第7話 清潔感とリフレッシュ
「ここから向こうはもうタニアじゃないから今は行けないぞ」
ニ一はコロンバの南部、つまりシュバルツヴァルトルートのすぐ北に来ていた。
一緒にいるのはいつものメンバー。二一、歩、クレアロッテである。
ちなみに、クレアロッテオンザ二一ヘッド。(クレアロッテは二一の頭の上で肩車されています)
ジャンマリアオンザ二一レフトショルダー。(ジャンマリアは二一の左の肩の上にいます)
歩スナグル二一ライトアーム。 (歩は二一の右の腕を抱いています)
「俺はいったい何をやってんだろう」
「二一ちゃんは優しいもんねっ」
二一の家には猫がおり、その面倒をきちんと見ている。
自分の迷惑にならないのであれば、相手が何であっても面倒見がいいのだが、学校というコミュニティでは全く生かされていなかった。
基本的に学生は、まだまだ自分本位であり、二一が見ていて不快なことが多く関心を持つにいたらなかった。
だが、この世界の人間は若くても、国のために生きるためにがんばっている。
その姿は二一が好きなので、なんだかんだで無下にしない。
とはいっても、偏屈さ、天邪鬼は直っていないのだから、嫌われるはずなのだが、この世界においては、二一くらい雑な方が意外と好かれる。
人間だろうが亜人だろうが関係ないという態度。相手が偉くても適当な対応。1つ気になることがあれば、最後まで協力する姿勢。
二一にとって意外とこの世界は生きやすいようであった。
それでも帰る気満々なのは、彼の性格、1度帰ると決めれば、帰ることは絶対に撤去しないの凝り性な性格のためである。
彼は何でもできる割には、不器用であった。
今日はいわゆる軽い見回りと、コロンバの点検であった。
最近までコロンバが戦場になっていて、人が住める状態ではなかったのだが、二一と歩が追い返したことで、ドルツの軍が引き、現在は放置されていた。
もともとコロンバの北部は人が住んでいて、南部は防衛向きの地形をしている。
現状タニアでロゼッタ以外は人が住んでいないので、住宅地を広げる意味と、ドルツからの侵攻を抑える意味の2つの意味で、コロンバを再整備することがとりあえず目先の行動とになった。
とは言っても彼らは何もしてない。
ドルツが変な動きをしないか見ているだけである。
「お前ら近い……」
「でも二一さんの頭の上は本当に居心地がいいです。いい香りがしますしです……」
「嗅ぐな。あと多分だがお前も同じ香りだ!」
さて、今回妙にみんながベタベタしてくるのにはわけがあったりする。
これは風呂である。
この世界には風呂なんてないのでは? と一見思うし、現にドルツには風呂がなかった。
水魔法使いが水をためたりして、軽く流す程度で、もはや風呂とは言えなかった。
ところが、タニアには一応風呂の概念があった。
ルナルデッタに聞いたところ、200年前に来た日本人が持ち運びをできる簡易的なものを作って始めたのが、始まりであるらしい。
はじめはいわゆるドラム缶風呂のようなものだったが、どんどん衛生面も広さも大きくなり、ルナルデッタが生まれた頃には、ついに大衆に対しても一般化したらしい。だから、普通に王族や要人以外でもお風呂に入るようになったのは結構最近であるらしい。
ただ、一応暖かいお湯には入っていたが、石鹸やシャンプーの類はなかった。
それが嫌だったのは、二一であった。
二一は別にきれい好きというわけではないのだが、のんびりと入れる風呂に入って、石鹸などで汚れを落とすことにはこだわりがあった。
「というわけで、石鹸が欲しいな」
「いや、お風呂があるだけで贅沢でしょっ」
二一達はここに来てから、毎日風呂には使っていたが、あくまでも入るだけ。汚れは落ちてもすっきりはしなかった。
食事のこともそうだが、なんとかなりそうなことがなんとかならないことに関しては意外と二一はわがままになり、歩に突っ込まれるという状況になる。
「シャンプーも欲しい」
「もっと無理だと思うなっ」
グリッシーニから戻ってきて、その後はドルツも侵攻がなく、コロンバの整備の予算を考える間、少し暇な時間ができたため、二一はその2つを何とか作れないかと思った。
さて、周りが無理(というより、歩以外はそもそも石鹸とかシャンプーの存在など知らないので、無理とはは言っていないのだが、存在を知らないことは、そもそも否定であるという二一の独自解釈である)といえばいうほど、天邪鬼な二一はやりたがる。
しかも風呂に妙なこだわりを持っている二一は、石鹸の製造方法を知っており、自分で作ったこともある。それに無駄に凝って、1か月毎日作って、そして飽きていた。中学2年生のころである。
理論上、苛性ソーダのような物があればできるはずなので、何とか石鹸の作成を行っていた。
「今日も二一さんはいないです?」
「最近二一様は研究室に籠ってばかりでございます」
「二一ちゃん多分しばらく顔出さないよっ」
クレアロッテ、ジャンマリア、歩の3人はロゼッタの王城の中で3人で過ごしていた。
3人とも大っぴらに歩くのはあまりよくないので、ルナルデッタの相談役や、時々ロゼッタに来る他種族の相手をしていた。3人とも、外をあまりで歩いてはいけない理由が異なるが。
ちなみに研究室というのは、どこの国にもある魔法を実験したり、武器を作ったりする場所のことである。
二一は一応劇薬である苛性ソーダを扱い、流れで水素とかも出るので、安全なところで作っていた。
「そもそも石鹸てなんです?」
「うーんとね、私たちの世界で、体をきれいにするものだよっ」
「私たちは毎日お風呂に使ってますです。セーレンで1番清潔だと思いますです」
きちんと毎日風呂に入っていれば、流すだけでもそこそこきれいになり、現にルナルデッタ、クレアロッテからは、歩は不快なにおいを感じていない。
「まぁなんというか、より清潔にするためのものかなっ?」
「装飾品ですかです?」
「そんなものかなっ」
「おい、完成したから試すぞ」
そんなとある日。二一が3人がいる部屋に入ってきた。
「え? できたのっ?」
「そりゃ作るって言ったら作れるわ。理論上は材料はあるんだから、試せばできるわ。ちゃんと苛性ソーダも精油も作ったんだぞ」
そして二一が収縮袋からいくつか石鹸を出す。
「わぁ、すごいいい香りしますです、じゅるりです」
「食べ物じゃないからな」
「200年経つ内に進化したのでございますなぁ」
「別にやろうと思えば200年前でもできたかもしれないけどな」
「二一ちゃんこういうのほんとにすごいねっ」
また歩からの二一への好感度が上がる。
「えーと、これがタニアに生えてた花のうち、毒性がなくて香りがいい奴を集めて、蒸留した石鹸3つ、これが、はちみつっぽいシロップが売ってたから入れた奴が1つ。いろいろ試したが。4個しかできなかった」
「いや、さすがだよっ。シャンプーまで作るなんてっ。でも寝かさなくていいのかなっ?」
二一が何かするとたいてい歩も絡む。今回のように参加はしなくても結果は聞かされるため、一応石鹸を二一がどのように作ったかは知っていた。
「その寝かす流れは、研究所の人が何とかしてくれた。詳しいことは教えてくれなかったが」
「これがシャンプーですかです?」
固形である石鹸とは異なり、液体のシャンプーにもクレアロッテは興味深々であった。
「まぁものは試しだ。おい、折れ耳。一応確認はしてあるが、この花とかこの道具がお前らに害はないか?」
二一は情報通で、害がないことは確認しているが、多くの種族に分かれる他種族の個人個人まではさすがに把握できなかったので、あらかじめ作ったリストをクレアロッテとジャンマリアに見せる。
「あ、はいです。これなら私たちも普通に使うです」
「その通りでございます。私も問題ないと思いますでございます」
「じゃあお前らも実験に参加してくれ。マイナーお前は折れ耳に使い方を教えてやれ」
「一緒に入らないのっ?」
「絶対に入らない。俺はお前たちの後に、プチ狐と入る」
二一の作った石鹸について
『石鹸A』
紫色の石鹸。二一が調べて、ラベンダーに近そうな花を選んで香りづけ。しっとりとした癖のない石鹸。
『石鹸B』
黄緑の石鹸。二一が調べて、ミントに近そうな花を選んで香りづけ。リフレッシュ、保湿効果。
『石鹸C』
青色の石鹸。二一が調べて、ローズマリーに近そうな花を選んで香りづけ。若返り効果、泡立ちやすい。
『石鹸D』
黄色の石鹸。二一が調べて、はちみつっぽい『シロップ』というものを使う。香りは石鹸Aと石鹸Cの香を混ぜてある。美肌、若返り効果。
『シャンプー』
石鹸Dをもとに作った頭髪を洗うもの。基本は石鹸Dと同じもの。
そして、これを使った後、二一を含めた4人は気持ちよさそうに出てきた。
「お花畑にいるみたいな香りが私からしますですぅ~」
クレアロッテは耳だけでなく、全身が垂れ下がっていた。
いつもの語尾も明らかに不抜けている。肌が真っ白で、黄緑色の髪の毛は色が少し薄くなって光が反射して輝く。
「……私のしっぽが、髪が……さらさらになったでございます」
ジャンマリアはいつも通りだが、本来なくなっているはずの神々しさが見えるほど輝いていた。
黄色い毛が、黄金色に見えるからであろう。
「うん、やっぱり気持ちいいねっ」
歩はそこまで変わりないが、肌に水気が出て、しっとりとしていた。
「俺にとっての入浴は、清潔効果よりも、リラックスするためだよ。それより、石鹸は2回に1回にしとけよ」
二一も機嫌よさげに、しゃべっている。
「どうしてですぅ~」
「ある程度は石鹸とか使いすぎないほうが、肌にはいいんだ。それだけだ」
「わかりましたですぅ~、髪さらさらで肌しっとりで、香りもいいですものねですぅ~。毎日使ってたら、ダメになりますぅ~」
理由は違うが、今のトリップ状態の彼女に説明するのが面倒くさくなったので、そのまま放置する。
「でも本当に香り変わったよっ。クレアロッテちゃんの香りが石鹸とシャンプーの香りになってるんだもんっ。私たちと香りが一緒になったよっ」
「まぁ、確かにこれだと、においだけじゃだれがだれだかわからんな……。ん?」
そのとき、二一の頭に何か1つ思い付きが芽生える。
「その通りでございます。一般販売すれば儲かりそうでございますね」
「もっとこの石鹸を作れるようになってからな」
二一はその自分の考えにそこそこ確信はあったが、とりあえず石鹸やシャンプーが多く作れる目途が立ってからの事なので、今は保留した。
「こんばんは、会議が終わったからお邪魔するわね。あら、いい香り……」
そんな中、ルナルデッタが、その空間に入ってきたので、彼女にも石鹸を勧めた。
ルナルデッタも非常に気に入り、彼女は完全にはまった。
二一の忠告を無視して、3日連続で使った上に、髪がショートの癖にシャンプーを大量に使ってなくなったので、彼女はその後3日連続で没収した。
と、いうわけで、先ほどの場面に戻る。
二一はその後も新しい石鹸やシャンプーを試しては持ってくるのだが、新しいものは真っ先に自分が試す。
そのため、二一は新しい香りを体や頭から発していて、いい香りがして、肌が艶艶していて、触り心地がいいので、彼女たちは二一に接しているというわけである。
「研究室の人に、売り上げを半分提供することで、大量生産に協力してもらえたし、ピーキーが完全にはまって、娯楽費として予算をくれることになったから、石鹸とシャンプーは大量生産してもらうことになった。これで、もう少し経てば石鹸はロゼッタに流通することになる。ピーキーはやっぱり優秀だな。偶然だろうが、自分の理想をかなえるのに協力してくれるとはな」
二一にはこの石鹸とシャンプーが流通することと、ルナルデッタの理想を叶えることをつなげる方程式が思いついていた。これがさっきのひらめきである。
ふろ好きのにわか知識。




