第4話 効率性
「うわっ、マジか」
二一が珍しく驚いていた。
二一達は豪雨の次の日に、外に様子を見に来ていた。
エリカの店を出てすぐは大したことは無かったが、しばらく歩くと町が水没していた。
いわゆるニュースでしか見ないような状態で、必死に水をかき出したり、道端の荷物を片付けたりしていた。
「二一ちゃん。大変そうだねっ」
「ああ、俺たちの住んでいたところはこうなる心配がまずなかったからな」
「こんなことになるのですかです。まるで水の魔物に襲われたみたいです」
「自然の脅威はやはり魔物より恐ろしいのでございます。神のみぞ知ると言うわけでございますなぁ」
「お前が神じゃ無かったのか?」
「そういう神とは少し意味合いが異なるのでございます」
「大丈夫か!!」
二一達が様子を見ていると、騒がしい声も聞こえてきた。
「怪我人がいるみたいだな」
前日の荒れた天気は雨はもちろん風もかなり酷かった。
水没しているのはもちろん、風の影響で飛ばされた物で建物が倒壊したり、それによって怪我をしている人間も見られた。
「おい、ちょっと俺が声かけてくるから、準備しとけ」
「分かったよっ、行こっ。ロッテちゃん」
「え? 何が分かったんです?」
二一が歩に声をかけると、歩はすぐに察して来た道を引き返し、クレアロッテも困惑しながらついていく。
「おい、あんたらの中で話が出来るやつはいるか?」
「なんだ? 今忙しいんだ。子供の相手をしてる余裕はないぞ」
二一の聞き方も悪いが、見た目が子供の二一に対して大人の対応はこんなものである。
「そうか。じゃあいい。怪我人が多そうだからうちに回復要因がいるし、手を貸してやろうと思ったんだが必要無いみたいだな」
「ま、待ってくれ!! 本当か!」
「別にここで俺が嘘をつくメリットが無いしな。金とかをとるつもりもねぇし」
二一としては、エリカとアレックスに世話になっているし、その2人が住んでいるシュバルツヴァルトブロートには一応義理がある。
それもあって手を貸そうとしたのだが、言い回しが遠回りなのはやはり彼の性格か。
「わ、分かった!! 皆に話してくる! 悪かった!」
「まああんたらも余裕ないしな。こっちも準備しとく」
「えいっ」
二一とシュバルツヴァルトブロートの人間が話し合い、水没を逃れた場所に人を集めて歩に治療させた。
ここまでの戦いで、 二一含めあまりダメージを受けることがなかったので活躍はしていなかったが、歩のクリスタルロッドは回復面でもかなり優秀である。
「凄い。詠唱も無しでこれだけ高度な回復魔法を……」
「女神様? 神の使い?」
治療には軽傷な人がほとんどではあったが、骨折や多量の出血などの重症もいた。
しかし、歩が杖をふれば、皆怪我が治っていった。
「簡単な怪我の人は大丈夫ですけど、重症だった人は一応しばらく安静にしてくださいねっ」
歩が次々と怪我を治していくと、皆感謝し、そしてその笑顔に癒された。
ドルツで象徴として崇められる予定だっただけあり、シュバルツヴァルトブロートでも彼女は女神扱いだった。
「はわ〜」
そして歩だけで捌けない相手はクレアロッテが活躍した。
歩は杖を振るだけで回復はできるが、簡単にできるだけで連続ではできない。数を捌くのは、むずかしかった。
クレアロッテもグルーシングにより、回復の能力は持ってはいるが、この特技は相手との信頼関係が重要となるため、主に亜人を相手にした。
これにより人間と亜人で回復する順番に差別が起こらないので問題にもならないというのが二一の考えであった。
ところが、予想以上に重症が多く、同じ回復でも歩の方が性能が上のため、重症者は歩に偏る。
加えて、亜人の方が数が少ないため、クレアロッテの方が先に手が空いてしまった。
しかし、クレアロッテが手持ち無沙汰になっても、人間はクレアロッテには頼りに来なかった。
シュバルツヴァルトブロートは亜人が一応住んでいるが、ただそこに住んでいるだけで共存しているとは言い難い。
「面倒くさいな……」
その様子に二一がイライラした。
グルーシングはクレアロッテが軽く触れれば発動はできる。タニアでは回復も含めで、精神安定も含めてルナルデッタが、抱きしめたりしていたが、実際にはそこまでの必要はない。
要は相手がクレアロッテを信頼するかどうかであるだけなのだ。
「えーんえーん」
すると二一の目に一人泣いている小さな人間の女子が目に入った。
母親らしき人がなだめているが、泣き止む様子がない。
他にも子供がいるが、目立って泣いているのはその子供だけで、悪目立ちしていた。
「……。なるほど。試すか」
「何か妙案を思いつきましたのでございますか?」
「別に成功すればオレがイライラしないだけだ。空いてる場所に並ばないとか効率が悪過ぎる」
すると二一は泣いている子供の元に向かう。
歩は大人気だったが、二一はジャンマリアを頭に乗せているので人間から避けられ、人間な上目つきが悪いせいで亜人にも避けられていたので、近づくと親がびっくりした。
「な、何ですか?」
「あんたの子供か?」
「そうですけど……」
「腕の怪我か……。深くはないが早く治すべきだろ。何であっちに並ばない?」
「亜人ですから……」
「亜人だろうが何だろうが、ちゃんとあいつが治療してたのは見てただろ。早く治さんうちに子供の怪我が悪化したらどうすんだ」
「でも……」
「面倒だな。おい」
親の話が進まないので、子供に向かって二一は話しかける。
「は、はい……」
「そんなびびるな。大丈夫だから」
「あ……」
二一は頭を撫でる。
基本的に二一は人の頭は撫でないが、動物を愛でる時には撫でる。そのため、性格に反して撫でるのはやたらやさしい。
歩がたまに欲しがったりする程度にはテクニシャンであり、子供をなだめるには十分だった。
「話出来るか?」
「はい」
「あそこに猫人族の女の子がいるな。あの子は怖いか?」
二一はクレアロッテを指差して尋ねる。
「ううん。可愛くて優しそう」
「あの子はな、君の怪我を治せるんだ。このまま待ってると30分くらい痛いまま我慢しなくちゃいけないけど、今からあの子に頼めば、5分くらいで終わるぞ」
「本当に?」
「本当だ。俺もついていくし、やってみないか?」
「……、うん。あの子優しそうだし……」
「ちょっと! 話を勝手に進めないで」
二一が上手く誘導しようとするが、親に止められてしまう。
「万が一上手くいかなかったら、優先してあんたの子供を歩に見させてやるから」
「……そういうことなら」
だが、二一が耳打ちすると、あっさり承諾した。人間とはデメリットのない行動には反対しないものである。
「じゃあ耳折れ。頼むぞ」
「は、はいです」
「お、お願いします」
猫人族が人間を治す光景に、人間からも亜人からも妙な注目があったため、2人とも緊張していた。
「あ……。治ってる」
歩と比べるとやや時間はかかるが、クレアロッテは無事女の子を治した。
「ありがとう! 猫のお姉ちゃん!」
無事治療が終わった女の子はお礼をいい、親も笑顔で会釈した。
「おい、あの子に頼んでも大丈夫そうじゃないか?」
「ああ」
そしてクレアロッテに頼ってくれる人間も増え、歩の負担が減り、早めに怪我人を捌き終わったのであった。




