第8話 人嫌い
「よくいらっしゃった。私が竜人族のフレードリクだ」
中で待っていたのは、妙齢の男性の見た目に、角と長く太いしっぽが生えた人であった。
「は、初めましてです。猫人族クレアロッテです」
「お初にお目にかかります。猫人族カトリーネでございます」
やや緊張した様子で2人の猫人族は答えた。
「そんな緊張なされるな。私は普段鳥人族としか会わぬから、あえてとてもうれしい」
「どうも、狐人族ジャンマリアでございます」
「狐、狐人族でございますか! こ、これは失敬。何かお話があるのでしたら、私のほうから顔を出さねばならなかったのでは」
「いえいえ、私はもう家督を譲って今は旅に出ている身。そんなにかしこまらなくていいのでございます」
カトリーネとクレアロッテは比較的よく顔を合わせるようになって慣れてはいたが、狐人族の地位が改めて亜人で最も高いことを認識した。
「そ、それで本日はどのような御用で?」
「は、はい。実は私たちはタニア国で人間と共存しております」
「人間……」
気難しいといわれながらもフレンドリーだったフレードリクの態度が急に悪化し、その空気を3人とも敏感に感じていた。
しかしカトリーネは必至い説明する。
「タニアは唯一亜人の存在を人間が認めております。そちらはご存知でしょうか?」
「ああ、それくらいは知っている。だが、それでも完全には認められてはいないのだろう?」
竜人族は外に出ることは少ないが、それでも鳥人族から一応情報が回ってくるようである。
「いえ、先日そちらの問題は進展がございまして、タニアでは亜人の存在がほぼ認められることとなりました」
「なんと! それは誠か?」
「はい、その関係でですがね……実は……」
「な、なんだ?」
「タニア国の王女と今回の亜人がタニアに存在を認められることに貢献してくださった人間がこちらまできております」
「え?」
先程までは見た目通り威厳のある声をしていたのだが、急に声が怯えたような高さになる。
「会って……、頂けますか?」
「……、狐人族のジャンマリア殿……、危険はありませんか?」
「大丈夫でございます」
「分かった。基本的に誰にも肩入れをせぬ狐人族がわざわざ外に来てまで話に来られるのだから、会わないわけには参りますまい」
狐人族であるジャンマリアの存在は、かなり用心深い竜人族を信用させることができたようだ。
「では、二一殿、歩殿、来てください」
カトリーネが声をかけると、二一達がフレードリクの前に顔を出す。
「ギァァァァァァァ」
すると突然フレードリクが、雄叫びをあげる。
「!」
その周り中に響くような雄叫びに二一は警戒をする。
「落ち着いて下さいでございます。フレードリク殿が大丈夫と言ったのですから、あなたがそれでは話にならないでございます」
他のメンバーもあまりの迫力に腰が引ける中、ジャンマリアだけは落ち着いて話を促す。
「プチ狐。大丈夫なのか?」
「大丈夫でございます。少し警戒されているだけでございます」
「ああ、申し訳ない人間の方。私が竜人族のフレードリクと申します。竜人族の現長でもある」
「お初にお目にかかります。タニア国王女ルナルデッタ=ロゼッタと申します。カトリーネとクレアロッテは私の大事なお付きです」
ルナルデッタの哨戒で改めて2人が頭を下げる。
「そしてこちらのお二方が、えーと」
ルナルデッタが二一と歩を紹介して、一瞬吃った。
「俺は若松二一と申します」
「私は中野渡歩ですっ」
二一はすぐにルナルデッタが自分達の本名を言って良いものか躊躇ったのに気づき、すぐに紹介した。
タニアは他の国との交流が少なめで、タニア国で二一が本名を名乗っていても、あまり情報が漏れることがないので、偽名を使っていなかった。
二一はすぐルナルデッタの真意には気づいたが、自分でも気にしていなかった名前のことに気づくルナルデッタは流石だと感心した。
「人間……」
自己紹介を終えたが、フレードリクは二一達に近づこうとはしない。
その様子は警戒よりも恐怖しているように見えた。
「あのー」
「ひっ」
二一が話しかけるとまた、下がってしまう。
「プチ狐。話しが前に進まん。お前が話せ」
「いえ、私が。これは私がやらなくてはいけません」
二一が何度か挑戦しても話ができないので、ジャンマリアに任せようとしたのだか、ルナルデッタが自ら前に出た。
「ルナ様! 危険です」
「いえ、カトリーネは先に1人でこちらに来てもらい、二一様、歩様、ロッテちゃんにジャンマリア様には安全にここまで連れてきていただきました。私は、まだ何もしておりません」
カトリーネが止めに入ったが、構わずルナルデッタはフレードリクに近づいていく。
「フレードリクさん、私はここまでお話に来ました。でもそれはあなた達と仲良くするためなんです。だから、そんなに恐れないで下さい。私は多少魔法が使えるだけの無力な人間です」
やたら人間を恐れるフレードリクに優しく声をかけながらルナルデッタは近づいていく。
「……分かった。話を聞こう」
ルナルデッタの粘り勝ちでようやくフレードリクが折れ、互いに握手した。
「流石ルナ様。あの粘り強さに私もあの人を信用しようと思ったんだ」
カトリーネが感心した。
「二一ちゃんは口論には強いけど、相手が黙ってると無理だから今回は無理だったねっ」
「何の慰めだ?」
「大丈夫です。二一さんが相手にへりくだるのはそれっぽく無いですからです」
「別に気にしてないから」
「人には適材適所と言うものがございます。ルナルデッタさまとご主人様は色々真逆ですからバランスは良いのでございます」
「俺のことはいいから、ピッキーを褒めろよ」
四人がコメントして、ルナルデッタの成功よりも二一への謎フォローが多いことに二一はツッコミを入れた。
「なるほど……。タニアは劇的に変わったのだな」
ルナルデッタが信用されたことで、二一、歩も交えて会話が始まる。
「少なくとも、タニアはもう亜人を迫害しておりません。もちろんセーレン全体となればまだまだ先になるでしょう。それでも亜人が最も多い国であるタニアと、亜人の多くが生まれるマーク森林で同盟を結べれば、間違いなくそれは前進いたします」
タニア国とマーク森林を合わせると土地はセーレンでも最大のドルツに負けなくなる。
亜人が迫害されないためには、立場を対等にする必要があるとルナルデッタは考えていた。
「うむ。私もできれば戦いたくはない。竜人族は戦闘を好まぬ」
「だか、先の戦争ではかなり暴れ回ったと聞いていますが?」
二一がフレードリクに質問した。
「あれは、亜人の竜ではない。魔物の竜だ。亜人の竜は200年前の戦争に参加していない」
「それは真ですか」
フレードリクの答えに一番驚いたのはルナルデッタだった。亜人を迫害せず認めているルナルデッタですら、竜人族には恐れがあったのは、戦争で大きな被害を人に及ぼしたという前提があってこそなのだ。
フレードリクの答えはその前提を覆すものだった。
「ああ、私は当時は生まれていなかったが、竜人族が、マーク森林を、離れたことは無い。竜人族は代々種をたくさん残せないから、基本的には他種族と余計に絡んだり、他の土地に行くことは無い」
「今鳥人族と協力しているのは何故だ?」
「鳥人族は戦争で、魔物につき、ほとんどが滅ぼされた。マーク森林の奥地に逃げてきた生き残りを、私の父が受け入れて、管理下に入れたのだ。鳥人族は移動力にも戦闘力にも優れているから、マーク森林への侵略をよく守ってくれるからな」
「なるほど……。でも、なぜ人を恐れるのですか? 戦争に参加していないのですよね?」
「ご存知の通りマーク森林は西側のブレッツエルと東のブレバニッケルに分かれる。西には私は行くことは無いが、よく鳥人族から傷ついた亜人がブレッツエルに逃げてきていると聞き、そこで亜人が人間から迫害を、受けたと言う話を聞いた」
「…………」
「まぁそれはあるかもしれませんね」
タニアが特別なだけで、比較的温厚な犬人族ですら対等ではないのが亜人の現状なのだ。
「私は生まれてからずっと人間のことは鳥人族含めマーク森林の亜人からしか話を聞いていない。だから人が怖いのだ」
「人間に会うのは俺たちが、初めてですか?」
「ああ、初めてだ。ジャンマリア殿がいなければ絶対に会わなかっただろう」
「俺たちを、見てどう思います?」
「君たちはルナルデッタ殿含め、いい人だとは思う。だが、亜人にもいろいろいるように、人間にもいろいろいるのだろう。タニア以外では、人間はただ亜人と言うだけで恐れられるようだしな。それに、最近は良くない噂も聞く」
「噂とは?」
ルナルデッタはフレードリクに訪ねた。
「人間が魔物と手を結んで、マーク森林を征服しようとしていると」
「まさか! 魔物と人間は絶対に手を結びません」
人間と魔物は、完全に利害関係が一致しない。一部協力関係で、一部敵対関係を結ぶ亜人とはそこが根本的に違う。基本的に人間と魔物は協力関係を、築かないのである。
「……だが、最近オオバチを含め魔物が多くマーク森林に姿を表すようになり、マーク森林はタニア国以外と陸で接しておらず、鳥人族が空をチェックしているから、魔物を、引き入れるには人間の協力が必須だと鳥人族は思っているのです」
「じゃあそいつらを俺たちが倒せば、信用されるのか?」
二一は話を遮ってフレードリクに訪ねた。




