第5話 お人好しと手助け
「あー、ようやく片付いたか」
2人で治療を捌いた事で、ようやく列の残りも少なくなり終わりが見えてきた。
「ふぅっ」
「疲れましたです」
やること自体は楽でもこれだけの人数を治療することは無かったのか、2人とも座り込んでいた。
「お疲れ様だ。今日は普通に褒める」
「じゃあ頭撫で撫でしてよっ」
「じゃあの意味が分からん」
「あのー、私もお願いして良いですかです?」
「お前ら2人ともそんなんで良いのか?」
「二一ちゃんは自分の撫でスキルをもっと自覚するべきだよっ」
「そうですよです」
「何で俺が責められてんだよ。分かった分かった」
そして二一は2人を撫で撫でした。
「「はにゃー」」
そして2人は二一の撫で撫でにより更にぐったりした。
「さてと、じゃあ現場の片付けでも手伝いに行くか」
「あのー、ちょっとよろしいですか?」
二一が町の方に繰り出そうとすると一人の女性が声をかけてきた。
「ん? どうした?」
「この子のお父さんが雷に打たれて重症みたいなんです。それで動けないみたいなので、申し訳無いですが来ていただけませんか?」
その女性は小さな男の子を手を引いて連れていた。
「マジか。重症ならもっと早く声をかけてくれりゃ良かったのに」
「この子がずっと泣いててなかなか事情を聞けなかったんです」
「あんたはその子供の姉とかじゃないのか?」
「いいえ、名前も知りませんし、今会ったばかりです」
「あんたは家は大丈夫なのか」
「いいえ、水没はしてませんが、落ち着いてないです」
「……あんたは随分人がいいな」
災害処理に追われている現状では、なかなか皆自分たち以外に気を配れていない。住んでいる人も貧乏な人間が多く、手を貸す余裕は無い。
一応協力していても、それは家が近くて片付けを協力したり、子供の面倒を見ているあくまでもギブアンドテイクの協力であった。
二一はそれに思うところは無かった。
二一にとっては誰かに思いやりを無償で貸すということは、少なくとも自分に余裕が無ければならないからだ。
例えば、電車で席を譲ることについて議論になったとき、二一は「その人が体調が悪くても譲らないことは間違いなのか」という意見を言って皆を困惑させたことがある。
もちろんこれについて、体調が悪ければ譲らないと言う答えが一般的に帰ってくる。
すると二一はどの程度悪ければ譲らなくても良いのか? 周りはそれを理解してくれるのか? 席を譲りたい人が立っていた場合、席を譲らせなければならないのか? そもそも本当に席を譲ることを優しさとするなら体調に関係なく譲らなければ偽善者ではないのか? など、正論と言えば正論だが、何とも答えづらい質問を連発し、教師を困らせていた。
二一にとっては、自分の都合の良い時に困っている人を助けるのはそもそも当たり前で、自分の不利益になっても対価すら求めず助けるのが優しさだと考え、前者を優しさだと思い対価を求めているのは、偽善者だという偏屈な意見を持っていた。
二一が昨年里香を助けたのも、自分の遅刻という不利益を被っても助けた彼女に本物を感じたからである。
だから、自分も大変なのに、知らない子供を気遣った彼女に感心をしていた。
「いえ、ほっとけなくて」
「分かった。案内してくれ。2人とも、立てるか?」
「だ、大丈夫だよっ」
「はい、すぐに準備しますです」
とろんとしていた2人に声をかけ、二一達は女性に案内されて目的地に向かった。
「こちらです」
女性に案内されて目的地につく。
「ここはこの子の家か?」
「いえ、私の家です。この子とお父さんはシュバルツヴァルトブロートの人じゃないので。仕事でこちらに来られてたそうです」
「ますますお人よしだな。まぁいいか。俺は回復はできんから任せるぞ」
「分かったよっ。どこに行けばいいかなっ?」
「あっちの部屋です」
「耳折れも一応ついてっとけ。2人ともさっきので疲れてるだろうしな」
2人の疲れを気にしつつも、回復能力を自分が持っていない以上は、さすがの二一も任せるしかなかった。
「了解です」
そして歩達は二一から離れて部屋に入っていった。
「さて、外の手伝いにでも行くか」
「ご主人様は先程から手伝いに行きたがっているのでございますな」
「やりたいからやる訳では無いけどな。普通にやるだろ。俺達のいた国だと、どっかで災害とかが起こると年齢性別関係なく助けに行くもんだ」
「いい国でございますね」
「国は良くない。国はすごく遅い。正直この世界より遅いんじゃないかな」
「何故でございます?」
「民主主義って言うんだけど、国を率いるトップを国民が決めるんだ。で、そいつらが話し合って決めたうえで、重要なことはまた国民に聞かなきゃいけない」
「それは……。面倒でございますな」
「おっ。プチ狐は分かるのか?」
二一は民主主義が好きでは無かった。
平等と言えば聞こえはいいが、実際には対した学がない、いや、学が無いだけならまだしも興味すらない人間に、きちんと知識を持っている人間と、同じ1票があることがまず気に食わない。
1票の格差問題なら、まずこっちを何とかしろと常に思っている。
「はい、時間がかかるのはよろしくございません。しかもそのやり方は時間がかかる上に決まらないやり方でございます。適材適所というものがございます」
「流石だな。王国制度がある世界で民主主義を否定する考えがあるとは」
「いえいえ。これでも長生きでございますから……、おや?」
二一とジャンマリアが雑談しているとジャンマリアが何かに気づく。
「どうした?」
「いえ、失礼ながらこの家はあまり裕福には見えないでございますでしょう?」
「まぁな」
シュバルツヴァルトブロートでは珍しくないが、風がたまに抜ける音や軋むような音が頻繁になる家が裕福でないのは見れば分かった。
「それにしてはあの薬品は随分と似つかわしくないのではございませんか?」
「ん? 何だこれは。横に紙もあるし。説明書か?」
二一は何気なく眺めたが、それの正体と紙を見て流石に驚いた。
「……酷いお人好しもいたもんだ」
「二一ちゃん二一ちゃん二一ちゃん二一ちゃん二一ちゃん!!」
だが、それについて考えている間に歩が二一を連続で呼んだ。
「にーちゃんにーちゃん!!」
「落ちつけ。いつも以上ににーちゃんになってるし、一回呼べば分かる。どうした?」
歩は二一と一緒にいることもあって、割と冷静に行動するのでこのように慌てるのは珍しい。
「髪が黒い人が、人がいるんだよっ!!」
「何だって?」
二一は慌てはしなかったが、驚きはした。
「とにかく来てっ」
歩が促すまでもなく、二一は部屋に入っていった。
部屋の中にはあまり品質が良いとは言えないベッドが、二つあり、一つには先程の男の子の親が寝ていた。
「あ、ありがとうございます。助かりましたよ」
既に治療を終えているようで、意識もちゃんとしているようだ。
「二一ちゃん! こっちこっち!」
歩が声をかけて二一はもう1つのベッドを見た。
「……、まじか、あんたか」
「え、二一ちゃんこの人知ってるのっ? 私知らないよっ」
歩は二一のことは大体分かる。ただ、交友関係に関してはあまりわからないことが多い。
歩があまり二一に対して依存しすぎないとか干渉しすぎないことによるものである。それでも学校には1人でいて、あまり二一側からアクションを起こすことがないので、歩が知らないことがあるのは珍しいといえば珍しい。
「こいつは3年の軟田だ。1度あっただけだが、才能のあるやつだったし覚えている」
その倒れていた少女は軟田里香。今他の召喚者たちと魔物討伐に行っているはずの少女である。




