第3話 不穏な空気
「結婚式か……」
ルフトでも、ラルフで王子エドワードとタニア国王女のルナルデッタの結婚式の話は広まっていた。
「王! この状況はチャンスでしょう! ドルツ国もトリア国との関係強化に忙しいそうです。この機に乗じて」
「まぁ待て。事を焦るんじゃない」
国全体が、ラルフの状況が緩んでいるところに漬け込む作戦をレンスに提案する空気になっていたが、レンスは冷静だった。特に大きな動きを見せようとしない。
「なぜです! 今の状況はチャンスでは?」
「逆だ。これは通常の婚姻ではない。2つの国での間での婚姻だ。そこで何か起これば、それこそ責任問題になる。その状況で、警戒を怠っていないはずがない。むしろいつもより警備が厳重になっている可能性も高い」
「……それはそうですが……。しかし、暗殺者などを送り込むくらいはしてよいのでは?」
「問題はほかにもある。国同士の婚姻にこちらから仕掛けるようなことは、明らかに悪の行為だ。現状ラルフとルフトの問題についてほかの国が手出しをすることは、いざこざに絡みたくないのか基本的にはない。
わざわざ大義名分を与える必要もあるまい」
「ですが、最近、ドルツ、ラルフ、タニア、トリアで協定を結んでいるのは王も存じているでしょう。これでは我が国が周りから排除されるのも時間の問題……」
ガン!
「落ち着けと言っている」
レンスは自分の座っている椅子をたたいて、威嚇する。ざわついていた周りの空気が変わった。
「そのようなことはわかっている。しかし、もともとルフトは周りから独立した国も同然。周りの状況が変わっただけで、この国自体は何も変わっていない。大丈夫だ。策はある。私がわざわざトリアにまで顔を出した意味はちゃんとあるのだ」
「はっ」
部下の誰にもレンスの考えはわからなかった。なぜ、トリアにレンスが顔を出したから今の状況が好転するのか、どういう理屈につながるのか。今責めないことの理由になるのか。
しかし、ルフトの国民はレンスを無条件に信じていた。ある意味ではどの国の王よりもカリスマ性を持っているのである。
「この作戦の成功すれば、間違いなくラルフの広大な土地をルフトのものにできる。……、気がかりがあるとすれば、あの召喚者……、もしこれすらも読んでいるとするならば……、いや、それならばそこまでか」
1人になって、笑みを浮かべながら言葉をつぶやくレンス。何やら不穏な空気が流れていた。
「二一様、お呼びだてして申し訳ございません」
「別にいいんだが、俺と2人であってるのはいいのか?」
エドワードとルナルデッタの結婚式を前日に控えた日の夜。二一はルナルデッタに呼び出されて2人で会っていた。
朴念仁の二一でも、さすがに結婚式の前の日に、2人きりで女性と話すのは問題があると思っていた。
「かまいませんよ。エドワード様もあなたのことはご存知ですから」
「それで何だ?」
「いえ、タニアのため……、いえ、この世界のために力を貸していただきありがとうございます」
ルナルデッタは、手をドレスの前で組んで深いお辞儀を二一にした。
「いや、別に俺は元の世界に帰るためにやってるだけだ。あんたのために動いたのは、タニアの問題だけだ」
「いえ、タニアの亜人問題を解決していただいたことはもちろんですが、ドルツとの連合を結んでいただいたり、トリアの内乱を解決していただいて、トリアでのロッテちゃん達の立場を上げていただいたり、この世界のために、本当に貢献してくださっています。改めて感謝の念をお伝えしたくて。結婚してからでは、このように会うことは難しいでしょうから」
「エドワードさんと結婚してからの方向性は決まってるのか」
「はい、エドワード様のお考えどおり、ルフトとの話し合いの機会を設けまして、ルフトを統合し、ラルフトの復活を考えております」
「ほぉ、そんな話に、あのレンスとか言う奴が乗るかね?」
「結婚の話が最近本格化してから、エドワード様と話す機会が多くなりまして、私もようやくルフトの内情を知ることができました。エドワード様曰く、いろいろな条件をすり合わせることができれば統合がそこまで難しくないとのことです。今回の結婚式についても、参加はできませんが、レンス殿から、少なくとも結婚式当日については何もしないとの書状をエドワード様が受け取っております」
「ふーん、なら少なくとも当日は大丈夫か」
二一が確認した書状には確かにレンスとエドワードのサインがある。いわゆる条約に近いものなので、これの違反をすることはないだろう。
「しかし、レンスがこれを守っても、国民は納得してるのか」
「いえ、最近話を聞きましたが、レンス殿は確かに激しく攻め込んだりはしていますが、彼の圧倒的なカリスマは、国民をまとめてはいるそうです。レンス殿が現れるまでは、もっと国境境の戦争も多かったらしいので」
「なるほどな。とりあえずじゃあ結婚式の日に関しては心配ないと信じていいのか」
「はい、ですから、二一様もお気楽に見ていてくださいませ」




