第1話 久々のドルツ
「あ、二一様。またいつでもどうぞ」
タニアとドルツを結ぶ国境を二一達は抜け、久々にドルツ国のシュバルツヴァルトブロートに二一は入った。
ジャンマリアとクレアロッテにとっては初めてのタニア国出国になるが、ジャンマリアはいつも通り二一の頭の上でくつろいでいたので、緊張していたのはクレアロッテだけだった。
緊張してクレアロッテも二一の左肩から降りないので、二一はやや頭と肩が重かった。
「さてと、話をしに行くか」
「どこに行くのかなっ?」
「タニアにいる時に、シュバルツヴァルトブロートの人間と連絡をとってたんだ。手紙は便利だな」
二一はいずれタニアを出る時に動きやすくなるよう、シュバルツヴァルトブロートの数少ない知り合いに連絡をしておいた。
どこに動くにしても、タニアからでは地上を介するルートだと、ドルツを通らなければならない。
海上のルートも考えられたが、海は地図が分かりにくいし、リスクもあるので、余程ドルツで問題がない限りは地上を選択することにした。
「誰かいたかなっ」
「アレックスさんとエリカだ。アレックスさんはギルドにいたときから話ができる人だったし、エリカはいいやつだからな」
「いつの間に……、相変わらず抜かりないねっ」
二一達は話しながらエリカの店に向かう。
「思ったより、犬人族や猫人族の方もいるんですねです」
店に向かう途中で、クレアロッテは亜人によく話しかけられていた。
「シュバルツヴァルトブロートはやや冷遇されているとはいっても、ちゃんと平等な権利があるからな」
亜人は圧倒的にタニアが存在を認めているが、ドルツとラルフの一部では人間に存在を認められているかどうかは別として権利はある。
ドルツは領土が、広大で人手確保には亜人が必須だからである。
「折れ耳、やけに静かだと思ってたら、ビビってたな」
「タ、タニアを出るのは初めてでしたし、ルナ様がいつも苦労されてたので、タニア以外では嫌われていると思ってたましたです」
「そこら辺は俺もよく分からん。ただな、あまり国単位で考えるな。タニアにも、折れ耳達を嫌う人間もいるし、ドルツでも折れ耳達を嫌わない人間もいる。相手をちゃんと選べば大丈夫なもんだ」
「そ、そうですかです」
「俺たちに着いてきた以上は、それくらいの覚悟や自覚は持て。出来ないならタニアに戻ったほうがいい。誹謗中傷を受ける可能性も低くない。見てみろ、プチ狐なんか寝てんだぞ。これくらいの気分でいろよ」
「……」
二一がジャンマリアを指しながらクレアロッテにちょっと厳しいことを言い、クレアロッテは何も返せない。
「まあ、着いてくるのを俺は拒否してねぇし、折れ耳が覚悟さえ決めてんなら、お前に不当なことを言ってくるやつからくらいは守ってやるけどな」
「! 二一さん!」
二一は基本的に義理は通す。クレアロッテが着いてくるのが本当に嫌ならば、意地でも拒否はした。だか、クレアロッテ本人はもちろん、ルナルデッタや歩にも頼まれたとは言え、二一本人が着いてくるのを拒否しなかった以上は責任はあると言うのが二一の考えであった。
「私、覚悟決めますから! お側に置いて下さいです!」
そう言って肩に乗ったまま、二一に頬ずりする。
「擽ったい。懐くな懐くな」
「じゃあ私もっ」
そして、反対側に歩が抱きついてくる。
「お前ら! くそ、ピッキーがいねぇから止める奴がいない!」
町中の往来でイチャイチャ(見た目かなり可愛い女の子2人)しているせいで、割と亜人が目立ってないのに、結果的に目立つ羽目になった。
「いらっしゃいー、あ、二一さん! お久しぶりです」
そんなこんなで、何とかエリカの店に到着するとエリカから歓迎される。
「久々だね。ニーク君、いや、二一君に歩さんだったね」
「お久しぶりです。アレックスさん、エリカ」
「あれ? アレックスさん? それに名前もっ?」
「ああ、アレックスさんには、ここに来てもらうようエリカに話してた。後名前は、本名を伝えてある」
アレックスが店にいたので、歩は驚いていたが二一の説明で納得した。
「あの時はお世話になりました。おかげ様で悪い人に騙されなくなりましたし、しかもアレックスさんとの繋がりも頂いたので、店はかなり大儲けですよ」
「私もエリカ殿の店の道具にはかなり助けられています。若いのに素晴らしい」
「じゃあまずはエリカ。話は通してくれたか?」
「はい。宿は家を使ってく頂いて大丈夫です。歩さんの武器と装備もバッチリです。すぐに完成します」
「そうか、じゃあ暫く世話になるな」
「二一ちゃん。どういう事かなっ?」
「ドルツでの今の俺達の立ち位置が分からん。シュバルツヴァルトブロートはアレックスさんに聞いたが、比較的ドルツでは特殊な立ち位置で、地方分権が強くて、情報が独自らしい」
「おかげで、エリカ殿の道具は私がほぼ独占できるんですが」
「だが、シュバルツヴァルトブロートを1歩出れば、情報は筒抜けになる。確実な情報を得るまではここで待機してたいんだ。後何度も言ってるが、お前のシスター服と杖は返すんだから、新しい道具をエリカに頼んでたんだ」
「そっかっ」
歩は納得して首を縦に振った。
「それよりも! 前は二人旅だったのに、仲間増えてるじゃないですかー。紹介してよー」
エリカは二一の頭と左肩に興味津々であった。
「頭にいるのがジャンマリア。肩にいるのがクレアロッテだ。別にシュバルツヴァルトブロートは普通にこいつらみたいなのはいるだろ?」
「いるけど、こんなにフワフワで可愛い子は滅多にいないよー。触らせて触らせてー」
「じゃあ俺はアレックスさんと話してるから、自由にどうぞ」
そして二一は頭と肩から2人を降ろしてエリカに渡す。
「わーい。ぎゅー」
「わわですー」
早速抱きしめられるクレアロッテを尻目に二一はアレックスに話しかける。
「アレックスさん。今ドルツはどうですか?」
「ちょっと忙しないな。アレン国の北部に召喚された子達を送って戦わせているらしいが、タニア進出の時に多くの兵士が戦えなくなり、新しい戦力の育成に追われているようだ。私も近々呼ばれるかもしれない。育成者が足りないらしい」
「なるほど。じゃあ今は王様に会うのは難しいですか」
「ああ。むしろ揉め事になる。忙しい時には人間余裕がなくなるものだ」
「ちなみに、南に行ってる奴らは安全ですか?」
「それは問題ないと思う。数は多いが、初心者兵士でも倒せる相手しか出ない魔物の塔に行ってるんだ」
「魔物の塔?」
「ああ、時々アレン国やドルツ南部にできる魔物が作る塔だ。初心者の冒険者や兵士の訓練に丁度いいんだ」
「なるほどですね」
二一は一応情報通でも確認した。
『魔物の塔』
魔王が作り出す魔物を発生させる塔のこと。
魔国にはたくさん塔があり、魔物の大量発生に繋がる。
たまに隣国のアレン国やドルツの南に作り出され、放置すると大変なことになる。
出てくる魔物自体は数は多いが、あまり強くないので、党から出る前に処理してしまえば問題は無い。
「じゃあ塔征伐が片付いてからなら話がしやすそうですね」
「そうだな。確か君も召喚されたんだよな。知り合いはいるのかい?」
「まあ一応」
「なら尚更だ。しばらくはシュバルツヴァルトブロートで待機していたまえ」
「はい。分かりました」
アレックスの助言とエリカの協力により、二一達はシュバルツヴァルトブロートでしばらく過ごすことになった。




