第11話 理解度
「皆! 無事で……、うう、よかった」
「里香ちゃん!」
「軟田先輩!」
里香は全員の無事を安心して泣きそうになっているし、逆もそう、特に裕子は声にならない声で顔をくしゃくしゃにしている。
「ああ……、若松先輩」
「プリンス、お疲れだったな。見た感じあんたのおかげだろ。全員無事なのは、つーかあんたが一番無事じゃないな。とりあえず休んどけ」
バタッ。
それを言われた途端に和美は倒れた。
肉体的にも精神的にもぼろぼろだったのだ。
「おい、こいつを見てやってくれ」
「了解っ。誰か一緒に運んでっ」
すぐに歩が反応し、歩の呼びかけて順二や卓也が協力して和美を洞窟内に運ぶ。
「あ、でもラフキヤが……」
「大丈夫ですよです。皆中にいたのは倒しましたです」
「あ、ああ」
うかつにスケルトンラフキヤがいるところに和美を運んでもいいかと順二は躊躇したが、猫耳をつけたですですいっている女の子がそう言ったので、困惑しながらも納得の返事をした。ここで嘘をつく意味もないので。
ついでに言うと、猫耳のクレアロッテに男子も女子も目を奪われていた。
ドルツではまだ亜人への差別があるので、成人していない亜人はほぼ見ることができない。
つまり彼らにとって、亜人は見慣れたものではなく、しかもそれがとても可愛い女の子となれば、見てしまうのも仕方ない。
男子どころか、可愛いものをめでたい女子まで見蕩れていた。
「回復っ」
そんな中、歩が回復を使って、和美を治療し、そのまま全員を回復する。
「おおっ、歩さすがか」
順二が驚いていた。
裕子の回復異常に、彼女の回復は異常なほど効果的だった。
「歩さん、ラフキヤが入ってきてますです」
しかし、その弛緩した空気はクレアロッテの声で引きしまる。
「よし、じゃあ俺達も「シャイン!」
回復したメンバーが意気揚々と戦闘しようとしたが、歩がそれよりも早く杖を振る。
「威力がすごいわね……これで回復力も私以上なんて……」
「しかも綺麗……」
歩と仲のいいしのぶと幸絵が感嘆の声をあげる。
「なんですかあなた達は……」
見えていなくても、気配で分かる。大量にいたラフキヤが一気に消滅したこと。そして、自分の出せる技の中でも格上の技を受けられたこと。それにジンエンは驚くしかなかった。
「プリンスが言ってただろ。デッカーが身を挺して呼んで来た援軍ってのが俺達さ」
「……? そうですか」
あだ名がよく分からないので一瞬ジンエンは戸惑ったが、すぐに気を引き締める。目の前にいる相手は力量の知れない相手。髪の色を見る限りでは、同じ召還者。となれば、極端に実力が上とはいかないだろう。おそらく、里香と同じような火に耐性があるのだろうと彼は考えた。
「クサブエさん!」
「まかせてー」
ニ一の動きを鈍くするため、クサブエにいろいろなラフキヤを召還させる。
「わ、若松君!」
元の世界ではニ一のことを嫌っていたメンバーもさすがに死んでいいとは思っていない、仮にも自分達のためにここに来たニ一を心配して声をかけた。
「……フフフ、これで、……?」
しかし毒、麻痺、やけど、いろいろな特性のある無数のラフキヤの攻撃を受けているのに、ニ一は顔色が変わる様子がない。
「こういうタイプの攻撃は俺には聞かないというか、むしろ攻撃力をあげるんだよな」
体をふるってラフキヤを振り払って、マシンガンで残らず処理してしまう。
あまりに連続で発射されるので、一撃で倒れないことの意味が無く、全て消滅してしまう。
「なんなんですか……、同じ召還者でしょう……」
「確かに同じだが、召還される前の徳が違う。後面倒くさいから、そろそろさ。ちょうど新技ができてんだ」
するとニ一は拳銃をしまって長い剣を出した。ドルツの国宝、ドゥンケルハイトである。
「さっきあんたの攻撃を受けたのはこの剣だよ。この剣に氷を付属して完全に受けた」
「いや、それはおかしいです。その剣は闇の剣のはず。なぜ氷属性が?」
「それは俺の特性の問題だ。あと正確には氷の剣じゃない、闇と氷の混合だ」
ニ一はあまりドゥンケルハイトを使わなかったので、最近まで気づかなかったのだが、彼の魔法戦士の特性でも、もともと国宝であるこの剣から闇を引き剥がすことはできなかった。
なので、本来3×3で9種類の攻撃ができるはずの特性が、闇+剣が固定されて5種類になってしまうということになるはずだった。
ところが、そこで二一が剥がせないならくっつけたらどうなんだ? という考えを持ち、闇の剣に氷と電気を無理にくっつけたのである。
すると、なんと闇氷+剣、闇雷+剣という新たな属性が誕生してしまった。
それでも種類は7種類と落ちるがこの2つがなかなかのチートとなった。
さきほどジンエンの攻撃を受けたのはこの闇氷の剣である。
闇属性のついた氷は永久凍土属性となり、溶けない氷になったのである。
超高温の炎も溶けない氷を溶かせなかったのである。水蒸気は剣の氷が溶けたのではなく、なんと炎そのものが氷漬けになり、その後に後ろから追撃で飛んできた炎でその凍った炎を溶かして起こった水蒸気である。
「……これは……、無理ですね。潔くあきらめますよ。私を倒して、結界を壊せばすぐにでも出られます」
するとジンエンは予想以上に早く降伏した。
「? どうした。まだできるだろう?」
「私もおろかではありません。私にできるのはクサブエを逃がす時間をつくることですから。ギリギリまで粘らせてはもらいますよ」
否、降伏とは少し違う。時間稼ぎを自ら申し出たのである。
「あんたらは四天王の座を争うライバルじゃないのか」
「それもありますが、結局はいかに魔王様のためになるかですから。彼は戦闘力は低いですが、生産者として非常に便利ですので、ここで失うのは魔王様に痛手でしょうから」
どこまでも魔王の部下であった。
「そう言う考え方は嫌いじゃないが、時間稼ぎでもできんのか? 俺はまだ全然本気じゃないぞ」
「いえいえ、私もまだまだです。命をかけます」
ボワァァァァ!
「おおう、なんだそれは」
「命懸です。一時的に能力を底上げします。その永久凍土を溶かしてみたいと思いましてね」
「あんたは魔物にしてはロマンがありすぎだろう。まぁいいか」
ニ一は筋の通った存在は嫌いではない。正々堂々正面で戦ってくる相手はたとえ魔物でも嫌いではない。
「まぁ軽く受けてやるよ」
「食らってください! 私の最強の技です!」
両手を重ねて集中して炎を放つ。
ニ一の身長よりもずっと大きな火柱が迫る。
カキン。
「はい、おつかれさん」
しかしその攻撃は一瞬で霧散して、全く氷を傷つけることはなかった。
「……ふっ」
そしてなぜか満足そうな顔を浮かべて倒れた。攻撃の反動が来たようだ。
まさに正々堂々とした男の戦いに、見学していたメンバーも謎の感動状態だった。
「見事でした……」
「あ、そういえば言い忘れてたが、こいつ俺の特性とか闇属性と絡んで、相性が逆転してんだ。だから火には圧倒的に強くなってるからな」
『闇氷属性』
ある特定の条件を満たして闇属性に氷属性がついたもの。
ちなみに属性を2つくっつけることができるのは、光と闇だけである。
どちらもその付属した属性の効果を増大させるが、光は相性激化、闇は相性逆転の効果がある。
「な……、では」
「そういうことだ。じゃあ悪いが時間もないので」
既に動くことのできないジンエンをドゥンケルハイト(闇氷)で攻撃する。
相性がひっくり返っている上に、闇属性の破壊力、しかも消耗しているジンエンに回避も防御も全くなすすべがなく、攻撃を受けた。
ジンエンは凍りつき、その次の瞬間氷に亀裂が入ってバラバラになった。誰がどう見ても絶命状態である。
「お疲れっ、二一ちゃんっ」
「こっちも大丈夫です。ラフキヤは一掃したです」
ニ一が剣を終うと、すぐに歩とクレアロッテが側に行ってニ一に話しかける。
「ほんとに良かった……、若松くん、ありがと……」
メンバーの側を離れないが、里香もニ一に感謝する。
「ん? 何だその目は?」
ところが倒れている和美は仕方ないにしても、他のメンバーは困惑した目をニ一に向けるだけである。
「え、えーとね若松君、助けてもらったことはすごく感謝してるんだけど……、いろいろ聞きたいことが多すぎて何から聞けばいいのか……。どこで何をしてたとか、何でそんなに強いとか、一緒にいる亜人の子は誰とか、最後のやり方はどうなのかとか……、全然整理が……ね?」
その中でも比較的(悪い意味で)ニ一と親交のあったしのぶが話しかける。だが、イマイチ要領を得ない。というより容量がキャパシティーを越えてしまっているのだ。
「……結界が壊れないな。ああそうか、クサブエも一緒にいたのか」
「若松君、それよりも近藤君が……」
「プリンスか? 怪我やばいのか?」
「ごめんなさいニ一ちゃん、やけどがかなり重症で……、高熱まで出してるから今の私の魔法と薬だけじゃ厳しいよ……」
和美は傷はいえているが、背中の大きな火傷は残っており、息も絶え絶えで苦しそうになっている。
歩の語尾が跳ねていないこともその深刻性が伺えた。
「……これはちゃんとした医者がいるか。プチ狐……おい!」
「ふわ~、あ、ご主人様、終わりましたでございます?」
あくびをしながらジャンマリアが目を覚ます。
「気抜きすぎだ」
「え、この状況でその子寝てたの?」
どこからともなく突っ込みが入る。リラックスというレベルではない。
「今結界があるみたいだが、瞬間移動できるか? 1人重症なやつがいる」
「これくらいなら余裕でございます。私を頼っていただけて光栄でございます。どなたでございましょうか?」
「そこの倒れてるやつだ。瞬間移動してタニアに行ってくれ。確かタニアにいい医者がいたはずだ。ピッキーがそう言ってた。俺達もすぐにタニアに向かうから、先に頼むぞ」
「了解でございます。ではまた」
ジャンマリアが和美に触れると、すぐに姿を消した。
「え? 何あの子。瞬間移動とかできるの?」
更に混乱する用件が増えて、みんなもう首を傾げるばかりだ。
「さてと、後はクサブエか?」
「ニ一ちゃん、今は皆を塔から出してあげたほうがいいんじゃないかなっ?」
ニ一は残るクサブエも倒すことを考えたが、歩は既に疲労困憊のメンバーの心配をした。
「二一さんの剣なら結界くらい壊せますよねです?」
クレアロッテもさすがにメンバーを心配していた。歩の魔法で怪我は回復していても、精神的な疲労は見て伺えた。
「いや、俺もそうしてもいいと思うんだが、クサブエってめちゃくちゃやっかいじゃないか。魔物をいくらでも出せるわけだし。だが、あいつ単独では戦闘ができないはずだから、ジンエンが倒れた時点で逃げるはずだ。それで、あいつが逃げたら通常結界はなくなるはずだろ。だが、結界はある。これをどう思う?」
ニ一の疑問はそこだった。クサブエは1回戦ったが、とにかく逃げ足が速かった。
そのクサブエがまだ残る可能性をいくつか考えてしまったのである。
「1つは、純粋にクサブエがいなくても発動し続ける結界の可能性。1つはクサブエ自身がこの結界の会場に時間がかかっている。1つは、クサブエを倒さないと壊れない結界。1つはジンエンの敵をクサブエがとりたい。この4つなら別にいい。だが、この結界を壊すことで、何かしらトラップが発動する可能性がある、という可能性がないか?」
ニ一が考えたのは最悪の可能性である。ニ一とてメンバーを無事に助けることの方が、クサブエを倒すことより優先順位が上であることは分かっている。だが、クサブエを倒さないことによって、メンバーが無事出ない可能性も残っているのだ。
「……なるほどです……」
「だから俺はちょっと塔の奥に行ってみる。歩くくらいなら全員できるだろ。ついて来てくれ。ここにいてもいいが、何があるか分からんからな。ここまで来て下手を打つとめんどうくさい」
そのニ一の言葉に全員が後ろをついていった。
入り組んだ道もクレアロッテの異常聴覚があればゴールまで行くのは難しくない。
そして、広い道にあっさり出た。
「わぁ、見つかっちゃった」
そして最上階にやはりクサブエはいた。
「えーまた君なのー。僕運悪いなー。最悪結界が壊されたら、塔ごと爆発して皆を落下死させようと思ってたのにー」
どうやらニ一の勘は当たっていたようである。
「さて、今日こそはあんたに死んでもらおうか?」
「ご勘弁~。あとちょっとでその結界が完成すれば、僕が壊しちゃっても良かったけどー。塔の迷路上がってくるのも早すぎるよ~。と、言うわけで逃げるー」
ドン!
言うがすぐにクサブエは魔方陣のようなものの中に逃げ込んでしまった。
するとその魔方陣は消えてしまった。
「あ、結界がなくなったよっ」
すると同時に結界のようなものも消えてしまった。
最後に残ったのは破壊することによって塔クリアになるコアだけだった。
「さてと、誰でもいいから破壊しとけ。これだけでも経験になるみたいだぞ」
「……」
とはいってもみんな行きづらい。
事実上やっかいな敵を倒したのは二一のグループだし、こっちからMVPを選ぶとしてもそれは間違いなく和美であるからだ。
「誰もやんねーのか? じゃあデッカー。壊せ」
「……ええ?」
「一応俺達に危機を知らせにきたのはあんただろ。さっさとやってくれ」
里香は振り向いて、『イイのかな?』という顔をするが、特に文句はないようだ。
「じゃあ、えい!」
細い水柱がコアに直撃し、コアが破壊される。
ゴゴゴゴゴゴ!
「わぁ!?」
「きゃあ!?」
塔は攻略されたことにより、沈んでいき、地面にまで彼らを運んだ。
「「「「「「「「「「「生き残れたー!」」」」」」」」」」」」」」
そして塔に残った11人は歓声をあがた。
「さて、ガーツさんに来てもらうか。お前ら、船が来るからちょっと待っててくれ」
無事に彼らはガーツの船に乗り、シュヴァルツヴァルトブロートに行くことができたのである。
船の中ではほぼ全員死んだかのように眠りについたのであった。




