。普段は使われないけど、非常時には村を守る砦になるんだ」

 ルカがショウに説明した。

「て、ことは、村に着いたのか」

「うん。周囲に雑草がないだろ? 収穫済みの畑のあとだよ」

 確かに綺麗に刈り取られ、整地されている。奥のほうには家が点々と建っているのが見えた。

「ここにコーヘイさんがいるのか?」

「もう一つ先の村じゃなかったかな。ここは任地範囲のギリギリだと思う」

「そっか。それじゃ休めるところがあれば休憩して、先へ進もう」

 一同は了解し、村に足を踏み入れた。

 道が少しずつ広くなり、十数軒の家が建つエリアに入った。看板を眺めてみると、酒場が2軒と、雑貨屋、食料品店、床屋が各1軒といったところだ。ナンタンが近いせいか、宿屋のマークはなかった。残りのいくつかは看板がないので、民家と思われる。

 が、もっとも人だかりが多いのは、酒場ではなく民家の一つだった。敷地はどの建物よりも広いが、やはり看板はない。

「なんだろ?」

 ショウは首を傾げる。人だかりも老若男女さまざまで、着ている服も質素な物から上質の絹織物まで幅がある。

「みんなどこかしら元気がないように見えるけど」

 アカリが不審に思って口にした。家の前で並んでいる人は、怪我をしていたり、あきらかに青い顔をしている。

 が、その家から出てくる人は、なぜか顔が明るい。

「病院じゃね?」

「あー、そっか。マル、よくわかったな」

「バカにしてんのかっ」

「いや、本気で感心したんだよ。気付かなかった」

 ナンタンにいると、現代日本のように病院で並ぶということがない。魔法による治療は時間がかからないからだ。それに異世界人たちは管理局の診療室で事足りるので、病院の存在は知っていても行ったことがない。

「それにしても多すぎじゃない? 手は回ってるのかな」

 シーナはその様子が気になった。彼女はショウの事故以降、怪我や病気に対して過敏になっていた。【治癒】魔法を率先して覚えたのも、その影響である。

「手伝っていく?」

 ショウの問いかけにシーナは迷った。

「そうしたいけど、医療ルールがあるから。あそこが病院なら、医者の権利を妨害することになるんだよ」

「ああ、そうか。あれが仕事で、お金を稼いでるんだもんな」

「医療施設外とか異世界人相手でないと、許可のない治療ってできないんだよね」

「そんなルールがあるんだな」

 ショウは初めて知った。

 一同が手出しもできずにただ眺めていると、一人の若者が出てきて外の患者に声をかけた。

「次の人、中へ」

 とても医療関係者とは思えない、黒ローブに黒髪の青年だった。

「「あれ!?」」

 ショウとシーナ、マルが目を丸くした。

「……ん?」

 三人の驚いた声に青年が目を向けた。そして、彼も驚いた。

「おまえたち……!」

「クロビスさん!」

 ショウは見間違いのない彼の姿に走り寄った。マルもシーナも喜んで駆け出す。アカリとルカはゆっくりと仲間を追った。ルカは彼と面識はあったが、親しいわけでもないので驚きも慌てもしない。アカリにいたっては初対面である。

「ショウ、よく生きてたな。パーザさんの記事は読んだよ」

 クロビスが笑顔を浮かべ、手を差し出してきた。彼にしては珍しい行動だった。

 その手を握り返し、ショウは礼を述べる。

「クロビスも元気そうじゃない」

 シーナが声をかける。

 「おまえほどじゃないだろ」彼がニヤリとすると、シーナは「まぁね!」と胸をはった。皮肉が通っていない。いや、わかっていてアピールしているのだろう。クロビスはシーナの心情を的確に掴んでいた。だてに長く採取班を共にしていない。

「任地、ここになったんスか?」

 「いや」マルの問いにクロビスは首を振った。と、患者を待たせているのに気付き、一同にも中へ入るようにうながした。

 家の一階は大広間になっていた。ベッドがいくつか並び、ソファーにも村人が暗い顔で腰かけている。

 クロビスは空いている椅子に、さきほどの患者を座らせた。

「これってやっぱり病院?」

「ああ。臨時だがな。こっちだ。みんなもいる」

 クロビスは奥の部屋に一同を招きいれた。

「コーヘイ、珍しい客が来たぞ」

「ん……?」

 窓際で患者を診ていたコーヘイが顔を上げる。と、彼は目を疑い、それから椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「ショウくん!」

 コーヘイの声は、カーテンで仕切られた左右の個室にも届いていた。カーテンが同時に開かれ、サトとレイジが飛び出してくる。

「ショウ!」

 もっとも速かったのはレイジだった。ショウに抱きつき、思いきり背中を叩く。

 サトは涙を浮かべて微笑み、コーヘイは喜びと安堵を込めた表情をしていた。

「ご心配をかけました。それと、ご迷惑もかけました。すみませんでした」

 ショウが頭を下げると、コーヘイは少年の肩に手を載せた。

「オレのほうこそ助けられなくてすまなかった。だけど、本当によかった。また会えて嬉しいよ」

「ありがとうございますっ。オレも、すごく嬉しいです」

 ショウの目にも涙があった。ようやく一つ、目的が叶えられた。

「とりあえず、再会のあいさつはそんなところでやめとけ。患者が待ってる」

 コーヘイ・チームのなかでもっとも冷静でいるクロビスが、一同をうながす。

「ああ、そうだね。すまないけど、話はまたあとでいいかな?」

「はい、お邪魔してすみませんでした。でも、これ、どうしたんです?」

「今日はこの村の出張診療日なんだよ。だからちょっと忙しくてね」

 コーヘイは自分の席に戻り、患者の脚に手を当てた。小さな裂傷がある。刃物でついた傷であるのがショウにもわかる。

「【治癒ヒール】」

 コーヘイの掌から緑の光が溢れ、傷を塞いでいく。患者の若い男は礼を言って帰っていった。

「たまにしか来れないから、軽傷でも村中から人が集まってきてね、大変なんだ」

 コーヘイは苦笑するが、嫌がっている様子はない。

「こんだけ患者がいれば儲かりそうだな」

 マルが打算的な表情を浮かべる。アカリが無言で少年の頭を叩いた。

「いや、無料だよ。地域活動の一環だから。元手もかかってないしね」

「さすがだ」

 ショウは感動した。まさにセルベントの鑑だと思う。

「わたしも手伝うよ。【治癒】と【解毒】なら使えるし」

 シーナが申し出る。コーヘイは「でも……」と言いかけたが、シーナがさらに「任せて」とやる気になっているのを見て、頼むことにした。

「ルカ、キミも手伝う! 回復魔法、使えるでしょ」

 シーナが後ろにいるルカに声をかける。

「ボクもかい?」

 ルカは渋い顔をした。伺いを立てるようにショウを見る。

「できるなら手伝ってあげてほしい。オレができるなら、そうしたいんだけど……」

「わかった。リーダー命令じゃ仕方ないね」

 ルカもコートを脱ぎ、壁際の椅子を二つ並べた。

「応急処置はできるけど、魔法のほうが早くていいわよね。あたしは患者の症状を聴いてくるわ」

 アカリは自分の役目を決め、クロビスに合流した。

「オレたちは力仕事だな。患者に手を貸したり、道具運びだ」

「おうっ」

 ショウがマルに呼びかけると、彼は不平も言わずに従った。二人はコーヘイに指示を仰ぎ、患者の誘導や水桶などの運搬を手伝った。

 コーヘイたち三人に加え、シーナとルカの存在は大きく、診療は順調に進んだ。最後の最後で落馬した重傷患者が運ばれてきたが、五人の力が合わさって事なきを得た。

「いや、本当に助かったよ。オレたちだけじゃ裁けなかった」

 コーヘイは一息ついた。

「コーヘイさんのチームは、三人も治癒魔法を覚えてるんですね」

「うん。みんな心配性なものでね。オレは【治癒】と【低級状態回復】、レイジは【解毒】、サトは【治癒】と【体力回復】、クロビスは攻撃魔法専門だ」

「全員魔法持ちってすごい強そう……」

 ショウの単純な感想に、コーヘイたちは笑う。

「けど、攻撃魔法は使う機会がないんだ。宝の持ち腐れってヤツ」

 レイジが肩をすくめる。

「やっぱり村は平和ですか」

 ショウは肯定が返ってくると思っていたが、彼らは顔を曇らせる。

「……ショウくんは管理局専属召喚労働者(セルベント)じゃないんだよね?」

「え……? はい」

「それじゃ、話せないんだ。……いや、マルはセルベントだよね?」

 コーヘイが黒髪の少年を見た。セルベント相手ならば話しても問題はない。さらに両者が納得すれば、協力関係も築ける。

「あー、すまねっす。オレ、もう違うんすよ」

「え? そっちのルカくんといっしょに、カッセさんの小隊に入らなかった?」

「なんだけど、今はフリーっす」

 マルの目がショウに向く。説明が面倒くさくなったのだろうと解釈し、ショウはいきさつを話した。契約書類紛失とは言えなかったので、諸事情でセルベントを解雇されたことにしておいた。

「そうか。一般の召喚労働者ワーカーに戻ったのか……。できれば手伝ってもらいたかったんだけど、残念だ」

 コーヘイたちはあからさまに落ち込んでいる。よほどの問題を抱えているのだろう。

 ショウは打開策がないかを考え、一つ思い浮かんだ。それを実行するには相方が必要となる。自然とシーナを見た。

「……? ……!」

 彼女は彼の視線の意味を感じとり、口元を緩めてうなずいた。

 ショウは我が意の得たとばかりに、唐突に切り出した。

「……なぁ、オレたちって、どこへ行って、何をしようと自由でいいよな」

「だねー。どっかで問題が起きてて、それを偶然知ったりなんかして、それに関与したってぜんぜん平気だもんね。だって、勝手にやることだもん」

「だよなー。いやー、自由っていいなー」

 コーヘイたちをはじめ、ルカたちも猿芝居にポカーンとしている。

「わざとらしいにも程がある……」

 アカリは我が事のように赤面した。

 コーヘイは噴出し、レイジたちも笑い出した。

「……ありがとう、心配してくれて。でも、大丈夫だよ。こちらでどうにかするよ」

「いえ、隊長、いいアイデアがあります」

 ショウたちを安心させようとしたコーヘイに、サトが笑いをこらえながら提案を持ちかけた。

「なんだ?」

「いっそ依頼を出しましょう。正式に管理所を通して。それなら召喚労働者ワーカーを雇えますよ」

 サトの案にコーヘイは新鮮な驚きを感じた。

「そうか、その手があったか」

「隊長がこの案を採用するのでしたら、まずはノサウスの管理所に戻りましょう。この村の出張診療も終わりましたし、夕方までには戻れます」

 ノサウス村はコーヘイたち第2小隊の拠点である。ここから北に7キロほどの場所だ。

「そうしよう。ショウくん、つきあってもらえるかな?」

「もちろんです。ご迷惑をかけたお詫びとお礼になんでもしますよ」

「ありがとう、助かるよ」

 ショウの晴れやかな顔に、パーティー・メンバーは彼らしいと思いつつ、やはり厄介ごとがはじまるのだと肩をすくめた。しかし、それがいい。これぞ旅の醍醐味というものだ。

 ノサウスまでの道中は賑やかなもので、空白期間を埋めるように絶えず会話が続いていた。このメンバーの中でもっとも関係の薄いルカでさえ、セルベント時代の情報を流すことでコーヘイたちに外部の様子を教える役を担っていた。セルベント小隊は任地へ派遣されると、外部の情報はほとんど入らない。それこそ管理所の掲示板に貼られる『異世界人管理局便り』がほぼすべてである。放置され、忘れられたのかと疑うほど、変化が何もないのだ。

「拠点にいてもすることがなくてね。だったら能力を活かそうと出張診療をはじめたんだ。小さな村が3つ、そのどこにも医者はいない。民間療法だけが頼りになってるんだ。さすがに大怪我をしたときはナンタンまで行ってたらしいけど、治療費も安くはないからね。ガマンする人が多いんだよ」

「そうなんですね。過疎地の医者不足はどこもいっしょですね」

「ああ。でも、こう言っては不謹慎だけど、おかげでオレたちのいる意義もできた。村の人とも親交が持てるようになった。お礼に農作物なんかもいただいて、衣食住にはお金がかからなくなったよ」

 コーヘイが笑う。

「田舎暮らしそのまんまですね」

「でも、悪くないよ。畑を手伝って、子供に勉強を教えて、害獣駆除して、収穫祭を楽しんで。勇者には遠いけど、身の丈にあった生活かな」

 そう語るコーヘイをショウは嬉しく思う。それぞれがそれぞれにあった生き方を見つけている。コーヘイの気質に、今の生活は合っているのだろう。一方で、他のメンバーは今に満足しているのだろうかと、よけいな考えも浮かぶ。それを直接、口にする者がいた。

「でも隊長、さすがにずっとこれは退屈ですよ。戦いたいとは言いませんけど、せめて任地の移動くらいはしたい」

 レイジが頭の後ろで手を組んでボヤいた。彼の性格から考えれば、いま少し刺激が欲しいところだった。

「わかる。オレも任地に引きこもって、ずっと暇してたぜ。平和すぎてすることねーんだよ」

 マルが激しく同意する。

「だよな? どうせなら西の方がいいな。山脈が近いからゴブリンとか来そうじゃん。そっちのが退屈はしなさそうだ」

「そうでもないぜ? オレたちは西側だったけど、ゴブリン一匹こなかった」

「マジかぁ。どこいっても平和かよ。じゃ、やっぱせめて景色くらいは変えたいなぁ」

 レイジが頭を振った。

「だから異動は願い出てるだろ? 認可が下りないけど」

 コーヘイが息を吐く。小隊長もなかなかに気苦労があるようだ。

「異動許可って、やっぱり出にくいんですか?」

「どうだろう? ウチの場合は出ない理由がはっきりしてるから、わからないな」

「出ない理由?」

「ああ、それがオレたちが抱えている問題のせいなんだよ」

 コーヘイはまた重い息を吐いた。

「それは?」

「管理所で依頼を出すまでは話せない。もう少し、ガマンしててくれるかい?」

 コーヘイはそう言い、歩く速度を速めた。


 ノサウスは先ほどの村よりも多少、賑わっていた。村の中心部に家が並び、放射状に畑や牧場が広がっている。村の末端には申し訳程度の柵が取り囲んでおり、外部からの侵入に多少は気を遣っているようではある。

 冬の短い昼間が終わりかけている。家路に急ぐ村人たちが、コーヘイたちを見かけるとあいさつをする。彼らもそれに応え、和やかな雰囲気をかもしだしていた。

「いい村ですね。みんな、気さくに声をかけてくれるし」

「そうなるまで時間はかかったけどね」

 コーヘイは苦笑いし、異世界召喚庁の旗を掲げた建物に入った。異世界人管理局アリアン・専属召喚労働者セルベント・第2小隊が駐屯する異世界人管理所である。

「戻りました、ゴダーさん」

 狭いカウンターに腰かけている中年の男性に、コーヘイはあいさつした。ゴダーは召喚庁から派遣されている管理所の正式な事務員である。もっとも、事務員は彼一人しかいないので、窓口受付から書類整理・依頼処理・報酬計算・税金徴収と、すべてを一人でこなしている。

「ああ、おかえり。お疲れ様」

 彼はのんびりとしていた。慣れた仕事というのもあるだろうが、仕事量そのものが少なく、パーザ・ルーチンがこなす量の一割もない。ゆえに、一日の半分以上をお茶を飲んで過ごしている。

 いつもであれば帰り支度をするところであるが、今日のゴダーは残業を強いられた。

「おや、そちらは? 召喚労働者サモン・ワーカーかな?」

 ゴダーの疑問に答えるべく、ショウが自己紹介をし、仲間を紹介する。

 ゴダーが丁寧にあいさつを返すと、コーヘイが用件に入った。

「ゴダーさん、依頼書を一枚作成してください」

「依頼書?」

「はい。依頼者は自分で、内容は盗賊捕縛依頼です」

「「え?」」

 ゴダーだけではなく、ショウたちも驚いた。

「彼らにもあの件を手伝ってもらいます。そのために依頼書が必要なんです。よろしくお願いします」

「いや、だが、そんな大げさな問題でも……」

「いえ、最初の事件からもう二ヶ月になります。これ以上は村の人も耐えられないでしょう。ナンタン守備隊も解決が遅いと業を煮やし、兵士を派遣して来るかもしれません。そうなれば、より面倒なことになります」

 詰め寄るセルベントの小隊長にゴダーはたじろいだ。

「わ、わかった。だけど、報酬はどうするね? 成功払い? 日当? それに期限は?」

 依頼用紙にペンを走らせながら、ゴダーが質問を重ねる。

 今度はコーヘイが困る番だった。そこまで考えてはいなかったのだ。

 ショウが横から口を出した。

「成功報酬で、金額は50銀貨シグルくらいでどうですか? 捕獲失敗ならお金は出さなくてすみます」

「ショウくん……」

「無料というも気がひけるでしょうから、それくらいはいただきます」

 少年が笑うと、コーヘイは安堵した。

「じゃ、すまないけどそれで」

「了解ですっ」

 ショウは仲間に振り返り、「というわけで、盗賊捕縛依頼を受けた」と宣言した。

 「やっす~……」マルは不服そうだった。

 「いいんじゃないの」アカリは適当だった。

 「プラス食料が欲しいなぁ」ルカは鳴きだした腹を押さえた。

 「無報酬でもよかったんだけど」シーナは昔なじみのコーヘイたちを助けたい。

「満場一致で協力させてもらいます」

 とてもそうは聞こえなかったが、コーヘイたちはツッコまない。

 依頼書を手にすると、ショウたちはコーヘイに案内されて酒場へ向かった。食事をとるためもあるが、酒場の二階・奥が宿泊施設となっていた。コーヘイたちは管理所に泊り込んでいるのだが、ショウたちも居座れるほどのスペースはない。

 時間は17時を回っている。日は半分以上沈み、村中で夕食がはじまる時間だ。それもあり、一日の仕事疲れを酒で流そうとする人で酒場は盛況であった。コーヘイは酒場の主人に頼んで二階のロフトを借り、総勢9名の会議兼食事会をはじめた。

 そうは言っても、まずは「乾杯」からはじまるのが通例だ。この時点でマルは作戦会議よりも酒、ルカも食事に専念する。仕事の話はショウに任せておけばいい、というスタンスは二人に共通している。

 真面目に会議に参加しているのは、ショウとシーナ、コーヘイとサトだけだ。アカリとレイジとクロビスも、話は聞いているが基本はお任せである。

 コーヘイが状況説明をはじめた。

 盗賊が初めて現れたのは10月20日。コーヘイたち管理局専属召喚労働者アリアン・セルベント・第2小隊が派遣されて7週間目である。

 被害はノサウス村・村長宅で、現金・41銀貨シグルが盗まれた。時間は、村長が家族ととも不在であった昼間の14時から16時の間だ。隣村の出張診療に出ていたコーヘイたちが村に戻り、報告を受け駆けつけると、村長宅には男物と見られるブーツ跡が一人分見つかった。すぐにゴダーを通してナンタンの管理局に報告したが、兵士の派遣にまでは至らず、コーヘイたちに一任された。

「なんで兵士は来なかったんです?」

「こういう問題を片付けるために派遣されたのがオレたちだからだろうね。これくらい解決できないなら派遣する意味がないと踏んだんだろう。それに、被害額が小額だったというのもあるかもしれない」

「なんであれ、人に被害がなくてよかったですね」

「本当にそう思うよ。村の人に何かあったら、自分の無能さがイヤになる」

 コーヘイの言葉に重みがあるのは、ショウの件も絡んでいるからだ。一度ならず、二度もあっては、とてもじゃないが耐えられない。

 ショウは彼の苦悩を感じ、話を戻した。

「それで、賊は未だに犯行を繰り返しているんですか?」

「うん。週に一度くらいで。いずれも、オレたちが出張診療に出ているときなんだ。かと思えば、さっきの村や、もう一つの任地内の村でも起きている。皆、同じブーツ跡だった」

「同じ賊ってことですね? しかも、コーヘイさんたちの行動を知っているカンジ」

「そうなんだよ。だから疑いたくはないけど、村の誰かって可能性も否定できないんだ。みんないい人ばかりだから信じられないんだけどね」

 コーヘイはため息をついた。

 そんな隊長を気遣ってか、サトが話を続けた。

「個人的な恨みの線も考えたんだけど、この村だけならまだしも他の村でも被害が出ている。しかも同じ人間の犯行であるなら余計に関係性は薄れる。となれば、この線はないかなと」

「そうですね」

 ショウもその点は納得できた。やはり、ただの盗人であろう。

「そうかしら? 必ずしもそうとはかぎらなくない?」

 聞き耳を立てていたアカリが、パンを裂きながら割り込んだ。

「どういうこと?」

「複数個所の犯行は、犯人の狙いを悟らせないカモフラージュなのよ。標的は一人だけなんだけど、それだとすぐに気付かれるから被害を増やして撹乱してるの」

 アカリは得意げに語る。これほどドヤ顔が似合う人間はそうそういない。

「おー」

 ショウが感心して拍手する。アカリは赤面して「ヤメロ」と抗議した。あからさまに褒められると照れてしまう。

「可能性としてはなくもないけど……」

 コーヘイも思案してみるが、どうにも腑に落ちない。言葉にはならないが、それは違う気がする。サトも同様に顔を曇らせている。

「それはないね」

 断言したのはルカだ。胃が落ち着いたらしく、幸せそうな顔をしている。

「どうしてよ?」

 不機嫌になるアカリにルカは答えた。

「期間が長過ぎるよ。目標が一人であるなら、ここまで被害を広げる必要もない。犯行を重ねれば重ねるほど犯人は特定されやすくなるんだよ? いくら注意しようと、予想外のミスはありえるんだ。村人だって警戒するだろうし、そうなれば目撃される確率もあがる。個人的な恨みのための犯行にしては、手広すぎるんだ」

「おー」

 ショウが感心して拍手する。ルカは得意げな顔になった。

 アカリは面白くなさそうに膨れてそっぽを向いた。マルはそれを見て楽しそうにニヤニヤしている。

「とすると、やはり賊の犯行か。どこかでオレたちを見張っていて、村を離れると留守の家を狙ったわけだな」

「でもそれじゃ、いつまで経っても捕まえられませんね。三つの村を同時に見張るなんてできないですから」

 サトが頭を振った。

「それは今までの話です。今日からはオレたちがいます。オレたちが別れて、陰ながらあと二つの村を見張ります」

 ショウの提案はコーヘイもすでに考えていた。が、小人数で対処できるのであろうか。敵は本当に一人なのか、どれほどの力を持っているのか、わかってはいないのだ。兵力分散は危険ではないだろうか。

 だが、それ以外に方法はなさそうだった。

「ショウくんのパーティーは五人だから、二人の組が危険すぎる。クロビスかレイジにも加わってもらって、せめて三人ずつで行ってもらうよ」

「いえ、コーヘイさんたちはこの地域では知れ渡っています。一人でも欠けていたら怪しまれますよ。この作戦のキモは、コーヘイさんたちがこの村にいると賊に思わせることです。でないと相手は行動に出ないでしょ?」

「たしかにそうだけど……」

 その理屈はわかるのだが、危険な仕事を任せる以上、安全策は講じておきたい。

「大丈夫です。今回は捕縛を目的とするんじゃなくて、賊の姿の確認だけにします。追跡もしたいところだけど、たぶん素人で失敗するから、人相と逃げて行く方向だけ覚えておくってのでどうでしょう?」

 「そうだね」コーヘイはショウの提案を受け入れた。

「本当にそれ以上はダメだよ? 絶対にあとをつけようなんて思わないように」

「はい」

 コーヘイの強めの口調に、ショウも力強くうなずいた。

「そういって暴走すんのがこいつなのよね」

 アカリが鼻で笑う。前科が多すぎるのだ。

「しないっ。それに単独行動じゃないから、たがいに止めあえばいいんだよっ」

「はいはい。足を射抜いてでも止めてあげるわよ」

「物騒なこと言うな!」

 ショウはアカリの発言にツッコむが、マルはそのやりとりにツッコむ。

「なんだよ、おまえらすでに組む気マンマンかよ?」

「え!? ち、ちがうわよ! そういう気概ってだけじゃない!」

「そうそう。チーム分けはこれからするっ」

「ハッ」

 今度はマルが鼻で笑った。

「じゃ、チーム分けな。回復を使えるシーナとルカが別になるのはいいよな?」

「妥当だね」

 シーナが二度うなずく。もうルカに対して必要以上の対抗心はないので、単純にショウの意見に賛成だった。

「ルカにはチームの指揮を任せるから、オレとは別だな」

 ルカはセルベント第1小隊・副隊長の役職を担っていた時期がある。ショウはその経験と万能能力を高く評価しているので、今のチームでも副リーダーを頼むつもりでいた。

「てことは、自動的にわたしはショウのチームだね」

 シーナは諸手をあげて賛同した。

「なんだよ、結局そうなんのかよ」

 マルが肩をすくめる。オヤクソクが過ぎるというものだ。

「いや、普通に分析して決めたんだけどっ」

 ショウのごまかしもチームには通じない。

「ま、いいわよ。で、あたしはどっち?」

 アカリがうながす。

「もしもの戦闘を想定するなら、弓持ち二人ってのはバランス悪いだろうから――」

 言いかけて、ショウはハッとする。このままではまたマルに何を言われるかわかったものではない。

 察したのか、マルから提案を出してきた。

「いいよ、わかってるっての。オレがルカと二人で行く。このクソ女といっしょになんぞ行動できねーからな」

「別にあたしがルカと二人でも構わないけど? 戦闘力で言えば、ルカと二人のほうがあんたら三人より上だし」

「ンだと、このヤロウっ」

「なーに、サル? あんたの当たらない魔法より、あたしのほうがよっぽど強いのは証明されてると思うけど?」

「ぐぬぅ……」

 対戦成績が物語っている。マルは魔法を使用しているのにも関わらず、もっか全敗中である。「当たらなきゃ魔法も無意味ね」とアカリは余裕であった。

「いや、ボクの意見が通るなら、アカリよりマルと二人のほうが気楽なんだけど。見張るってことは、一日で終わる仕事じゃないんだろ? だったら気心を知れてるほうがおたがいにいいんじゃないかな」

「それじゃ、マルはルカと。アカリはこっち」

 ショウの指示に、アカリとマルは従った。

 ショウはまとまって安心したが、一方でこのままというわけにもいかないと感じている。チーム間の齟齬そごを放置しておくと、いつか問題になるのは目に見えている。常に仲良くとは言わないが、まとまりがないのはいただけない。誰かが妥協することで成り立つパーティーではいけないのだ。それが自分の決断力の弱さと、個人的な親交にも問題があるのはわかっている。今後の課題であった。

 その後、コーヘイと細部を煮詰める。二つの村の地図を広げ、人知れず監視できる場所の算定や日程、連絡方法が決められた。

「では、明日から三日間、各村を監視する。終了は11月27日早朝。その後、27日正午にここノサウス村の管理所集合で」

「「了解」」

 チーム・ショウの面々が異口同音で応えた。


 ショウはまだ薄暗いうちに目が覚めた。季節の問題で日が昇りきっていないだけで、時計があれば5時を回ったところであるのがわかったであろう。残念ながら村には時計塔もなく、個人所有の時計もない。起きたのは体内時計のなせるワザである。

 同室のルカもマルもまだ眠っている。マルなど、昨夜は調子にのって地酒を6杯も飲んでいた。ナンタンの一般的な酒よりもアルコール度が高く、その分が効いている。

 二人を起こさないように用心のための剣を持って外へ出る。せっかくの初めての村である。散歩くらいはしたかった。

「うわ、寒っ」

 外へ出た瞬間、ショウは全身を震わせた。羽織るだけでは済まず、コートの前を閉める。ナンタンよりも寒さをきつく感じた。遮蔽物がないからか、地面が土だからか、人気がないからか、いずれも要因の一つにはなるだろう。

 宿屋兼酒場の裏手にあるトイレ小屋で用を足し、汲み置きたるでひしゃくを使って手を洗う。冷たさも格別だった。精霊式水洗トイレはないので、堀り床におけが置かれただけの簡易トイレである。一杯にたまったら肥溜めに運ばれるらしい。ナンタンでも一般的に使われている方式だ。この桶の回収作業をしたのをショウは思い出した。村人の中には男女問わずトイレを無視して畑で用をたす者もいたが、お国柄というほかにない。

「なんだろ、これ?」

 水樽の脇に小さな桶があるのだが、その中に竹でできた奇妙な物が入っている。竹の一節が丸ごと使われており、上にレバーが刺さっている。底に近い側面には小さな穴が空いていた。水鉄砲のようである。

「あ、ショウ、おはよー」

 背後から声をかけられ、振り返るとシーナがいた。彼女も体内時計に導かれ、早くに目覚めたクチのようだ。

「おはよ。早いね」

「おたがいにねー。別に管理局で仕事をもらうわけでもないのに」

 そういって彼女は笑った。

「習慣というのは怖いな」

 ショウも笑顔で返す。

「んで、トイレの前で何してんの?」

 そういう彼女もトイレに来たわけだが、ショウに居座られては入るに入れない。

「ああ、これ、なんだろうと思って」

 ショウは竹の水鉄砲らしき物をシーナに見せた。

「知らないの?」

 シーナは驚いた。

 ショウのほうも驚く。知っていて当然のような反応だ。

「ショウって、精霊式トイレしか使ってこなかったんだね」

「うん。緊急のときはこういうトイレも借りたけど……」

「あー、まぁ、男の人じゃ使わないかぁ」

 シーナは呆れと納得を合わせた微妙な顔をする。どうしたものかとしばし考え、「こういうのはマルかルカに訊いてほしいもんだよぉ」とため息をついて、その水鉄砲を借りた。

「簡単に言えば、ハンディ・ウォシュレットだよ。洗浄に使うの。小さい桶にあらかじめ水を汲んでいって、これで吸い上げてかける」

 シーナは試しに小さい桶に水を汲み、そこに竹水鉄砲の下側を沈めてポンプ・レバーを引いた。水が吸い込まれる。

「で、こう」

 レバーを押し込むと、当然のように水が出る。

「なるほど、考えたものだな」

 ショウは深く感心していた。

「紙は貴重だからね。ナンタンみたいに製紙工場なんてないし。でも、知らないって意外だよ。訓練所のトイレって、精霊式じゃないから使ってるはずなんだけど――て、ショウは訓練所の宿舎には泊まってないか」

「うん。サバイバル教練しか受けてないからね。いきなり野外だった」

「え、そのときはどうしてたの?」

 シーナの顔が苦くなる。予測はついていたが、いちおう訊ねた。

「もちろん、草」

「だよね、そうなるよね……」

「川はあったけど、水源を拠点にするわけにはいかなかったしね。獣とか来たらどうしようもないし」

「参加しなくてよかったかも」

「うん。虫も食べたしな……」

 ショウはあの食感を思い出した。

「うわぁぁ、ヤメテェ~っ」

 シーナが耳を塞ぐ。

 ショウも好きで話したわけでもないので、渋い顔で頭を振った。

「とりあえずトイレ前でそんな話をしてんのもどうかなんで、散歩に行ってくる」

 誘うべきか悩んだが、トイレ前なのでスルーの方向で話を進めた。どうやら正解だったようで、彼女は「うん、またあとで」と手を振った。

 ショウも振り返し、適当な道を選んで歩き出した。

 冬を前に、命の活動は弱くなっているのか、草の香りはあまりしない。土も乾燥し、小さな風で砂が舞う。本道を外れたむこうに小高い丘が見えた。木々は多くなく、ポツポツと生えているだけであった。なんとなく、ショウはそこを目指した。

 村人にとっても散歩コースなのか、細い道がある。舗装されたものではなく、人の行き来が作った道だ。

 白けた空を眺めながら、のんびりと緩やかな坂を登っていく。鳥の声が聞こえ、さらに遠くへと羽ばたいていく。ナンタンの西の森でもよく聞いた鳴き声だった。名前は知らない。

 15分ほどで頂上へたどり着いた。その先に何があるのか期待したのだが、延々と草原が続いていた。

 北の彼方に家らしき物が見えた。村の地図を思い出し、あのあたりが村の終点だと気付いた。となれば、村の出入口の監視小屋であろうか。

「ショウ!」

 声をかけられ、振り返る。シーナが息を切らしていた。

「あれ、シーナも来たの?」

「うんっ。せっかくだからと追いかけたんだけど、追いつけなかった……」

「走ることないのに」

 ショウが笑う。シーナはムッとした。

「こうでもしないと、二人きりになれないじゃん!」

「ああ、そっか。ごめん、そうだよな。わざわざ機会を作ってくれたんだ。ありがとう」

 ショウはシーナを抱き締めた。それで彼女の機嫌はすぐに直った。

「しょうがない、許してあげるよ。もうちょっとこうしててくれたらね」

「喜んで」

 シーナの要求にショウは素直に従った。

 それからしばらく二人で過ごし、丘を下る。

 ショウとシーナが宿に戻ると、一階の酒場でルカとアカリが待っていた。二人とも起きたてで、アクビをしながらボーっとしている。

「おはよう。ゆっくり寝ててもいいのに」

 ショウは二人と同じテーブルに着いた。シーナはその正面だ。

「日ごろのクセよね。わかってても目が覚める。二度寝しようとしても頭だけは冴えちゃってダメ」

 アカリがダルそうに答えた。店の主人が運んできた水に口をつける。

「わかる。……マルは?」

「彼が理由もなくこんな早朝に起きると思うかい?」

 ルカの回答にショウは納得した。

「コーヘイさんたちとは9時に合流だから、それまでは自由時間だな。朝食にもまだ早いし、ルカ、暇なら剣の稽古につきあってくれないか?」

「いいよ。でも、シーナでなくていいの? いつも彼女に頼んでいたろ?」

「……シーナに負け続けるのが悔しい」

「子供か!」

 シーナが即座にツッコんだ。

「つまんないとこで男のプライドを発揮するわけね」

 アカリも呆れている。

「いいだろっ。……せめてみんなと対等になりたいんだよっ」

「そんなことを言ってるうちは無理じゃないかしらね」

 そう切り替えしつつも、アカリは嬉しそうだった。目標とされるのも、追いつこうとする気概も、嫌いではない。

「じゃ、わたしはアカリと手合わせでもしようかな」

「いいけど、その前に日課の100本射ちするわよ?」

「それじゃ、終わるまでは自主トレしてる」

 四人はそれぞれに目的を持って、装備をそろえて宿裏の空き地に集まった。

 ルカは長剣を持っていないので短剣を構えた。盾すらも装備していない。

「短剣でいいの? わたしの貸すけど。盾もあるよ?」

 シーナの申し出にルカは首を振った。

「ショウ相手ならこれで充分」

「うわ、舐められてるなぁ」

 さすがにショウも聞き流せない。

「短剣には短剣の優位性があるんだよ。ショウはいろんな武器を知ることからはじめないとね」

 ルカの発言を裏付けるように、ショウは短剣一本の彼にいいところもなしにやられた。ショウの攻撃は短剣で裁かれるか軽い回避で外され、ルカからの攻撃は素早くトリッキーでついていけない。特に足技がうざったいほど多彩で、一度ならず靴裏で剣の軌道を逸らされている。

「短剣ウンヌンじゃなくて、体術ですでに負けてるんだけど」

 息を切らせながらショウはボヤいた。

「重い武器を使えばそれだけ体力も使うし、動きも落ちる。無駄に動けばなおさらだよ。ショウは冷静なときは考えて動くけど、焦りだすとすごく雑で、直線的になるね。ショウの場合、当てようとか無理に考えないで、数うちゃ当たるくらいでいいんじゃないかな」

「それで当たるのか?」

「少なくとも、力任せに直線的な攻撃をするよりはいい。あと、剣は必要なときだけ握りこむように意識して。普段は軽くでかまわないから」

 ルカはそういって、自分の短剣の握りを見せた。そのまま腕を振ったら飛んでいきそうな掴み方だった。

「なるほど。こういうのを訓練所で教えてくれるのか……」

「うん。でもみんな、ある程度慣れてきちゃうと自己流に走るんだけどね。人によって向き不向きはあるわけだし、教えがすべてじゃないから」

「でも、基本は大事だよな。実戦から入ったからもういいとか思ってたけど、やっぱり教えてもらうのは大切だな」

「そう思うならボクが教えてあげるよ。まずは剣術と槍術。やる気があるなら魔法も」

「マジで!?」

「うん。別に口伝で魔法を教えちゃいけないとは言われてないし。ただ、『体内登録(スキル化)』の方法まではわからないから、ボクと同じやり方でしか使えないけど」

「それでもいいよ。ぜひ頼む」

「わかった。でも、まずは剣だよ? リーダーなんだから、即戦力になってもらわないとね」

「もちろんだ!」

 ショウはやる気になって剣を構えた。

「シーナ、講師役とられちゃったんじゃない?」

 アカリが薪束を的に弓の練習をしながら言った。かたわらの少女は腕立てを中断し、口を尖らせている。

「悔しいけど、教えるのはルカのがうまそうだからしょーがないよ。それにショウってばわたしより弱いのに本気で戦わないし」

「女だから手加減されてる?」

「うん。いい形で攻めていても、最後の踏み込みがいっつも浅いの。無意識なんだろうけど、あれじゃ練習にならないよ。だからショウが強くなるためには、わたしよりルカ相手のほうがいい」

「あいつの性格じゃ、それも仕方ないか」

 アカリは歩きながら二連射し、ほぼ同じ場所に命中させた。

「アカリ、やっぱりうまいね。わたし、訓練所で弓も試してみたけど全然ダメだったよ」

「そうなの? 単に練習量の問題じゃない?」

「いやぁ、昔から射撃系ゲームも苦手だったし、向かないんだと思う」

「あたしも得意じゃなかったけど、アーケードでよく友達と遊んではいたかな。ゾンビたおすヤツとか」

「友達の有無かぁ……」

 シーナが天を仰ぐ。

 「いや、それは関係ないし」アカリがツッコむ。

「でも、射撃苦手で大丈夫なの? 攻撃魔法を覚えてきたんでしょ? 誤爆とかやめてよね」

「だから追尾付きにしたよ。【光弾ライバ】」

 シーナの右人差し指から光が飛び出し、アカリが的にしていた薪束を貫いた。彼女の指は的よりも上を向いていたが、目標に向けて弧を描いて刺さっていた。

「おー」

 アカリが感心する。やはり魔法はいいなと思う。羨まし過ぎる。

「今の音なに?」

 ショウとルカが薪束の破裂音に気付いて女性陣に目を向ける。

 「これ」とシーナが再び【光弾】を放ち、砕けた薪をさらに割った。

「覚えてきた攻撃魔法ってそれか」

「うん。マルの使う【火炎弾】よりも貫通力があるけど、炎焼なんかの付加能力はないの。それに、追尾能力のおかげでマナ消費も上がるし、わたしは【治癒】もやんなきゃだから、完全非常用だね」

「持ってるだけでもいいんじゃないか。いざってときの頼みの綱になるし」

「だよね。だから覚えてよかったとは思ってるよ。修得代は高かったけどね……」

 シーナは懐具合を思い出して、ため息をついた。

「10金貨リスルじゃないの?」

 アカリが値段を訊いた。

「30……」

「さんじゅう!? 150万円!?」

 驚くアカリに、シーナはガックリするようにうなずいた。

「初級では回復系に次いで高いヤツ。その分、熟練すると発射弾数が増えたり、追尾能力も上がる、単体攻撃魔法では最高級のなんだ。だからか、管理局専属召喚労働者セルベントの無償スキルのリストには載ってない。お金を出さないと覚えられないの」

「それと同じ魔法をピィさんも使ってたけど、四本くらい飛ばしてたな」

 ショウはその様子を思い出した。ゴブリン相手に、まさに無双状態であった。

「そこまで熟練するのにどんだけ鍛えればいいんだか」

 攻撃重視の魔術師なら自然と鍛えられていくだろうが、シーナはパーティーの都合上、回復がメインである。無駄弾を撃つ余裕はない。

「魔法はぜんぜんわかんないんだけど、例えば【治癒】って、一日どれくらい使えるものなんだ?」

 ショウはルカにいったん休憩を持ちかけ、シーナたちのそばに寄った。

「個人の魔力量マナと魔法の消費魔力で決まるから人それぞれだよ。わたし、マナが多くないんだよね。魔法は向かないって訓練所の検査で言われたくらい。だから連続で10回が限度かな。もちろん、怪我の大きさにもよるよ? 怪我が大きければ、そのぶん照射時間も長くなるから回数も減る」

「マナっていわゆるMP(マジック・ポイント)?」

 ショウのゲーム的質問にシーナはうなずく。

「マナはリラックスしてれば一時間に最大値の一割前後回復するの。だから、10時間休めば理論的には全回復する。気分とか状況にもよるから、あくまで目安だけど」

「それを考えると、ツァーレさんてすごかったんだな。管理局で訓練中の怪我人を治すのに魔法を使いまくって、何十人と治療してたもんな」

「最後には自分が倒れたけどね」

 アカリが気の毒な見習い神官に同情した。

「ツァーレさんはマナが多いだけじゃなくて、精霊属性が地……つまり、回復系の魔法に向いた性質だからね。少ない消費で大きな効果を出せたんだよ。わたしは真逆で属性は回復魔法に向かないし、マナも少ない。だから消費が多いわりに効果も普通以下で、回数も少ないという三重苦」

「そうなのか。それでも回復を優先でとってくれたんだから、シーナには感謝しないとな」

「えへへ~……」

 シーナは嬉しそうに照れる。

「そうだ。一時間で一割回復するなら、一時間ごとに空撃ちして経験値稼ぎでもしたらどう?」

「経験値稼ぎっていうのがもう、ゲーム脳だよね」

 ショウのアイデアに苦笑するシーナ。

「悪くないだろ?」

「まぁ、余裕があるときはやってみるよ」

 シーナはそう答えるに留まった。ソーシャルゲームの時間回復ポイントを消費するようなやり方が実になるのかどうか、彼女としては半信半疑だった。

「さて、雑談終わり。アカリ、やれる?」

「いいわよ」

 アカリは矢を回収していく。ここからは対人訓練だった。

「ショウ、こっちも続けようか」

「ああ、頼む」

 ショウとルカも距離をとり、たがいの得物を構えた。

 四人が大汗をかいて酒場へ戻ると、マルが一足先に朝食をとっていた。朝から焼けた鉄板に厚切りのハムを置いて、香ばしい匂いを漂わせている。

「よぉ、チャンバラは終わりか?」

「おまえはなんで一人でメシ食ってんだよ」

「待つ必要ないだろ? 寂しがりかよ」

 ショウの文句をマルは取り合わない。

「あんたも少しは戦闘訓練したらどうなの? 魔力きれたら役立たずなんだから」

 アカリはこれでも忠告しているつもりだった。が、マルはいつもの皮肉としか感じない。

「よけーなお世話だっ。おまえこそ、魔法の一つも覚えてみろってんだ」

「このォ――!」

「そこまで。まずメシにしよう」

 アカリが噴火しかけるのを、ショウがあいだに入って止める。

 二人の席を対角にして、ショウたちも食事を頼む。内容はマルと同じだが、ハムはサラダといっしょに陶器皿に載っていて、温かくもない。

「サルは別注文したわけ?」

 アカリが文句をこぼす。旅の始まりから贅沢をする余裕は彼女にはない。

「あ? ちげーよ。これがオレの旅の秘策ってヤツだ」

「秘策? ……ああ、旅にどうしても必要って言ってたヤツか」

「おうっ。あの山狩りのとき、ハリガネ野郎が朝から焼きたて料理を食ってやがってよ、メッチャ羨ましかったんだよ」

 ハリガネ野郎とは、ハリー・ガネシムのことであろう。ショウはその顔を思い出したが、懐かしさも怒りも湧いてこなかった。しかし、あのときの食事の差は忘れていない。魔法のホットプレートは真に偉大だと思った。

「わかる。あの匂いは反則だった……」

「で、オレ様は考えたのさ。代用品があるってな」

「おまえ、あのプレートを買ったのか!?」

「ねーよ。代用だってつってんだろ。この鉄板皿だよ」

 マルが指差したのは、いわゆるステーキ皿である。厚手の木の板に、鉄の皿がくっついている。

「それ、ただの皿だよな? わざわざ温めたのか」

 「フン」マルは鼻で笑う。皿の上の食材を別の皿に移し、一言唱えた。

「【高熱付与ヒート・ミート】」

 すばやく皿の表面を一撫でする。すると触れていた部分が淡く輝き、残っていた脂や水分を蒸発させた。

「「おお」」

 一同が素直に感動する。

「やっぱメシはよー、どこで食うにしても温かくねーとな。どーよ、必需魔法だろ?」

「使い方も名前も間違ってる気がするが、たしかにこれはいい!」

 ショウが試しに自分のハムを置いてみた。すぐに香ばしく焼ける。

「おい、勝手に使うんじゃねーよ。一回10銅貨アクルだ」

「金とるのかよ!」

「たりめーだろ? こっちは貴重な金と魔力を費やしてんだぞ。還元してもらわねーとな」

 マルは当然といった顔をするが、一同はシラけた。

「……そうか、わかった。これからは、マルにだけはぜんぶ金銭でやり取りする。それでいいんだな?」

「おう! ……おう?」

 調子に乗って返事はしたが、ショウの声のトーンに気付き、周囲を眺めた。一様に冷ややかだった。

「マルの治療費は一回1銀貨シグル。【水生成】は3銅貨アクル

「アシストは銀貨5枚。ただし、あたしには一切しなくていいからね」

「知識提供は時価でいいかな」

「――ってことになっちゃうけど、いいんだよな?」

 ショウがニコやかに確認をしてきた

「調子に乗ってスンマセン」

 マルが縮こまると、四人は笑って許した。

「けど、負担が大きいときはそれなりの代価は払う。仲間で運命共同体といっても、個人は個人だからな。折り合いをつけてやっていこうぜ」

 などと言いつつ、熱い鉄板の上ではハムが次々に焼かれていくのだった。

 食後のお茶を飲んでいると、シーナが「う~ん」と唸った。

 ショウが理由を訊ねると、彼女は自分の姿を見回しながら答える。

「汗かいたから、お風呂入りたい……。きのうの夜も入れなかったし。できれば洗濯もしたい」

「まだ集合まで時間はあるけど、風呂なんてあるのかな?」

 ショウは宿の主人に確認したが、宿にはもちろん、村にも風呂屋がないのがわかった。必要なら別途料金でタライにお湯を用意するとのことだった。村人も基本は熱いタオルで体を拭くか、桶に満たしたお湯を一度かぶる程度だ。夏場であれば、川で涼みがてらに体を洗うこともある。

「セルベント時代にボクらの派遣されていた村にもお風呂はなかったね。カッセさんが女性陣のために、管理所の裏に樽風呂たるぶろを作ったくらいだよ」

「カッセさん、器用なんだな」

 ショウはそこに感心した。

「つっても、ただデカイ樽を置いて、周囲を壁板で囲んだだけだぜ? 水を地道に汲んできて、焼いた石を投げ入れてよ。その仕事はなぜかオレたちだったな」

 マルは憮然とした。

「そんなんでもあるだけいいよ。大きな町につくまでお風呂抜きはイヤだなぁ。川遊びするにも寒すぎるし……」

 シーナがボヤいた。

「それじゃ、お湯を――」

 「頼もうか」と言いかけ、ショウは閃いた。理屈はいっしょではないか、と。

「みんな、早いけど管理所へ行こう。裏手にポンプ井戸があったはず」

「結局、水浴び? さすがに寒いよ」

「いや、マルがいるから大丈夫。今回はきっちり料金を払ってもいい」

 全員の目がマルに向く。黒髪少年はビビった。

「な、なんだよ?」

「さっきの魔法でお湯を沸かそう。そのほうが早くて大量に作れそうだ。タライと桶とカーテンは借りていこう」

「おおーっ」

 そのアイデアは全員の賛同を得た。

 時間よりも早く異世界人管理所に現れたショウのグループは、異様な風体であった。ショウがタライを、ルカが桶を、マルがカーテンを担いでいる。

「……おはよう。何を始める気だい?」

 いぶかしむコーヘイたちに事情を説明する。彼らは意外な申し出に驚きつつ、早速、簡易風呂を設営した。

 適当な板や小樽もいくつか用意され、一人用の浴室が完成する。その樽の一つひとつに、マルが【高熱付与】した鉄の棒が刺さっており、水を高速でお湯に変換していた。水が容量の80%を越えるとぬるく感じる。

「一人あたり樽3杯で済ませろよ? 汲むのはオレたちなんだからなっ」

 マルが入浴料・・・を受け取りつつ、釘を刺した。

「おっけーおっけー。マル、ありがとねー」

 一番手のシーナがカーテンに消える。これもまた簡易的な囲いなので、隙間がなくもない。が、アカリが目を光らせているので男どもは近寄れない。例外的に、ショウだけは水補充の桶運びを任されていた。

 風呂といっても、しょせんはタライである。お湯をかぶって体を拭く程度しかできない。それでも、ただお湯で濡らしたタオルで体を拭うよりはよっぽどマシであった。なんといっても髪が流せる。外なので寒いは寒いが、樽の水量を調節することでお湯の温度も変更できるので、けっこう体は温まった。

「今度さー、デッカイ浴槽を作って、ちゃんとしたお風呂に入りたいねー」

 などと、外のアカリに気楽に言う。

「あのサルに借りを作るのはシャクだけど、それは叶えたいところよね」

 アカリも想像して、さぞかし気持ちいいだろうと思った。

 シーナが出ると、お湯の補充班がバケツ・リレーで樽に汲み足す。

 そしてアカリが入り、希望により、サトも湯浴みをした。他の男たちは湯をかぶりはしなかったが、熱いタオルで体を拭いて汗を流した。

 その後、風呂は解体され、タライは風呂桶から洗濯桶に変わる。洗浄だけではなく、乾燥まで【高熱付与】を利用したアイロンで行われ、マルはすでに魔力切れをおこしている。

「これで賊が出たらシャレになんねーぞ!?」

 マルは酷使された恨みをぶつけるように叫んだ。

「だから戦闘技術を磨けって言ってんじゃない。こんなんで魔力切れするんじゃ、最後は足手まといよ、あんた」

 アカリはホカホカになりながら、勝手なことを容赦なく言い放つ。

 が、マルも思うところがあるようで、「わかったよ」とふてくされた。

「あんたも弓、覚える? 大きな力がなくても敵をたおせるわよ。もしやる気があるなら教えてあげるわ」

「……考えとく」

 アカリの誘いをマルは拒否しなかった。実際、体の小さめの彼は、素早さを磨くか道具に頼るしかない。

「さて、そろそろ仕事にかかろう」

 コーヘイが集まった8名に切り出した。

 一同はうなずき、緊張を高めた。

「オレたちはいつもどおり、この村での巡回などをこなす。ショウくんたちが帰るまでは目立った行動は控える。ショウくんたちは各村の監視をよろしく。よほどの大事が起きないかぎり、村人との接触は避けるようにね」

「はい。では、行ってきます」

 ショウとシーナ、アカリの班は北へ向けて、ルカとマル組は南へと進路をとった。

「うまくいくといいがね」

 異世界人管理所・職員のゴダーが彼らを見送りつつ、コーヘイに言った。不安に満ちた表情だった。

「待つだけですよ、オレたちにできるのは」

 コーヘイはそう答えるしかなかった。

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